今井雅人の「どうする? どうなる? 日本経済、世界経済」

4月日銀追加緩和説は、なぜ盛り上がる? しかし、その可能性は低いとみる理由は? ブログ

4月日銀追加緩和説は、なぜ盛り上がる? しかし、その可能性は低いとみる理由は?

■山本発言や浜田発言で右往左往する相場 前回のコラムでは、当面レンジ相場は続くと予想しました。

【参考記事】

●かなり弱い数字が出た雇用統計だったのにさほど悪くないと解釈されている理由とは?(4月9日、今井雅人)

 その後の相場展開をみると、やはり、米ドル相場も、円相場も上がったり、下がったりという展開が続いています。

米ドル/円 日足(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:米ドル/円 日足)

 リフレ派(※)の代表格である自民党の山本幸三議員が、「日銀は、追加緩和をするなら4月30日が良いタイミング」と発言したことで、市場に追加緩和への期待感が高まり、一時的に円安に振れる状況もありました。

(※編集部注:「リフレ派」とは、緩やかなインフレを継続させることで、経済の安定をはかる金融政策などを推進する人々のこと)

 しかし、逆に内閣府官房参与で安倍総理の経済政策ブレーンである浜田エール大学名誉教授が、「購買力平価で見ると、米ドル/円は105円程度が妥当であり、現在は円安に行き過ぎている」との見解を示しました。

 この発言を受けて、円高が進行する局面もありました。

 なかなか方向が定まらないので、こうした発言に右往左往してしまっているという状況になっているのだと思います。

米ドル/円 4時間足(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:米ドル/円 4時間足)

■4月日銀追加緩和説は、なぜ盛り上がっているのか? さて、前回のコラムでもお話ししましたが、私は、4月30日(木)に、日銀が追加緩和をする可能性は非常に低いと考えています。

【参考記事】

●かなり弱い数字が出た雇用統計だったのにさほど悪くないと解釈されている理由とは?(4月9日、今井雅人)

 そもそも、4月追加緩和説が盛り上がっている理由は、2つあります。まず、1つ目を見ていきましょう。

 前回の追加緩和は、2014年の10月31日でした。この日は、半年に一度の「経済物価情勢の展望」(展望レポート)を日銀が発表する目的での金融政策決定会合でしたが、そこで物価見通しを下方修正し、それをもって追加緩和を実施するのだというストーリーを作り出しました。

【参考記事】

●金融市場に衝撃が走った3つの要因とは?ドル/円は年内に120円まで上昇の可能性(204年11月6日、今井雅人)

 次の「展望レポート」が出るのが、4月30日(木)。

 現在の消費者物価指数の推移を見ると、直近は、消費税の引き上げ分の影響を除くとゼロとなっていて、黒田日銀総裁は、短期的にはマイナスになる可能性もあることを認めています。

 そうなると、4月30日(木)の展望レポートは、また下方修正される可能性が出てきているわけです。それと同時に、また追加緩和をするという見方があるということです。

■某大手国内証券会社による予想で海外勢の思惑高まる… 2つ目は、前回のコラムもご紹介した、某大手国内証券会社の予想です。

【参考記事】

●かなり弱い数字が出た雇用統計だったのにさほど悪くないと解釈されている理由とは?(4月9日、今井雅人)

 この会社は、2014年10月の追加緩和を予想した数少ない会社であり、その会社が、「4月30日(木)に追加緩和をする可能性が高い」という予想をしたことで、海外勢を中心とした思惑が高まっています。

 しかし、最近の黒田日銀総裁の発言を聞いていると、「短期的には、物価は上昇しないかもしれないが、長期的には上昇基調になっていて、特に問題は感じていない」という発言をしています。

 また、日銀の月次金融レポートを見ても、同様の記述が見受けられます。こういう言い方をしていて、また追加緩和をするということに、私は違和感を覚えます。

 また、4月15日(水)の日経新聞には…
かなり弱い数字が出た雇用統計だったのに さほど悪くないと解釈されている理由とは? ブログ

かなり弱い数字が出た雇用統計だったのに さほど悪くないと解釈されている理由とは?

■4月3日(金)の弱い雇用統計で米ドルは急落したが… 今週(4月6日~)は、先週末、4月3日(金)に公表された3月米雇用統計を受けて、米ドルが急落したものの、一転買い戻しの動きとなりました。

 NFP(非農業部門雇用者数)が、12.6万人と市場予想の24.5万人を大幅に下回る弱い数字となったほか、過去2カ月分の数字も大幅に下方修正されており、米ドル/円は米長期金利の急低下とともに下落。

(詳しくはこちら → 経済指標/金利:米国主要経済指標の推移)

米10年債利回り 1時間足(出所:CQG)

 指標発表直前には、思惑的な買いから、一時119.99円まで値を上げる場面も見られたものの、一気に118.71円まで売り込まれることになりました。

米ドル/円 4時間足(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:米ドル/円 4時間足)

 ユーロ/米ドルも、一時、1.1027ドルまで買い上げられています。

ユーロ/米ドル 4時間足(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:ユーロ/米ドル 4時間足)

■米雇用統計、「それほど悪い数字ではなかった」との観測も 最近、非常に重要視されている平均時給は、前月比0.3%と市場予想の0.2%を上回ったものの、それを上回る予想外の悪い数字に、ネガティブサプライズの動きとなりました。

 グッドフライデーの休日と重なったことで、欧米市場の参加者が限定されるなか、値動きもそれだけ大きくなったと言えます。

【参考記事】

●主要市場休場の中で発表される雇用統計。過去3回の同一ケースで為替はどう動いた?

 ところが、今週に入ってからは、一転して米ドルが買い戻されています。

 この要因の1つは、あまりにも弱かった米雇用統計の数字に対して、「港湾労働者のストライキや悪天候の影響が、20万人程度NFPを減少させた可能性」が指摘されたことにあります。

 また、平均時給の上昇など、FRB(米連邦準備制度理事会)が利上げ開始時期を決定するにあたり重要視している、賃金上昇が鮮明となっていることから、一部では、「それほど悪い数字ではなかった」との観測も出てきたことは確か。

 思ったほど、米ドルが下落しなかったこともあり、さっそく、ファンド勢からの買い戻しの動きが観測されました。

 また、4月7日(火)には…
驚きのGPIF資産残高構成。もう、玉切れで 株高・円安の流れが変わる可能性も… ブログ

驚きのGPIF資産残高構成。もう、玉切れで 株高・円安の流れが変わる可能性も…

■3月のFOMC以降、材料不足で難しい展開に 最近、相場に方向性がなくなって、トレードをする人にとっては、難しい日々が続いているのではないかと思います。

 それは、2015年3月17日(火)~18日(水)のFOMC(米連邦公開市場委員会)以降、相場の方向性を決めるような材料が見当たらなくなっていることが原因。

【参考記事】

●「辛抱強く(patient)」削除は予想どおり!ならばなぜFOMC後にドルは売られたか?(3月19日、今井雅人)

●ユーロ/ドルの戻りは1.11ドル付近がメド。米ドル/円の調整余地はあまり大きくない(3月26日、今井雅人)

米ドル/円 日足(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:米ドル/円 日足)

 そこで、今回は、今後、注目される材料について少し整理をしてみたいと思います。

■米6月利上げは、実施すべき? まだ早い? ポイントは? まず、米国の金融政策です。

 3月のFOMCにおいて、2015年末のFFレート(※)予想の中心値が、下方修正されました。これにより、利上げの時期が先送りになるか、利上げのペースがゆっくりとなるかのどちらかになるということになります。

(※編集部注:「FFレート」とは、フェデラルファンド金利のことで、FF金利とも呼ばれる。米国の政策金利)

 しかし、それも今後の経済指標によって変化してくる可能性は残ります。そこで、一番注目されるのは、「最初の利上げがいつになるのか」ということです。

 4月のFOMCでの利上げはまずないと考えると、最短で次回6月の利上げということになります。そこで利上げを実施すべきという意見と、まだ早いという意見が、現在のFOMCメンバーの中でも分かれています。ここが、大きなポイントになってくるでしょう。

 それを予想するに当たっては、米雇用統計、消費者物価指数(またはPCEコアデフレータ)の2つの経済指標が最重要になってくると思われますので、今後、どういう結果になっていくか、よく見ておきたいと思います。

■日銀、2014年10月の追加緩和以降、物価上がらず… 2点目は、日銀の金融政策です。

 日銀は、2015年度をメドに消費者物価を2%上昇させるという目標を掲げています。

【参考記事】

●大胆金融緩和へ。 4月日銀会合に注目!欧州、北朝鮮懸念で市場は円安継続か(今井雅人、2013年3月28日)

●ユーロ/ドルは1.0000ドルへ向けて下落!ドル/円膠着の背景にある政治的変化とは?(3月5日、今井雅人)

 ところが、直近の国内消費者物価指数は前年同月比2%の伸びとなっているものの、消費税引き上げの影響を除くと、伸び率はゼロです。目標を達成することが絶望的となっている状況の中で、追加緩和を実施すべきかどうかと頭を悩ませています。

 日銀は、2014年10月末に追加緩和を決定しました。しかし、それ以降、物価は思ったようには上がっていません。

【参考記事】

●金融市場に衝撃が走った3つの要因とは?ドル/円は年内に120円まで上昇の可能性(2014年11月6日、今井雅人)

■黒田総裁も、消費者物価2%上昇は「困難だ」と考えている 現在、黒田日銀総裁は、「今後物価は上がってくるはずなので、追加緩和をする必要性は今のところない」という姿勢をとってはいるものの、本音では、「達成は困難だ」と考えているでしょう。

 しかし、前回の緩和から5カ月しか経過していない状況で、さらなる追加緩和をすることには、慎重にならざるを得ません。

 また、これ以上の円安は、日本経済にとってマイナスであると経済界が主張し始めている中で、政府関係者からも追加緩和に否定的な意見も出てきています。

世界の通貨VS円 月足(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:世界の通貨VS円 月足)

 日銀内でも、意見は割れていますが、今後、日銀がどういう決断をするのか、非常に注目されています。一部には4月30日(木)に追加緩和、という観測も出ているようですが、私は懐疑的です。

 最後に、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)など…