陳満咲杜の「マーケットをズバリ裏読み」

日銀のマイナス金利政策は長く続かない! 売りサイン連続点灯で米ドル安・円高継続 ブログ

日銀のマイナス金利政策は長く続かない! 売りサイン連続点灯で米ドル安・円高継続

■英ポンド下げ一服、ユーロ/英ポンドは切り返し後、反落 先週末(2月26日)のコラムの最後で、英ポンド下げ一服の可能性を指摘、安値追いは慎重にすべきだと主張していた。

【参考記事】

●アナリストの予想がはずれまくる理由とは?英ポンド/円は暴落濃厚だが目先は一服か(2016年2月26日、陳満咲杜)


 結果的に今週(2月29日~)に入ってから英ポンドは継続して切返してきた。昨日(3月3日)まで英ポンド/米ドルは四連陽、英ポンド/円は三連陽を達成、それぞれ1.4193ドルや161.29円を打診し、安値を追ったショート筋の踏み上げが推測される。 

英ポンド/米ドル 日足(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:英ポンド/米ドル 日足)

英ポンド/円 日足(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:英ポンド/円 日足)

 もっとも、英ポンドの高安は、対米ドル、対円よりも対ユーロの状況が重要だ。


 前回のコラムでも指摘していたように、英国のEU離脱問題が騒がれているが、そもそも大袈裟である上、英国の離脱があれば、英国のみならずEU(欧州連合)にも大打撃を与えるはずだ。

【参考記事】

●アナリストの予想がはずれまくる理由とは?英ポンド/円は暴落濃厚だが目先は一服か(2016年2月26日、陳満咲杜)

 したがって、この問題でユーロ/英ポンドの上昇があっても長続きはしないし、その上昇に対する修正があれば、英ポンドの反転につながると思っていた。


 市況はそのとおりの展開となった。

 ユーロ/英ポンドは、昨年(2015年)7月安値0.6909ドルを「本尊」とした「逆三尊型(※)」のフォーメーションを形成してから大きく切り返してきたが、同フォーメーションの計算値(ターゲット)をおおむね達成、2013年高値0.8815ドルを起点とした全下落幅の半値戻しもいったん達成し、その後、反落してきた。

(※編集部注:「逆三尊型」はチャートのパターンの1つで、3つの谷があって、その真ん中の谷が一番低いもの。大底を示す典型的な形とされている。「ヘッド&ショルダーズ・ボトム」と呼ばれることもある)

ユーロ/英ポンド 週足(クリックで拡大)(出所:ヒロセ通商)

 言い換えれば、テクニカル視点における目標達成感が強い以上、ファンダメンタルズの材料をもって一方的に押し進むことはない。

■同じ材料でもどう解釈するかは市況次第 さらに不思議なのは、前述のようにユーロ/英ポンドが「逆三尊型」を形成し、上昇している間、マーケットはひたすら英国のEU離脱問題を騒いでいたが、ユーロ/英ポンドが目標を達成し、反落してきたら、「英国のEU離脱問題は実は英国のみでなく、EUにとってもマイナスだ」といったことが市場関係者の口から語られたことだ。


 要するに、同じ材料でもどう解釈するかは市況次第。また、市況次第で、同じ材料でもまったく違う解釈が成り立つわけだ。


 だから、筆者はずっと言ってきた。ファンダメンタルズに関する解釈を聞くヒマがあったら、チャートでも見よう…そういうことだ。

 同じ視点で米ドル/円を見てみよう。米ドル/円が… 
アナリストの予想がはずれまくる理由とは? 英ポンド/円は暴落濃厚だが目先は一服か ブログ

アナリストの予想がはずれまくる理由とは? 英ポンド/円は暴落濃厚だが目先は一服か

■2016年はアナリスト受難の年! 2016年は多くのアナリストやストラテジストにとって受難の年となり、またウォール街に限らず、金融業界に身を置くいわゆるプロたちが自信を喪失している年でもあろう。

 何しろ、あの天下のゴールドマンサックスの2016年ベストストラテジー(計6つ)が、たった6週間足らずで全滅し、日本株を含め、多くのアナリストが一生懸命書いていた「2016フォーカス」といった年間予想も2カ月たらずで紙くずとなったほどだ。

日経平均 日足(出所:株マップ.com)

 あまりの衝撃なのか、先日、あるアナリストの「自虐レポート」がウォール街で話題を呼んでいた。

 このアナリストはモルガンスタンレーのシニア・ストラテジスト、パーカー氏。彼はわざわざレポートを出し、「これからは株のPERなどは予想不可能で、自分たちのアドバイスの逆を張れば儲かるかもしれない」とクライアントにアドバイスをしたのだ。

 もちろん、氏が率いるアナリストチームが出したレポートが大きくはずれた結果を受けた反省に基づく話だが、なんと正直な!と大いに受けたわけだ。

 対照的に、ここ日本では、日本株急落や円の急騰で見方がはずれたセンセイたちが言い訳したり、逆切れしたりという光景がよく見られるから、同じアナリストの立場でも、これだけ違うのかと感服するばかりである。 

米ドル/円 日足(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:米ドル/円 日足)

■アナリストの予想はなぜこんなにもはずれるのか? さて、問題はアナリスト個人の資質や素直さではなく、アナリストたちの予想が、なぜこんなにもはずれるのかにある。

 原因の1つは、前回のコラムにて指摘したように、世界主要中央銀行の思惑と逆に行っている相場に、従来のロジックが通用しなくなっていることが挙げられる。

【参考記事】

●2016年は「中銀の裏に道あり、花の山」。為替は中央銀行の思惑と逆に動く!(2016年2月19日、陳満咲杜)

 もう1つは、やはり、グローバルな金融市場が大きな転換点に位置しているため、普段必ずしも必要とされないほど大きな、マクロ的な視点が必要になってきているからではないかと思う。

 換言すれば、従来のロジックや従来のアナリシスが従来の相場に通用したようには現在の相場には通用しないし、また、通用しなくなってきたからその反動も大きく、また、総じてその反動がオーバーしがちであるということだ。

 従来のロジックと従来のアナリシスで相場を張ってきた方が多かったので、通用しないとわかれば皆が一斉に手仕舞うから、反動も大きくなったわけだ。ゆえに、偉いアナリストほど、見方がはずれるわけだ。

 とはいえ、はずれて言い訳するのは…
2016年は「中銀の裏に道あり、花の山」。 為替は中央銀行の思惑と逆に動く! ブログ

2016年は「中銀の裏に道あり、花の山」。 為替は中央銀行の思惑と逆に動く!

■“クロダレジスタンス”が日銀失敗の象徴に!? 前回のコラムでは、黒田ラインの健在を示唆した。

【参考記事】

●黒田バズーカ3の自爆でアベノミクスは終わったか。米ドル/円は近々106円台へ!(2016年2月12日、陳満咲杜)

 当然のように、すでに大きく割り込んだ以上、それはサポートラインではなく、レジスタンスラインとして意識されるはずだ。

 実際、米ドル/円は2月16日(火)に114.87円までリバウンドしたものの、足元では再度112円台へ反落。明らかに黒田ラインの存在を意識している値動きとなった。

米ドル/円 4時間足(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:米ドル/円 4時間足)

 皮肉にも同ラインは、張本人の黒田日銀総裁が自ら破ったわけだから、現在“クロダレジスタンス”と呼ばれるのがふさわしく、また少し「カッコいい」かもしれない。

 なぜなら、“クロダレジスタンス”は中央銀行の失敗を象徴する言葉として、これから歴史に残るかもしれないからだ。

■世界中の中央銀行の失敗で幕を開けた2016年 もっとも、中央銀行の失敗は日銀に限ったことではなく、世界的に発生しているから、2016年は中央銀行の総失敗によって幕開けし、また、その失敗を引きずる形でマーケットは混迷を深めていくだろう。

 最近の金(ゴールド)の上昇は、世界的なリスクオフの結果と言える一方、本質的には中央銀行への不信がもっとも大きい背景になっているのではないだろうか。

 事の始まりはやはり「問題児」の中国だ。

 昨年(2015年)、中国人民銀行(中国の中央銀行)が中国人民元と米ドルのペッグ制を緩和しようとしたが、これによって人民元安の観測が高まり、これが中国経済のハードランディングを連想させたことから、株の暴落へつながった。その後、中国株の急落が世界金融市場に強い衝撃を与えたことは周知のとおりだ。

 ECB(欧州中央銀行)がマイナス金利政策を推進した結果、EU(欧州連合)圏銀行株は暴落し、銀行の収益を大きく浸食したことで、政策本来の目的を果たしたとは言い難い。実際、マイナス金利でも国債が買われ、資金の安全志向が一段と刺激されたわけだから、中央銀行の思惑が外れたことが証左されている。

 満期まで持つと確実に損する債券を買うこと自体は愚かな行為と言えるが、債券価格の上昇さえ維持できれば(つまり、もっと愚かな投資家が出てくる限りは)、買い手が出現し、また、買い手の出現によって債券価格は上昇し、マイナスになった利回りはさらにマイナス幅を拡大していく。これこそチキンレースだ。

 チキンレースにあとから入ってきたのが日本国債だ。長期国債(10年もの)利回りもマイナスのゾーンに踏み込ませたのが日銀のマイナス金利付QQE(質的・量的緩和策)だった。

日本の10年国債利回り 日足(出所:CQG)

 その結果、株式市場は暴落、円が急騰したことは周知のとおりだから、日銀は少なくとも短期スパンでは、もっとも失敗した中央銀行だと言える。白黒をはっきりつけた形で、市場は黒田総裁が主導した政策に不信任票を投じた。

 では、世界の中央銀行と言われるFRB(米連邦準備制度理事会)は…
黒田バズーカ3の自爆でアベノミクスは 終わったか。米ドル/円は近々106円台へ! ブログ

黒田バズーカ3の自爆でアベノミクスは 終わったか。米ドル/円は近々106円台へ!

■予想を遥かに超えたスピードで円高が進む 黒田日銀総裁のおかげで、筆者の「春」はどうやらだいぶ早く来たようだ。というのも、前回のコラムでは、桜が咲くころ、米ドル/円の110円打診を予測していたが、昨日(2月11日)、一時111円割れを果たしたから、もう桜が咲いてもよいだろうと思っている。

【参考記事】

●マイナス金利はなぜ逆効果だった?急落の米ドル/円は桜の咲くころ、110円台打診!?(2016年2月5日、陳満咲杜) 

米ドル/円、1時間足(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:米ドル/円 1時間足)

 もちろんこれは冗談だが、円高が市場関係者の予想を遥かに超えたスピードで進行していることは間違いない。本日(2月12日)、日経平均は1万5000円を割り込んでいるから、足元の株安・円高はアベノミクスの終焉を示唆するサインだと見るべきであろう。

日経平均 日足(出所:株マップ.com)

 皮肉にも、その引き金を引いたのは、日銀のマイナス金利付きQQE(量的・質的緩和策)なのだから、黒田さんのバズーカ3は明らかに自爆したと言える。

■世界的リスクオフと中銀不振により、マイナス金利が裏目に 日銀のマイナス金利導入が「見事に」裏目に出た背景と根幹は、ほかならぬ世界範囲のリスクオフの流れと中銀不信であろう。

 特に日銀に対して、マーケットの審判は厳しかった。実際、日銀がQQE政策を推進して以来、本来の目標をまったく達成しておらず、唯一もたらした株高・円安の実績も今はすべて帳消しとされてしまったのだから、何のためのQQE政策か、そして、アベノミクスとはいったいなんだったのか、これから厳しく問われるだろう。

 何回も指摘したように、日銀のQQE政策で成功したところがあるとすれば、マインドの改善のみ挙げることができたが、それは結局、株高・円安に大きく依存しているから、今度は相場のごとく逆回転、逆噴射のリスクが大きい。

 その上、アベノミクスも構造改革云々と言いながら、結局、日銀の金融政策頼みばかりで大した中身なしで終わっているから、そろそろ政局にも影響がある時期に差しかかるかと思う。

 日銀の失敗、あるいはアベノミクスの失敗については、これからよく論議されるだろう。

 今回、「黒田バズーカ」がなぜ逆噴射したかについて、すでに多くの解釈がなされているから、ここでは深入りしないが、強調しておきたいのは、そもそもアベノミクスと日銀政策がもてはやされたことで、日銀と政府に「自信過剰」がもたらされたということだ。言い換えれば、今回の黒田さんの大失敗は偶然ではなく、必然的な出来事だ。

 日銀政策にしても、アベノミクスにしても、その時、効いていたように見えたのは政策自体、あるいは中身自体が良かったわけではなく、外部要素、外部環境に大きく依存していたところが大きかった。この点については、QQE2と今回のQQE3の時期や世界金融市場の状況を見れば一目瞭然だし、アベノミクス構造が打ち出された時期を思い出せば、納得できるかと思う。

 アベノミクスという単語は、最初、「近いうち解散」と呼ばれた…
マイナス金利はなぜ逆効果だった?急落の 米ドル/円は桜の咲くころ、110円台打診!? ブログ

マイナス金利はなぜ逆効果だった?急落の 米ドル/円は桜の咲くころ、110円台打診!?

■眠れぬ日々が続くのはミセス・ワタナベとあの方! ミセス・ワタナベは日本個人投資家のアダナであるが、今週(2016年2月1日~)のミセス・ワタナベは、よく眠れない日々を過ごしてきただろう。株安に円急騰、日銀がマイナス金利を導入して間もないだけに、ショックも大きいかと推測される。

 前回のコラムで筆者が強調していたのは、マイナス金利導入でも昨年(2015年)以上の円安はあり得ないということだが、マイナス金利の効果は今週(2016年2月1日~)に入って以来、1回も確認できない。

【参考記事】

●ソロスが“孫子の兵法”で中国政府を翻弄? マイナス金利導入でも昨年以上の円安なし(2016年1月29日、陳満咲杜)

 円高への巻き返しが急激に進んでおり、先週(2016年1月29日)の日銀政策がもたらした円安効果をすべて帳消しにし、さらにそれ以上の円高が進んでいるのが目下の状況だ。ここまでの展開には円高派の筆者でも驚きを禁じえない。マーケットは常に我々の意表を突く存在であることに、改めて感心しているところだ。 

米ドル/円 4時間足(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:米ドル/円 4時間足)

 愕然としているのは、もちろんミセス・ワタナベたちのみではなく、米ドル高に賭けていたヘッジファンドの面々も然り。それに、よく眠れないと言えば、“あの方”もそうではないかと推測される。“あの方”とはほかならぬ、日銀総裁の黒田さんだ。

 金融手段のイノベーションが無限と豪語した黒田総裁は、自分で「二枚舌」を意図的に演出してまで、サプライズを講じるのに腐心していたにもかかわらず、その効果は1日で終り、かつマーケットの「報復」にあった。 

日銀・黒田総裁渾身のサプライズ・「マイナス金利政策」の市場への効果はたった1日で終わり、なおかつマーケットの「報復」にあった。(C)Bloomberg

 QQE(量的・質的緩和策)、QQE2に比べ、金融政策の波及効果どころか、その反対の状況を引き起こしているのであるから、重い責任を負う覚悟がもちろんできているのではないかと思われる。

■マインド悪化を防ぐには株高・円安が必須 実際、本コラムを含め、筆者が繰り返し強調してきたことを理解できれば、黒田さんの政策は効かないばかりか、逆効果のリスクが大きいことを察することができる。

 すなわち、アベノミクス自体、目標(物価水準)はまったく達成していないものの、株高・円安でマインドの改善は促進され、それによってアベノミクスは支持されてきたわけだ。そして、マインドの改善は株高・円安とリンクしていることは見逃せない。換言すれば、株高・円安が逆転すれば、マインドが再び悪化していくことが容易に推測される。

 こういうことを黒田さんほどよくわかっている人はいない。マイナス金利の導入、あるいはこれからのマイナス金利拡大で、物価水準が達成できる保証はどこにもない。予想達成時期も何回か先延ばしにされてきたから、再度修正される公算が大きい。しかし、それでもQQEにこだわっているのは、株安・円高への逆転をどうしても阻止し、マインドの悪化を止めたいからだ。

■マイナス金利政策は「王様の裸」を隠すための「新しい服」 言ってみれば、インフレターゲットがこれから達成されるぞと言い続けるには、株高・円安の環境が必要だ。そうでないと、皆が一斉に「王様は裸だぞ」と言い出すから、収拾がつかなくなる。

 言い方は悪いが、マイナス金利政策は黒田さん、あるいはアベノミクス自体が裸であることを隠すための「新しい服」にすぎない。

 しかし、マーケットは厳しい目を光らせ、時には少年のごとく真実をずばり言う。だから、今週(2月1日~)の市況は「王様は裸だ」と言っているような値動きなのだと思う。そう言われたら、いくら王様とはいえ、夜よく眠れるわけがない。

 結局、日銀政策にしても、アベノミクスにしても…
ソロスが“孫子の兵法”で中国政府を翻弄? マイナス金利導入でも昨年以上の円安なし ブログ

ソロスが“孫子の兵法”で中国政府を翻弄? マイナス金利導入でも昨年以上の円安なし

■ジョージ・ソロスはポジショントークをしているだけ 前回のコラムで、「猫も杓子もソロス、ソロスと騒いでいる間は危機はいったん緩和」といった見方を示したが、少なくとも日銀決定待ちの現時点(※)では筆者の想定どおりの展開だ。

【参考記事】

●猫も杓子もソロス!ソロス!李万ショックはまだなのに市場がパニックした理由とは?(2016年1月22日、陳満咲杜)

(※編集部注:「現時点」というのは、執筆者・陳満咲杜さんが本記事のこの部分を執筆していた時点。その後、本記事の執筆終了までに日銀の金融政策決定内容は発表された)

 米ドル/円もNYダウも日経平均もいったんリバウンドし、ベア(下落)トレンドにおけるスピード調整を先行させた。

米ドル/円 日足(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:米ドル/円 日足) 

NYダウ 日足(出所:CQG) 

日経平均 日足(出所:株マップ)

 もっとも、ソロス氏はご自身の影響力をよく知っている。ゆえに、老獪な同氏が自身の発言を利用しないわけがない。

 ソロス氏は中国のハードランディングが避けられないと主張し、米国株、アジア通貨のショートに賭けていることを明らかにしていた。当然のように、マスコミが一斉に報道し、中国政府も躍起になって反論している。

 しかし、冷静に考えてみれば、それは氏のポジショントークにすぎないこと、そして、そのポジショントークを通じて市場の反応、中国政府の反応を探っていることも間違いないだろう。

「中国のハードランディングが避けられない」というのはソロスのポジショントークにすぎないのか…。 (C)Bloomberg

■中国政府はソロスの「孫子の兵法」に翻弄された!? この真意をおわかりいただくために、ポジショントークの定義から見る必要があるかと思う。以下、ウィキペディアの記述を引用。

ポジショントークとは、株式・為替・金利先物市場において、買い持ちや売り持ちのポジションを保有している著名な市場関係者が、自分のポジションに有利な方向に相場が動くように、市場心理を揺さぶる発言をマスメディア・媒体などを通して行うことを指す和製英語

 和製英語だから、このままでは「外人」に通じないかと言えば、そうではないようだ。そもそもこの単語、バブル前に外資系銀行のディーラー同士がだまし合いをしているのを見て、日本人が作った造語。だから、和製英語でも、「外人」もよく知っているそうだ。

 いずれにせよ、ポジショントークとは虚実ないまぜで相手の本音を引出し、また相手をだますための戦術だと理解すればよいだろう。

 だから、このことに中国政府が躍起になっているのを見て、筆者は中国出身者として恥ずかしい思いが一杯だ。

 ソロスとはいえ、一介の民間人。それを国レベルが相手にするとは何ごとだ、大国の風格云々はもちろん、相手は「孫子の兵法」を使っているのではないか。それを見抜けないこと自体、中国官僚の劣化を象徴する出来事であり、また、祖先に申し訳ないのではないかと…。

■ソロスのファンドは実は上海株の下値を拾っている ちょっと脱線したが、要するにソロスが公の場で自分の手の内を見せてきたら、少なくとも短期スパンにおいては、逆のことを考えないとバカだ、ということである。

 案の定、上海株は、ソロス氏の発言に刺激されたかどうかは定かではないが、一昨日(1月27日)13カ月ぶりの安値を更新したところ、ソロスのファンドが実は下値を拾っているといった情報が浮上してきた。 

上海総合指数 日足(出所:CQG)

 祖先の教えを忘れた中国官僚は、人民元のショート筋に大打撃を与えたと自画自賛しているが、本当にそうであるかは疑わしい。

 少なくともソロス氏は発言する前にショートポジションを決済し、場合によってはロングポジションを積み上げていたに違いない。何しろ、メンツを重じる中国政府のお買い上げが容易に想定できたからだ。お見事としか言いようがないが、複雑な気持ちだ。

 だから、筆者は先週末(1月22日)から円のショートポジションを持ち始めた。理屈は簡単だ。前述のように、ソロス氏が手の内を見せてきたら、その反対に行かないと逆に怖いからだ。そして、相場の真実とは、「値動きが先行して、材料が後でついてくる」。

 米ドル/円でみると、1月20日(水)のチャートが…
猫も杓子もソロス!ソロス!李万ショックは まだなのに市場がパニックした理由とは? ブログ

猫も杓子もソロス!ソロス!李万ショックは まだなのに市場がパニックした理由とは?

■世界的なパニック相場は、2つの相場の動きに象徴される 世界金融市場は、ベア一色に染められた。

 上海株は昨年(2015年)安値をいったん更新、NYダウは昨年(2015年)8月安値に迫り、日経平均は1万6000円の大台割れをうかがった。

上海総合指数 日足(出所:CQG)

NYダウ 日足(出所:CQG)

日経平均株価 日足(出所:株マップ.com)

 世界規模のパニック相場は、以下の2つ相場の値動きに象徴され、これからも油断できない展開だ。

 1つは、MSCIグローバル指数が高値から20%安を達成。テクニカル視点では、ベアトレンド入りと定義できる。

 もう1つは、原油。12年ぶりの安値をたびたび更新し、昨日(1月21日)反騰したものの、一時は30ドル以下に留まって、「底なし」の様子を露呈している。

NY原油 日足(出所:CQG)

 この2つの相場の値動きを見る限り、昨年(2015年)後半から指摘してきた世界金融危機の可能性は一段と現実味を深めた。

【参考記事】

●2016年は2008年リーマンショックの再現か。ドル/円は100円台まで下落の可能性も!(2015年12月25日、陳満咲杜)

 本コラムにて指摘したように…
パニック相場に備えリスク資産は手放せ! 世界を揺るがすチャイナリスクの真相とは? ブログ

パニック相場に備えリスク資産は手放せ! 世界を揺るがすチャイナリスクの真相とは?

 新年に入ってから世界金融市場の反乱が続いている。そのキーワードはチャイナリスクと原油にあるが、コインの裏表といっしょで、基本はいっしょだと思う。

 原油価格は中東問題が絡むものの、基本的には世界景気後退の懸念が強いから、値下がりが続いていると思われる。そして、このような懸念を強く喚起しているのは他ならぬ、チャイナリスクであるから、2016年の危機があれば、間違いなく「李万ショック」(※)だと思う。

(※編集部注:「李万ショック」とは、今後、中国で発生すると思われるショックを「リーマンショック」になぞらえた陳満咲杜氏の造語)

【参考記事】

●2015年は中国で「李万姉妹」事件発生!?経済危機警戒、リスク資産から手を引け!(2015年8月21日、陳満咲杜)

●2016年は2008年リーマンショックの再現か。ドル/円は100円台まで下落の可能性も!(2015年12月25日、陳満咲杜)

■チャイナリスクの真相とは? チャイナリスクの真相は、中国の経済構造が転換期に差し掛かるリスクだと理解すべきであろう。いわゆる構造改革は、どの国においても困難な問題で、痛みを伴う構造転換もあり得なくない。その上、中国の特殊な事情によって、その困難さが倍増されたと言っても過言ではないかと思う。

 一党独裁、あるいは開発独裁と言われる中国の政治モデルは、国全体をまとめる上では極めて効率的だったため、中国の経済成長はこの30年間、目覚ましいものがあった。

中国は「開発独裁」でこれまで目覚ましい発展を遂げてきた。写真は上海の外灘から見た浦東地区の夜景。超高層ビルが所狭しと立ち並ぶ、中国の経済成長を象徴するような場所だ。

写真:ザイFX!編集部

 が、経済成長のスピードが落ち着いてきた途端、従来のモデルが効率的どころか、さらなる前進の最大の障害になっている。

 換言すれば、開発独裁の体制は、比較的貧しい時代にはメリットが多いが、比較的富裕な状態になってきたらデメリットの方が大きく、政治体制の転換が必要になってくるということだ。中国共産党自らがチェンジしない限り、このようなことはあり得ないから、中国における構造改革は至難である。

 政治経済学の視点ではなく、やや異なる視点でこの問題をとらえれば、また、わかりやすいかと思う。

■場合によってはパニック相場も覚悟! もっとも、改革開放政策を実行して以来、中国共産党は国民生活を向上させ、国全体を躍進させてきたという実績があり、またその分、自負も大きい。

 今までうまくやってきた路線と手法を自ら放棄するわけにはいかないし、また、かなりの痛みを伴わないと自ら修正できるものではない。これも世の常だから、中国共産党云々だけの問題ではない。

 皮肉にも、中国共産党が主導してきた改革開放政策があまりにも良い成果を上げてきたからこそ、軌道修正が難しいと言える。だから、チャイナリスクはこれからも膨らんでいくと推測される。

 ゆえに、筆者が強調してきたように、世界規模の株安はまだ序の口で、これから本格化していくだろう。リスクオフムードが一段と強化され、場合によってはパニック相場も覚悟しておかないといけないから、円高傾向もまだ初歩段階とみるべきだ。 

世界の通貨VS円 日足(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:世界の通貨VS円 日足)

 パニック相場は、「本家」の中国株と中国人民元相場にて… 
恐怖心を煽ったサーキットブレーカー! <i style=”font-style:normal;font-size: 97%;”>中国株下落は序の口、為替は円高トレンドに</i> ブログ

恐怖心を煽ったサーキットブレーカー! <i style=”font-style:normal;font-size: 97%;”>中国株下落は序の口、為替は円高トレンドに</i>

 新年あけましておめでとうございます。

 今年もよろしくお願いします。

■中国株が大発会からいきなり大暴落! さて、新年早々、筆者の予想どおり、中国発の混乱が世界の金融マーケットを直撃、円高市況をもたらした。 

世界の通貨VS円 日足(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:世界の通貨VS円 日足)

 実際、筆者は中国から帰ってきたばかりで、この間、中国で初のセミナーを開催し、中国株の先行きが厳しいといった内容を話してきたので、予想どおりの展開だ。

 とはいえ、中国株が大発会からいきなりの暴落とは、さすがに筆者にとってもサプライズであり、中国株市場の脆弱性を象徴した出来事だった。皮肉にも暴落の引き金を引いたのは市場の変動率を抑えるための制度導入だ。 

上海総合指数 日足(出所:CQG)

 中国株は変動率が高く、当日決済できないにもかかわらず、ストップ高やストップ安が頻繁に発生、また、売買回転率は500%に達し、世界一のレベルかと思われる。

 国民性(ギャンブル好き?)の側面もあるが、その本質は、いわゆるバリュー投資の土壌がないことにある。結局、短期的な投機に走るしかないと皆が思い、個人投資家も機関投資家も目先の値動きを追うばかりだ。その上、個人投資家の比率(≒80%)が高すぎることも市場構造をさらにゆがめていると言える。

 ゆえに、変動率を抑え、より健全な市場を育てようとする中国政府の初心は正しい。が、その初心とはまったく逆の事態を招いたのが皮肉で、また、悲劇的なことだ。

■「サーキットブレーカー」がもたらしたギネス級の大混乱 新制度とは、「サーキットブレーカー」と呼ばれる、一定の変動率に達したら、取引を休止するという制度だ。変動率が5%に達したら、いったん取引が休止され、さらに7%に達した時点で終日取引中止となる。

 しかし、取引が休止になったら、売るに売れないと焦る投資家たちが逆に売りに殺到、取引が休止されている間、冷静になるどころか、かえって恐怖心があおられ、次のブレーカー発動につながるといった展開になってしまった。

中国:CSI300指数 1時間足(出所:CQG)

 たびたび指摘してきたように、中国発の混乱があれば、たちまち世界の金融市場、とりわけ日本市場に影響を与えるから、日経平均は2016年年初から下落し、リスクオフの動きで円が買われた。その一方で米ドル高基調は維持されているだけに、結果としてクロス円(米ドル以外の外貨と円との通貨ペア)の下落がすさまじく、円全面高の地合いを強化した。

 そして、昨日(1月7日)は事態がさらに悪化した。中国株市場がオープンして、13分足らずで1回目のブレーカーが発動され、15分の休止期間を経て取引が開始されたものの、たちまち7%安まで売られ、30分で終日取引休止となった。

 あまりにもショッキングな出来事で政府官僚らは自信喪失、昨日(1月7日)夜中まで緊急会議を開き、同制度をいったん停止することを決めた。

 4取引日しか実行されていない短命な政策に加え、2回のサーキットブレーカーの発動、そして、オープンしてからたった13分後の発動など、すべてギネス世界記録に残るほどの出来事だった。

中国:CSI300指数 30分足(出所:CQG)

 中国のスケールの大きさやスピード感が、悪い意味で中国株市場にて再確認された。

 中国株の急変は、当然のように世界株の全面安…
<i style=”font-style:normal;font-size: 97%;”>2016年は2008年リーマンショックの再現か。</i> ドル/円は100円台まで下落の可能性も! ブログ

<i style=”font-style:normal;font-size: 97%;”>2016年は2008年リーマンショックの再現か。</i> ドル/円は100円台まで下落の可能性も!

■2016年は米ドル高の基調が続く! ただし… 年末になったので、恒例の「来年(2016年)の展望」について話したいと思う。

 まず米ドル全体の話だが、結論から申し上げると、やはり、米ドル高の基調がなお続くと思われる。その主な根拠はドルインデックスの長期チャートにある。

ドルインデックス 月足 このチャートが示すとおりなら、今回位置する16~17年サイクルの始点は2011年5月なので(※)、6年間の上昇リズムが繰り返しされるなら、2017年半ばまで米ドル高基調が続く、という計算になる。

(※このチャートは月足終値を使って描いているので、少しずれて見えるが、最安値をつけたのは2011年5月である)

 一方、米ドル高基調とはいえ、米ドルがガンガン高値をつけていくとは限らない。

 ブル(上昇)にしても、ベア(下落)にしても、トレンドの進行は往々にして一直線に進まない場合が多く、また2014年5月から今月(2015年12月)高値まで、ドルインデックスはすでに27%超の上昇幅を達成しているから、米ドル高の進行は、強くても来年(2016年)いっぱいまで続くとは想定しにくい。

 高値を更新してから上昇一服、場合によっては、大きく調整してから、またブルトレンドへ復帰、といった市況が想定される。

■米利上げ継続せず!? 中国発の「李万ショック」に備えよ! ファンダメンタルズでは、最も気になるのが米利上げのペースであろう。コンセンサスの4回利上げが、どれくらい現在のレートに織り込まれているかが1つの焦点であり、もう1つ、米利上げが本当に来年(2016年)継続されていくか、という問題もある。

 何しろ、米利上げを疑問視する声がウォール街でも根強い。周知のとおり、今年(2015年)はチャイナリスクでFRB(米連邦準備制度理事会)がいったん利上げを見送った経緯がある。

 換言すれば、米利上げサイクルの進行に、来年(2016年)のどこかで狂いが生じるとすれば、やはり、他ならぬチャイナリスクの鮮明化が一番の原因になり得る。来年(2016年)も中国事情に振り回される恐れが大きいかと思う。

 もっとも、今年(2015年)は2007年に似ているかと思う。

 2007年にサブプライムローンの問題が浮上し、翌年(2008年)、リーマンショックをもたらした。同じように、今年(2015年)の中国株、人民元の波乱はまだ序の口で、来年(2016年)こそ、中国発の「李万ショック」に備えるべきだ。詳細は以前、本コラムにて述べているので、ここでは繰り返さないが、現実味の高いシナリオとして意識しておきたい。

【参考記事】

●2015年は中国で「李万姉妹」事件発生!?経済危機警戒、リスク資産から手を引け!(2015年8月21日、陳満咲杜)

●中国ショックはまだ序の口で来年が本番!? 米ドル/円の調整は1年近く続く可能性も!(2015年8月28日、陳満咲杜)

 となると、米利上げの進展も一本調子に進まない公算が高いから、来年(2016年)のキーワード、すなわち、「利上げの米ドル高」が崩れやすいリスクがある。

■リスクオフが進めば、結局、米ドル高基調が維持される 一方、リスクオフの進行が深ければ深いほど、逆に究極のリスク回避先として米ドルの選好度が高まるから、結局、米ドル高基調が維持される、といったシナリオが、もっとも可能性が高いでのはないかと思う。

 なぜなら、チャイナリスクが高まりにつれ、新興国通貨や資源国通貨から米ドルへの資金シフトが容易に想定されるうえ、従来からのユーロのリスク回避先としての地位が、QE(量的緩和)政策の余地や地政学リスクによって、消滅した影響が大きい。

 リーマンショックにしろ、「李万ショック」にしろ、有事の米ドル高という定律が変わらない以上、大きなトレンドとしての米ドル高が定着しやすいと思う。

 ゆえに、来年春ごろまで米ドル高が続き、ドルインデックスの高値更新後、中国次第で波乱となってくる可能性が大きい。

 そして、チャイナリスクで世界の金融市場の混乱や不安が広がっていくと、市場関係者はまず米利上げシナリオの狂いを連想し、米ドル売りを仕掛けてくるが、混乱の度合いが深まっていくと、今度は米ドルの買戻しに動く。こういった市場心理が働けば、夏場まで米ドル売り、秋口まで米ドルが買われる、といった大まかな推測が得られる。

 ドルインデックスが102~103の水準に到達すれば、一応、要注意だと思う。

ドルインデックス 週足(出所:CQG)

 米ドルの対極として位置づけされるユーロについては…