ステーブルコイン越境決済35倍でも「普及を阻む規制の壁」WTO報告

この記事の要点

  • WTOが報告書公表、SC越境決済は4年で約35倍に拡大
  • 規制最終化は29地域中わずか5つ、普及の壁に

まずはステーブルコインを詳しく

越境決済35倍でも普及を阻む規制の壁

世界貿易機関(WTO)は2026年9月14日、ステーブルコインが国際貿易の決済で果たしうる役割や課題を分析した報告書を公表しました。

報告書によると、ステーブルコインを使った越境決済は2020年初めから2024年半ばにかけて約35倍に拡大し、2025年初めには世界全体の越境決済に占める割合が約3%に達したとされています。

一方、WTOは年間約35兆ドルとされるステーブルコイン取引の大半が実際のエンドユーザー決済ではなく、仮想通貨(暗号資産)市場での取引や内部的な資金移動、自動化されたブロックチェーン処理によるものだとしています。

そのうえで報告書は、ステーブルコインの普及に影響する要因として、各国の規制環境や既存の決済インフラとの相互運用性を挙げ、技術面以上に制度面の整備が重要になるとの見方を示しています。

コスト半減以下の試算も、B2B急増の裏に実需の壁

4つの決済摩擦とステーブルコインの解決力

報告書は、越境決済が抱える主な摩擦として「高い取引コスト」「遅い決済速度」「限定的なアクセス」「不十分な透明性」の4点を挙げ、これに外国為替の交換コストも加わると整理しています。

こうした負担は、複数の金融機関を経由するコルレス銀行(仲介銀行)網や通貨交換、複雑な決済手続きによって生じ、とくに中小企業や発展途上国の事業者に重くのしかかっているとの認識を示しました。

その負担を軽減する手段の一つとしてステーブルコインが挙げられており、ブロックチェーン上で継続的に取引を処理し、数分以内に決済できるほか、仲介者を減らすことで一部の送金ルートではコストを抑えられる可能性があるとしています。

500ドル(約7万7,000円)を送るケースでは、従来の送金ルートで20〜30ドル(約3,100〜4,600円)かかる費用が、ステーブルコインでは5〜15ドル(約770〜2,300円)まで下がるとの試算が紹介されています。

一方、別の調査では法定通貨との交換を含む総コストが送金額の0.3%から約9%に達した例もあり、コスト面の優位性は利用する送金ルートや交換環境によって異なると報告書は指摘しました。

企業間決済が急増、前年比733%の伸び

実需については、年間約35兆ドル(約5,390兆円)とされるステーブルコイン取引のうち、実際のエンドユーザー決済は一部にとどまると報告書は分析しています。

その規模は年間約3,900億ドル(約60兆円)とされ、世界の決済全体に占める割合は依然として小さい水準となっています。

その中で利用をけん引しているのがB2B(企業間)決済で、約2,260億ドル(約34.8兆円)とステーブルコイン決済全体の約6割を占め、2025年には前年比733%増を記録しました。

地域別ではアジアが約2,450億ドル(約37.7兆円)と最大で、北米の約950億ドル、欧州の約500億ドルが続く一方、中南米とアフリカはいずれも10億ドル未満となっています。

WTO「決済補完が当面の役割」と整理

B2B決済で利用が広がる一方、WTOはステーブルコインの役割をあくまで支払い・決済の領域に限定し、信用供与や保証、リスク軽減を担う貿易金融を置き換えるものではないとしています。

信用状やサプライチェーンファイナンスなどの貿易金融は、商品や書類をもとに信用や担保を確保する仕組みであり、WTOは決済速度の向上だけではこうした機能を代替できないとの認識を示しました。

一方、スマートコントラクトを使って契約条件に応じた支払いを自動化する余地はあるとされ、IoTセンサーでコンテナの到着や通関を確認して決済を実行する事例も紹介されています。

報告書は、こうした自動化の余地を踏まえ、ステーブルコインの当面の役割を貿易金融そのものの代替ではなく、決済や資金移動の部分を補完する手段と位置づけています。

規制最終化はわずか5地域、整備に大差

規制面では、金融安定理事会(FSB)が2025年に公表した報告書で、調査対象となった約29の国・地域のうち、ステーブルコインの規制枠組みを最終化したのは5つの国・地域(21%)にとどまったとされています。

残る国・地域では10が枠組みの策定中または最終段階、3が部分的な措置を導入済み、11が枠組みのない状態か初期段階にあると分類されています。

WTOは先進的な制度としてEUの「MiCA(暗号資産市場規制)」や米国の「GENIUS(ジーニアス)法」、日本の改正資金決済法、香港のステーブルコイン規制などを取り上げました。

ただし、準備金や償還権、発行体の資格、ウォレットの扱いなどは国・地域ごとに異なり、ある市場で適法なステーブルコインが別の市場では異なる法的扱いを受ける可能性があると指摘しています。

途上国で高まる決済需要と通貨代替リスク

規制や決済インフラの違いは、とくに国際送金の選択肢が限られる発展途上国で影響が大きく、報告書はBIS(国際決済銀行)のデータをもとに、コルレス銀行の関係が2011年から2022年にかけて約30%減少したと伝えています。

これらの地域ではステーブルコインが既存の銀行網を補う決済手段になる可能性がある一方、米ドルなど外貨建てトークンの普及は通貨代替やドル化を招き、金融政策の効果を弱めるリスクもあると指摘しています。

制度面では各国で規制整備が進んでおり、米国では2025年7月に成立した「GENIUS(ジーニアス)法」の規制要件が2027年1月18日に施行される予定で、財務省が施行細則案の意見公募を進めています。

WTOは、各国で規制が整うだけでは十分ではなく、国境をまたいだ制度の整合性や決済基盤の相互運用性を確保できるかが、ステーブルコインを国際貿易に組み込むうえで重要になるとの見方を示しています。

※価格は執筆時点でのレート換算(1ドル=154.58 円)

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Source:WTO報告書 / FSB報告書
サムネイル:Shutterstockのライセンス許諾により使用

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