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SBI Ripple Asia株式会社が、企業を対象としたブロックチェーン決済のインフラサービスという新たな領域への本格参入に向けて動き出している。
2026年3月には資金決済法に基づく「第三者型前払式支払手段」の発行者としての登録を完了し、現在、商用化に向けたプロダクト開発やユースケースの検討を進めている。
ブロックチェーン決済というと、手数料の安さや送金スピードといった「効率化」の文脈で語られがちだ。しかし同社が描くのは、企業が自社ブランドの決済を通じて独自の「経済圏」を構築し、顧客との継続的な接点を生み出す“攻めのインフラ”だというから非常に興味深い。
既存のビジネスにどのような形でブロックチェーンを組み込むのか。決済へのブロックチェーン活用がもたらす価値や、AIエージェント時代を見据えた決済の未来像について、SBI Ripple Asiaの下山貴史氏に迫った。
【プロフィール】
下山 貴史(しもやま・たかふみ)
SBI Ripple Asia株式会社
General Manager / Head of Business Development
野村證券にてキャリアをスタートし、日本とニューヨークで勤務。投資営業、アライアンス業務や米国金融機関のビジネスモデル研究に従事。その後、SBI Ripple Asiaにて、ブロックチェーンを活用した事業開発に取り組む。足元では、XRP Ledgerを活用した企業向け前払式トークン決済インフラの事業開発を推進している。
国際送金から決済インフラまで──SBI Ripple Asiaの歩みと現在地
NFTMedia編集部(以下、編集部):まず、SBI Ripple Asiaの事業内容について教えてください。
下山:当社はSBIホールディングスと米国Ripple社のジョイントベンチャーとして2016年に設立され、日本及びアジアにおける「価値のインターネット」の実現をミッションに掲げてきました。
これまで主に、米国Ripple社が提供するRippleNetをはじめとした国際送金ソリューションについて、日本及びアジアの金融機関や送金事業者向けの販売・事業展開を担ってきました。
また、XRPをブリッジ通貨として活用するODL(On-Demand Liquidity)についても、Ripple社が提供するソリューションとして、日本及びアジアにおける導入にも取り組んでいます。
編集部:主に米国Ripple社の国際送金ソリューションについて、日本やアジアでの事業展開を担っているのですね。
下山:そうです。その上で、現在、当社が新たに取り組んでいる事業として、「決済」の仕組みをブロックチェーン上で展開することを検討しています。
編集部:「送金」と「決済」は、異なるものなのでしょうか。
下山:送金は、単に「口座間で資金を移動させるプロセス」そのものを指しています。一方で、決済は、売買や取引に伴う対価を精算し、債権・債務関係を解消することを指しています。
当社では、この決済に関係する仕組みの一部にブロックチェーンを活用することで、どのような新しい価値を提供できるかを検討しています。
編集部:既存金融の世界でも決済インフラは既に普及していると思いますが、SBI Ripple Asiaではどのような顧客をターゲットとしているのでしょうか。
下山:想定しているターゲットは、独自の顧客基盤や経済圏を持つ企業です。例えば、旅行会社や鉄道会社、ゲーム会社などが考えられます。
こうした企業に対して、自社の経済圏の中で消費者に新しい体験やインセンティブを提供できる決済手段を構築するためのインフラを提供していきたいと考えています。
編集部:イメージとしては、大手企業がスーパーアプリ等で構築しているようなエコシステムに近いのでしょうか。
下山:はい。そのようなエコシステムを、ブロックチェーン決済インフラを起点として、より柔軟に構築できるようなプロダクトの提供を目指しています。
金融サービスの決済レイヤーにブロックチェーンを活用する
編集部:先ほどのお話のなかで、「決済サービスをブロックチェーン上で展開する」とありました。これについて、どのような形でブロックチェーン技術を活用するのか教えてください。
下山:金融サービスは、例えば決済、認証、与信・精算、口座管理など、さまざまな機能の組み合わせからなるレイヤー構造になっています。
私たちは、こうした金融サービスを構成するレイヤーのうち、どの部分にブロックチェーンを活用すると、事業者や利用者に対する提供価値を高めることができるのか、という視点で考えています。
編集部:特定のレイヤーだけにブロックチェーンを活用することもできるのですね。
下山:そうです。金融サービスは既存の法規制や金融システムの上に構築されているため、そのすべてをブロックチェーンに置き換えるという発想は、必ずしも現実的ではないと考えています。
重要なのは、ブロックチェーンを使うこと自体を目的にするのではなく、金融サービスを構成するどの部分に活用すれば新しい価値を生み出せるのか、という視点です。
今回、私たちが注目したのが「決済」の部分です。
決済を「コスト」から「成長戦略」へ
編集部:決済にブロックチェーンを活用すると、どのようなメリットがあるのでしょうか。リアルタイム送金や手数料が安くなるといった点でしょうか。
下山:ブロックチェーン活用のメリットについては、一般的にコスト削減や即時性の向上といった効率性の文脈で語られることが多いと思います。
一方で、私たちは決済をコストセンターではなく、企業の成長戦略として捉えています。
決済を企業の成長戦略として活用するという考え方自体は、決して新しいものではありません。例えば、提携クレジットカードや独自ポイントなど、企業はこれまでも決済やその周辺機能を顧客との接点として活用してきました。
しかし、私たちは、決済手段をトークン化することで、その戦略の実現方法や自由度をさらに広げることができると考えています。
例えば、自社の経済圏を持つ企業であれば、決済と連動してNFTを含む多様なインセンティブをプログラムによって付与したり、決済データを活用して顧客との接点を高度化したりすることが可能になります。
つまり、トークン化された決済手段は、決済コストや資金効率の改善だけにとどまらず、顧客接点、マーケティング、インセンティブ設計を一体化した、企業の成長戦略を支える優れたインフラになり得ると考えています。
編集部:成長戦略ですか。具体的にはどのようなイメージでしょうか。
下山:例えば、特定の経済圏を有する観光事業者等が、その経済圏において自社ブランドの決済手段を導入したとします。
決済と他のデジタルサービスを組み合わせることで、顧客の購買行動に応じたインセンティブの提供や、より効果的なマーケティング施策につなげられる可能性があります。
それによって、企業は経済圏の中で顧客との継続的な関係を構築し、適切なインセンティブを設計することで、経済圏内の店舗やサービスへの送客につなげることができます。
編集部:いわゆるトークングラフマーケティングを実現できるのですね。
下山:そうですね。さらに、トークン化された資産にはプログラマビリティを持たせることができます。
インセンティブ設計についても、Web2型では「購入金額の5%をポイント還元」といった比較的画一的な仕組みが一般的です。
一方で、ブロックチェーン上では、決済手段とさまざまなトークン化資産、例えば特典を付与したNFTクーポンなどを組み合わせ、一定の条件を満たした場合に特典を付与するといった、より柔軟な仕組みを構築できる可能性があります。
編集部:プログラマブルマネーによって、インセンティブの自由度が高まるということですね。このような事業アイデアは、どのようなきっかけで生まれたのでしょうか。
下山:米国の動向も参考にしました。米国では、大手事業会社が独自のステーブルコイン等のデジタル決済手段を検討する動きが報じられています。
そこから、日本の小売業者や旅行業者等の事業会社が同様に自社の経済圏に適したデジタル決済手段を持つとしたら、日本の規制環境や経済合理性を踏まえて、どのようなプロダクトを構築すべきなのか、という発想につながりました。
プログラマブルマネーと「第三者型前払式支払手段」
編集部:エコシステム上で発行されるプログラマブルマネーは、法的にどのような位置づけなのでしょうか。
下山:当社が現在検討している仕組みでは、法的には「第三者型前払式支払手段」として提供することを想定しています。SBI Ripple Asiaでは、資金決済法に基づく第三者型前払式支払手段の発行者として、2026年3月に必要な登録を完了しています。
編集部:いわゆる、地域通貨の企業版のようなイメージですね。
下山:イメージとしては近い部分があります。地域通貨は自治体が主体となっているケースも多いですが、当社では企業が自社の顧客基盤や経済圏を成長させるための手段として活用できるような仕組みを目指しています。
また、当社はブロックチェーン決済インフラと他のトークン化資産との間のプログラマビリティを重要視しており、ブロックチェーン基盤にはパブリックブロックチェーンであるXRP Ledgerを活用しています。
AIエージェント時代の「トラストレイヤー」
編集部:このほかに、ブロックチェーン決済インフラには、どのような可能性が秘められていますか。
下山:個人的に最も注目しているのは、AIエージェントとの融合です。
将来的には、AIが人に代わって商品の選択や取引の意思決定を行う場面が増えていくと考えています。
AIが自動的に取引を行う際には、API等を通じて安全かつプログラマブルに利用できる決済手段が重要になります。この領域ではステーブルコインが注目されていますが、私は「AIエージェントが利用する決済手段はステーブルコインだけではない」と考えています。
編集部:といいますと。
下山:現実の消費者は、現金だけでなく、クレジットカードや前払式支払手段など、さまざまな決済手段を地域や経済圏、利用シーンに応じて使い分けています。
AIエージェントについても同様に、その時々の取引条件や利用可能なインセンティブなどを踏まえて、最適な決済手段を選択するようになる可能性があります。
例えばAIが「この商品をどの店舗で購入するのが合理的か」を判断するだけでなく、「どの決済方法を利用すれば最も合理的か」というところまで考慮して、自律的に取引を行う。
そのため、AI時代の決済インフラには、安全性や規制への準拠に加えて、多様な決済手段をAIが利用シーンに応じて柔軟に選択できることも重要になると考えています。
そのような世界では、ステーブルコインだけでなく、企業や地域の経済圏に最適化されたさまざまな決済手段をデジタル化・トークン化し、AIから利用可能にしていくことにも大きな可能性があると考えています。
ブロックチェーン決済インフラの商用化に向けて
編集部:ブロックチェーン決済インフラについて、現在の進捗状況を教えてください。
下山:2026年4月までに、トークン発行等の基本機能を検証するためのPoCシステムの開発を完了しました。また、第三者型前払式支払手段の発行に必要な登録も完了しています。
現在は、実際の商用利用を想定した機能追加や運用体制の整備、具体的なユースケースの検討を進めています。今後、商用化に向けた準備を段階的に進めていく予定です。
編集部:ブロックチェーン決済インフラでは、具体的にどのような業種の企業をターゲットにしているのでしょうか。
下山:独自の顧客基盤や経済圏を持つ企業との親和性が高いと考えています。例えば、旅行会社や鉄道会社、ゲーム会社などです。
ただ、重要なのは業種そのものではなく、「決済を単なるコストではなく、顧客との関係を深めるための成長戦略として活用できるか」という点だと思っています。
今後、具体的なユースケースを一つずつ作りながら、ブロックチェーンを活用した決済インフラが企業の事業成長にどのように貢献できるのかを検証していきたいと考えています。
編集部:実装事例が一つ生まれると、他の企業もイメージしやすくなりそうですね。今日のお話で、ブロックチェーン決済インフラの概要をかなりイメージできるようになりました。本日は貴重なお時間をいただき、ありがとうございました。
インタビューを終えて
「決済はコストではなく、成長戦略である」──この考え方が、今回のインタビューを貫くキーメッセージだった。
決済を顧客接点として活用する発想そのものは新しいものではない。提携クレジットカードや独自ポイントなど、企業はこれまでも決済を自社の経済圏や顧客ロイヤルティの形成に活用してきた。
SBI Ripple Asiaが描くのは、その決済手段をトークン化することで、決済、デジタル資産、マーケティング、インセンティブ設計をより柔軟に組み合わせるという構想だ。旅行、鉄道、ゲームなど、独自の顧客接点を持つ企業がこうした仕組みを活用できるようになれば、決済そのものの役割が変わっていく可能性がある。
さらにその先には、AIエージェントが取引条件やインセンティブを踏まえ、複数の選択肢から最適な決済手段を自律的に選択する世界も見据えている。
現在は商用化に向けた開発とユースケースの検討を進めている段階だが、ブロックチェーン決済が企業の成長戦略としてどのような形で実装されていくのか、今後の展開を注視したい。
- SBI Ripple Asia株式会社 公式ページ:https://www.sbigroup.co.jp/company/group/sbirippleasia.html
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