仏教界でなぜNFT?お寺と現代社会をつなぐ神社仏閣オンライン河村英昌氏の挑戦

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浄土宗大光寺の副住職であり、株式会社神社仏閣オンラインの代表を務める河村英昌氏。大学卒業後に大手IT企業勤務を経て、「お寺・神社・日本文化をもっと身近に」をコンセプトに2020年に同社を設立した人物だ。

神社仏閣オンラインでは、体験型イベントやコラボグッズの企画にとどまらず、最先端テクノロジーを融合させた事業を展開。自身が唱えた般若心経をボカロPがEDM化し、その著作権をNFTとして小口分配する「般若心経EDM」のほか、LINE上で受け取れる「NFT御朱印」など、伝統文化とWeb3を掛け合わせた挑戦を続けている。

保守的と見られがちな伝統業界において、このような先進的な取り組みは極めて珍しい。なぜ、仏教界で積極的にブロックチェーン技術を取り入れようとしたのか。

今回、編集部は代表の河村氏にインタビューを行い、プロジェクト誕生の背景やNFT技術を導入した狙い、そして伝統文化の新たな可能性について話を聞いた。

【プロフィール】
河村英昌(かわむら・えいしょう)
株式会社神社仏閣オンライン 代表


京都府出身。京都大学卒業後、大手IT企業に勤務しながら、浄土宗大光寺の副住職を務める。「お寺・神社・日本文化をもっと身近に」を掲げ、2020年6月に株式会社神社仏閣オンラインを設立。ウェブメディア・YouTubeの運営、イベント企画、仏教を題材にしたゲーム開発など、伝統文化とデジタルを掛け合わせた事業を幅広く展開。 

お寺・神社・日本文化をもっと身近に

NFTMedia編集部(以下、編集部):最初に、神社仏閣オンラインの事業内容を教えてください。

河村英昌氏(以下、河村): 株式会社神社仏閣オンラインは、「お寺・神社・日本文化をもっと身近に」をコンセプトに、2020年6月に設立した会社です。

現代の忙しい日々の中で心が疲れてしまった方や、日本文化について聞かれても答えに詰まってしまう方に向けたサービスを提供しています。

編集部:具体的には、どのようなサービスを提供しているのでしょうか。

河村:観光やイベント事業として地域のお祭りを企画したり、旅行コンテンツを制作したりしていますね。代表的な企画は、お寺での修行体験や書道体験です。

また、神社仏閣のコンセプトに合わせた授与品の制作や、アニメ・VTuberなどの人気コンテンツとコラボしたグッズの企画も行っています。

この他にも、企業や団体の研修、オンラインサロンの運営など、多角的な側面から神社仏閣と現代社会をつなぐ架け橋となる活動を展開しています。

般若心経EDM誕生の背景

編集部:NFT・ブロックチェーン関連では、どのようなプロジェクトが進行していますか。

河村:現在メインで進めているのが、音楽の著作権をNFT化して分配所有する取り組みです。

私が唱えた般若心経を、ボーカロイド楽曲を手がけている「猫虫」という方に編曲していただき、EDM(※)に仕上げていただきました。この楽曲の権利をブロックチェーンで分配しています。

※EDM・・・エレクトロニック・ダンス・ミュージック。シンセサイザーなどの電子楽器によって構成されるダンスミュージック。

編集部:それは面白いですね。楽曲はどのような形で公開されているのでしょうか。

河村:現在はYouTube(※)などで音源を公開しており、著作権による制約はあるものの、「歌ってみた」や「踊ってみた」のような形で自由にお使いいただけます。

※ YouTube【集中・作業・瞑想】般若心経EDM

編集部:どのような狙いで、般若心経のEDM化に取り組まれたのでしょうか。

河村:「まずは般若心経に触れていただきたい」との思いから、この活動を始めました。

般若心経は仏教の核心をズバッと端的にまとめたお経です。まずこれを知って興味を持っていただくと、そこから「仏教って面白いよね」と思っていただけるだろうと考えていました。

そのような中で出会った人物が、ドワンゴ出身でクリエイターサポートや権利渉外をされていた仁平淳宏さんです。私と仁平さんが僧侶の専門学校を通じて偶然出会い、「いつかお経の曲を作ってみたいと思っていたんですよ」というお話をいただいて実現しました。

編集部:仁平さんとの出会いで、プロジェクトが動き出したのですね。

河村:はい。ちょうど専門学校では、「お坊さんの良い声とはどんな声か」を音楽の専門家が研究して映像に残す取り組みが進行しており、その過程で私自身も般若心経を唱える機会がありました。

そこでレコーディングが実現したため、「この録音データで般若心経で作りましょうか」となり、トントン拍子で進んでいった背景があります。

音楽著作権をブロックチェーンで小口化

編集部:般若心経のEDMにおいて、音楽の著作権をNFT化して分配されているとのお話でした。どのような課題を解決するために、NFT技術を導入されたのでしょうか。

河村:権利の証明と大量の小口化を同時に実現するために、NFT技術を導入しました。

もともと音楽の著作権自体、分割がなかなか難しいものです。加えて、所有者であることの証明も簡単ではありません。いくら契約書などを用意しても、なかなか大変だという現実がありました。

このような課題に対してブロックチェーンを導入すると、権利の小口化や所有の証明が確実にでき、著作権料の分配も実現しやすいんです。般若心経EDMでは、Royalty Bankの「ファン債」という仕組みを導入して権利を販売しています。

編集部:般若心経EDMのファン債を購入すると、どのようなメリットを受けられるのでしょうか。

河村:音楽出版社から支払われる著作権印税の一部が、NFT保有者に分配されます。

般若心経EDMでは、2026年4月から70年間にわたる著作権(作詞・作曲)使用料のうち25%分が1000口分のNFTに小口化されています。1口500円で購入でき、保有する口数に応じて分配金を受け取れる仕組みです。

編集部:なるほど。般若心経EDMでは、どのような目的で著作権を小口化されたのでしょうか。

河村:より多くの人に、般若心経EDMを「自分の音楽」として所有してもらうためです。

楽曲が流行ることでファン債NFTの保有者にも恩恵がありますので、「みんなでこの曲を育てよう」という気持ちを醸成しやすい特徴があります。法律上「株式」とは表現できないものの、株式に似た形で楽曲の所有者になれます。

想定以上の反響と、立ちはだかる「認知の壁」

編集部:実際にファン債として権利を販売してみて、購入者からの反応はありましたか。

河村:思っていたよりも反響が大きく驚きました。面白かったのは、身近な人が「じゃあ自分もファン債を買いますよ」と購入してくれたり、「般若心経のオーナーになったよ」と嬉しそうに報告してきてくれたことです。

その反面、やはりブロックチェーンを知らない人からは「分かりにくい」という声も聞かれました。「仕組みがよくわからない」、「本当に権利がもらえるんでしょうか?」といった問い合わせもあり、実際に購入まで至らないケースも多かったと感じています。

編集部:実際に購入されたのは、どういった方が多いのでしょうか。

河村:正直、一番多いのは私の友人や知り合いですね(笑)。ただ、Xで発信した際に「買いました」とコメントをいただいたのは、意外にもお坊さんや神主さんといった宗教家が多かった印象です。神主さんは意外でしたね。

編集部:業界関係者からも注目を集めているのですね。

河村:はい。それから、今回この般若心経EDMを「踊ってみた」動画として振り付けしてくださった方がいまして。「踊るポンポコリン」やポッキーダンスなどの振り付けを手がけられてきた、有名な振付師の香瑠鼓(かおるこ)先生という方なんです。

実際に振り付けしていただき、以下のYouTubeでも解説動画を公開していただきました。

般若心経EDM Dance ver. 振付解説動画

この縁がきっかけで、香瑠鼓先生のファンの方にも購入いただきましたね。

編集部:そうなんですね。仏教だけに限らず、神主さんの世界にも展開していく可能性がありそうですね。

河村:ジャンルとしては珍しいと思うのですが、ぜひ展開してほしいと思っています。

NFT御朱印の現在地とは

編集部:御朱印に関しても、NFTを導入されているそうですね。詳しく教えていただけますか。

河村:私が副住職を務める大光寺(京都市伏見区)にて、NFTの御朱印を導入しています。

ご参拝いただいた方にQRコードを読み込んでいただくと、LINE上で御朱印が受け取れる仕組みです。

この取り組みは、京都府で障害者の就労支援を行う「福祉事業所みらい」が主導しており、各所のお寺や神社で展開していこうとしています。そのため今後、御朱印のNFTを取り入れるお寺も増えていくのではないかと予想しているところです。

編集部:参拝者は、紙ではないデジタルの御朱印でも抵抗はないのでしょうか。

河村:デジタルに抵抗のない方がNFTを選ばれている状況で、正直なところニーズはかなり限られています。NFTを選ぶのは全体の1%ほどで、かなりの少数派です。

まだまだ紙の御朱印が良いという方が大半ですし、私自身も紙の御朱印を無くしたいわけではありません。あくまで「こういうものも良いよね」と、複数の選択肢を提供できればと考えています。

編集部:デジタル化すると、参拝者の方にはどんなメリットがあるのでしょうか。

河村:メリットとして、御朱印帳を持ち歩く必要がありません。

御朱印帳は常に持ち歩いているわけではないですよね。一方で、スマホならいつでも手元にあります。NFT御朱印であれば気軽に入手できるため、デジタルならではの気軽さがあるのかなと思っています。

編集部:御朱印帳を日頃から持ち歩かないライト層にも対応できるということですね。反対に、導入する神社仏閣にはどのようなメリットがありますか。

河村:1つはエコの観点ですね。お寺で紙の資源を消費しなくなる点が挙げられます。

あとは、外国人で御朱印帳を持っていない方に対してデータ上でやり取りできる点もメリットです。

2つ目として、デジタルならではの自由な表現が挙げられます。文字が浮かび上がるモーションを加えたりと、デジタルだからこそ実現できる点も強みですね。

編集部:NFT御朱印によって、表現の幅が拡がったのですね。

伝統業界の意外な反応

編集部:ブロックチェーンやメタバースなど、河村さんは先端技術を積極的に導入されています。

このような取り組みは、神社仏閣の業界ではかなり珍しいのではないでしょうか。業界内から拒否反応などはありませんか。

河村:おっしゃる通り、取り組んでいる人は本当に少数です。よく「批判されないですか?」と聞かれるのですが、実はあまり批判は無いですね。むしろ、「面白いことやってるね」と温かく受け入れていただく印象があります。

もちろん、ご年配の方になればなるほど「なんじゃそりゃ」と反応する方はいるかもしれません。ただ、逆にそういう方はインターネット上での動向まで見ていない場合も多く、良くも悪くも面白がっていただける方にだけリーチしている状況です。

デジタルを通じて、より多くの人に伝える

編集部:今後は、どのような展開を考えていますか。

河村:まずは般若心経で何曲かバリエーションを作って、「般若心経EDMというものがあるんだ」という認知を取っていこうとしています。実は般若心経EDMの2曲目もすでにリリースしており、現在は3曲目を作成中です。

NFTに関しては、神社仏閣オンラインとしてもキャッチアップしながら、キャラクターであったり、御朱印であったり、幅広く展開できたらと考えています。

編集部:般若心経EDMやNFT御朱印を軸として、さまざまな展開がありそうですね。

今回は貴重なお話をいただき、ありがとうございました。

インタビューを終えて

「お経は、いろんな人が唱えてなんぼ」と河村氏は語る。この言葉に、今回の取り組みの本質が凝縮されているように感じた。般若心経EDMも、NFT御朱印も、テクノロジーそのものが目的なのではない。仏教や日本文化への「入り口」を増やすための手段として、ブロックチェーンやNFTが自然に選択されているのだ。

課題として挙げられた「認知」と「仕組みの理解」は、Web3業界全体に共通するテーマでもある。般若心経EDMの2曲目、3曲目と続くバリエーション展開、そして全国の寺社へ広がりつつあるNFT御朱印。伝統と最先端が交差するこの珍しい試みの今後に、引き続き注目していきたい。

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