なぜ今「別荘の共同所有」なのか。米ユニコーン企業のモデルを日本法で再設計したGCT JAPANの挑戦

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高額資産の共同所有は、これまで日本では成立しにくいビジネスとされてきた。合意形成の困難さ、退出時の流動性の低さ、そして事業者への過度な依存──課題は山積みだった。

しかし米国では、高級セカンドホームの共同所有モデルを展開するPacasoが、2020年10月のローンチ後、
わずか半年後の2021年3月に評価額10億ドルのユニコーンに到達した。

その後、SoftBank Vision Fund 2が主導する資金調達も実施し、現在は世界40以上の場所で利用できるサービスを展開している。このモデルを研究し、日本の法制度に適合する形で再設計を進めているのが、GCT JAPAN株式会社(以下、GCT JAPAN)だ。

ブロックチェーンとAIを組み合わせた特許技術(特許第7733955号)を活用し、共同所有に伴う権利管理や合意形成の課題解決を目指す同社。その代表取締役・岡川紘士氏に、2026年夏頃の正式ローンチを見据えた構想と現在地を聞いた。聞き手は、NFT Media代表の小林憲人だ。

【プロフィール】
岡川紘士(おかがわひろし)
GCT JAPAN株式会社 代表取締役
2019年に同社を設立し、Web3領域でのコンサルティングや大手企業向け事業開発を推進。ブロックチェーンとAIを活用した共同所有プラットフォームの特許(特許第7733955号)を取得し、高額資産の共同所有を実現する「Ownership 2.0」の構築を進めている。
https://gct-japan.jp

小林憲人(こばやしけんと)
株式会社NFTMedia代表取締役
国内最大級のNFT専門メディア「NFT Media」を運営。メディア事業に加え、Web3に特化したシステム開発やM&Aの支援などを展開し、Web3の社会実装を推進している。
https://nft-media.net/

「所有の新常識」を作る──GCT JAPANが目指す世界

小林憲人(以下、小林):本日はお時間いただきありがとうございます。早速ですが、GCT JAPANが現在取り組まれている高額資産の共同所有プラットフォーム「WELUX」について、まずは全体像からお聞かせいただけますか。

岡川紘士(以下、岡川):はい。GCT JAPANは2019年12月の設立以来、Web3領域でのコンサルティングや、ブロックチェーン・メタバースを活用したサービス開発を行ってきました。

今回はそこから一歩進めて、共同所有のプラットフォームをスタートアップとしてスピンオフさせて立ち上げようとしています。

小林:それは一体どのようなサービスなのか、わかりやすく教えていただけますか。

岡川:一言で言うと、「ホールケーキをショートケーキにして売る」仕組みです。

例えば2億円の別荘というホールケーキがあったとして、それを丸ごと買える人は限られます。でも1/10に切って2,000万円のショートケーキにすれば、価格が下がって購入できる人が増える。そうすれば今までサービスが欲しいが手に入れにくかった人に対してもぐっとパイが広がります。

さらに加えて、その1切れの持分が資産として実勢価格で二次流通する世界を作る、というのが我々のビジョンです。

小林:わかりやすい例えですね。二次流通で実勢価格が動くというのは、従来の共同所有モデルとはかなり違いますよね。

岡川:まさにそこが核心です。

従来のタイムシェア型や会員権型のサービスでは、購入後も維持費がかかる一方、二次流通時に十分な価格がつきにくいケースが少なくありません。利用権に近い意味合いの商品では、中央集権的に事業者がルールを決めて囲い込む構造になりがちで、現物資産の持分として市場価格で売買される仕組みとは性質が大きく異なるんです。

小林:情報をあまり持たない消費者にとっては、かなり厳しい構造ですよね。

岡川:はい。一方で我々が参考にしたのは、米国でローンチ後約5ヶ月でユニコーン評価に到達したPacasoという会社です。Pacasoは高級セカンドホームの共同所有モデルを展開し、SoftBank Vision Fund 2が主導する資金調達も実施しています。

現在は世界40以上の場所でサービスを展開しています。このモデルを徹底的に研究して、日本の法制度に適合する形で再設計を進めているのが、今回の我々のプラットフォーム「WELUX」です。

小林:米国で実証されたモデルの日本版ということですね。具体的にPacasoとの違いはどこにあるんでしょうか。

岡川:最大の違いは法制度への対応です。

日本には金融商品取引法(金商法)や不動産特定共同事業法(不特法)という規制があって、設計を間違えると金融商品として扱われてしまう。我々は、各共同所有者が法務局で共有登記を行い、現物資産の持分を直接保有する形を基本設計としています。

金融商品としての販売ではなく、「現物不動産の共有持分」として扱うことを目指しており、法務面については専門家の確認を受けながら設計を進めています。

小林:なるほど、共有登記によって各自が持分を直接保有する設計を採用されているわけですね。

不動産の共有持分として構成することを前提に、法規制との整合性を意識した設計になっている点は、不動産実務に詳しい方ほど注目されるポイントだと思います。

なぜ「中古高級別荘」から始めるのか

小林:最初のターゲットとして中古高級別荘を選ばれた理由を教えてください。

岡川:理由は3つあります。まず、中古物件は既に市場に流通しているため、新築に比べて取得から展開までのスピードを出しやすい。新築だと建築費の高騰もあって、完成まで1年〜1年半かかりますが、中古であれば、複数のエリアで同時並行的に事業を展開しやすいという特徴があります。

2つ目は、中古車と同じ原理で、実勢価格で流通しやすいことです。新築は建築費やブランド料が上乗せされますが、中古は「実際にどのくらいの状態か」という現物の価値で値段が決まる。Pacasoも既存の高級セカンドホームを対象に、共同所有・管理・再販売を組み合わせたモデルを展開しています。

小林:なるほど。中古だからこそ実勢価格ベースで流通しやすいと。

岡川:おっしゃる通りです。そして3つ目は、ターゲット層にフィットすることです。例えば軽井沢のような人気別荘地では、高額な物件も多い一方、実際に使う日数は限られがちです。お金はあるけど100%所有はもったいない、というニューリッチ層やIT・クリプト長者にとって、2,000万円の持分で同じ別荘が使えるなら合理的ですよね。

小林:確かに、使用頻度に対してフルプライスで持つのは合理的ではない。そこに先ほどのショートケーキの発想が刺さるわけですね。

岡川:はい。加えて法人需要も大きいと見ています。

賃上げ問題が取り沙汰される中で、「第三の福利厚生」として別荘の持分を企業が保有し、社員に使ってもらう。これはリクルーティングにも使えます。

さらに会計・税務上の扱いを確認する必要はありますが、企業が持分を保有する場合、現物不動産の共有持分として市場価格で売買できれば、従来の会員権型サービスとは異なる資産性を持たせられる可能性があります。

4つの連動型トークン──共同所有を成立させる特許技術

小林:GCT JAPANが取得された特許(特許第7733955号)の中身について、詳しくお聞きしたいです。

※参考 WeLux「管理システム、管理方法及び管理プログラム」

岡川:基本的な仕組みは、4つのトークンを連動させるという考え方です。

引用:GCT JAPAN株式会社 公式サイト

まず、別荘やクルーザーなどの資産そのものを表す「資産トークン」。これは、不動産などの資産情報や権利関係をブロックチェーン上で管理するための情報です。

次に、各共同所有者の持分を表す「所有権トークン」。5人で所有していれば5つのトークンが存在して、それぞれが誰の持分かをブロックチェーン上で管理します。

小林:要するに、資産トークンが「物件そのもの」の情報で、所有権トークンが「誰がどれだけ持っているか」の情報。この2つで、登記簿の物件情報と権利部にあたる情報をカバーしているイメージですね。

岡川:まさにそうです。そして3つ目が「法人格トークン」です。共同所有では、電気・保険・管理契約などの実務上、契約主体を整理する必要があります。そのための法人情報を、ブロックチェーン上で管理する設計です。これは既存のDAO法にはない概念で、我々が独自に設計したものです。

4つ目が「出資/ガバナンストークン」。管理組合に相当するもので、修繕をどうするか、利用スケジュールをどう決めるか、といった共同所有者間の意思決定を担います。

小林:整理すると、物件情報・持分情報・法人管理・意思決定という4つの機能が、バラバラではなく1つのシステムで連動しているということですね。

岡川:その通りです。

小林:4つのトークンが連動するというのが特許の核心ですね。例えば、1名共同所有者が入れ替わる、となる際にはどうなるんですか。

岡川:1名が退出して新しい共同所有者が入る場合、ブロックチェーン上では関連する権利情報や構成員情報を連動して更新できる設計です。持分情報や関連データを一体的に更新し、契約書や登記などの実務手続きとも接続させることを想定しています。従来は個別に管理されていた情報を一体的に扱える点が大きな特徴です。

小林:従来であれば権利関係の変更のたびに、個別の書類を1つずつ手作業で更新する必要がありましたよね。それがブロックチェーン上で連動して管理されるのは、実務の負荷を大きく下げる仕組みですね。

岡川:そうなんです。そしてもう一つ重要なのが、この4つの連動型トークンの中に合意形成システムを組み込んでいる点です。共同所有で一番難しいのは、実は全員の合意を取ることなんですよ。1人が「売らない」と言ったら全体が動かなくなる。修繕1つ決めるにも全員の合意が必要。

小林:マンションの建替え問題と同じ構造ですよね。何割以上の同意がないと動けないという。

岡川:おっしゃる通りです。そこで我々は、法的知見を学習したAIがファシリテーターとして機能する仕組みを準備しています。例えば、ある共同所有者が修繕について相談すると、AIが過去の判例や事例をもとに選択肢を提示して、「A案とB案がありますが、皆さんに投票を通知しましょうか」と提案する。合意が取れれば、その内容を規約改定や記録管理に反映し、意思決定の履歴を残せる設計です。

小林:従来であれば、それをコールセンターの担当者が1人ずつ電話して「他の7人に聞いてみますね」とやっていたわけですよね。

岡川:まさにそうです。大手企業が共同所有の仕組みをやろうとしても、その運用コストがネックになる。AIで自動化すれば、そのボトルネックが解消されます。この「権利情報の連動管理」と「合意形成を支援する仕組み」を組み合わせた点は、我々の大きな強みだと考えています。

全国13万の不動産会社が仲介ネットワークになる仕組み

小林:ビジネスモデルについてもお聞きしたいのですが、この持分の売買はどういう仕組みで流通するんでしょうか。

岡川:ここがポイントで、先ほどお話しした通り、我々は持分を現物不動産の共有持分として設計しています。そのため、全国の宅建免許を持つ不動産会社が、将来的な仲介ネットワークの候補になり得ると考えています。日本には約13万の宅建業者が存在しており、この既存の不動産流通網を活用できる可能性があります。

小林:なるほど。仮にこれが金融商品として設計されていたら、証券会社しか取り扱えなくなるわけですね。あえて現物不動産の枠組みで設計したことで、既存の不動産流通網に乗せられると。

岡川:その通りです。仲介手数料については、宅建業法上の報酬規制の範囲内で、不動産会社との分配設計を検討しています。持分であっても売買が発生すれば手数料が取れるので、不動産会社にとっても新しい商品ラインが増えることになります。

小林:二次流通の際に、価格の適正性はどう担保するんですか。

岡川:今検討しているのは、売主が希望価格を提示した上で、不動産鑑定士が実際に現物を見て適正価格を算出するという二段構えです。さらに、管理費の中に「2年に一回の時価査定」を組み込んで、資産価値の定期評価を標準化することも考えています。中古資産なので経年で価値が減耗するのは当然ですが、その変化を透明に可視化しておくことが、二次流通の信頼性につながると考えています。

小林:定期的な査定や鑑定を入れることで、売主・買主の双方が納得しやすい価格形成を目指すということですね。市場価格に近い形で持分を流通させる設計思想が、ここにも一貫していると感じました。

7月ローンチへ──PoCの現在地と今後の展望

小林:現在のスケジュール感について教えてください。

岡川:取材時点では、2026年6月初旬にPoC版のプラットフォーム完成を予定しています。その後、九十九里にある民泊運用中の別荘を使って実証実験を行います。スマートロックを設置して、共同所有者がアプリ上で鍵の開閉や入退室の管理ができる環境を整え、1〜2ヶ月の検証を経て、7月か8月に正式ローンチしたいと考えています。

小林:もうすぐですね。別荘以外の資産、例えばクルーザーや希少楽器といった分野への展開はどうお考えですか。

岡川:並行して検討しています。クルーザーは国土交通省の船舶登録、楽器のような動産は動産登記やファンド会社によるGP管理など、資産の種類によって法的な枠組みが異なります。ただ、我々のトークンシステムの設計自体はどの資産にも適用可能なので、まずは別荘で仕組みを確立して、そこから横展開していく流れです。

小林:なるほど。まず別荘で仕組みの信頼性を証明して、他の高額資産に広げていくと。将来的にはどのくらいの規模感を見据えていらっしゃいますか。

岡川:米国のPacasoは、2020年10月のローンチ後、2021年3月に評価額10億ドルのユニコーンに到達しました。日本ではまずその1/10、150億円くらいの時価総額を目指したいと思っています。

対象市場の規模については、別荘・高級住宅・高額資産のどこまでを含めるかによって見方が変わりますが、大きな潜在市場があると見ています。将来的には自社で中古物件を仕入れてリノベーションし、ショートケーキに分割して再販するモデルも構想しています。

小林:仕入れ再販まで入ると、売上のスケールが一気に変わりますね。

岡川:はい。仮に1件あたり1億円規模の物件を扱う場合、10件で10億円、年間50件で50億円規模の取扱高を見込める計算です。ただ、今はまずPoCをきちんと成功させて、そこから資金調達をして、段階的に拡大していきたいと考えています。

小林:堅実にステップを踏んでいくということですね。本日はとても示唆に富むお話でした。ありがとうございました!

岡川:こちらこそ、ありがとうございました。

インタビューを終えて

共同所有という概念自体は古くからあるが、日本ではほとんど大きなビジネスにならなかった。合意形成の難しさ、退出時の流動性の欠如、事業者への過度な依存──構造的な課題が山積していたからだ。

岡川氏が示したのは、その構造そのものをブロックチェーンとAIで再設計するというアプローチだった。4つの連動型トークンで権利関係の情報を一体管理し、法的知見を持つAIが合意形成を支援する。そして現物不動産の共有持分として設計することで、全国13万の不動産会社が仲介に参加できる流通網の構築を目指す。米国のPacasoモデルをただ模倣するのではなく、日本の法制度に適合させようとしている点にこそ、この取り組みの本質がある。

「ホールケーキをショートケーキにして売る」──そのシンプルな例えの裏には、法務・技術・オペレーションを一体で設計した緻密な構想が詰まっていた。6月初旬のPoC版完成と実証実験を経て、7〜8月に予定される正式ローンチへ。日本の「所有の新常識」がどこまで浸透するか、注目していきたい。

※本記事に記載の情報は取材時点(2026年5月14日)のものです。GCT JAPANが開発中のプラットフォームは、記事公開時点ではPoC(概念実証)段階であり、正式サービスの内容は変更される可能性があります。

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