
2026年5月4日、米国株式市場の決済中枢DTCCが株式トークン化サービスの7月パイロット・10月本格ローンチを発表しました。翌5日にはBullishが移転エージェント大手Equinitiを42億ドルで買収すると公表し、発行・取引・決済・名義管理という株式市場の全インフラをオンチェーン化する動きが一気に加速しています。
トークン化株式とは、Apple・Tesla・Nvidiaといった実在の上場株式をブロックチェーン上のデジタルトークンとして表現する仕組みです。現物株式はカストディアンが保管し、発行されたトークンがその権利を表します。記録・移転・決済の手段にブロックチェーンを用いる点に特徴があり、株式としての法的性質はそのまま維持されます。
この記事では、ナスダックやニューヨーク証券取引所・DTCCが動いた背景と市場構造の変化、個人投資家が現時点で利用できるサービスの実態、2026年後半の重要イベントなどを整理しています。
トークン化株式とは何か、従来の株式と何が違うのか
株式をブロックチェーン上に乗せる
トークン化株式では、現物株式の保管と、ブロックチェーン上のトークン発行が分けて設計されます。たとえばKraken(クラーケン)のxStocksでは、Backed Finance(バックド・ファイナンス)がAppleの現物株を規制対応のカストディアンに預け、その保有数に対応するトークン(AAPLx)をソラナ(SOL)チェーン上で発行します。投資家がウォレットで保有するのはトークンですが、その裏側には現物株式が存在し、価格も原則として原株に連動します。
この方式では、トークンは現物株と1対1で対応し、配当分を含めたトータルリターンが反映される設計が多く採用されています。通常の株式保有のように現金配当を個別に受け取るのではなく、配当分をトークン価格へ反映する形が一般的です。そのため、投資家は「証券口座で株式を直接保有している状態」と「現物株を裏付けとするトークンを保有している状態」を分けて捉える必要があります。
従来の株式との共通点もあります。証券番号(CUSIP)が同一であり、株式としての法的性質や投資家保護については、既存の証券法の枠組みが適用されます。記録媒体や移転手段にブロックチェーンが使われても、株式として扱われる資産の法的位置づけが失われるわけではありません。SECも、証券がトークン化された場合でも証券法の対象であり続けるとの立場を示しています。
一方で、従来株と明確に異なるのは、取引や移転に関する時間的・地理的な制約が小さくなる点です。日本から米国株を売買する場合、通常は証券会社を通じ、現地市場の取引時間に合わせて注文を出す必要があります。
トークン化株式では、ブロックチェーン上で24時間365日取引できる設計が可能で、スマートコントラクトによる即時決済(T+0)も実現します。さらに、ウォレット間の直接移転や、DeFi(分散型金融)プロトコルでの担保利用など、従来の証券口座では前提とされていなかった運用方法も視野に入ります。
ただし、配当や議決権などの株主権利は、プラットフォームごとに扱いが異なります。配当はトータルリターン型として価格に反映されるケースが多い一方、議決権については付与されないサービスもあります。Galaxy(ギャラクシー)はBroadridgeと連携し、2026年5月に世界初のオンチェーン株主投票を実施する予定で、取引・決済だけでなく、株主ガバナンスの領域でもオンチェーン化の検証が始まっています。
シンセティック型とカストディ型、2種類の仕組みを理解する
SEC(米国証券取引委員会)は2026年1月28日、トークン化証券の法的取り扱いに関する声明を公表し、第三者によるトークン化を「カストディ型」と「シンセティック型」の2つに明確に分類しました。
カストディ型
カストディ型は、第三者が原証券を保管し、その保有分に対応するトークン(セキュリティ・エンタイトルメント)を発行するモデルです。xStocksやOndo Global Markets(オンド・グローバル・マーケッツ)など、現在一般に提供されているサービスの多くはこの方式に該当します。投資家は原証券に対する間接的な権利を持ち、トークン価格は裏付けとなる株式の価値に連動します。
カストディ型では、裏付け資産が実際に保管されているか、カストディアンが破綻した場合にどのように資産が保全されるかが重要になります。プラットフォーム側が「完全担保型」や「破産隔離構造」を掲げていても、実際の保護内容は契約、管轄法、カストディ体制によって変わります。利便性や銘柄数だけでなく、誰が現物株を保管しているのか、残高証明がどの頻度で公開されるのか、投資家の権利がどの契約で定められているのかを確認する必要があります。
シンセティック型
シンセティック型は、原証券を実際に保管せず、特定の株式価格に連動する合成商品を発行するモデルです。原株を直接裏付けとしないため、商品設計は複雑になりやすく、原株との価格乖離リスクや発行者の信用リスクも大きくなります。価格連動型の商品に見えても、投資家が持つ権利の中身はカストディ型と異なるため、商品構造の確認が不可欠です。
加えてSECは、企業が自社株を直接トークン化する「発行者主導型(Issuer-Sponsored)」も定義しています。これは株主名簿とオンチェーン記録を連動させる仕組みで、第三者が既存株をトークン化するモデルとは性質が異なります。Galaxyは2025年9月、米国の上場企業として初めてこのモデルを採用し、米ナスダック(Nasdaq)上でネイティブのトークン化株式を発行した先行事例となっています。
トークン化証券の法的位置付け
ナスダック・NYSE・DTCCの参入と市場構造の変化
2025年後半から2026年にかけて、米国株式市場を支える主要インフラ企業が相次いでトークン化株式への参入を表明・実行しています。Nasdaq・NYSE・DTCCという「株式市場の三本柱」が動いたことで、RWA(現実資産)のトークン化は、暗号資産業界や一部金融機関による実証を超え、既存市場の基盤整備という段階に入りました。
これまでトークン化株式は、仮想通貨取引所やRWA関連企業が主導する周辺的な取り組みとして扱われる場面が少なくありませんでした。しかし、取引所、決済機関、移転エージェントといった既存市場の中核企業が関与し始めたことで、その位置づけは変わりつつあります。既存金融の外側で動く代替的な商品ではなく、既存金融の内部に組み込まれる記録・移転・決済手段として扱われる可能性が高まっています。
NasdaqとNYSEが描くオンチェーン株式市場の設計図
Nasdaqは2025年9月8日、株式やETF(上場投資信託)などを「トークン化証券」として既存の証券と同様に取引できるようにするため、SECへ規則改正の承認を申請しました。Nasdaqが提示しているのは、既存の取引インフラにトークン化証券を組み込む方式です。同一のCUSIPコード、同一の売買ルールのもとで、投資家が従来株とトークン化株を選んで取引できる仕組みを想定しています。
この方針の特徴は、ブロックチェーンを使いながらも、既存の証券市場のルールから切り離さない点にあります。Nasdaqは、記録媒体が変わっても投資家保護は維持されると説明しており、トークン化を理由に規制の外側へ出るのではなく、既存の証券規制と市場慣行の中に組み込もうとしています。2026年3月にはSEC承認を経て、Krakenとの連携によりグローバルな配布体制を整えています。
一方、NYSE(ICE:インターコンチネンタル・エクスチェンジ)は2026年3月24日、RWAトークン化プラットフォームを手がけるSecuritize(セキュリタイズ)社と覚書を締結し、トークン化証券の取引・決済基盤の構築に向けた協議を開始しました。約44兆ドル(約6,600兆円)の時価総額を抱える世界最大の証券取引所が参入したことで、トークン化証券をめぐるインフラ競争は、構想段階から実装を見据えた段階へ移りつつあります。
NYSEの構想は、Securitizeが持つトークン発行・移転エージェント機能と、NYSEの取引・決済インフラを組み合わせる「新プラットフォーム型」に近い内容です。Securitizeは、BlackRock(ブラックロック)が組成した世界最大のトークン化マネーマーケットファンド「BUIDL(ビルド)」の発行・管理プラットフォームも担っており、機関投資家向けの運用実績を持っています。
2つのアプローチが競う焦点は、126兆ドル規模のグローバル株式市場におけるオンチェーン決済を、どのインフラが担うのかという点です。Nasdaqは既存市場との連続性を重視し、NYSEはSecuritizeとの連携によって新たな発行・取引・決済基盤を構築しようとしています。どちらの方式が主流になるかは、SECおよびFINRAの承認、機関投資家の参加状況、発行体側の採用意欲によって左右されます。プラットフォームの本稼働は、承認取得後の2026年後半が目標とされています。
DTCCが7月パイロット・10月ローンチを宣言、50社超が参加
この流れの中で、特に重みを持つのがDTCCの動きです。DTCCは米国株式市場の清算・決済を支える中核的な存在であり、証券会社や資産運用会社が日常的に利用する市場インフラの中心にあります。2025年12月、DTCCの子会社DTC(デポジタリー・トラスト・カンパニー)はSECからノーアクションレター(法的措置を取らない確認書)を取得し、3年間のトークン化サービス提供が認められました。
その後、DTCCは2026年5月4日、同サービスの具体的なタイムラインを発表しました。2026年7月に限定パイロット取引を開始し、10月に本格ローンチする予定です。対象資産はRussell 1000(米国主要1,000銘柄)・主要指数ETF・米国債で、DTCCが現在管理する114兆ドル(約17,100兆円)分の証券が対象となる可能性があります。
参加企業はGoldman Sachs・JPMorgan・BlackRock・Bank of America・Broadridge・Circle・Kraken・Anchorage Digitalなど50社超にのぼります。銀行、証券会社、資産運用会社、ステーブルコイン発行企業、仮想通貨取引所、カストディアンが同じ枠組みに参加している点が、この取り組みの特徴です。単独企業による実証ではなく、TradFi(伝統的金融)とDeFiの双方をまたぐ市場インフラとして設計されています。
これまでトークン化株式は、主に「取引所の外側」で試されてきました。仮想通貨取引所やRWA関連企業が提供する商品として、限定的な地域や投資家層に提供されるケースが中心でした。しかしDTCCが動いたことで、米国株式市場の清算・決済フローそのものにブロックチェーンを組み込む道筋が見え始めています。証券会社・資産運用会社・投資家が日常的に利用する決済インフラに接続されることは、トークン化株式の市場上の位置づけを大きく変える要因になります。
移転エージェントの獲得が示す「最後のピース」
2026年5月5日、CoinDesk(コインデスク)の親会社でもある米Bullishは、グローバル株式移転エージェントのEquinitiを42億ドル(約6,300億円)で買収すると発表しました。クロージングは2027年1月を予定しています。
移転エージェントは、上場企業の株主名簿管理や株式の名義書換を担う規制対応機関です。企業が株式を発行し、投資家が売買し、権利が移転する過程では、誰が正式な株主なのかを記録する仕組みが必要になります。すべての上場企業は、規制上、移転エージェントを必要とします。Equinitiは約3,000社の発行体、2,000万人の株主、年間5,000億ドル(約75兆円)の決済を処理する規模を持つ企業です。
トークン化株式の本格普及には、株式の発行・取引・決済・名義管理という一連の流れを整える必要があります。発行と取引だけがオンチェーン化されても、株主名簿や権利移転の管理が従来システムと分断されたままでは、既存の証券市場に深く入り込むことはできません。名義管理、つまり移転エージェント機能は、トークン化株式のインフラで不足していた領域でした。
BullishがEquinitiを取り込むことで、発行体の株主管理、投資家の権利記録、証券の移転処理をトークン化市場に接続しやすくなります。これは関連企業の買収にとどまらず、トークン化株式を証券市場の実務に接続するための布石と位置づけられます。また、Broadridge(ブロードリッジ)×Galaxy(ギャラクシー)は2026年4月に、世界初のオンチェーン株主投票を2026年5月の年次総会で実施することを発表しており、株式のガバナンス領域にもトークン化インフラが広がっています。
個人が今すぐアクセスできるトークン化株式
機関投資家向けのインフラ整備が進む一方で、個人投資家が現時点でアクセスできるトークン化株式サービスもすでに存在します。ただし、利用できる地域、取得方法、配当や議決権の扱い、カストディ体制はサービスごとに異なります。特に日本居住者の場合、国内規制との関係が明確に整理されていない部分も残っており、利便性だけで判断することはできません。
Kraken xStocksの仕組みと現在の規模
米大手仮想通貨取引所Krakenは2025年5月24日、RWA(現実資産)トークン化企業Backed Financeと提携し、ソラナ(SOL)チェーン上でトークン化株式サービス「xStocks(エックスストックス)」を提供開始しました。Apple・Tesla・Nvidiaなど100銘柄超の米国上場株式・ETFをトークン化しており、2026年時点で累計取引量は250億ドル(約3兆7,500億円)を超え、保有者数も世界で10万人を上回っています。
xStocksでは、Backed Financeが現物株を規制対応のカストディアンに保管し、その保有分に対応するSPLトークン(ソラナ上の規格)を発行します。トークンは現物株の現金価値と1対1で交換でき、配当分はトークン価格に自動反映される設計です。投資家は証券口座ではなく、ブロックチェーン上のトークンとして米国株への経済的エクスポージャーを持つことになります。
利用可能地域は欧州・中南米・アフリカ・アジアが中心で、米国居住者は証券規制上、現時点では利用できません。ブロックチェーン上で移転できる資産であっても、発行体や提供会社は各国の証券規制に従う必要があり、トークン化株式が「世界中で誰でも自由に買える株式」として提供されているわけではありません。
2026年3月29日には、SpaceX・OpenAIといった未公開企業の株式をトークン化した「VCXx(ブイシーエックスエックス)」も追加されました。NYSEに上場するVCXファンドを通じて未公開企業の価値変動に連動する仕組みで、従来は機関投資家や富裕層が中心だった投資機会に、一般投資家がアクセスできる余地が生まれています。ただし、未公開企業への間接的な投資は流動性や評価方法に注意が必要であり、通常の上場株式と同じ感覚で扱うべきではありません。
MetaMask×Ondoで仮想通貨ウォレットから株式投資が可能に
2026年2月3日から、仮想通貨ウォレットのMetaMask(メタマスク)でOndo Finance(オンド・ファイナンス)のトークン化株式200銘柄超にアクセスできるようになりました。MetaMask Swapsから直接、米国株・ETFのトークン化資産を購入できる仕組みで、仮想通貨ポートフォリオと株式ポジションを同じウォレット上で管理できます。
従来は、仮想通貨はウォレットや取引所、米国株は証券口座というように、資産ごとに管理場所が分かれていました。MetaMask上でトークン化株式を扱えるようになると、ステーブルコイン、DeFi資産、株式トークンを同じ環境で管理できます。一方で、秘密鍵管理、スマートコントラクトリスク、規制上の制約を同時に意識する必要があり、単に購入導線が簡単になっただけでリスクが軽くなるわけではありません。
OndoのOndo Global Marketsはカストディ型のトークン化モデルを採用しており、完全担保型、毎日の残高証明公表、破産隔離構造といった機関投資家水準の投資家保護を掲げています。ウォレット間送金は24時間365日可能ですが、売買の注文執行は米国市場時間に準じます。KYC(本人確認)を経た非米国居住者が対象であり、日本からのアクセスについては、各サービスの利用規約と国内の規制環境を確認する必要があります。
Ondoのトークン化株式(TSLAon・AAPLonなど「on」サフィックスが付く)の仕組みについて補足すると、配当はトータルリターン型(配当再投資方式)でトークン価格に反映されます。議決権については、Ondoのドキュメントで「株主としての直接的な議決権は付与しない」と明示されています。同じトークン化株式でも、経済的な価格連動を重視するものと、株主権利の再現を目指すものでは、投資家が受け取る権利の中身が変わります。
日本人投資家が理解すべきリスクと規制
日本居住者がトークン化株式を購入する場合、現時点では国内の金融商品取引法上の扱いが明確に整理されておらず、グレーゾーンに当たる可能性があります。
金融商品として認定されれば証券会社を通じた取引が必要になる可能性があり、暗号資産として扱われる場合には別の規制枠組みが適用されます。どちらに整理されるかによって、販売できる事業者、投資家保護、税務処理が変わるため、制度面の確認は避けて通れません。
カストディリスクについても理解が必要です。トークン化株式の原株はBacked FinanceやOndoなどの第三者、またはその提携カストディアンが保管しているため、これらの企業が破綻した場合の資産保全は通常の証券口座とは異なります。「破産隔離構造」を採用しているプラットフォームは保護水準が高いとされますが、実際にどこまで保護されるかは各国の法制度や契約構造によって変わります。
また、流動性が低い時間帯に価格乖離が生じるリスクにも注意が必要です。カストディ型では裁定取引によって原株との価格差が修正される仕組みが想定されていますが、米国市場が閉まっている時間帯には、原株価格との間に一定の乖離が生じる場合があります。ブロックチェーン上では24時間動かせるとしても、裏付けとなる現物株の市場は常に開いているわけではありません。
SECが2026年1月28日に示したように、記録媒体がブロックチェーンに変わっても証券法の適用は続きます。投資家にとって重要なのは、「ブロックチェーン上で取引できるか」だけではありません。利用するサービスがどの国の規制に基づいて提供されているのか、投資家の権利がどのように定義されているのか、万一の破綻時にどのような手続きで資産が保全されるのかを確認する必要があります。
「MetaMask×Ondo」など
トークン化株式が投資家・市場にもたらす変化——メリット・リスク・IMFの警告
トークン化株式の拡大は、個人投資家の取引機会だけでなく、機関投資家の担保管理、発行体の株主管理、証券市場全体の決済構造にも関わります。取引時間の拡大や決済の効率化が期待される一方、金融取引が自動化・高速化することで、既存の規制や監督体制が追いつきにくくなる懸念も指摘されています。
個人投資家にとっての3つの変化
第一に挙げられるのは、市場へのアクセスの民主化です。これまでSpaceX・OpenAIといった未公開の大型テック企業への投資は、機関投資家や富裕層を中心に提供されてきました。高額な最低投資額や長期のロックアップ期間(資金拘束)が個人投資家の参入を難しくしていましたが、トークン化によってこうした障壁は下がりつつあります。
また、証券口座を開設しにくい国の個人投資家が、ウォレットを通じて米国株にアクセスできるようになる点も市場構造上の変化です。国境や口座開設条件の制約が小さくなれば、米国株市場への参加者は広がる可能性があります。ただし、各国の規制を超えて自由に投資できるという意味ではなく、サービス提供会社が対応する国やKYC条件の範囲内で利用できるという点は変わりません。
第二は、取引や移転の24時間化です。日本から米国株を取引する場合、通常は夜間の限られた時間帯に合わせる必要があります。トークン化株式はブロックチェーン上で営業時間に縛られず、ウォレット間で送受信・売却できる設計が可能です。注文執行が米国市場時間に依存するかどうかはプラットフォームによって異なりますが、資産を動かせる時間帯が広がることは、従来の株式取引にはない変化です。
第三は、DeFiとの融合です。トークン化株式はDeFiプロトコルの担保として活用できる可能性があります。たとえばAppleのトークン化株式を担保にステーブルコイン(米ドル連動型暗号資産)を借り入れ、その資金でDeFiの流動性提供に参加するといった複合的な運用戦略も考えられます。仮想通貨ポートフォリオと株式ポジションを横断して資本効率を高められる一方で、価格変動、担保評価、清算条件、スマートコントラクトリスクを同時に管理しなければなりません。
機関投資家・発行体にとっての変化
機関投資家にとっては、決済コストの削減と担保の流動性向上が大きな利点になります。従来のT+2(取引から2営業日後の決済)からT+0(即時決済)のDVP(デリバリー・バーサス・ペイメント)をオンチェーンで実装できれば、決済不履行リスクを構造的に抑えられます。取引後に数日間の決済待ちが発生する従来の仕組みと比べ、資金と証券の受け渡しを同時に処理できる点は、資本効率の面でも意味があります。
また、トークン化された株式を24時間担保として利用できるようになれば、資産運用会社や金融機関は、従来より柔軟に担保を差し替えたり、流動性を確保したりできるようになります。特に米国債や大型株ETFのように流動性の高い資産がトークン化される場合、担保管理のあり方そのものが変わる可能性があります。
さらに、スマートコントラクトによる業務自動化も市場構造に影響を与えます。配当支払い、株式分割、議決権行使といった処理をオンチェーンで自動化できれば、証券業務における事務負担や運用コストを削減できます。Broadridge×Galaxyの世界初オンチェーン株主投票はその具体例であり、発行体向けには「登録株・受益株・トークン化株の投票を単一画面に集約する」機能も提供されます。
発行体(上場企業)にとっては、株主名簿をリアルタイムに近い形で把握できることが重要になります。従来は株主構成の確認に数日を要することもありましたが、オンチェーン記録と名義管理が連動すれば、キャップテーブル管理の透明性と即時性が高まります。Bullish×Equiniti買収の核心もこの領域にあり、移転エージェント機能をブロックチェーンネイティブに再設計することで、発行体の株主管理コストを見直す余地が生まれます。
「IMFが鳴らした警鐘」規制整備なき高速化のリスク
利便性や効率性が注目される一方で、国際的な規制機関は急速な普及に慎重な見方も示しています。IMF(国際通貨基金)は2026年4月2日、金融システムのトークン化に関する政策論文「Tokenized Finance」を公表し、各国の規制当局・中央銀行・国際機関が先手を打って対応しなければ、金融システムの安定が損なわれる可能性があると指摘しました。
IMFが指摘する主なリスクは3点です。第一に、プログラマビリティによって取引が高速化し、規制当局の対応速度を超えて金融不安が広がるおそれがあることです。ストレス事象が発生した場合、人の判断が介入する前に自動処理が連鎖する可能性があります。市場の反応が速くなること自体は効率化につながりますが、危機時にはその速度が不安定性を増幅する要因にもなります。
第二に、ステーブルコインやトークン化マネーが銀行預金から資金を吸い出すリスクがあります。トークン化された金融市場では、決済資産としてステーブルコインが使われる場面が増える可能性があります。その結果、銀行預金からトークン化マネーへ資金が移動すれば、銀行の資金調達構造や金融仲介機能に影響が出る可能性があります。
第三に、国際的な規制の断片化によって、規制の緩い管轄でサービスを提供する規制裁定が進みやすくなる点も問題視されています。トークン化資産はブロックチェーン上で国境を越えて移転しやすいため、各国のルールが大きく異なる状態では、投資家保護や市場監督に空白が生じるおそれがあります。
IMFはこれらのリスクに対応するため、5本柱の政策ロードマップを提示しています。具体的には、公的枠組みの整備、安全な決済資産の確保、コードのガバナンス強化、法的確実性の向上、国際的な協調の5点です。論文は「トークン化の行方を決めるのは技術ではなく、政策の選択」と結論づけています。各国当局が設計段階から関与できる時間はまだ残されているものの、その余地は無期限に続くわけではないとも警告しています。
IMF「規制なきトークン化」に警鐘
2026年後半の注目スケジュールと投資家が見るべき焦点
機関投資家向けのインフラ整備が進むなか、2026年後半には具体的なマイルストーンが集中します。仮想通貨(暗号資産)投資家がトークン化株式の動向を追ううえでは、個別サービスの拡大だけでなく、決済インフラ、規制、ステーブルコインの整備状況をあわせて見る必要があります。
2026年下半期のトークン化株式ロードマップ
現時点で確認されている主要なスケジュールは以下の通りです。
| 時期 | 予定イベント |
|---|---|
| 2026年5月 | Galaxy年次総会でBroadridgeによる世界初のオンチェーン株主投票 |
| 2026年7月 | DTCCトークン化証券サービス パイロット取引開始(Russell 1000・ETF・米国債) |
| 2026年夏〜秋 | CLARITY法案 上院銀行委員会マークアップ(5月11日週予定)→上院本会議採決へ |
| 2026年後半 | NYSE(ICE)×Securitize 本稼働(SECおよびFINRA承認後) |
| 2026年10月 | DTCCトークン化証券サービス 本格ローンチ |
| 2027年1月 | Bullish×Equiniti 買収クロージング予定 |
特に重要なのは7月のDTCCパイロットです。これは、トークン化証券が実際の市場インフラの中で動き始める初期事例になります。Russell 1000構成銘柄が対象となるため、Apple・Microsoft・Amazon・Googleといった日本の個人投資家にもなじみのある銘柄が含まれることになります。
10月の本格ローンチまで進めば、トークン化株式は一部の暗号資産プラットフォーム上の商品という位置づけから、米国株式市場の決済インフラに接続された資産へと見られ方が変わる可能性があります。パイロットで確認されるのは、技術的な処理能力だけではありません。証券会社、資産運用会社、カストディアン、ステーブルコイン関連企業が、実務上どのように連携できるかも重要な検証対象になります。
CLARITY法案がトークン化株式の普及を左右する理由
仮想通貨市場構造法案「CLARITY(クラリティ)法案」は、表面上は仮想通貨のSEC/CFTC管轄権の明確化を目的とした法案ですが、トークン化株式の普及にも直接的な影響を及ぼします。
その理由は、トークン化株式の決済通貨として使われるステーブルコイン(Stable Coin)の規制と密接に関係しているためです。トークン化証券の取引や決済が広がる場合、米ドル建てステーブルコインは重要な決済手段になります。どのステーブルコインが規制上認められ、機関投資家がどの範囲で利用できるのかが明確にならなければ、大規模な市場参加は進みにくくなります。
CLARITY法案には、ステーブルコイン保有者への利回り付与に関する規定が含まれており、この部分が銀行業界との調整で難航してきた主要論点です。2026年5月2日、ティリス・アルソブルックス上院議員がステーブルコイン利回りに関する妥協案を公表し、マークアップ(修正審議)は5月11日週に予定されています。
同法案が成立すれば、規制対象ステーブルコインをトークン化証券の決済通貨として機関投資家が利用するための法的根拠が整います。この点でDTCCのサービスとCLARITY法案は補完関係にあります。決済インフラが整い、同時に決済通貨の規制上の位置づけが明確になれば、トークン化株式の普及は一段と進みやすくなります。
日本への波及、金融庁PIPとJGB実証が示す国内の動き
日本でも、トークン化株式への布石となる取り組みが進んでいます。金融庁は2026年4月3日、FinTech実証実験ハブ内の決済高度化プロジェクト(PIP)第3弾として、トークン化預金とステーブルコインを活用した銀行間決済の実証実験への支援を発表しました。
今回の対象はトークン化株式ではありませんが、ブロックチェーン上の決済インフラに関する法的・実務的な論点を整理する取り組みであり、将来的なトークン化証券の国内展開に必要な制度基盤づくりと位置づけられます。
みずほFGら4社は同時期に、日本国債(JGB)のブロックチェーン担保実証(Canton Network使用)を開始しており、国内金融機関によるオンチェーン実証は複数の領域で進んでいます。2025年12月には、バンク・オブ・アメリカやソシエテ・ジェネラルが参加したDTCCのパイロットで、トークン化米国債をリアルタイムで担保として再利用する実証が行われました。JGB実証は、この流れを日本市場に広げる取り組みと見ることができます。
日本居住者が今すぐトークン化株式にアクセスする選択肢は限られていますが、金融商品取引法上の整理と国内プラットフォームの整備が進めば、2027年以降に状況が大きく変わる可能性があります。JPX(日本取引所グループ)がビットコイン(BTC)やイーサリアム(ETH)のETF上場検討を視野に入れているとの報道もあり、日本の金融市場でもデジタル化に向けた動きは着実に進んでいます。
よくある質問(FAQ)
トークン化株式とETFはどう違うのか?
ETF(上場投資信託)は、複数の株式で構成されるバスケットを間接的に保有する仕組みで、証券取引所の営業時間内に市場価格で売買します。一方、トークン化株式はブロックチェーン上で特定銘柄の権利を1対1で表現し、24時間ウォレット間で移転できる設計が可能です。ETFは証券口座を通じた取引が基本ですが、トークン化株式はDeFiプロトコルでの担保活用や、他のデジタル資産との組み合わせも視野に入ります。流動性、裏付け資産の管理方法、投資家保護の水準はプラットフォームによって異なるため、通常の株式やETFと同じ感覚で扱わず、仕組みを確認したうえで判断する必要があります。
日本円から直接トークン化株式を買えるのか?
現時点では、USDC(ユーエスディーコイン)などのステーブルコインを経由して取得する方法が一般的です。Alchemy Pay(アルケミー・ペイ)など、法定通貨からのアクセスを提供するサービスも登場しています。ただし、日本居住者向けのサービスは規制上の制約から限定的であり、日本円から直接購入できる環境が広く整っているわけではありません。各プラットフォームの利用規約、対応地域、KYC条件、国内の金融規制を確認したうえで判断する必要があります。
トークン化株式を保有すれば配当や議決権はもらえるのか?
配当については、xStocksやOndoなど多くのサービスがトータルリターン型を採用しており、配当分がトークン価格に自動的に反映される設計です。現金配当として個別に受け取るわけではないため、この点は通常の株式保有とは異なります。議決権の扱いはプラットフォームによって異なり、Ondoは議決権を付与しないと明示しています。Galaxy×Broadridgeが2026年5月に実施するオンチェーン株主投票は世界初の事例となっており、今後どの方式が広がるかが注目されます。
日本の税務上トークン化株式はどう扱われるのか?
2026年5月時点で、国税庁からトークン化株式に特化した正式なガイドラインは発出されていません。仮想通貨(暗号資産)として認定される場合は総合課税(最高税率約55%)、外国株式として認定される場合は申告分離課税(約20%)となり、課税方法が大きく変わります。また、取引のたびに課税イベントが発生するかどうかについても、明確ではない部分があります。税務処理については、仮想通貨・国際税務に詳しい税理士へ相談することが望まれます。
まとめ
トークン化株式は、「仮想通貨の世界に株式が入ってきた」という単純な話ではありません。126兆ドル規模のグローバル株式市場において、決済・流動性・アクセス・株主管理の仕組みを再設計しようとする動きです。DTCC・Nasdaq・NYSEという米国株式市場の主要インフラが動き、Bullish×Equinitiが移転エージェント機能を取り込んだことで、ブロックチェーンネイティブの株式市場インフラは構想段階から実装段階へ近づいています。
個人投資家にとっては、xStocksやOndo Global Marketsを通じてアクセスできるサービスがすでに存在します。ただし、カストディリスク、規制上の不確実性、税務上の取り扱いについては慎重な確認が欠かせません。特に日本居住者は、国内の金融商品取引法上の整理が進む2027年以降の動向を注視しながら、利用可能なサービスとリスクを見極める対応が現実的です。
IMFが「技術ではなく政策の選択が行方を決める」と警告したように、2026年下半期のDTCCローンチ、CLARITY法案成立、各国規制の整備状況は、トークン化株式の普及速度を左右する重要な要素になります。利便性や市場拡大への期待だけでなく、決済資産、投資家保護、カストディ、税務、国際的な規制協調を含めて見ていく必要があります。RWAトークン化とは?仕組み・種類・伝統金融の参入事例と将来性【2026年最新】もあわせてご確認ください。
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