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タイ・バンコクに拠点を置き、自身もタイ上座部仏教での出家経験を持つ苅部俊雄氏。彼が手がける『SATHU(サートゥ)』は、タイの伝統的な祈りとブロックチェーン技術を融合させた、新しい時代のデジタル永代供養プラットフォームだ。
高額な葬儀費用や墓じまい、孤独死といった日本の終活・葬儀・供養に関わる深刻な課題を一括で解決すべく、「NFTデジタル墓」や自動安否確認、完全オンライン供養などを提供している。なかでも、改ざん不可能なブロックチェーンに一族の歴史を永続的に刻み、年間管理費0円で継承できる「NFTデジタル墓」は、従来の供養のあり方を根本から変える取り組みである。
石のお墓の老朽化や寺院の維持困難が問題視されるなか、なぜ永代供養ではなく「NFT」なのか。そして、なぜタイの仏教思想と最先端技術を掛け合わせたのか。
今回、NFT Media編集部は開発者の苅部氏に取材を行い、サービス開発の背景にある4つの原体験や、供養を「負担」から「心の資産」へと変える新しいアプローチについて話を聞いた。
【プロフィール】
苅部俊雄(かりべ としお)
SATHU 創業者・事業代表
神奈川県大磯町出身。2002年にタイへ渡航後、複数の国での起業や移住を経て、2015年よりタイを主拠点として本格的な事業展開を推進。現在はプーケットを拠点に活動。東京都にNPO法人を設立したほか、プーケットでは補習授業校の校長を務めるなど、教育や日本文化の発信を担う非営利活動にも尽力。
2025年12月、タイ・バンコクの王室寺院「ワット・ヤンナワー(Wat Yannawa)」にて33日間の出家修行を経験。托鉢を通じて上座部仏教の「タムブン(徳積み)」の思想に触れたことを契機に、タイ仏教の祈りとWeb3技術を融合したデジタル永代供養プラットフォーム「SATHU(サートゥ)」を開発。
NFTデジタル墓で供養できるSATHUとは

NFTMedia編集部(以下、編集部):まず、『SATHU (サートゥ)』とはどのような課題を解決できるサービスなのでしょうか。
苅部:SATHUでは、終活・葬儀・供養にまつわる「12の社会問題」解決への貢献をお約束しています。具体的には、高額な葬儀・墓石費用、継承者不在による墓じまい、単身高齢者の孤独死といった、現代日本が直面する深刻な課題を包括的に解決するために誕生しました。ひと言でいえば、タイ上座部仏教の伝統的な祈りとブロックチェーン等の先端技術を融合させた、新しい時代のデジタル永代供養プラットフォームです。
編集部:どのような仕組みで解決するのでしょうか。サービスの概要を詳しく教えてください。
苅部:具体的には、次の4つの柱で構成されています。
1つ目が、故人と遺族が時空を超えて感謝を循環させる「相互功徳システム(TSS)」です。万が一の際にご遺族が物理的な「TSSカード(訃報通知カード)」のQRコードをスキャンするとSATHU事務局へ通知が届き、日本にいながらにして、タイ提携寺院の僧侶によるオンライン読経・遠隔供養が厳粛に執行されます。そして供養の履行完了をトリガーとして、生前にお預かりした故人からの感謝メッセージがご遺族の端末へ届けられます。

そして2つ目が、「SATHU 終活ノート」による孤独死・孤立死の根本的防止です。孤独死の本質は単なる発見の遅れではなく、「社会や家族との関係性の分断」にあります。SATHUの終活ノートを通じて自らの人生と周囲への感謝を言語化し、生前にTSSカードの存在をご家族やキーパーソンに託すプロセスそのものが、人との温かい繋がりを再構築します。公式LINEによる定期的な自動安否確認機能は、そうした信頼関係を裏側から支える確実なセーフティーネットとして機能します。
編集部:孤独死を防ぐために、定期的な安否確認があるのですね。
苅部:そうです。そして3つ目が、墓守の後継者問題を解決する「NFTデジタル墓」です。ブロックチェーンの「改ざんされない普遍性」という点に着目し、デジタル上でお墓を残す仕組みにしました。

そして最後の4つ目が、費用負担を根本から劇的に抑える「完全オンライン供養」です。従来の通夜や葬儀・告別式はもちろん、初七日や四十九日、その後の年忌法要までをすべてオンラインで執り行えます。これにより、百万円単位で発生していた高額な式場費や飲食代、移動・宿泊コストを完全にゼロへ圧縮できます。遠方や海外にお住まいのご親族やご高齢のご家族も、金銭的・身体的な負担を一切背負うことなく、世界中どこからでも一堂に会して温かく故人を送り出していただけます。

編集部:お墓や葬儀の費用問題だけにとどまらず、いま日本が抱えている終活・葬儀・供養まわりの課題にまるごとアプローチしている点が特徴なのですね。
苅部:そうです。SATHUでは訃報通知をトリガーとして、読経・供養から感謝メッセージの送付までが自動で進行します。これこそがオリジナルな要素であり、特許(特願2026-178965)も出願中です。
お墓をブロックチェーンで管理する意義とは
編集部:NFTデジタル墓により、墓守の問題を解決するとありました。しかし墓守の後継者問題という観点では、永代供養のお墓でも解決できるのではないでしょうか。
苅部:必ずしもそうとは言えません。
考えてみていただきたいのですが、石のお墓は風化します。何十年、何百年という単位で見れば、確実に劣化していく。永代供養のお墓であったとしても、管理している寺院そのものが無くなってしまうリスクは残ります。
実際、地方では檀家の減少で維持できなくなる寺院が出てきていますよね。つまり、私たちが「永代」だと信じているものは、実はかなり脆いんですね。
編集部:永代供養だからといって、安心できるわけではないのですね。
苅部:そうです。一方でブロックチェーンに刻まれた記録は、世界中の分散ネットワーク上に保存され続けます。
特定の企業や寺院が管理しているわけではないので、極端に言えば私たちの会社が解散しても記録そのものは残り続けます。誰にも書き換えられず、データが残り続ける。この性質が、供養という営みと本質的に相性が良いと考えたわけです。
編集部:そこで、NFTデジタル墓が生まれたのですね。
苅部:そうです。ただし、私たちはNFTデジタル墓を「ただのデジタル画像」として発行しているわけではありません。
お墓をNFT化するサービスの多くは、率直に申し上げると、NFTという「画像」を売っている状態です。デザインされた墓石の画像をNFTに載せて、それに付随するサービスを付けて、販売して終了という設計です。
編集部:これに対して、SATHUではどのように差別化しているのでしょうか。
苅部:購入後も運営とユーザーが継続的に繋がる設計にしました。
SATHUでは、発行したNFTデジタル墓にデータを継続的に追加できる仕組みにしました。
故人のお名前はもちろん、ご希望があれば戒名も刻めます。さらに死後のデータだけでなく、結婚式の映像であったり、七五三であったり、その方の人生の記録となるような冠婚葬祭のデータも刻印が可能です。さらに墓じまいをする方の場合、改葬の記録そのものをブロックチェーンに記録できます。
つまり、一族の歴史がNFTデジタル墓に動的に積み上がっていく。お墓というより、一族の記録装置に近いものだと考えています。
編集部:一族の生きてきた証が、NFTデジタル墓に刻まれていくのですね。
そうなると、プライバシーの問題が出てきます。パブリックチェーンでは誰でも情報を閲覧できてしまいますが、どのような仕組みで記録しているのでしょうか。
苅部:おっしゃる通りで、故人の記録は非常にセンシティブな情報です。
故人のお名前、戒名、ご家族の映像といった情報は、当然ながら一般公開すべきものではありません。供養という非常にセンシティブな情報を扱うため、「ご遺族様や関係者様以外にはNFT墓のアクセス権(URL)を一切公開しないプライベートな閲覧設計」をとっております。具体的には、継承者(ご遺族)から共有を受けた方のみが、迷わずシームレスにアクセスできる環境を構築しました。
一方でプライバシー情報を含まないデータは、thirdweb等のソリューションを活用してパブリック・ブロックチェーン上に記録しています。
このように、「パブリック・ブロックチェーンの堅牢性・永久性」と「ご遺族のプライバシーを守るプライベートな閲覧管理」を両立させたシステムとなっております。
編集部:永続性と秘匿性のバランスを考えた設計ということですね。NFTだとウォレット管理がハードルとなりますが、このような設計にしていますか。
苅部:ご利用いただくユーザー層を考慮すると、シードフレーズを自己管理とするのは現実的ではありません。そこでIDとパスワードでの管理とし、スマホひとつでどこからでも参拝できる体験としています。
加えて、現在開発を進めている『SATHU公式アプリ』によって、Web3の複雑さを意識させることなく、直感的にNFTデジタル墓の閲覧やお参りができる、よりシームレスな環境を整えているところです。
また、年間管理費・維持費は永久0円としました。石のお墓であれば年間5,000円から20,000円程度の管理費が発生し続け、それが継承者の負担になります。この構造をゼロにできる点が、NFTを使う実利的な意味でもあります。
言い換えると、私たちがやろうとしているのは、供養を次世代への「負担(負債)」から「心の資産」へと転換することなんです。
編集部:実際に日本でサービスを利用する場合、火葬後のお骨をどこかに保管する必要がありますよね。NFTのお墓はあるにせよ、物理的なお骨はどこに保管するのでしょうか。
苅部:タイの文化にならって、散骨をおすすめしています。とはいえ、SATHUのサービスとして強制するものではありません。
NFTデジタル墓を選ばれる場合であっても、ご遺骨のあり方をひとつに制限することはありません。
散骨を希望される方には丁寧なガイドをご用意していますが、ご自宅で保管される「手元供養」や、既存の納骨堂・共同墓地とお骨の保管場所を併用していただくことも自由です。物理的な維持管理の重荷から解放されつつ、ご遺族のご事情や想いに合わせたもっとも心地よい形で、一族の祈りと記録を半永久的に残していただけます。
「ありがとう」の反対語は「当たり前」だった
編集部:SATHUは、タイ上座部仏教を取り入れたサービスです。そして、苅部さんご自身もタイにお住まいで、出家されたそうですね。
苅部:その通りです。しかしタイの上座部仏教では、日本人がイメージする出家とは少しイメージが異なります。
日本の大乗仏教では、一度出家すると生涯出家した身となりますよね。これに対して上座部仏教というのは、一時的である方が圧倒的に多いです。
私が「出家した」と言っているのも、実質は33日間ですね。一度出家したら社会との関わりがなくなるわけではなく、また社会に戻ってきます。これが上座部仏教における出家です。
編集部:出家のご経験が、SATHU開発につながったのですね。そもそも、どのようなきっかけでサービスを開発しようと思われたのでしょうか。
苅部:これまでに経験した4つの出来事がきっかけです。
まず一つ目が、タイならではの文化です。
移住した直後にタイ独特の出家文化を知り、強い感銘を受けました。そこで知ったのが「ありがとう」の真の意味です。「ありがとう」の反対語は、何だと思いますか。
編集部:「すみません」とかですか。
苅部:皆さんそう思われるのですが、「ありがとう」の意味は「有るのが難しい(有り難う)」と書きます。つまり、「有るのが普通」の状態である「当たり前」が反対語です。
私はタイでの出家生活を通じて、食事など普段の生活が当たり前ではなかったと実感しました。そうすると、自然と感謝の気持ちが生まれる。一時的な出家が当たり前のタイ人は、皆さんこの素敵なマインドを持っていると知り衝撃を受けたんですね。
「有るのが難しい」という考え方が浸透しているからこそ、タイ人は徳を積む行為を重要視しているようです。これが一つ目の体験です。
暗く受動的な日本、生き生きと能動的なタイ
編集部:なるほど。では二つ目は、どのような体験なのでしょうか。
苅部:二つ目は、祖母の供養での出来事です。
大正生まれの祖母が亡くなり、2020年頃にお寺で供養を執り行った時のことです。本堂でのお経が終わり、寺院の駐車場へ向かう途中、「なんでお経をあげてもらうだけで、50万円も払わなければいけないんだ。」と、私の父親がぽつりと漏らした言葉が深く心に残りました。
普段は決して不謹慎なことを口にする父ではないからこそ、無意識にこぼれたその本音に強い衝撃を受け、「供養にかかる費用の不透明さや負担は、これほどまでに人を苦しめる深刻な問題なのだ」と痛感したのです。
編集部:葬儀や供養にかかる費用は明文化されておらず、不透明なところもありますからね。三つ目はいかがでしょう。
苅部:三つ目は、タイで現地のお葬式に参列したことです。
日本の葬式はどこか暗く、今までの慣習を重視して受動的な感じがするんですよね。これに対して、タイのお葬式は全く印象が異なります。皆さん、生き生きとしているんですよね。
別にパーティーのように騒いでるわけではないのですが、能動的でやらされている感じがまったくありません。この違いはどこから来ているのかと考えたときに、やはり「徳を積む」というタイの文化が関係していると気づきました。
編集部:日本人も「徳を積む」という言葉自体は知っていますが、実際にどうすればいいかはあまりピンと来ないですよね。人助けをするイメージです。
苅部:そうですよね。おそらく皆さん意識してやっていないはずです。一方で、葬式で故人を送り出す行為さえ、主体的に関わろうとするのがタイという国なんですよね。
托鉢で知った「徳を積む機会を与える」という仕組み
編集部:では、四つ目のきっかけを教えてください。
苅部:4つ目は、私自身のタイでの出家体験です。
タイで友人が出家するのを見てから、「自分もいつか機会があったら出家したいな」と心のどこかでずっと思っていました。そして、たまたま2025年12月にタイミングが訪れて出家を決意しました。私には3人の子どもがいて子育て中ではあったのですが、それでも出家しました。
編集部:出家を通じて、何が一番印象に残りましたか。
苅部:托鉢ですね。托鉢に行くと、すべては当たり前ではないと実感できたからです。
また、タイの僧侶は単に施しをありがたくいただいているだけではなく、一般の人たちに「お布施をする機会」を与えていると学んだのです。
編集部:逆に、僧侶の側が民衆に機会を提供している、ということですか。
苅部:そうなんですよ。タイ仏教の仕組みはよくできていて、相互に徳を積める仕組みが構築されています。
タイにも貧しい人はたくさんいます。しかし、お金がないからという理由でタムブン(徳を積む行為)をしないという選択はありえません。お金があろうがなかろうが、仏教の教えがしっかりと根付いているので皆さんお布施をしています。
この仕組みが私にとってすごく衝撃的でした。
編集部:今お話しいただいた4つのポイントが交わって、SATHUが生まれたのですね。
苅部:そうです。そして、この令和の時代に「相互に徳を積む」というシステムを構築するには、やっぱり記録が永続的に残るブロックチェーンだと考えました。これがSATHUを創業するまでの背景です。
デジタルなお墓の価値を普及させるために
編集部:ちなみに苅部さんは、もともとブロックチェーン技術をご存知だったんでしょうか。
苅部:はい。仕事でいろいろな分野に関わることが多かったため、前々から知ってはいました。2021年のNFTブームだった頃に着目して勉強したり、NFTを発行したりしていました。
この時の経験があったので、改ざんされない形でデータを記録したいと考えた時にブロックチェーン技術が思い浮かびました。
編集部:過去にブロックチェーンを触っていた経験が、SATHUの開発に役立ったのですね。事業を拡大する上で、今後はどのような戦略を描いていますか。
苅部:まずは、デジタルなお墓に関して啓蒙活動が必要だと考えています。
やはり「墓じまいなんてけしからん」と捉える方は一定数いらっしゃるので、「徳を積む」という概念やNFTのお墓に関する情報を発信していきます。
一方で、プレスリリース発表の直後から好感を示してくれた企業もいらっしゃいました。パートナーシップの打診も複数社から届いており、各社との連携を強化していきたいです。
編集部:デジタル上のお墓という新しい概念が広がっていきそうですね。貴重なお話をいただき、ありがとうございました。
インタビューを終えて
取材を通じて印象的だったのは、苅部氏がサービス開発の背景を「4つのポイント」として、20年以上の時間をかけて一本の線につないでいたことだ。
2002年のタイ移住直後に触れた出家文化、祖母の供養で父親が漏らした一言、日本とタイの葬儀の空気の違い、そして33日間の出家で得た托鉢の気づき。そのどれか一つが欠けても、SATHUというサービスは成立しなかっただろう。
葬儀や墓守りといういずれ誰しもが向き合う問題だからこそ、「どの葬儀社を選ぶか」とは異なる新しい選択肢が生まれた意味は大きい。
- SATHU 公式サイト:https://sathu.jp/
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