投資家が顧客になる!三井物産デジタル・アセットマネジメントの田本英輔氏にデジタル証券の意義を聞く

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三井物産デジタル・アセットマネジメント株式会社では、セキュリティトークン(デジタル証券)を活用した資産運用サービス「ALTERNA(オルタナ、以下オルタナ)」を提供している。

2026年5月、このオルタナにおいて、大型商業施設「イオン大宮」の底地を投資対象とするデジタル証券の募集が10万円から開始された。そして鑑定評価額約86億円の大型案件は募集金額を上回る需要を集め、全口の販売が完了した。

デジタル証券によって小口化されたことで、これまで企業や機関投資家が対象だった不動産投資に個人投資家も参入できるようになったのだ。

しかし、メリットは個人投資家の参入だけに留まらないらしい。デジタル証券として個人投資家に販売すると、その投資家が自社の顧客となって戻ってくるそうだ。一体、デジタル証券化によって発行体である企業にはどのようなメリットがもたらされたのか。

イオン大宮案件の舞台裏から、累計発行額500億円を突破したオルタナのデジタル証券市場における現在地、そして今後の戦略までをNFT Media編集部が聞いた。

【プロフィール】
田本 英輔(たもと・えいすけ)
三井物産デジタル・アセットマネジメント株式会社

北海道帯広市出身。2020年3月東京大学法学部卒業。在学中の2019年から株式会社LayerXに参画。三井物産デジタル・アセットマネジメント株式会社の立ち上げを担い、会社設立に伴い2020年4月同社へ出向。2023年、「ALTERNA(オルタナ)」リリースに伴いデジタル投資銀行部を設立し現職。北海道愛をもとに北海道支社を立ち上げ、2025年11月北海道支社長に就任。

三井物産デジタル・アセットマネジメントとは

NFT Media編集部(以下、編集部):まず、三井物産デジタル・アセットマネジメントが取り組む事業内容について、教えてください。

田本英輔(以下、田本):当社は、いわゆる不動産のデジタル証券化という事業を行っています。

主に2つの部門で構成されており、1つが不動産のデジタル証券プラットフォームオルタナの運営です。そしてもう1つは、プラットフォームで運営するための不動産を実際に取得・運用する「不動産のアセットマネジメント」と呼ばれる事業です。

私自身はこのうち「ALTERNA」の運営に携わっており、ALTERNAに並べる商品の組成を管理する部署の責任者をしています。

編集部:ありがとうございます。ちなみに、チームのメンバー構成はどのようになっているのでしょうか。

田本:会社全体で90名ほど(2026年7月1日時点)です。組織の約3割がエンジニア・デザイナーで、各部門に開発組織が横断的に関わっています。

エンジニアは基本的に、株主であるLayerX(※1)からの出向ですね。LayerXの開発知見やSaaSも最大限活用しながら、ソフトウェアで効率化とガバナンス・コンプライアンスの両立を目指しています。僕自身もLayerXからの出向です。

※1 株式会社LayerX・・・バックオフィス向けAIエージェントサービス「バクラク」などを提供するスタートアップ企業

日本初・底地のデジタル証券化──「イオン大宮」は完売

編集部:2026年5月に、イオン大宮(埼玉県)の底地をデジタル証券としてALTERNA上で販売しましたよね(※2)。これはどのようなプロジェクトなのかを教えてください。

※2 参考 プレスリリース 【日本初・底地のデジタル証券化】大型商業施設「イオン大宮店」に10万円から投資。配当に加えWAON POINT優待も

田本:「三井物産グループのデジタル証券〜イオン大宮〜」という商品で、投資対象は埼玉県さいたま市北区にある大型商業施設「イオン大宮」の底地です。

底地というのは、借地権が設定された土地の所有権のことで、この土地をイオングループの中核企業であるイオンリテールに賃貸し、その賃料(地代)を信託受益権を通じて分配金として投資家の皆さんにお届けする、という仕組みになっています。

こうした底地のデジタル証券化は、日本で初めての取り組みです。

編集部:「イオン大宮」の底地をデジタル証券化したことで、どのようなメリットが生まれたのでしょうか。

田本:デジタル証券化によって投資単位を小口化し、個人投資家も投資しやすくなりました。底地の鑑定評価額は約86億円(2026年3月31日時点)ですが、10万円から投資いただける設計になっています。

そしてもう1つの特徴がWAON POINTの優待です。所定の条件を満たすと、10口の保有につき、毎年500WAON POINTを受け取れまする。保有口数に応じて、受け取れるポイントも積み上がっていくので、配当に加えて、日常のお買い物の中で価値を実感していただきやすい商品になっています。

編集部:イオン大宮の底地に個人でも投資できるようになったのですね。この商品の販売状況やマーケットの反応はいかがでしたでしょうか。

田本:イオン大宮の案件は募集金額以上の需要が集まっており、完売しました。

反響が大きかったのは、やはり優待の部分ですね。不動産への投資にもかかわらず、株主優待のように特典が受け取れるというのは「新しいし、面白いよね」とのお声が届いています。

実際、イオン大宮の案件では最初から最後まで、新規の投資家が増え続ける状況になっていました。単なる配当に終わらない商品性が「デジタル証券らしい」ということで、評価をいただいたのではないかと考えています。

小口化して個人投資家に販売する意義

編集部:デジタル証券化のメリットとして、「小口化でき、個人投資家が参入しやすくなる」という文脈をよく聞きます。

このようなメリットのほかに、オルタナを活用するとどのような恩恵が受けられるのでしょうか。

田本:保有者向けの優待などのリターンを投資家に提供できる点も、オルタナのメリットのひとつです。

これまでの事例として、イオン大宮ではWAON POINTを支給したり、ホテルの投資案件では宿泊優待を付与したりしました。

このような「不動産投資において投資収益とは異なるリターンも得られる」という体験は、デジタル証券を機に提供できるようになりました。

編集部:株式でいう株主優待に近い文脈で、不動産アセットを販売できるのですね。

ブロックチェーン化されていない旧来からの不動産小口化商品であっても、理屈の上では特典を付けられるはずです。しかし、これまではどのような理由から実現しなかったのでしょうか。

田本:ブロックチェーンの技術がない時代でも、不可能ではなかったと思います。ただ、金融商品の仕組み上、有価証券という枠組みで発行しづらい部分が多かったので実現されてこなかったのでしょう。

今のデジタル証券では届出書を提出し、広く公募して多くの方に投資いただく仕組みを実現しました。当社の商品ですと、1つの案件で平均で数千人ほどの投資家にご参加いただいています。

従来の小口化商品ではここまで広くリーチできないので、特典を付けても広告効果が薄く、付ける価値が出にくい状態でした。マス層にリーチできるというデジタル証券の良さがあるからこそ、「特典をつけてみよう」という発想につながっているのだと思います。

編集部:リーチできる人数が増えたことで、株主優待のようなアプローチが可能になったわけですね。では発行体にとって、デジタル証券化にはどのようなメリットがあるのでしょうか。

田本:個人投資家との接点を作れる点がメリットです。

イオン大宮の事例では、イオンリテール株式会社(イオン大宮の運営企業)が底地の上の建物を借りている会社として地代をファンドに支払います。この一部が投資家に還元される仕組みです。

もし投資家が全額を金銭で受け取った場合、そのお金はどこか別の場所に流れてしまうでしょう。一方でWAON POINTの優待として還元した場合は、再びイオングループでの消費に充てられます。

つまりグループの売上に戻ってくるため、金銭で支払うよりポイントを付与する方がイオングループにとってのメリットが大きいわけです。

このように、外に逃げていくお金として渡すよりも、配ったポイントが最終的に自分たちの経済圏に入ってくる点でビジネスとして成立しやすい仕組みになっています。

編集部:それは面白いですね。お金を渡すだけだと投資家のお財布に入って終わりですが、WAON POINTならイオンの経済圏の中にとどまって、また来店してくれる、というわけですね。

ちなみに、クライアント側や投資家の方から、実際に感想をいただく機会はありますか。

田本:クライアント側からは、幅広い投資家が参入してくれる、認知につながるという点で良いとのお声をいただきますね。

会員登録やアプリのダウンロードをポイント付与の条件に設定できるので、「ブランド認知やマーケティングにつながる」というお声もいただくことがあります。

編集部:アプリをダウンロードしてもらうなど、個人投資家の行動を促せるのですね。

田本:そうですね。会員登録やアプリのダウンロードを特典付与の条件にすることで、個人投資家も嬉しいし、ご協力いただいている企業も嬉しい。そういう関係性を作れると思っています。

優待にはそれぞれ付与条件がありますので、それがうまく企業のマーケティングにもつながるような設計をしています。

累計発行額500億円を突破──2026年、デジタル証券市場はどう動くか

編集部:ここからは、オルタナの発行状況についてお伺いします。

2026年4月の段階で、累計発行額が500億円を突破したという発表(※3)がありました。この数字について、率直にどう捉えていますか。

※3 プレスリリース オルタナ、デジタル証券の累計発行額500億円突破

田本:サービス開始から3年間で、延べ500億円の資産を個人投資家の皆さんからお預かりするまでに成長できたというのは、1つ手応えを感じているところです。

また、個人投資家のデジタル証券に対する期待感もすごく感じています。

もともとオルタナというプラットフォームは、デジタル証券をきっかけに「眠れる資産をアクティベートしよう」という経営理念のもとに始動しました。

日本全国において、家計が保有する現金・預金は、2026年3月末時点で1,126兆円と言われています。現時点の累計発行額にとどまらず、もっと多くの金融商品を提供して投資に向かうきっかけを提供したいです。そういう意味では、3年間で1つの区切りを達成できたと思っています。

編集部:田本さんは、2026年のデジタル証券市場をどのように捉えていらっしゃいますか。

田本:2026年は、さまざまな事業者が参入する年になるだろうと予測しています。

不動産デジタル証券の分野だけに絞っても、参加者が一気に増えてきた感覚がありますね。ここからマーケットの多様性がさらに広がるはずです。

加えて、これまでは不動産がメインでしたが、これからは社債や債権性のある商品にもデジタル化の波が広がるのではと予想しています。

編集部:デジタル証券を扱う事業者が増えるという予想なのですね。そうなったときに、三井物産デジタル・アセットマネジメントとしての差別化ポイントはどこにあるのでしょうか。

田本:差別化のポイントは大きく2つです。

1つは、商品の設計から販売・運用までをすべて自社グループで完結できる点です。不動産を中心としたアセットマネジメント機能や、オルタナ信託という子会社を保有しているため、これが一番の差別化ポイントだと思っています。

もう1つは、当社が提供しているオルタナというプラットフォームです。投資家にとって幅広い選択肢を用意しており、新たな投資先とつながれる点で強みだと考えています。

普及への課題──重い組成コストとレピュテーションリスク

編集部:デジタル証券化を推し進める中で、課題となっている点はありますか。

田本:検討する中で一番論点になるのは、やはり証券発行に関するコストです。

デジタル証券か否かにかかわらず、公募商品を発行する際には厳しい審査や手続きが必要です。よって、「発行コストに見合うのか」というお声をいただく場面もあります。我々としては「これくらいのコストが発生しますが、これくらいの価値を得られます」と丁寧にお伝えしています。

もう1つの壁は、「金融商品として売り出すべきなのか」という論点です。デジタル証券は金融商品に該当するため、何かトラブルがあった際に「投資家に損をさせた」というイメージがつく恐れもあります。このようなレピュテーションリスクは、導入にあたっての課題となっていますね。

編集部:そのような懸念に対して、「それを補って余りあるメリットがある」という形でご説明されるのでしょうか。

田本:メリットのご説明もありますし、ご一緒する物件は「みんなにとっての自信作だから大丈夫だろう」とお客様にも納得いただいて進める形ですね。

500億円から兆円単位へ──総合資産運用プラットフォームを目指して

編集部:それでは最後に、今後のビジョンや展開について教えてください。

田本:引き続き不動産のデジタル証券を中核に据えつつ、それ以外の運用ニーズ(安定的な運用や長期投資など)にお応えできる商品を揃えていきます。

これにより、「眠れる銭を、Activateせよ」というビジョンの達成を目指します。

今は累計発行額が500億円ですが、将来的には兆円単位を目指したいと思っています。

編集部:商品の幅が広がってくると、また一気に加速しそうですね。本日は貴重なお時間をいただき、ありがとうございました。

インタビューを終えて

「不動産投資でありながら、株主優待のような特典がもらえる」。イオン大宮の案件に象徴されるこの新しい投資体験の裏には、デジタル証券だからこそ成立したロジックがあった。

個人投資家を対象とすることで広告効果が生まれ、企業は自社のサービスを実際に使ってもらう直接的なきっかけを作り出すことができる。加えて、投資家に提供した還元価値がそのまま自社での消費として戻ってくるため、企業は個人投資家をファンとして自社の経済圏へ自然に巻き込み、売上へと還元させる仕組みを構築できている。

投資家・発行体・プラットフォームの三者がWin-Winで噛み合うこの構図は、デジタル証券化の真価を物語っていると言えるでしょう。オルタナによって、日本の眠れる資産がどこまでアクティベートされていくのか、引き続きその動向に注目していきたい。

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