陳満咲杜の「マーケットをズバリ裏読み」

米マイナス金利導入の可能性は低いが、仮に マイナス金利導入でも米ドルは買われる! ブログ

米マイナス金利導入の可能性は低いが、仮に マイナス金利導入でも米ドルは買われる!



■戦後最悪の米雇用統計でも、米ドルや米国株の押し目買い 先週(5月8日)のコラムで指摘したとおり、米4月雇用統計が戦後最悪であっても、結果的に米ドル売りや株式の崩れにはならなかった。米雇用統計発表後の値動きでは、むしろ、米ドルや米国株の押し目買いが見られ、マーケットの織り込み済みを示唆していた。

【参考記事】

●未曽有の危機、史上最悪の米雇用統計目前! そこで晴れ晴れとした気分になる可能性あり!?(2020年5月8日、陳満咲杜)

 一方、米景気をはじめ、世界景気後退自体は間違いなく進行中だ。そんな中で米国株の大幅リバウンドが続いてきただけに、これは実態と乖離した「リバウンドバブル」ではないかという懸念の声がウォール街内外から多数上がっている。

 米国株の「リスクオフのオフ」自体が行きすぎの局面にあり、いったんスピード調整、すなわち再反落しても自然の成り行きと見なされる。

NYダウ 日足 

(出所:TradingView)

 前回のコラムでも強調したように、仮に強気派でも一直線的な株高になるとは断定できず、途中の調整はむしろ、より健在なトレンドの形成に寄与するから、理屈では歓迎される値動きだと思う。

【参考記事】

●未曽有の危機、史上最悪の米雇用統計目前! そこで晴れ晴れとした気分になる可能性あり!?(2020年5月8日、陳満咲杜)

■米マイナス金利導入の可能性は低いとみる理由とは? ところで、米景気後退に関する懸念は根強く、株のリバウンドがいったん阻止される可能性を強める上、米マイナス金利導入の可能性も金利先物市場の値動きをもって示唆された。

 FRB(米連邦準備制度理事会)議長はその可能性を否定したものの、言葉のニュアンスが取り上げられ、一部市場関係者は懐疑的な見方を示している。トランプ米大統領の圧力に負けて、FRBがマイナス金利を早晩導入するのではないかといった見方も多いようだ。

 戦後未曽有の危機なので、すでに上限なしのQE(量的緩和策)といった前代未聞の政策を打ち出したFRB、同じく前代未聞のマイナス金利を打ち出しても、まったくの想定外とは言えなくなっているが、筆者はその可能性は低いのではないかと思う。

 なにしろ、米ドルは世界の基軸通貨であり、マイナス金利を導入すれば、自らその地位を放棄すると思われるリスクが大きい。マイナス金利は文字どおりの「禁じ手」であるため、FRBはそこまで冒険できないと推測される。

 もっとも、米大統領はFRBに圧力をかけることができても、意のままに動かすことは制度上不可能なので、トランプ氏の意向は拡大解釈されていると言える。

 ちなみに、FRBという組織自体、世界の中央銀行のなかでも特別な存在で、詳説は省くが、FRBの独立性は組織のしくみや米法律によって保たれていることを強調しておきたい。

 これも米ドルが基軸通貨になれる理由の1つだから、米政府の意のままに動いたら米ドルの信頼性が著しく損なわれ、その地位も失われかねない。

 とはいえ、筆者はその可能性を完全に否定できるとは…
未曽有の危機、史上最悪の米雇用統計目前! そこで晴れ晴れとした気分になる可能性あり!? ブログ

未曽有の危機、史上最悪の米雇用統計目前! そこで晴れ晴れとした気分になる可能性あり!?

■ナスダックはコロナショック以降の下落幅が帳消しに コロナ危機がなお続く中、欧米では経済活動の正常化をめざす動きが鮮明になってきた。

 株式市場もそれを期待しているところだろうか、総じて堅調な値動きを見せ、ナスダックはコロナショック以降の下落幅を大方取り戻し、終値で昨年(2019年)12月終値を上回った。

ナスダック 日足(出所:TradingView)

 ウォール街のコンセンサスは、今は困惑気味だ。プロの面々が2番底を想定して、V字回復の有無について言い争っているうちに、事実上すでにV字回復を達成してしまったわけで、V字回復があまりにも早かったため、論争自体の意味がなくなってしまった。ゆえに、「相場は間違っている」と言わんばかりの解釈というか、言い訳も多数出ているが、参考にする価値はあまりないかと思う。

 そもそも今回のコロナショック、未曽有ということで誰も経験したことがない上、何らかのモデルをもって推測できるものでもない。

 だから、筆者も日ごろ多くの資料を読むが、「リーマンショック時云々、大恐慌時云々」といった過去の事例をもって今回のコロナショックの先行きを推測する見方からは意識的に距離を置いてきた。

 未曽有なので、過去の教訓自体は役に立つかもしれないが、株式市場にしても、為替市場にしても過去とまったく同じ値動きになることはないはずだ。

 だから、よく見かける典型的な比較図、すなわち1929年大恐慌や2008年リーマンショック後の株価と今回のコロナショック発生後の株価の推移を重ねて表示する一種の流行りのやり方に違和感をもち、あてにならないとずっと思ってきた。

 そもそも2008年リーマンショックとの比較はまだマシだが、1929年大恐慌と比較するのは何かの冗談としか思えない。

■未曾有の金融緩和で株式市場が総崩れするようなら… とはいえ、このまま株価が一本調子に上がるかどうかは断定できない。前回のコラムでも強調したように、結局誰にもわからないから、未知であることを素直に認めることが一番だ。

【参考記事】

●日米株は早ければ2020年内に高値更新! 一本調子に回復? それとも2番底をつける?(2020年5月1日、陳満咲杜)

 わかることがあるとすれば、それは今回の未曽有の危機に対応すべく、FRB(米連邦準備制度理事会)をはじめ、世界の主要中銀は揃って未曽有の金融緩和を打ち出しているから、株式市場が仮に2番底、3番底をつけていくような紆余曲折はあっても、「たちまち総崩れしてベア(下落)トレンドへ転換することはない」ということぐらいだと思う。

 なぜなら、未曽有の金融緩和があっても世界の株式市場が総崩れして救えなかったら、もう人類の経済活動が終わりだと通告されることに等しいからだ。

 現在社会において、好むかどうかは別にしても、株式市場のパフォーマンスは現実の経済活動を測る上で最も有効なツールであるから、株式市場の総崩れがあれば、人類はコロナウイルスに負け、経済活動再開に失敗、未曽有の景気後退に晒されることを示唆するサインとなり、中央銀行が存在する意味自体がなくなる。

 未曽有の大惨事があっても、ナスダックをはじめとして日米株が「意外」に堅調なことは、そのようなロジックで考えれば、「意外」でなくなるかもしれない。

 今晩(5月8日)の米雇用統計は史上最悪になるだろう…
日米株は早ければ2020年内に高値更新! 一本調子に回復? それとも2番底をつける? ブログ

日米株は早ければ2020年内に高値更新! 一本調子に回復? それとも2番底をつける?

■コロナショックで世界同時大不況に! コロナショックの継続で景気は大きな打撃を受けており、緊急事態宣言の延長で、これからさらに悪化しそうな情勢だ。

 日経新聞による予測では、日本の第1四半期の経済成長率は-5.2%で、第2四半期はなんと-21%も落ち込み、戦後最悪の事態になるという。

 もはや、日銀の国債買い入れ上限撤廃などの金融政策のみではとても対応しきれない危機となり、大型財政出動や消費税免税など緊急政策が待ったなしの状況といえる。

 米国の状況、特に雇用情勢は戦後最悪である。過去6週間、米失業申請者数は累計3030万人を超え、単純計算すると、なんと全就業人口(農業を除き)の6分の1にあたる。

 欧州も第1四半期の経済成長率は-3.8%で、統計開始以来最大の落ち込みだから、世界同時大不況の現実に直面させれられている。

■4月のNYダウやS&P500は33年ぶりの上昇率 一方、去る4月における株式市場のパフォーマンスは悪くなかったというか、実はよかった。

 この前(2020年4月24日)の本コラムで予測していたように、日経平均はいったん2万円の大台を回復し、コロナショックで暴落した値幅の半分程度を取り戻した。

【参考記事】

●「リスクオフの円高」にとらわれているとなぜこれからの相場は見極められないのか?(2020年4月24日、陳満咲杜)

日経平均 日足(出所:TradingView)

 米国株に至っては、4月のパフォーマンスは、実はここ33年来で最も良く、多くの市場関係者を驚かせている。

 4月におけるS&P500の上昇率は12.68%に達し、月別では1987年以来最も大きい上昇率を記録した。

S&P500 日足(出所:TradingView)

 NYダウの上昇率は11.08%に留まったものの、マンスリーのパフォーマンスとして同じく1987年以来最も良い記録となり、ナスダックは15.45%の上昇で、2000年以来の良い成績を残した。正に「不況の株高」そのもので、また後世の教科書に残す事例であることは間違いないだろう。

NYダウ 日足 

(出所:TradingView) 

ナスダック 日足 

(出所:TradingView) 

■早ければ2020年内に日米株は高値更新!? 筆者は繰り返し「不況の株高」の可能性や、その蓋然性を指摘してきたから、理由や背景について今さら説明したくないというか、理由の後付けをしたくないので、ここでは改めて取り上げないが、「半値戻しは全値戻し」という相場格言のいうとおり、早ければ2020年内、遅ければ2021年前半あたりに、米国株や日経平均の高値更新を覚悟した方がよいと言っておきたい。

NYダウ 週足(出所:TradingView) 

日経平均 週足(出所:TradingView)

 ナスダックを見てみるとわかるように、2月高値からほぼ一本調子の暴落を演じていたが、3月23日(月)安値からも、ほぼ一本調子の切り返しを形成してきた。

ナスダック 日足(出所:TradingView)

 今週(4月27日~)の高値で計算すると、コロナショック前の高値(つまり史上最高値)まで7%程度の値幅しかないから、前述の2020年内高値更新といった予測自体、決して戯言ではないことが理解してもらえるかと思う。より楽観的な見方として、年内ではなく夏場まで実現可能と思われ、仮にそうであっても筆者としてはサプライズではないと受け止める。

 問題は、ここから一本調子の高値トライの有無…
「リスクオフの円高」にとらわれていると なぜこれからの相場は見極められないのか? ブログ

「リスクオフの円高」にとらわれていると なぜこれからの相場は見極められないのか?

■米国の無制限QEに追随し、日銀も追加緩和の見通し FRB(米連邦準備制度理事会)の無制限QE(量的緩和)に追随する形で、日銀も来週(4月27日~)予定する金融政策決定会合にて、国債の無制限購入を行うなどの追加緩和を決める見通しだ。

 

日銀は、来週の金融政策決定会合において、追加緩和を決める見通しである (C)Bloomberg/Getty Images 

 こういった報道にまったくと言ってもいいほど市場関係者は驚かず、目先の影響も極めて限定的である。

 コロナショックが一段と広がったことで、日本政府は景気見通しを引き下げ、2008年リーマンショック以来、最も厳しい状況にあることは明らかだ。

 すでに年間80兆円となっていた日銀の国債買い入れ枠の上限が撤廃されて、さらなる国債購入があったとしても大した効果はないという懐疑論も根深い。しかし、景気は「気」の部分も大きいから、やはり、上限なしの国債購入は市場心理のもう一段の悪化を阻止する側面が無視できない。

 FRBの決定と同様、今は「非常時」なので、従来の枠にとらわれない政策が必要不可欠だ。日銀の政策や決定は評価すべきだと思う。

■いまだに「リスクオフの円高」にとらわれてしまう理由とは? もっとも、米国の無制限QEによる米ドルの超過供給で、いずれ米ドル高の基調は修正され、米ドル安をもたらすだろうという観測が多い反面、日銀に同様の政策があっても円安が進むという見方は少ないようだ。

 基軸通貨とそうでない通貨との違いという側面もあるが、円は「翻弄されてきた通貨」としての記憶が強い分、円サイドの事情でトレンドが形成されない、という考え方が根深いようだ。無理もない、米ドル/円の歴史はそういう歴史であっただけに、いまだに「リスクオフの円高」というロジックにとらわれた市場参加者が多いのも仕方がない。

 大局観としてまず強調しておきたのは、米QEがあったから米ドルの価値が著しく損なわれ、また、大幅な米ドル安の進行があったという見方は、米ドル全体の視点では正しいとは言い切れない。

 2007年にサブプライム問題が浮上してきて以降、ドルインデックスは一貫して下落していたが、リーマン・ブラザーズ破綻前の2008年3月にはすでに底を打っていた。同社の破綻は2008年9月の出来事だったが、その時は今回と同様、「恐怖の米ドル買い」があったから、むしろ米ドルは押し上げられ、2009年2月まで上昇がみられた。

 その後、QEの実行により、米ドル相場の上下はあったものの、ドルインデックスは2008年安値を割り込めなかった上、QE期間中のパフォーマンスも言われるほど弱くはなかった。

 3月23日(月)の本コラムに掲載したチャートをもう1回見ればわかるように、明白な米ドル安の効果が見られたのはQE2の時期だけだった。QE1では「行ってこい」相場、QE3では横ばいの傾向となっており、これらは米QEがあったとしても、米ドル安一辺倒の状況ではなかったことを示している。


【参考記事】

●ドル高は事実上のQE4実施でも止まらない? コロナ収束後の市場のV字反騰に備えよ!(2020年3月23日、陳満咲杜)

ドルインデックス 月足(3月23日コラム掲載分再掲載)(出所:TradingView)

 詰まるところ、基軸通貨として、上限があるかないかを問わず、「米QEがあると米ドル安になる」というロジックは実際の相場で実証されたことではない。それでも、そのようなロジックがもてはやされることがあるのは、他ならぬ、米ドル/円の相場のみを見た場合の「錯覚」だと思う。

 なにしろ、2007年にサブプライム問題が浮上してきて以降、リーマン・ブラザーズの破綻を経て、米ドル/円は2011年の史上最安値(※)まで一貫して下落していたから、米QEで米ドルが安くなるという考え方は「筋が通る」と思われがちだ。

(※編集部注:戦後の変動相場制以降での最安値)

 米ドル/円のみを見る場合、ドル全体(ドルインデックス)と…
なぜ不景気の株高に? ウイルス蔓延で深刻な 景気後退にならなかった3つの事例とは? ブログ

なぜ不景気の株高に? ウイルス蔓延で深刻な 景気後退にならなかった3つの事例とは?

■日米株価は続伸! 米大型株は史上最高値更新も 「コロナバブル」という「不謹慎」な言い方をした前回(4月10日)のコラムのとおり、米主要3指数は揃って続伸、日経平均も2万円台の大台回復が見えてきた。

【参考記事】

●経済対策が効きすぎてコロナバブルに!? 株式市場の切り返しはまだ序の口!(2020年4月10日、陳満咲杜)

NYダウ 日足(出所:TradingView)

ナスダック 日足 

(出所:TradingView) 

S&P500 日足 

(出所:TradingView) 

日経平均 日足(出所:TradingView)

 まさに「不景気の株高」であるが、コロナショックで急落してきた分、まだ修復の途中であることは間違いないから、株高という言い方自体、適切ではないかもしれない。

 一方、個別銘柄で見ると、景色が違ってくる。ウォルマートは先月(3月)すでに1回高値更新を果たし、今週(4月13日~)また高値更新を果たした。

ウォルマート株価 日足(出所:TradingView)

 日本でもなじみ深いアマゾンとNetflixも今週(4月13日~)、揃って高値更新。もちろん、ウォルマートを含め、ここで言う高値更新はすべて上場以来の高値を意味する。

アマゾン株価 日足(出所:TradingView) 

Netflix株価 日足 

(出所:TradingView) 

 個別銘柄をもって株式全体を語れないことは承知しているが、これらはすべて大型株であり、また、代表的な存在であることも注意しておきたい。

 換言すれば、戦後最大、あるいは100年に一度と言われる今回のコロナショックの試練があったあとの高値更新だから、先行するバロメーターとしての役割を果たす可能性もある、ということだ。

■コロナショックとリーマンショックは根本的に違う もっとも、「100年に一度」という言葉は、あのリーマンショックの時にも散々聞かされていた。そして、12年足らずで再度聞かされていること自体、何らかの違和感を覚える。

 リーマンショックを超えた景気後退がほぼ確実視される現在、リーマンショック後の相場の変動パターンをもって今後の相場を予測することも納得できるが、そこに大きな落とし穴がある。

 繰り返し強調してきたように、今回のショックはコロナウイルスの蔓延に起因するもので、経済や金融システム自体の問題ではない。

 言ってみれば、2008年のリーマンショックのように金融システムに「ウイルス」があったこととは根本的に違うから、今回のコロナショックも懸念されるほど深刻な景気後退になるとは限らない。

 コロナショックはなお続いており、現状もまだまだ厳しい…
経済対策が効きすぎてコロナバブルに!? 株式市場の切り返しはまだ序の口! ブログ

経済対策が効きすぎてコロナバブルに!? 株式市場の切り返しはまだ序の口!

■コロナ禍の深刻化に伴い、各国経済対策も未曾有の規模に コロナ禍が一段と深刻化してきた。全世界で160万人が感染、米国でも死者が1.6万人を超え、日本では緊急事態宣言が出されたほど情勢が緊迫している。

 コロナショックは間違いなく歴史に刻まれる戦後最大の大惨事となりつつあり、IMF(国際通貨基金)が警告したように、1929年~30年代の世界大恐慌以来の最大の景気後退をもたらす可能性は高い。

 一方、それと比例するように、世界の中央銀行や政府の危機意識も戦後最大レベルまで膨らんでいる。安倍政権は108兆円規模の緊急経済対策を打ち出し、そのうち真水の部分、すなわち本当の財政支出は38兆円で、2008年、リーマンショック時の2.5倍相当と言われている。

 EU(欧州連合)諸国も相次いで戦後最大規模の支援策を打ち出し、あのお堅いドイツでさえ、憲法で定められた債務上限規定をいったん停止して大規模景気刺激策を可決するという、戦後初の試みを果たした。

 英国に至ってはBOE(イングランド銀行[英国の中央銀行])が政府の財政支出を支えるため、一時的ではあるが、「禁じ手」とされる国債の直接引き受けを行って、市場関係者を仰天させた。

■米国では平時ならご法度の経済対策も とはいえ、諸国の前代未聞の対応があっても、米国に比べると、なお見劣りしてしまうかもしれない。FRB(米連邦準備制度理事会)は、ゼロ金利はもちろん、無制限QE(量的緩和策)を打ち出した上、なんと4月9日(木)に、新たに最大2兆3000億ドルの中小企業支援策を決定した。

 その中身は州・地方政府の債券や一部のジャンク債の直接購入であるから、これこそ未踏の領域へ踏み込んでおり、モラル崩壊だとか、パンドラの箱を開けた、といった懸念の声が多数上がっている。

 確かにそうである。中銀が直接国債を引き受けることにしろ、ジャンク債を直接購入することにしろ、平時ならご法度であることは間違いない。

 しかし、このような思い切った政策が打ち出されたこと自体、今は平時ではなく、「戦時」であることを意識させるものだ。これらの政策を懸念する方々はそれがまだわかっていないと思う。

 状況は、通常時のルールが適用されなくなるほど悪化しているから、FRBをはじめ、主要中銀は「戦時政策」に踏み切るしかない。コロナウイルスとの戦いは、戦争そのものであることを強く意識しなければならない。

 しかし、金融相場の現状は違う様子を見せて…
首都封鎖のウワサの中、米ドル/円月足の サインが発した強烈なメッセージとは? ブログ

首都封鎖のウワサの中、米ドル/円月足の サインが発した強烈なメッセージとは?

■米ドル高トレンド継続!下落はスピード調整の範疇 首都封鎖の可能性が高まっている。前回(2020年3月27日)のコラムで日本の防疫が成功したように見えると書いたが、どうやら甘かったようだ。事態は一段と深刻化した模様なので、覚悟しておきたい。

【参考記事】

●FRBが全力で信用収縮を阻止しているから、リスクオフの換金売りは続かない!(2020年3月27日、陳満咲杜)

 とはいえ、欧米に比べ、少なくとも日本の現状はまだマシと言える。相場が米国の事情をより重視しているのも明らかだが、米ドル売りの加速は見られていない。まだ有事なので、前回のコラムで強調したように、米ドル高のスピード調整があっても、米ドル高の基調を否定するにはほど遠い状況だ。

 実際、先週(3月23日~)は米ドル全体(ドルインデックス)が大きく反落してきたが、それも先々週(3月16日~)の値幅の中に留まり、また、98前半の維持をもって、あくまでスピード調整の範囲に留まったことが示唆されている。

ドルインデックス 日足(出所:TradingView)

 株式市場の反発があって、「ドル・クランチ」の解消が進み、また米無制限QE(量的緩和策)の実施で、米長期金利(米10年物国債利回り)の低下につられた側面もあったものの、米ドル高の基調を否定するにはハードルが高い。テクニカルの視点をもって、この見方を検証しておきたい。

■3月のドルインデックスは値幅935pipsを記録した 3月が過ぎたばかりなので、月足を見てみたい。激動の3月において、ドルインデックスは非常に大きな値幅を記録し、3月の月足は記録的とも言える存在となった。安値94.61、高値103.96で計算すると、何と935pipsもあったのだ。1月の同200pips、2月の同258pipsと比べ、いかに荒れた3月だったか、おわかりいただけるかと思う。

ドルインデックス 月足(出所:TradingView)

 最も重要なのは、3月の安値が2018年9月以来の安値を更新したことだ。その後、大きく切り返し、高値の数字自体も2017年高値を更新、さらに2002年11月以来の高値に一時トライした。

 当然のように、このような足型は、プライスアクションの視点では「強気アウトサイド」と見なし、また、「強気リバーサル」のサインでもある。

ドルインデックス 月足(出所:TradingView)

 さらに、安値の打診自体が大きな「ダマシ」だったため、大きな「フォールス・ブレイクアウト」のサインでもあったから、上値志向の強さがうかがえる。

 確かに高値から大きく反落して、99.09で大引け、月足でも長い「上ひげ」を残し、「スパイクハイ」のサインも点灯したが、これを高値波乱と解釈するのはともかく、頭打ちと解釈するには早いと思う。

 なぜなら、前述の一時の安値打診が作った「ダマシ」のサインの方がより鮮明であり、米ドルの強気変動をすぐには否定できないからだ。

 換言すれば、これから再度高値トライ、また高値更新があっても、テクニカル上の視点ではむしろ当然の成り行きであり、先月(3月)の足型のサインが効いて、その可能性は高いと思われる。

 米ドルの対極として、ユーロ/米ドルの方はまったく反対の構造…
FRBが全力で信用収縮を阻止している から、リスクオフの換金売りは続かない! ブログ

FRBが全力で信用収縮を阻止している から、リスクオフの換金売りは続かない!

■実態景気悪化の中、NYダウは大幅上昇 3月23日(月)のコラムにて、コロナ収束後、日米株がV字反発を演じてくる可能性を指摘したが、マーケットはすでにV字反発を始動した模様だ。

【参考記事】

●ドル高は事実上のQE4実施でも止まらない?コロナ収束後の市場のV字反騰に備えよ!(2020年3月20日、陳満咲杜)

 3月24日(火)、NYダウは1933年以来最大の上昇幅(11%超)を記録し、3月26日(木)まで大幅続伸、3日連続の上昇を果たした。

NYダウ 日足(出所:Bloomberg)

 実際、NYダウは3日間で21.3%の上昇幅を達成、1931年以来もっとも高いパフォーマンスを記録した模様だ。

 大暴落があったから、株の切り返し自体に特筆することはないが、昨日(3月26日)公表された米新規失業保険申請件数が史上最高記録の328万人となった、その後株の大幅続伸であったことを見逃せない。

 換言すれば、コロナショックで実態景気がどんどん悪化していく中、株価の持ち直しが進む傾向があり、そのギャップがしばらく継続される可能性も大きいかと思う。

■上限なしの量的緩和はFRBによる全額信用保証 なぜなら、FRB(米連邦準備制度理事会)は前代未聞の無制限QE(量的緩和策)を実施、3月26日(木)に公表した25日(水)時点の総資産は5兆2542億ドルで、1週間で5860億ドルも増えた。

 増加額は、過去最大となった先週(3月16日~)の3563億ドルを大きく上回り、総資産5兆ドルを突破したと推測される。上限なしの量的緩和は、FRBによる全額信用保証のほかあるまい。

 言い換えれば、投資を含め、あらゆる経済活動の信用担保をFRBが一手に引き受け、信用収縮を全力阻止する行動が確実に行われ、またこれからも制限なしに継続されるから、株の反発も当然である。

 なにしろ、「諸君、君らの生産活動や投資、その価値をFRBが保証する」とFRBが言っているようなものなので、リスクオフの換金売りが続く方がおかしい。

 さらに、米政府は2兆ドルの景気刺激案を決定、状況次第で6兆ドルまでの前代未聞の大規模支援策に踏み切ると報道されている。

 ECB(欧州中央銀行)も上限を撤回する量的緩和を検証、G20首脳のテレビ会議でコロナ対策に5兆ドルの資金投入を合意、各国政府は「なんでもやる」、「いつまでもやる」姿勢を鮮明に打ち出した。くどいと思われるかもしれないが、今さら換金売りはないと思う。

■コロナショックと1929年の世界大恐慌の決定的な違い 同じ材料でも立場によって全く解釈が違ってくる、これも市場の常態である、今回も然り。

 株の大幅反騰やFRBの無制限QEを逆に恐怖のサインと受け止める市場参加者も多いようだ。それだけ、今回のコロナショックが異常でまた未知の恐怖であることを物語る。

 株の急騰自体を逆にベア(下落)相場の特徴と捉える向きの多くは、1929年大恐慌の例を持ち出す。要するに1929年大恐慌以降、何回も(確か4回ほど)1日10%以上の上昇があったが、その後すべて安値が更新され、大恐慌も1933年まで続いた。10%超の上昇という意味では、3月24日(火)にNYダウが記録した戦後最大の上昇幅が明らかに意識されたようだ。

 しかし、このような見方には根本的な間違いがある。それは他ならぬ、1929年大恐慌と本質的な相違をわかっていないことだ。

 1929年大恐慌の起因は、その後たくさんの研究が行われたが、わかりやすく言えば、信用収縮に尽き、またそれこそが見極めるポイントだと思う。

 実際、大恐慌が一気に噴出したのではなく、危機が徐々に醸成されていた。最初、銀行や保険会社の倒産をFRBが傍観したからこそ、連鎖的な信用収縮が発生し、最後は世界的な大恐慌がもたらされ、また第二次世界大戦の原因を作ったといわれる。

 この痛い教訓があったからこそ、その後FRBはスタンスを改め、危機発生の度に量的緩和を打ち出し、信用収縮を見事に阻止してきた。ゆえに、米国株は2008年のリーマンショックの時にように、大きな調整があっても持ち直し、メイントレンドとして上昇相場を維持してきた。中央銀行としてFRBの存在や行動に意味合いが大きい。

 だから、1929年の大恐慌の再来云々の見方は、言葉が悪いが、筆者から見れば馬鹿げた考えだと思う。今回のFRBの政策と行動は、タイミング的には機敏すぎると思われるほど早く、規模はびっくり仰天といえるほど大きいから、1929年大恐慌の状況と雲泥の差がある。

 確かに今回は未知の恐怖なので、コロナウィルスの…
ドル高は事実上のQE4実施でも止まらない? コロナ収束後の市場のV字反騰に備えよ! ブログ

ドル高は事実上のQE4実施でも止まらない? コロナ収束後の市場のV字反騰に備えよ!

■米ドル買い殺到でパニック的な米ドル高に コロナショックが続く中、米ドル全面高というか、米ドル買い殺到でパニック的な米ドル高の進行が見られた。

 先週(3月16日~)、ドルインデックスは2008年のリーマンショック以来、もっとも大きい上昇幅(4%に近い)を達成。一気に103.82を打診し、2017年高値を更新、終値ベースでは2002年年末以来の高値を更新した。

ドルインデックス 週足(出所:TradingView)

 世界的な金融恐慌における米ドル一極集中が浮き彫りとなった。現在進行中である世界株式の歴史的な暴落があったからこそ、米ドルが買われているわけだ。

 米ドルが足りないということを指す、「ドル・クランチ」という言葉がある。米ドル決済に依存する世界の金融体系の中で、市場の波乱が信用収縮をもたらしているので、皆、手持ちの資産を処分、いわゆる換金売りに走る。

 ここで言う換金とは金(ゴールド)でもないし、諸外貨でもなく、米ドルの確保というほかあるまい。したがって、ドル・クランチは自然な成り行きといえるから、米ゼロ金利や米量的緩和再開があっても米ドル高が続くわけだ。

■ドル・クランチの背景には米長期金利の反騰 もっとも、ドル・クランチの背景には米長期金利(10年物国債利回り)の反騰があったことも見逃せない。

米長期金利(米10年物国債利回り) 日足(出所:Bloomberg)

 金融恐慌が一段と進行すると、あらゆる資産の換金売りを招くから、コロナショックで少し前に急騰した米長期国債も売りの対象となり、米長期金利の切り返しにつながっている。

 米長期金利の上昇は、米ドル調達コストの増加を意味するから、流動性危機が深刻化して、一段と米ドル不足に拍車がかかった模様だ。

 しかし、少なくとも3月9日(月)まで、米長期金利の急落は米ドル全体の急落を招いていた。前回(3月13日)のコラムでも指摘したように、同日同金利の歴史的な急落はクライマックスを果たしただけに、連動した米ドル全体の急落も行きすぎであったから、そのあとのV字型反騰は行きすぎた米ドル安に対する反動であった、という側面も忘れてはいけない。

【参考記事】

●株式市場崩壊、恐怖の米ドル買いが進行! 「リスクオフの円高」ロジックは崩れた!?(2020年3月13日、陳満咲杜)

 米長期金利との連動性、また、米ドル/円と米ドル全体の連動性はそもそも高かったので、ドル・クランチはその連動性を一段と高めたわけだ。

 実際、3月20日(金)に米長期金利は一時1.283%にトライしてから一転して反落、0.885%で大引けした。

米長期金利(米10年物国債利回り) 日足(出所:Bloomberg)

 ドルインデックスも連動して一時101.90まで急落、終値こそ高かったものの、陰線で大引けと、やはり連動性が見られた。

ドルインデックス 日足(出所:TradingView)

 3月9日(月)安値からほぼ一貫した急騰が続いてきただけに、米長期金利も米ドル全体も目先一転して「オーバーボート」(買われすぎ)の状況を強め、3月20日(金)の値動きは同「オーバーボート」に対するスピード調整と位置付けられる。

 ドル・クランチの解消が見られないうちは、米ドル全体のスピード調整はあっても、米ドル高のトレンドは修正されないだろう。買われすぎから一転した動きがあっても、米ドル高のトップアウトまでは安易に推測できない。

 一方、米長期金利の急反騰があっても…
株式市場崩壊、恐怖の米ドル買いが進行! 「リスクオフの円高」ロジックは崩れた!? ブログ

株式市場崩壊、恐怖の米ドル買いが進行! 「リスクオフの円高」ロジックは崩れた!?

■米国株は今週2度目のサーキットブレーカー発動! 株式相場は壊れている。

 昨日(3月12日)、米、カナダを含む8カ国の株式市場の取引が一時売買停止となった。米国株に限っていえば、3月9日(月)にサーキットブレーカー(一時売買停止)が発動されたばかりなので、歴史的新記録であることは間違いない。

NYダウ 日足(出所:Bloomberg)

 高値から20%超の下落をトレンド転換の基準とすれば、米株三大指数は揃って基準を超えた下落となり、昨日(3月12日)のNYダウが2352ドル安と過去最大の下落幅だっただけに、今なお「底知らず」の様子を見せている。

 日経225先物は執筆中の現時点で一時1万6500円を割り込み、先月(3月)終値から計算しても、すでに4600円の値幅を飛ばし、2020年年初来高値からすでに30%超の下落を記録しているから、リーマンショックの再来と言える。

日経225先物 日足(出所:Bloomberg) 

■「リスクオフの円高」のロジックが否定された? 世界の株式市場に破壊的な影響を与えた今回のコロナショックは、なお進行中なので、全貌を把握しきれず、また、総括できるのはまだまだ先だと思うから、3月9日(月)の「オイルショック」を含め、さまざまな出来事についての記述などをいったん省略し、為替マーケットの値動きのみにフォーカスしたい。

 前回指摘したように、2017年以降、米ドル/円は週足において105円の節目、月足において106円の節目を終値で割らなかった。

【参考記事】

●金融市場における恐怖のピークは過ぎた? ドル/円は下がっても週足終値105円前後まで(2020年3月6日、陳満咲杜)

 唯一の例外は、2018年3月第3週の終値が、わずかに105円の節目を下回ったことだったが、翌週から切り返しを果たした。こういった経緯に照らして考えて、米ドル/円は今回も波乱に耐えられるのではないかと思っていた。

 しかし、サウジアラビアの原油増産や原油公式販売価格の引き下げの決定で月曜(3月9日)から相場は大揺れ、米ドル/円も「ギャップ」をつけて下落し続け、9日(月)に一時101.19円の安値を付けた。

米ドル/円 日足  (リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:米ドル/円 日足)

 株安・円高といった従来のパターンなので、市場参加者の大半が100円の心理的節目割れは必至、円高の大幅進行を確信していたと思われる。

 実際、その後、米国株をはじめ、日経平均など世界の主要株式市場は、ほぼ反発らしい反発もなく一本調子の下げが続き、昨日(3月12日)、歴史的な大暴落を演じたから、リスクオフの円高のロジックなら、現時点ですでに97円とか95円どころか、90円大台前後の下値がトライされてもおかしくなかっただろう。

 しかし、執筆中の現時点で、米ドル/円は105円の節目前後に留まり、円高継続の傾向を露呈していない。

 「リスクオフの円安」とまでは言い切れなくても、「リスクオフの円高」にもほど遠いというか、株の惨憺たる状況からすると、「リスクオフの円高」のロジックが否定された、と言っても過言ではなかろう。

 従来のロジックが通用しなくなるほど、米ドル/円の値動きは重要なメッセージを発信していると思われるから、見逃せない。

 では、なぜ米ドル/円は大半の予想と違って…