陳満咲杜の「マーケットをズバリ裏読み」

2017年のドル/円は122円まで上昇後、 <i style=”font-style:normal;font-size: 97%;”>105円へ反落。ブラックスワンで100円割れも</i> ブログ

2017年のドル/円は122円まで上昇後、 <i style=”font-style:normal;font-size: 97%;”>105円へ反落。ブラックスワンで100円割れも</i>

■米国の市場関係者はバロンズ紙の強気が心配!? 2017年の市場に関する見通しが出そろい、ウォール街は総じて「米国株の上昇が続く」という明るい展望を持っているようだ。しかし、12月16日号の米バロンズ紙を手に取った途端、多くの業界人は心配し始めたという。

 理由は至ってシンプルだ。WSJ(ウォール・ストリート・ジャーナル)傘下のバロンズ紙の、そのカバー記事は、往々にして「Contrarian indicator」、すなわち「逆張り指標」としての役割をしてきたからだ。

 となると、言わずともおわかりいただけたと思うが、バロンズ紙は非常に強気な見通しを述べた記事を掲載していた。

 市場関係者が持つこのような微妙な心情は、マーケットにおけるセンチメントを代弁しているのではないかと思う。つまり、米国株高、米ドル高、米金利高のトリプル高を予想しつつ、どこか一抹の不安がある、ということだ。

■「トランプ・ラリー」は先走りしすぎなのか、否か? その一抹の不安は、どこに起因しているかと聞かれると、ほぼ間違いなく、「トランプ・ラリー」をどう評価するかに帰結されるだろう。

 言ってみれば、2017年の見通しを行う上で最も重要なポイント、また、最大の不確実な要素は、いわゆる「トランプノミクス」の行方だと言い切れる。

 ゆえに、2016年11月9日(水)から足元まで続く「トランプ・ラリー」をどう評価するか、またどう位置づけるかは重要である。なにしろ、「トランプ・ラリー」はいわゆる「トランプノミクス」の効果を織り込もうとした先走りの結果であるから、「トランプ・ラリー」の行方は2017年相場の基調を決定する重みがある。

 「トランプ・ラリー」が「ホンモノ」で、これからも続くといった見方が現在のマーケットにおける主流意見と思われる一方、「トランプ・ラリー」が行きすぎ、また、先走りしすぎたため、いずれ反動が出る、という見方も一部市場関係者に根強く共有されている。当然のように、このような相違があるからこそ、見通しもかなり違ってくる。

 仮に「トランプノミクス」自体が幻想にすぎず、また、事前期待とかなり違う結果になれば、「トランプ・ラリー」も単に行きすぎた先走りというに止まらず、その後、大きく修正される運命にある、という理屈は明白であろう。

■クルーグマンはトランプ政権がデフレをもたらすと予測 ノーベル経済学賞を受賞したポール・クルーグマン教授は、「市場の『トランプノミクス』に対する理解や期待が間違っている」と主張、トランプ政権がデフレをもたらすだろうと予測している。教授の根拠は以下のとおりだ。

トランプ氏は大型インフラ投資を吹調しているが、共和党内の支持を受けた兆しがなく、商人として成り上がったトランプ氏の大型財政出動は、最終的に私有化プロジェクトになる可能性が大きい。だから、最後は大型減税と収支削減の組み合わせで赤字予算を増やす結果につながりやすい。

貨幣政策に関しては、独立したFRB(米連邦準備制度理事会)が決定する事項となり、いくらトランプ氏とはいえ、FRBが独立性を捨ててまでトランプ氏の政策を応援するとは到底考えられない。

さらに、財務長官から大統領経済諮問委員会議長まで、一連の経済運営メンバーの構成から考えても、彼らが財政政策の拡大を推進できるとは思わない。なにしろ、「トランプノミクス」の本質は「ケインズ主義」の実践であるが、彼らの経歴をみると、トランプ氏の政策運営にマクロ的な指導をできる者はいないと思われる。だから、市場は間違っている。

 以上は要約であり、また細かいニュアンスが違っているかもしれないが、総論として「トランプノミクス」自体が「羊頭狗肉」だとするクルーグマン教授の主張がおわかりいただけると思う。

ノーベル経済学賞受賞者のポール・クルーグマン氏は、目下の市場の見立てと異なり、トランプ政権がデフレをもたらすだろうと予測しているという (C)ロイター/アフロ

■次期閣僚に大金持ちを多数指名しているという現実 このような主張は、鋭く、また的を射た視点だと筆者も思う。実際、ポピュリズム的発言と裏腹に、トランプ氏はこれまで、ビリオネア(資産10億ドル超)5人とマルティ・ミリオネア(ビリオネアに次ぐ)6人を次期政権閣僚に指名している。

 皮肉にも、「大企業・ウォール街支配から離脱」と切望する白人中産階級がトランプ氏の最も熱い支持層と言われており、この一件から見ても、「トランプ氏の主張は信用できない」といったリスクは大きいと言わざるを得ない。

 言ってみれば、「トランプ・ラリー」自体がマーケットのポピュリズムであった可能性が大きい。

 さらに、中米対立や対ロシア関係など、トランプ政権がこれから遂行する政策は内政・外交におけるほぼすべての面において、多くの不確実性を持ち、また、かなり流動的だと言わざるを得ない。

 このような不確実性を、現在のマーケットはほぼ無視しているだけに、これから、それに直面しなければならないから、その代償も大きくなるケースが想定される。言ってみれば、ポピュリズムは長く続かず、必ず現実に敗れるハメになるから、その時、マーケットはまったく違う反応を見せてくれるはずだ。

■2017年ほど見通すのが難しい年はない! 2017年の見通しを述べる前に、長く「トランプノミクス」云々を述べてしまって申し訳ないが、実は前述の内容は、2017年の相場を見通す上で、重要なポイントを示唆している。すなわち、

1.2017年は「トランプノミクス」の真贋を含め、不確実性が多いから、簡単に見通せない上、現在の見通しについて距離を置いた方がよさそうだ。

2.2017年の見通しは、「トランプノミクス」がポピュリズムであり、また、幻想に終わるリスクを織り込まないといけない。

 ということだ。前者については、米国のみならず、EU、中国なども問題や懸念が多く、いつ、どこでいわゆる「ブラックスワン」が出てもおかしくないから、事前の想定がかなり難しい。

 後者に関しては、「トランプ・ラリー」がポピュリズム的な値動きであれば、行きすぎた分の修正はもちろん、場合によっては反動的な行きすぎも想定しなければならない。この意味では、2017年も激動の1年になりそうで、2017年ほど見通しが難しい年はないといえる。

 とはいえ、2017年の見通しを述べないといけないから…
FOMC後のドル急伸でクライマックスかも。 ドル高値追いを支持しない3つの理由とは? ブログ

FOMC後のドル急伸でクライマックスかも。 ドル高値追いを支持しない3つの理由とは?

■米ドル続伸の推進力は、利上げより「今後の見通し」 米ドルの全面高が、さらに加速してきた。ドルインデックスは14年ぶりの高値を更新し、リンクした形でユーロ/米ドルは14年ぶりの安値を更新、米ドル/円は一時、119の節目手前に迫った。

ドルインデックス 日足(出所:Bloomberg)

ユーロ/米ドル 日足

 

(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:ユーロ/米ドル 日足)

米ドル/円 4時間足(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:米ドル/円 4時間足)

 いわゆる「トランプ・ラリー」のさらなる続伸が、米利上げ後も続いていることを示している。

 もっとも、米利上げ自体は事前にマーケットに織り込まれていたと思われるから、FOMC(米連邦公開市場委員会)後の米ドル全体のさらなる急伸は、ややサプライズであった。

 一般的に「ウワサで買い、事実で売り」といったロジックや行動パターンが市場に存在するので、米ドルの続伸は、利上げよりも、これからの見通しが推進力になったに違いない。

 市場コンセンサスでは、「2017年は年2回の利上げあり」だったところ、FOMC声明文では「3回利上げあり」と示唆された。これを受け、米金利の上昇とともに米ドルはさらに買われた。 

米長期金利(米10年物国債利回り) 2時間足(出所:Bloomberg)

 リンクしたように、金と原油は売られた。

金価格 2時間足(出所:Bloomberg) 

原油価格 日足(出所:Bloomberg)

 トランプ氏はまだホワイトハウスに入っていないので、いわゆる「トランプノミクス」への期待感は当面続くから、米ドル高トレンドには死角なしと思われてもおかしくなかろう。

■米利上げ継続の見通し自体が流動的である点に注意! しかし、本当にそうだろうか。冷静に状況をもう1回点検すれば、違う側面が見えてくる。

 まず、米利上げ継続の見通し自体が流動的で、これから大きくぶれることが想定される。

 2015年年末に、米QE(量的緩和策)後初の利上げ時の状況を思い出していただければ、このような想定は決して戯言でないことがわかる。

 なにしろ、2015年年末に、FRB(米連邦準備制度理事会)自身も市場コンセンサスも「来年(つまり2016年)、4回利上げあり」と示していたことは、記憶に新しい。

 その上、よく考えるとわかるように、「トランプノミクス」への…
米国株の過熱感はリーマン前と同レベル! 今後、「トランプ大恐慌」が来る可能性大! ブログ

米国株の過熱感はリーマン前と同レベル! 今後、「トランプ大恐慌」が来る可能性大!

■ドルインデックスと米ドル/円の違いが鮮明に! 米ドル高の基調は維持されているものの、ドルインデックスを見た場合と米ドル/円を見た場合の違いが鮮明になってきた。

 ドルインデックスは、11月24日(木)につけた高値102.05をいまだに突破できずにいるが、米ドル/円の方は昨日(12月12日)、116.12円まで高値を更新している。 

ドルインデックス 日足 

(出所:Bloomberg)

米ドル/円 日足(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:米ドル/円 日足)

 いわゆる「トランプ・ラリー」が足元でも続いており、NYダウはつい昨日(12月12日)、15回目の史上最高値更新を果たした。 

NYダウ 日足(出所:Bloomberg)

 当然のように、15回目とは、トランプ氏が当選した11月9日(木)からの計算で、米ドル/円の上昇は、このような背景とリンクしているから、昨日(12月12日)の116円の節目打診があっても当然のものとみなされる。

 なにしろ、リスクオン・オフに敏感な米ドル/円が、米国株のパフォーマンスと緊密な相関性をもつことは、市場関係者なら、誰でも知っているはずだからだ。

■最近の米ドル/円は米国株次第 しかし、米ドル全体でみると、前述のように、ドルインデックスは米国株のパフォーマンスと相違し、「意外」にも11月後半から足踏みの状態が続いている。

 となると、米ドル全面高と言いながら、米ドル/円の急伸は、やはり、米ドルが強いのみではなく、円が弱いことに起因している側面が大きいのではないだろうか。円の強弱がリスクオン・オフに依存しているなら、米ドル全体の話よりも、米国株の動向を探ったほうが結論は出やすいかと思う。要するに、最近の米ドル/円は米国株次第である。

 昨日(12月12日)こそ、米国株主要三指数はまちまちだったが、先週(12月5日~)の5営業日はそろって毎日上昇していた。

NYダウ 日足(出所:Bloomberg)

ナスダック 日足(出所:Bloomberg) 

S&P500 日足(出所:Bloomberg)

 これは2011年9月以来の出来事で、米国株のオーバーボートが「トランプ・ラリー」の加速でさらに深刻化し、また、危険な水準に来ていると思われる。

 株式市場の過熱感を測るにはさまざまな指標があるが… 
トランプ・ラリーは米利上げまで!? ドル/円の ターゲットは120円より110円が現実的! ブログ

トランプ・ラリーは米利上げまで!? ドル/円の ターゲットは120円より110円が現実的!

 「トランプ・ラリー」が続いている。

 トレンドの進行が続くうちは、あとを追う形で次から次へと新しい材料が出てくる傾向があるが、今回も然りである。

■OPECの減産合意で再びリスクオンに 一昨日(2016年11月30日)、合意難航と言われたOPEC(石油輸出国機構)が、珍しく減産に合意した。これを受け、原油の急騰とともにリスクオンのセンチメントが再度刺激され、株高・円安・金安といった典型的な連鎖反応を引き起こし、米ドル/円は114.83円まで続伸した。 

原油 1時間足(出所:CQG) 

NYダウ 1時間足(出所:CQG) 

金価格 1時間足(出所:CQG) 米ドル/円 1時間足(出所:CQG)

 米ドル/円のオーバーボートは、前回コラムの指摘どおりだったが、このような材料に、さらに反応せずにはいられなかった。

【参考記事】

●正体はショート筋が踏み上げられたこと! スピード違反のトランプ・ラリーも終焉近し(2016年11月25日、陳満咲杜)

■「トランプ・ラリー」は一種のブラックスワンか 2008年のリーマンショックのあと、ブラックスワン理論が流行った。同理論とは、「『ありえないし、起こりえない』と思われていたことが、いったん急に起こってしまうと、予測できない、非常に強い衝撃を与える」というものだが、同定義に沿った形で今回の「トランプ・ラリー」を見てみると、これも一種の「ブラックスワン」ではないかと思う。

 なにしろ、トランプ氏の当選は予想されておらず、また、当選した場合はいわゆる「トランプショック」が想定されていたから、当選が確定した日(11月9日)から大逆転して、その後、一本調子の株高・円安・金安という進行は、どれも「ありえないし、起こりえない」とされる市況だった。

 が、「ブラックスワン」と呼ばれていないのは、株が急落ではなく、急伸したからだ。

 いわゆる金融危機は、株の暴落を伴っている。そして、当然のように、株安は「悪」である。

 しかし、為替の世界はそもそも通貨の交換関係の上に成り立つもので、米ドル高か円高かという違いはあっても、米ドル高は良い、円高は良くないといった区別はできない。したがって、今回の「トランプ・ラリー」は、少なくとも円の立場からみると、「ブラックスワン」と呼んでも間違いがなかろう。

■白いスワンでも黒いスワンでも、株が上がれば歓迎 実は「ブラックスワン」という表現は、やや過激ではあるが、今回の「トランプ・ラリー」の本質をよく説明できるかと思う。

 つまるところ、今だからこそ猫も杓子も「トランプ・ラリー」をあおっているが、実は彼らは今まで「ホワイトスワン」しか想定していなかった。また、「ブラックスワン」が出現しても、「たまたま」彼らが事前に予想していた株高・円安が大きく進行しているから、都合がよいというわけだ。

 ウォール街の面々は、直近までクリントン氏の勝利に賭け、精一杯、氏を応援してきた。なにしろ、ウォール街はトランプ氏の勝利となった場合は、株暴落を想定し、また、それにおびえていたのだ。

 ところがふたを開けてみると、予想はまったく外れたものの、相場の反応は事前の「クリントン氏当選の株高」と同じであるばかりか、想定をはるかに超えた株高の進行が確認された。

 よって、鄧小平氏の「白いネコでも黒いネコでも、ネズミを捕るネコはいいネコだ」と言わんばかりに、「白いスワンでも黒いスワンでも、株を上げるスワンは歓迎されるスワンだ」というのである。ウォール街のロジックは実に単純明快だ。

 予想外、また、事前に「ありえない」と思われる…
正体はショート筋が踏み上げられたこと! スピード違反のトランプ・ラリーも終焉近し ブログ

正体はショート筋が踏み上げられたこと! スピード違反のトランプ・ラリーも終焉近し

■米ドルの勢いは止まらず、一段と全面高に! 前回のコラムで予想した、米ドル全体の早期頭打ち、また反落するといった市況が見られず、むしろ一段と米ドル高になっている。

【参考記事】

●ドル/円は今晩から反落?トランプノミクスはウォール街のハゲタカが演出した幻想だ!(2016年11月18日、陳満咲杜)

 ドルインデックスは102の節目にトライ、2001年高値(約121)~2008年安値(約70.79)の全下落幅の半分程度を回復し、米ドル/円は一気に114円の節目手前に迫り、2015年高値(約125.86円)~2016年6月安値(約98.95円)の全下落幅の半値戻し(約112.41円)をすでに超えている。 

ドルインデックス 週足(出所:CQG)

米ドル/円 週足(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:米ドル/円 週足)

 いわゆる「トランプ・ラリー」がもたらした相場の大逆転、また変動率の拡大は為替相場に限った話ではないが、米ドル/円に限って言うと、この3週間の急伸は、事実上変動相場制に移って以来、もっとも大きな上昇率を記録したのではないだろうか。詳細なデータをチェックしないと言い切れないが、仮にそうでなくても、2番目の記録を達成したことは間違いないと思う。

■米ドル高の原動力はどこにある? となると、米ドルのブル(上昇)トレンドが継続され、これから米ドル全面高が続くといったシナリオが当然視されるが、ここで米ドル高の原動力がどこにあるかをもう1回確認しておきたい。

 既述したように、トランプ氏の当選はマーケットにとってサプライズだったが、それ以上にサプライズだったことは、やはり「トランプ・ラリー」の進行だと思う。この意味合いにおいて、「トランプ・ラリー」の行きすぎがあれば、勝者のみでなく、敗者サイドの事情も見なければならないかと思う。

【参考記事】

●トランプ・バブル!? 暴落から急反発はなぜ? ドル/円は100円をめざす前に110円打診か

 米ドル/円の話なら単純だ。

 トランプ優勢が伝わった11月9日(水)の朝から米ドルのショートポジションが積み上げられ、同日夜、米国株の上昇とともに、ショート筋が踏み上げられ、その後の米ドル上昇につながった。

 その後、米ドルのロング筋が米ドル高を推し進める一方、急速な米ドル高の進行を見て、「ここまでの米ドル高は行きすぎだろう」と思った新規ショートの参入が、米ドルを一段と押し上げた可能性が大きい。

 換言すれば、史上まれに見る米ドル高のスピード違反を、売りチャンスととらえた新規ショート筋が結果的にまた踏みあげられたので、「行きすぎた」米ドル高がさらなる「行きすぎ」をもたらしたわけだ。このような構図は、米ドル全体にも通用するかと思う。

 もっとも、相場が行きすぎかどうかを測るのは、決して容易なことではない。また目先の相場のように、「行きすぎ」の判断自体が正しいとしても、必ずしもトレードの根拠としてよい結果につながるとは限らないのが相場の難しいところだ。

 とはいえ、一本調子の相場がこのまま継続されていくことは当然ない上、あまりにも見られない一本調子の市況だから、冷静に再考する価値があると思う。

 筆者は、前回のコラムにて指摘した可能性…
ドル/円は今晩から反落?トランプノミクスは ウォール街のハゲタカが演出した幻想だ! ブログ

ドル/円は今晩から反落?トランプノミクスは ウォール街のハゲタカが演出した幻想だ!

■米ドル全面高、米ドル/円は110円の大台突破 前回のコラムでは、トランプ氏当選がもたらしたいわゆる「トランプ・ラリー」の継続性に疑問を呈したものの、米ドル/円に関してはいったん110円の大台打診ありという見方も示した。足元の市況は、まさにそのとおりの展開だと思う。

【参考記事】

●トランプ・バブル!? 暴落から急反発はなぜ? ドル/円は100円をめざす前に110円打診か(2016年11月11日、陳満咲杜)

米ドル/円 4時間足(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:米ドル/円 4時間足)

 東京時間の今朝(11月18日)未明、イエレンFRB(米連邦準備制度理事会)議長が議会証言で、12月の次回会合での利上げを示唆したことを受け、米ドル全体が一段と買われ、目先、ドルインデックスは101の節目を突破、13年ぶりの高値を再更新した。米ドル全面高の一環として、米ドル/円の110円の大台突破も、当然の値動きと受け止められるだろう。

ドルインデックス 週足(出所:CQG) 

米ドル/円 1時間足  (リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:米ドル/円 1時間足)

■米ドル/円のほぼ一本調子の急伸はスピード違反 もっとも、テクニカルの視点では、110円の大台の打診が容易に推測されるが、それにしても、現在のようなほぼ一本調子の急伸は、どちらかというとスピード違反だとみる。この意味合いにおいて、この米ドル/円の急伸は前回のコラムにて提起した「トランプ・ユーフォリア」の行きすぎを象徴する出来事であり、スピード違反自体が示唆に富んでいる。

【参考記事】

●トランプ・バブル!? 暴落から急反発はなぜ? ドル/円は100円をめざす前に110円打診か(2016年11月11日、陳満咲杜) 

 ところで、テクニカル上の測り方として、110円の節目打診の推測は至ってシンプルだった。

 11月9日(水)のチャートが、非常に長い「下ヒゲ」を形成して「リバーサル」のサインを点灯していたから、その日の値幅の「買返し」、すなわち「105.90-101.16+105.90=110.64」(11月9日の高値=105.90円、安値=101.16円だった)の計算式で得られたわけで、執筆中の現時点で、すでに110.64円を超えているから、目標は達成されたと言える。

 では、ここから米ドル/円のさらなる上昇余地があるだろうか。

 結論から申し上げると、ここからさらに2~3円程度の上値余地があってもおかしくないが、少なくともスピード調整なしでは無理だと思う上、目先の110円台後半打診自体がかなりオーバーボートのサインを灯しているから、スピード調整があれば、また「激しさ」を伴う可能性が大きいのでは…と思うくらいだ。

 もっとも、スピード調整とはいえ、必ずしも… 
トランプ・バブル!? 暴落から急反発はなぜ? ドル/円は100円をめざす前に110円打診か ブログ

トランプ・バブル!? 暴落から急反発はなぜ? ドル/円は100円をめざす前に110円打診か

■一番のサプライズは市場の反転スピード! トランプ米大統領の誕生で、サプライズの連続があった。そもそも、トランプ氏が当選すること自体がマーケットにとってサプライズであったが、さらに市場関係者を驚かせたのが、その後のマーケットの反応だった。

 筆者にとっては、いわゆる「トランプ・ショック」がもたらした市場の急落自体は当然視していたから、まったく問題ではなかった。

 また、その後の米国株をはじめとしたマーケットが回復し、逆に高値を更新していくことも、今まで何回も経験してきたから、それほどサプライズとは言えなかった。

 しかし、何より驚いたのは、その反転のスピードだった。

 開票日の11月9日(水)に、NYダウ先物は時間外で約5%も下落していたが、ニューヨーク時間では主要3指数(NYダウ、ナスダック、S&P 500)がそろって大幅高となり、結局、NYダウは1.4%高で大引けとなった。

NYダウ先物 1時間足(出所:CQG) 

NYダウ 1時間足 (出所:CQG) 

ナスダック 1時間足 (出所:CQG) 

S&P500 1時間足 (出所:CQG)

■日足で見ると、さまざまなチャートがヒゲだらけ! それとリンクした形で、米ドル/円は101.16円まで売られたものの、結局、11月9日(水)当日は105.90円まで反騰し、7月27日(水)以来の高値をつけた。

 そして、当日(11月9日)の始値が104.97円だったから、日足のチャートは長い「下ヒゲ」をつけた反転となり、その「下ヒゲ」の部分が、昨年(2015年)の「人民元ショック」の8月24日(月)よりも長かったことに、実に驚いた。

米ドル/円 日足 (出所:CQG)

 米ドルの対極として、ユーロの値動きはもっと激しいものだった。ユーロ/米ドルはザラ場高値の1.1299ドルから1.0904ドルまで急落、そして、当日の始値が1.1018ドルだったから、日足では長い「上ヒゲ」をつけた大陰線となった。やはり、こんなに長い「上ヒゲ」は、近年まれに見るものだ。 

ユーロ/米ドル 日足(出所:CQG)

 同日に同じ長い「上ヒゲ」をつけたゴールドの日足も印象的で、総じて米ドルの強さを証左している。

金(ゴールド) 日足(出所:CQG)

 当然のように、一昨日(11月9日)のドルインデックスは長い「下ヒゲ」を持つ陽線になった。大引けした際の足型自体も、なかなか見事というか、滅多に見られないチャートであった。 

ドルインデックス 日足(出所:CQG)

■トランプ・ショックどころか、トランプ・バブルの様相 今となって、なぜこのような激しい反転がみられたかについて、多くの解釈が行われたが、後解釈にすぎないと思う。というのは、市場自体のパフォーマンスからしても、事前のセンチメントにしても、そもそもトランプ氏の当選が予想されていなかったから、今さら「トランプ・ショックが一時的」云々と言っても説得力に欠ける。

 ただし、後解釈でも正論であるなら、聞いておく価値はある。

 いろんな解釈があったものの、要するにトランプ氏は積極財政スタンスを表明していたから、経済成長やインフレへの期待が高まり、株が買われ、債券が売られたということだ。米10年物国債の利回りは大きく上昇し、2016年2月以降ではじめてハッキリ2%を超えた。日米金利差の拡大が米ドル高・円安につながったのも当然な成り行きだという。 

米長期金利(米10年物国債の利回り) 日足(出所:CQG)

 この勢いでNYダウは昨日(11月10日)、史上最高値を更新し、「トランプ・ショック」どころか、「トランプ・バブル」の様相を呈している。 

NYダウ 1時間足(出所:CQG)

 が、勝ち組の米国株の中、ナスダックの下落が目立ったように、明暗が分かれたものもあったから、トランプ氏の政権運営に市場の期待と不安が入り混じっているとも読み取れる。 

ナスダック 1時間足(出所:CQG)

 そもそもトランプ氏は商売人ではあるが、政治家として… 
FBIによってリスクオフ再開!誰が大統領に なろうが、ドル/円は95円あたりをめざす!? ブログ

FBIによってリスクオフ再開!誰が大統領に なろうが、ドル/円は95円あたりをめざす!?

■「トランプショック」再来! 市場はリスクオフムードに 先週(2016年10月28日)のコラムの最後を、「値動きに反映されるきっかけとして、やはり、どこかで何らかのリスクオフ要因が出てくるのではないだろうか。そして、そのタイミングも近づいていると思う」と締めくくったが、その後のリアルな市況はそのとおりであった。

【参考記事】

●主要国長期金利上昇、イタリア国民投票、米大統領選…リスクオフの材料が山積み!(2016年10月28日、陳満咲杜)

 米ドル全体が10月28日(金)から大きく反落し、ドルインデックスは一時97の節目に迫り、米ドル/円も103円の節目を一時割り込んだ。いわゆる「トランプショック」がまた巻き戻してきたからだ。

ドルインデックス 1時間足(出所:CQG)

米ドル/円 4時間足(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:米ドル/円 4時間足)

 FBI(米連邦捜査局)がクリントン女史のメール問題に対して捜査再開を表明し、米国株の下落とともにリスクオフのムードが再び高まってきた。リスクオフの場合、決まって登場してくるのが円高だから、今さらサプライズ云々とは言えない。 

NYダウ 1時間足(出所:CQG)

■ウォール街はなぜトランプ氏よりクリントン氏を支持する? ところで、今回はクリントン氏に対する捜査だから、「トランプショック」よりも「クリントンショック」と呼ぶべきであろう。それでも「トランプショック」の再来と言われるのは、トランプ氏の政策や主張に対し、マーケットには強い不信感や警戒心がある現れにほかならない、と思う。

 ウォール街はほぼ一辺倒に、クリントン支持だと言われる。しかし、ウォール街に厳しい見方をしばしば示し、また、重税を課すと主張するクリントン氏を支持するバンカーたちのスタンスは、ちょっと矛盾しているようにみえる。

 詰まるところ、この点を理解するには、ごくシンプルな法則が動いているというわけだ。すなわち、両者とも「最悪」だが、より「悪い奴」を切り捨て、比較的に「マシ」のほうを選ばないといけない。それだけだ。

 では、クリントンとトランプの違いはどこにあるか、どうしてトランプがより「悪い奴」とされてきたのか。

 要するに、クリントン女史は総じて現行政策の継承者であるのに対し、トランプ氏は基本的に破壊者である。この違いが決定的であり、また、ウォール街やマーケットの好悪を決定づけたわけだ。

 リスクオン・オフの視点から説明すると、歴史的な高値圏におる米国株が決して破壊者を歓迎できず、また、マーケットが一番嫌うのは不確実性なので、何をやるかわからないトランプ氏の当選に対する恐怖も当然根強い。

 先週のコラムの執筆時点では… 
主要国長期金利上昇、イタリア国民投票、 米大統領選…リスクオフの材料が山積み! ブログ

主要国長期金利上昇、イタリア国民投票、 米大統領選…リスクオフの材料が山積み!

■米ドル高の理由は債券市場にあり! 米ドル高が続いている。ドルインデックスは一時99の節目を打診し、米ドル/円も昨日(10月27日)から105円の大台乗せに成功した。米12月利上げが確実視され、米ドル高の原動力になっている模様だ。

ドルインデックス 日足(出所:CQG) 

米ドル/円 1時間足(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:米ドル/円 1時間足)

 一方、本コラムがすでに指摘していたように、そもそも米12月利上げがあるとしても、それは「早期利上げ」ではなく、「晩期利上げ」となるから、相場はとっくにこれを織り込んでいたはずだ。では、なぜ「今さら」の米ドル高なのか。

【参考記事】

●ドル高は続くのか? 「FRBの利上げ詐欺」に対し、市場はストックホルム症候群に!?(2016年10月21日、陳満咲杜)

 この答えは、債券マーケットから出そうである。その発端となったのは、先にEU離脱を決定した英国だ。

 英3Q(第3四半期)GDPの数字が予想より改善されたことを受け、英10年物国債は大幅に下落、利回りは1.28%へ急上昇し、EU離脱以来の最高レベルを更新した。 

英長期金利(英10年物国債の利回り、日足)(出所:CQG)

 それを受けた形で独国債市場も下落した。独10年物国債の利回りは0.17%まで上昇し、5ヵ月ぶりの高い水準を記録した。テクニカル的に、同利回りが2016年年初来初めて200日線を突破したのは、市場関係者に注目されるサインだと言える。 

独長期金利(独10年物国債の利回り)(出所:CQG)

 英独両国の「異変」が間もなく米国へ影響し始めた。米10年国債利回りも1.85%へ上昇、同じく5ヵ月ぶりの高値を記録した。 

米長期金利(米10年物国債の利回り)(出所:CQG)

 このように、主要国の債券市場の利回りがそろって上昇(債券価格は下落)、結果的に米ドルを押し上げたわけだ。何しろ、米ドルは2016年年内利上げを有力視され、利回りにもっとも敏感である。

 そのうえ、根本的にはECB(欧州中央銀行)、日銀など米国以外の緩和政策が続かないのでは、といった懸念が強まっているからだ。マーケットは「潮」の変わり目を見極めようとしており、債券市場も神経質な値動きを見せているわけだ。

 要するに、世界主要国の債券市場が長い間上昇して… 
ドル高は続くのか? 「FRBの利上げ詐欺」 に対し、市場はストックホルム症候群に!? ブログ

ドル高は続くのか? 「FRBの利上げ詐欺」 に対し、市場はストックホルム症候群に!?

■米ドル全面高が鮮明に! その背景は? ドルインデックスが先週(10月10日~)、2016年7月高値を更新、足元98.50前後まで上昇し、米ドル全面高の基調が鮮明になっている。米「早期利上げ」観測の高まりがもっとも大きな背景だとされる。

ドルインデックス 日足(出所:CQG)

 しかし、前回の本コラムが指摘したとおり、2016年年内に米利上げがあっても、とても「早期」と言えなくなっているから、そもそも「米利上げがあるから米ドルが買われる」といったロジック自体が奇妙に思われる。

【参考記事】

●英ポンドの底はまだまだ下だが、もはや「早期」でない米利上げでドル高はムリ!?(2016年10月14日、陳満咲杜)

■イエレン議長が示した「高圧経済」とは? その上、先週末(10月14日)のイエレンFRB(米連邦準備制度理事会)議長の発言が、明らかにハト派だったことも見逃せない。

 イエレン議長は、「高圧経済」という新しい言い方をして、一時的に景気が過熱することを容認する考えを示した。議長の発言が、各地区連銀総裁の利上げ催促姿勢を牽制する目的かどうかは定かではないが、2016年年初来、ずっと金利を据え置いてきたことの妥当性を強調し、自らの主導権を示したことは間違いない。

 わざわざ新しい言い方をしてまで金利据え置きの理由を強調しているから、イエレン議長に対する逆風も強かったと思われる。

 何しろ、マーケットは散々FRBの「利上げ詐欺」にあってきた。その都度、波乱を余儀なくされ、今回もその可能性があるのだ。

 換言すれば、「規定路線」とされる12月利上げ自体が100%確実だと言い切れないから、事前に何らかの伏線を張った方がよいという判断があったのではないだろうか。

■市場の「ストックホルム症候群」って? このあたりのことに関して、10月16日(日)に、市場の「ストックホルム症候群(※)」というやや過激なタイトルを付けた分析を書いたので、以下に開示しておきたい。

(※編集部注:「ストックホルム症候群」とは、犯罪の被害者が、加害者と長時間共に過ごすことによって、加害者に共感し、過度に同情したり、好意を持ったりすることをいう)

 14日の米国債相市場では利回り曲線がスティープ化し、5年債と30年債の利回り差は3月以来の大幅な拡大となった。これは明らかにイエレン議長の話が反映した結果だと思う。

 イエレン議長が「高圧経済」をしばらく維持することを表明、成長トレンドの一部を修復するという自分のロジックを披露したわけで、あきらかにハト派の基調を強めていた。

 利上げを正当化できるほど米経済が強いかどうか経済指標に注目が集まっているが、もはや「早期利上げ」でなくなる目下、12月利上げの確率も言われるほど高くないのでは。何しろ、「高圧経済」なら、景気が過熱するのを容認し、また加熱するかどうかを見極める目下では、よほど強い指標が出ない限り、状況が流動的だ。

 もっとも不確実の高い材料は米大統領選だ。政治的な暗示をできないから、イエレンさんが「高圧経済」云々を指摘しはじめたではないかとさえ疑われるが、いずれにせよ、こういったコンセプト、かつての日本にはなかった。

 新しい単語とコンセプトが出たが、市場関係者はさほどサプライズしていないでしょう。というのが、イエレンさんの話、ハト派的なことは間違いないが、これまでもハト派だったから、今更驚くわけにはいかない。しかし、スタンスの再確認という意味では、従来観測の後退をもたらすでしょう。

 というのが、フェデラルファンド(FF)金利先物市場の動向によると、12月までの利上げ確率は約69%。9月27日の時点では50%だったことに鑑み、大分上昇してきたので、12月利上げが「規定路線」と勘違いされやすいところ、「高圧経済」云々を持ち出すこと、実に妙手だと思われる。

 だから、FRBの「利上げ詐欺」に散々やられたとしても、マーケットはその度興奮し、また「やられること」を甘受してきた。市場の「ストックホルム症候群」をコントロールするには、FRBは世界の中央銀行として一枚も二枚に上手なわけだ。

 ゆえに、しばらくドル高基調が続くとしても、目先限定的であろう、「高圧経済」のコンセプトを完全に消化するまで・・・

 この意味では、現在の米ドル高基調…