アンソロピック、Claudeで量子回路の設計を効率化。楕円曲線の点加算でゲート数を約17分の1に

Claudeが従来の設計を上回る量子回路を発見

米AI企業アンソロピック(Anthropic)が、同社のAIモデル「クロード・ミトス5(Claude Mythos 5)」を活用した研究で、従来の設計よりも少ない計算リソースで処理できる量子回路を開発したと10月16日に発表した。

クロードは今回の研究で、化学、最適化、物理シミュレーション、数論などに関する8種類の計算処理を対象に量子回路を設計した。なお、今回の成果は量子回路の設計と検証に関するもので、実際の量子コンピューターで計算性能を実証したものではない。

量子コンピューターは、従来のコンピューターとは異なり、0と1の状態を組み合わせた「重ね合わせ」などの量子現象を利用して計算する。量子回路は、その計算を実行するための操作手順を表したものだ。具体的には、情報を処理する単位である「量子ビット」に対する基本操作「量子ゲート」を組み合わせて構成される。

現在の量子コンピューターは、利用できる量子ビットの数が限られており、計算に誤りも生じやすい。そのため、より少ない量子ビットとゲート数で計算を完了できる回路の設計が重要になる。

今回の研究で評価する「量子ビット数」は、計算中に同時に使用する量子ビットの最大数を指す。「トフォリゲート数」は、計算コストの大きい基本操作「トフォリゲート」を実行する回数だ。研究チームは、この2つを掛け合わせた値を、回路の効率を評価する指標として使用した。

対象の8種類のうち7種類では、従来の設計より量子ビット数とトフォリゲート数の両方を削減した。両者を掛け合わせた指標では、一部の処理で計算コストを10分の1以下に抑えた。

研究チームは、各回路に求められる計算内容を自然言語でクロードに指示し、設計の正しさと必要なリソースを検証する自動評価プログラムを用意した。クロードはPythonで量子回路を設計し、評価結果を受け取って改善を繰り返した。この過程では、評価と改善の各サイクルに人間が介入する必要はなかった。ただし、研究者は最初の指示に加え、必要に応じて探索範囲を広げるよう促していた。

楕円曲線の計算で新しい手法を発見

今回の研究成果の一つが、ビットコイン(BTC)やイーサリアム(ETH)などで取引の電子署名に利用されている「楕円曲線暗号」に関係する計算処理の効率化だ。

楕円曲線暗号の安全性は、「楕円曲線離散対数問題」と呼ばれる数学的な問題を解くことが難しいという性質に基づいている。具体的には、ある点を繰り返し加算した結果から、加算した回数を求める問題だ。従来のコンピューターでは大規模な問題を効率的に解くことは難しいが、十分な性能を持つ量子コンピューターでは解ける可能性がある。

クロードが効率化したのは、この問題を量子コンピューターで解く際に繰り返し使用される「点加算」と呼ばれる計算処理だ。点加算は、楕円曲線上の2つの点を組み合わせて別の点を求める計算だ。その過程では、一定の数で割った余りを使う計算における割り算に相当する「モジュラー逆元」の計算が、多くのリソースを消費する。

この点加算では、従来の量子ビット数が最も少ない設計と比較して量子ビット数を約12%増やす一方、トフォリゲート数を約17分の1に削減した。

量子回路では、計算途中に生じた不要な情報を通常のプログラムのように自由に削除できない。そのため、計算を逆向きに実行して不要な情報を元に戻す必要がある。しかし、従来の計算方法では途中で選択した処理の履歴を保存する必要があり、多くの量子ビットを使用する問題があった。

これに対し、クロードは計算途中の数値から、各段階で選択された処理を復元する数学的な規則を発見した。これにより、従来は量子回路への適用が難しかった計算方法「ディブステップス(divsteps)」を、処理履歴を保存せずに逆向きに実行できるようにした。さらに、履歴の復元に多くの計算を要する場合には、その履歴を保存する設計も取り入れた。

クロードは約53時間の作業を通じてこの成果に到達し、数学的な分析や、証明の正しさをコンピューターで確認する仕組み「リーン(Lean)」を使って検証した。

量子最適化のデコード処理も効率化

クロードは、最適化問題を解く量子アルゴリズム「デコード量子干渉法(Decoded Quantum Interferometry:DQI)」でも改善を実現した。グーグル(Google)の従来の設計と比較して、デコード処理に必要なトフォリゲート数を約12分の1に削減した。

具体的には、従来の計算方法を「ベルレカンプ・マッシー法(Berlekamp–Massey)」に変更し、計算途中の情報を保存する代わりに復元する仕組みを導入した。

さらに、クロードは約4億300万件の計算をシミュレーションし、途中の情報を保存するために必要な量子ビット数を検証した。その結果、最悪の場合を想定した665量子ビット分の保存領域に対し、19量子ビット分を確保する設計を採用した。

この方法では約1万回に1回の割合で処理に失敗する可能性があるものの、研究対象の計算で許容される範囲内だったとのことだ。

アンソロピックは、AIによる量子回路の設計効率化によって、実用的な量子コンピューターの登場が従来の予想よりも早まる可能性があると説明している。

参考:アンソロピック
画像:PIXTA

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参照元:ニュース – あたらしい経済

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