今井雅人の「どうする? どうなる? 日本経済、世界経済」

トランプ相場で「米国買い」状態だがすべて 憶測による値動き。崩れる局面あるかも… ブログ

トランプ相場で「米国買い」状態だがすべて 憶測による値動き。崩れる局面あるかも…

■トランプ相場!? 金利高・株高・米ドル高が継続 これは「トランプ相場」と言うべきなのでしょうか? トランプ氏が米大統領選挙に勝利して以来、一貫して金融市場では大きな動きが続いています。

 簡単に言えば、金利高・株高・米ドル高という流れです。「米国買い」と言っても良いような現象です。株式市場にいたっては、連日史上最高値を更新し続けています。

米長期金利(米10年債利回り) 日足 (出所:CQG)

NYダウ 日足(出所:CQG)

米ドル/円 4時間足(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:米ドル/円 4時間足)

 前回のコラム以降、なぜこれほどまでに市場が反応しているのか? 正直、よく理解できません。

【参考記事】

●トランプ大統領誕生で暴落後に株高・円安へ!だが、トレンドを作ると考えるのは早計!?(11月10日、今井雅人)

■当初の予想と逆。NYダウ、取引時間中の最高値更新! 市場関係者の多くは、トランプ氏が勝利したら、株価は急落して米ドルも下落すると予想していました。

トランプ氏が勝利すると、株価は急落して米ドルも下落する! なんて…実際のマーケットは、そんな市場関係者の当初の予想を盛大に裏切る展開に (C)Scott Olson/Getty Images

 しかし、前回のコラムで紹介したとおり、大統領選の開票が進み、トランプ氏のリードに安定感が見えると、まったく逆の反応をしてしまっています。

【参考記事】

●トランプ大統領誕生で暴落後に株高・円安へ!だが、トレンドを作ると考えるのは早計!?(11月10日、今井雅人)

 ここ最近の動きを見ていると、世界中のヘッジファンドが一番のプレーヤーです。彼らは、債券を売り、株を買い、そして米ドル、特に米ドル/円を買いまくっています。

 米10年債利回りは、11月14日(月)に一時2.3006%まで急騰。ダウ平均も同日、1万8934.05ドルまで上昇し、史上最高値を更新しました。

 米ドル/円は、11月16日(水)のNY市場で一時109.758円まで急速に値を上げていますが、こんなに簡単に態度を変えられるものなのかと、かなりびっくりしています。

■米長期金利上昇の背景とは? ここまでの相場は、かなり憶測によるものであります。

 まず、トランプ氏は積極的な財政出動をすると言っており、これは、株式市場にも好材料と受け止められています。減税を実施するという政策を打ち出していますが、これもまた、株価にはプラス材料です。

 財政出動を積極的に行うと、長期金利は上昇する傾向にあります。また、景気が良くなれば、利上げの可能性も高まるので、ますます長期金利には上昇圧力がかかります。

 長期金利が急上昇している背景は、そうした期待によるものでしょう。

 米ドルに関しては…
<i style=”font-style:normal;font-size: 97%;”>トランプ大統領誕生で暴落後に株高・円安へ!</i> だが、トレンドを作ると考えるのは早計!? ブログ

<i style=”font-style:normal;font-size: 97%;”>トランプ大統領誕生で暴落後に株高・円安へ!</i> だが、トレンドを作ると考えるのは早計!?

■まさかのドナルド・トランプ米大統領誕生! ドナルド・トランプ米大統領の誕生。一体どれぐらいの人がこの結末を予想していたでしょうか?

2016年の米大統領選は、大接戦の末、ヒラリー・クリントン氏優勢との前評判をひっくり返し、ドナルド・トランプ氏が勝利した(C)Steve Pope/Getty Images

 今回多くの人を驚かせたこの事態は、米国の格差問題に対する不満と人種間の対立がいかに深刻であるかを改めて認識させられる結果となりました。

■トランプ氏リードが報じられて、一時、金融市場が混乱! 金融市場も一時、大混乱となりました。

 もともとヒラリー・クリントン氏が勝てば、緩やかなリスクオン、ドナルド・トランプ氏が勝てば市場はパニックになると予想されていました。

【参考記事】

●山場は3つだが最大の山場は米大統領選。トランプ氏当選なら市場はパニック状態に!!(11月2日、今井雅人)

 開票が進み、フロリダでの形勢が何度か逆転したことで荒い値動きを繰り返したあと、トランプ氏がリードを拡大。また、重要視されていたノースカロライナやオハイオでもトランプ氏の優勢が伝えられた時から、金融市場の混乱は始まりました。

 株式市場は、ダウ平均先物が800ドルを超える急落、日経平均も1000円を超える暴落となったほか、米ドル安、そして、円高が進みました。

日経平均 日足(出所:株マップ.com)

 米ドル/円は、一時101.193円まで売り込まれたほか、米10年債利回りは一時1.7145%まで急激に低下するなど、米国の長期金利も一時的に急低下しました。

■トランプ勝利宣言の演説は、落ち着いていて好印象 しかし、トランプ氏が勝利宣言の演説をしたところからムードが一変。

トランプ氏が勝利宣言の演説をして以降、相場の雰囲気が一変 (C)Scott Olson/Getty Images

 まず、非常に落ち着いた演説だったことが大きかったです。大統領になったら何をしでかすかわからないという不安を多くの人が感じていましたが、あの落ち着いた演説を聴いて、その不安は杞憂なのではないか?というムードが広がりました。

 また、ヒラリー・クリントン氏を褒め称え、米国国民にノーサイドを訴えかけたのも好印象でした。

 さらに、彼は積極的な財政出動をして高速道路網を整備するとともに、大規模な減税をしていくことを表明したことが、株式市場に好感されました。

■米長期金利上昇! 株価急騰! 米ドル上昇へ! こうした影響で、米国の長期金利が急上昇し、株式市場も急騰、米ドルも大幅に上昇する展開となりました。

 米10年債利回りは、なんと2.0882%まで急騰! ダウ平均は310ドルを超える上昇となったほか、米ドル/円は一時、105.891円まで買い上げられています。

米長期金利(米10年債利回り) 1時間足(出所:CQG)

NYダウ 1時間足(出所:CQG)

米ドル/円 1時間足(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:米ドル/円 1時間足)

 さて、今後の展開ですが…
山場は3つだが最大の山場は米大統領選。 トランプ氏当選なら市場はパニック状態に!! ブログ

山場は3つだが最大の山場は米大統領選。 トランプ氏当選なら市場はパニック状態に!!

■日銀会合は終了。追加緩和による円安可能性は低い 日銀の金融政策決定会合は、とりあえず無難に終わりました。

 物価目標の2%達成の時期を先送りしましたが、これにも、特段反応はありませんでした。ただ、日銀は焦って追加緩和政策をやらなくて良くなったということだけは言っておきたいと思います。

 つまり、追加緩和によるさらなる円安という展開は、当面は可能性が低くなったということです。

■FOMCでは来月の利上げを匂わせる表現が出てくるか その上で今週(10月31日~)以降、3つの山場があります。

 まず、本日11月2日(日本時間:3日午前3時)に結果が出るFOMC(米連邦公開市場委員会)です。

 今回のFOMCでの利上げは、ほぼありません。ただ、2016年12月のFOMCでの利上げ観測が高まっている中で、今回の声明文に来月の利上げを匂わせる表現があるかどうかが焦点です。

 利上げを匂わせる表現があれば、当然、米ドル高という反応になるでしょう。

米ドル/円 週足(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:米ドル/円 週足)

■10月米雇用統計の結果にも注目したい 2つ目は、今週末11月4日(金)に発表される米雇用統計10月分の結果です。前回の結果は、失業率が5.0%、非農業部門就業者数は前月比15.6万人の増加でした。

米雇用統計(詳しくはこちら → 経済指標/金利:米国主要経済指標の推移)

 今回の予想は、失業率が4.9%、非農業部門就業者数が前月比17.5万人の増加となっています。12月の利上げの可能性を占う経済指標であり、注目度は高くなっています。

■一番大きなイベントは、やはり11月8日の米大統領選! 3つ目が、一番大きいです。

 来週、11月8日(火)に実施される米大統領選です。

 これまで、米大統領選挙の結果で相場が大きく動いたことは、あまり記憶にありません。しかし、今回はこれまでとは大きく異なります。それは、ドナルド・トランプ氏の存在です。

過去に米大統領選でそれほど大きく相場が動いたことはないが、今回は特別。だって、ドナルド・トランプ氏が出馬していますから… (C)Chip Somodevilla/Getty Images

 彼は、米国至上主義とも言うべき強硬派。米国経済を守るため、伝統的な保護主義に回帰する主張をしています。日本に対しても、非常に強硬姿勢です。

 米国の雇用を守るため、米国の日本に対する貿易赤字についても、「米国のためになっていない」と痛烈に批判しています。彼が大統領になれば、円高圧力が高まることは間違いありません。

 また、日本に対して駐留する米軍の費用を負担しろと圧力をかけてきますので、株価にとってはマイナス要因です。

日経平均株価 日足(出所:株マップ.com)

 もし、ドナルド・トランプ氏が当選…
米利上げ観測から米ドル高地合いは続くが 米ドル/円の105円上抜けは簡単ではない ブログ

米利上げ観測から米ドル高地合いは続くが 米ドル/円の105円上抜けは簡単ではない

■ECBでのテーパリング議論はやはり時期尚早だった 前回のコラムでは、10月20日(木)のECB(欧州中央銀行)定例理事会で、ここのところテーパリング(※)を検討しているのではないか? という憶測が市場に流れていることに関して、「欧州経済は依然として下振れリスクを抱えているため、テーパリングの議論は時期尚早。ECBは、この可能性について否定的な見解を示す可能性が高いのではないか」とお伝えしました。

(※編集部注:「テーパリング」とは、量的緩和政策により、進められてきた資産買い取りを徐々に減少し、最終的に購入額をゼロにしていこうとすること)

【参考記事】

●ECBのテーパリングは時期尚早とみる。一目均衡表で主要通貨ペアを分析すると…(10月20日、今井雅人)

 実際には、ドラギECB総裁が定例理事会後の記者会見で、「量的緩和の延長は議論しなかった」と発言したことを受け、いったんはユーロ/米ドルの買いで反応したものの、ドラギ総裁は直後に「テーパリングの議論もしなかった」ことにも言及。

 今度は一転して、ユーロ/米ドルの売り浴びせという反応となりました。

ユーロ/米ドル 4時間足(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:ユーロ/米ドル 4時間足)

■売り込まれたユーロ/米ドル。戻りも限定的… その後もユーロ/米ドルは、米長期金利の上昇などにつれて下落し、10月25日(火)には、一時1.08512ドルまで売り込まれています。

 ドラギECB総裁が講演で、「このような低金利を過度に長期間続けるのは良くない」との見解を示したことが伝わり、ショートカバーが強まる場面もみられましたが、戻りも極めて限定的なものに留まりました。

ユーロ/米ドル 1時間足(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:ユーロ/米ドル 1時間足)

■米長期金利は、高止まり状態に 一方で、米長期金利は、かなり高止まりとなっています。

 ベンチマークとなっている米10年債利回りは、10月17日(月)に一時1.8119%まで上昇したあと、いったんは調整の動きとなっていましたが、製造業PMIやサービス部門PMIなど、普段はそれほど重要視されていない数字が予想を上回る強い数字となったことを受けて、再び上昇。

 本日10月27日(木)のアジア時間では、一時1.8091%まで上昇しています。

米長期金利(米10年債利回り) 1時間足(出所:CQG)

■米ドル高地合いは続くだろう。英ポンド/米ドルも戻り鈍い 金利先物価格から算出される直近のFFレート予想織込み度では、12月14日(水)のFOMC(米連邦公開市場委員会)での利上げを72.6%まで織り込んだ状況となっており、このところの米ドル高を後押ししているようです。

 英ポンド/米ドルも、来週11月3日(木)のMPC(英金融政策委員会)を控えて追加緩和観測なども台頭しており、戻りの鈍い相場展開が続いています。

英ポンド/米ドル 日足(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:英ポンド/米ドル 日足)

 やはり、米国の金利引き上げ観測が高まる中では、全般的な米ドル高の地合いは続くと考えています。

 ただ、ショートカバーの動きは急なことが多く、入り方を間違うと長い間、我慢しなければならなくなる可能性もあります。戻りをしっかりと見極めて売っていきたいところです。

 さて、米ドル/円ですが…
ECBのテーパリングは時期尚早とみる。 一目均衡表で主要通貨ペアを分析すると… ブログ

ECBのテーパリングは時期尚早とみる。 一目均衡表で主要通貨ペアを分析すると…

■こう着状態に入った相場。米ドル/円も104円維持できず… この1週間(10月14日~)の動きを見てみると、相場はこう着状態に入っています。

 堅調だったニューヨークの株式市場も、高値圏でジグザグ運動を始めています。

NYダウ 日足(出所:CQG)

 FOMC(米連邦公開市場委員会)でさらなる利上げに関して、一定の方向性が出てくるまでは、なかなか動きづらいということでしょう。

 米ドル/円も104円台を維持することができず、再びレンジ内に戻ってきています。大きな材料がない限り、トレンドを作るのは難しいでしょう。

【参考記事】

●不安材料満載のユーロ、英ポンドは売り! ドル/円は100~105円のレンジ相場入りか(10月13日、今井雅人)

米ドル/円 4時間足(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:米ドル/円 4時間足)

■原油価格の下値は底堅い。資源国通貨は堅調に推移 原油価格は、堅調です。

 OPEC(石油輸出国機構)加盟国の臨時総会で実質的な減産合意がなされ、非加盟国のロシアがそれに追随する意向を示して以来、原油価格は下値が堅くなってきました。

【参考記事】

●OPEC原油「減産」合意でリスクオンだが、とりあえず影響は一時的とみる理由は?(9月29日、今井雅人)

WTI原油先物 日足(出所:CQG)

 中国の7-9月期のGDPが年率で6.7%と、3期連続で同じ結果となったことについては、どちらかと言うと市場は好意的に受け止めています。原油価格を含む資源価格にとっては好材料でしょう。

 当然、資源国通貨である豪ドルやNZドルなどには買い材料となっています。これらの通貨は、堅調に推移するでしょう。

豪ドル/米ドル 4時間足 (リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:豪ドル/米ドル 4時間足)

NZドル/米ドル 4時間足 (リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:NZドル/米ドル 4時間足)

 さて、欧州の方に目を向けてみると…
不安材料満載のユーロ、英ポンドは売り! ドル/円は100~105円のレンジ相場入りか ブログ

不安材料満載のユーロ、英ポンドは売り! ドル/円は100~105円のレンジ相場入りか

■米雇用統計発表後、米ドル/円はしっかりと雲を上抜けた 前回のコラムで「重要となってくる」とお伝えしておいた9月米雇用統計は、非農業部門雇用者数が15.6万人となったほか、失業率が5.0%、平均時給が0.2%と、いずれも市場予想を下回る弱い数字となりました。

【参考記事】

●雲の上限上抜けか!? ここ2、3日が大事!ドル/円は、チャート的にも重要ポイントに(10月6日、今井雅人)

 米ドル円/は102円台後半まで下落したものの、結局、そこからは下値を切り上げる展開となり、一目均衡表の雲をしっかりと上抜けることになりました。

米ドル/円 日足(出所:ヒロセ通商)

 どうやら、下押しした場面では、しっかりとした「本邦機関投資家の買い」が断続的に観測されていたようです。

■FOMC議事録公表後、米ドル/円はさらに上昇! また、昨日(日本時間:10月13日未明)発表されたFOMC(米連邦公開市場委員会)議事要旨(9月20日~21日分)でも言及されているように、「金利据え置きは、僅差の決定だった」ほか、「大部分のメンバーがリスクは、ほぼ均衡と判断している」ことから、年内の利上げ期待はかなり強いです。

 そういった状況を反映してか、米長期金利も、このところ上昇基調を高めています。米10年債利回りは、一時1.7992%をつけました。

 米ドル/円は、10月12日(水)には、米長期金利の上昇を受けて一時104.484円まで上昇。本日13日(木)のアジア市場でも、さらに買われて104.635円まで値を上げました。

米ドル/円 1時間足(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:米ドル/円 1時間足)

 ただ、9月の中国貿易収支が市場予想を大幅に下回る弱い結果だったことをきっかけに、日経平均が一転して下落するにつれて、一気に103.558円まで急落することになりました。

日経平均株価 1分足(出所:株マップ.com)

■米ドル/円は100円~105円程度のレンジ相場に入ったか こういった動きを見ていると、米ドル/円は、目先ポジションがロングに傾いてしまっているように感じます。実需勢の買いを背景に、市場がロングポジションを増やしていった結果が、本日10月13日(木)のような値動きにつながっているのでしょう。

 まだまだ大きなトレンドが転換したとは言えず、おそらく100円から105円程度のレンジ相場に入っているのではないかと考えています。

 現状は、極めてニュートラルな状況でしょう。

米ドル/円 日足(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:米ドル/円 日足)

 一方で、欧州通貨は…
雲の上限上抜けか!? ここ2、3日が大事! ドル/円は、チャート的にも重要ポイントに ブログ

雲の上限上抜けか!? ここ2、3日が大事! ドル/円は、チャート的にも重要ポイントに

■ニュースが複合的に重なって、小さな円安トレンドが出現 先週(9月26日~)後半から今週(10月3日~)にかけて円安が進行しています。

 決定的な円安要因はありませんでしたが、さまざまなニュースが複合的に重なって、小さな円安トレンドとなりました。

世界の通貨VS円 4時間足(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:世界の通貨VS円 4時間足)

■OPEC非公式会合の減産合意や年金の株買い・外貨買い まず、OPEC(石油輸出国機構)の非公式会合での減産合意です。

 それに関しては、前回のコラムで紹介したとおりです。

【参考記事】

●OPEC原油「減産」合意でリスクオンだが、とりあえず影響は一時的とみる理由は?(9月29日、今井雅人)

 さらに今週に入って、9月決算を終えた後、新しい期に入った年金などが、株買い・外貨買いをしてきています。新規投資の分であると見られます。

■日銀の金融政策は、表面上は金融引き締めか もう1つは、日銀の金融政策に対する見方です。

 日銀は、今までの金融政策を大きく変えて、長期金利の水準をコントロールするという方針を取りました。これをどう考えるかは、見方が大きく分かれています。私自身は、今回の措置は単純な緩和ではないと考えていました。

 日本の長期金利は、すでにマイナスの水準になっています。その状態で長期金利をゼロあたりにコントロールすると言っているのですから、表面上はどう見ても金融の引き締めです。

 マイナス金利をゼロへもっていくためには、日銀は、毎日購入している国債の量を減らしていく必要があります。これを市場は、テーパリング(量的緩和の縮小)と取るのでないかと考えていました。

 また、いよいよ量的金融緩和に限界が来たのではないか?という印象も与えるのではないかと考えました。

■長い目で見れば、金融緩和なのでは? との見方で円安に 実際に、当初市場は、そういう印象を持ったような反応を見せました。

 発表当日(9月21日)の値動きをみると、新たな政策が決定された直後こそ102.793円まで買い上げられたものの、海外市場に入ると一転して売り込まれる展開に。結局、100.293円まで急落しました。

 つまり、円安には反応しなかったわけです。

【参考記事】

●日銀に手詰まり感。政策に新鮮味なし!年内にドル/円は95円あたりまで下落か!?

米ドル/円 4時間足(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:米ドル/円 4時間足)

 しかし、その後、時間が経過すると、これは逆に言えば長期的に長期金利を低水準に留めておく政策であり、むしろ長い目で見れば金融緩和ではないのか?という見方も出てきました。

 それによって、現在、円安が進んでいるという面もあります。

 また、9月のFOMC(米連邦公開市場委員会)での…
OPEC原油「減産」合意でリスクオンだが、 とりあえず影響は一時的とみる理由は? ブログ

OPEC原油「減産」合意でリスクオンだが、 とりあえず影響は一時的とみる理由は?

■OPECが臨時総会では、8年ぶりに原油「減産」で合意 OPEC(石油輸出国機構)は、9月28日(水)、非公式の臨時総会を開催しました。

 これに先立ってさまざまな折衝や個別の会談なども行われていたようですが、サウジアラビアとイランの利害の対立で、事前の予想では、合意は困難ではないかとみられていました。

 しかし、予想に反して、加盟14カ国の原油生産量を日量3250万~3300万バレルに制限することで一転、合意しました。

 OPEC加盟国・14カ国は2016年8月時点で、日量3324万バレルを生産しており、今回の合意は「減産」の意味合いがあるということです。

 OPECが減産するのは、金融危機直後の2008年以来、約8年ぶりのこととなります。

■原油「減産」合意を受けて、マーケットはリスクオンに! この決定を受けて、昨日9月28日(水)のNY市場では、WTI原油先物価格が急騰し、それが契機となって各市場でリスクオンの動きになっています。

WTI原油先物 1時間足(出所:CQG)

 日経平均も29日(木)は、一時290円以上、上昇し、為替市場では円安が進行しています。

日経平均株価 日足(出所:株マップ.com)

世界の通貨VS円 30分足(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:世界の通貨VS円 30分足)

 どうして、原油価格が上昇するとリスクオンになるのか? やや不可解ではありますが、原油価格の下落によって新興国の景気が低迷し、それが世界経済にマイナスの影響を与えている、という認識が、市場の中には根強くあるのかもしれません。

■具体的な内容を詰めるのは、2016年11月のことなので… 実際には、2016年11月の総会で具体的な内容を詰めるという運びになるので、かなり先の話であります。

 今後の折衝次第では、各国の利害関係が対立するなど、不安定な状況になる可能性も残されており、とりあえず、影響は一時的と考えておきたいところです。

■米ドル/円、100円割れを試したが、下へは抜けず 一方で、この決定がなされる前、米ドル/円は、何度か100円割れを試しにいったのですが、結局、下に抜くことができませんでした。

 直近では9月27日(火)のアジア時間に、100.081円まで売り込まれたものの、その後は、次第に下値を切り上げています。

米ドル/円 1時間足(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:米ドル/円 1時間足)

 いろいろと市場にヒアリングをしてみたところ、短期の投機筋は下に抜かせようと米ドル売りを何度も仕掛けていたものの、100円近辺には、日本の実需の買い注文とオプション関連の買いがかなり並んでいたために、下に抜くことができなかったようです。

 短期的には、少しドルショートになっているようでありますから、それが巻き戻すことで米ドル買いの勢いが少し強まるかもしれませんが、そういった動きが一巡すれば、またレンジ相場に戻るという展開になるのではないでしょうか。

 ところで…
日銀に手詰まり感。政策に新鮮味なし! 年内にドル/円は95円あたりまで下落か!? ブログ

日銀に手詰まり感。政策に新鮮味なし! 年内にドル/円は95円あたりまで下落か!?

■日銀の決定内容は現状の金融政策の延長戦でしかない 9月21日(水)、日銀は金融政策決定会合において、金融緩和強化のための新しい枠組み「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を決定しました。

記者会見に応じる黒田総裁。2016年9月の会合で日銀は、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を決定。仰々しいタイトルとは裏腹に、新鮮味に欠ける内容か (C)Bloomberg/Getty Images

 タイトルは仰々しいですが、結局は、現状の金融政策の延長戦でしかないという印象です。

 まず、2%の「物価安定目標」の実現時期をこれまで明記していましたが、今回はそれを放棄し、「できるだけ早期に実現する」という表現に変えました。そして、その対策として以下の2点を謳っています。

<長短金利操作付き量的・質的金融緩和の内容>


・ 長短金利の操作を行う「イールドカーブ・コントロール」

・ 消費者物価指数の実績値が安定的に2%の「物価安定の目標」を超えるまで、マネタリーベースの拡大方針を継続する「オーバーシュート型コミットメント」

■市場関係者も馬鹿ではない。日銀の手詰まり感が… 難しいことを言っているようですが、さらに記述を読み込んでいくと、今後の具体的な追加緩和の手段は、詰まるところ以下のとおりです。

<追加緩和の手段>


・ 短期政策金利の引下げ

・ 長期金利操作目標の引下げ

・ 「量的・質的金融緩和」以来実施してきた資産買い入れの拡大

・ マネタリーベースの拡大の加速

 ご覧のとおり、内容にまったく新鮮味はなく、従来の政策の焼き写し、あるいは拡大に過ぎません。

 日銀としては、新たな表現を使うことで市場に新しいメッセージを届ける意図であったと推察されますが、現実は厳しいです。

 市場関係者も馬鹿ではありません。

 逆に、日銀の政策の手詰まり感を広げる結果となってしまいました。

■緊急会合を開催しても、円安への巻き戻しは一時的 発表当初は、若干円安に振れたものの、その効果は、わずか数時間しか維持できず、黒田日銀総裁の定例記者会見が始まると同時に円高方向に反転することとなりました。

【参考記事】

●日銀追加緩和があっても効果は短期的! 若干ドル高・円安になったら絶好の売り場(9月8月、今井雅人)

米ドル/円 1時間足(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:米ドル/円 1時間足)

 その後、財務省、日銀は危機感を強め、昨日22日(木)には祝日にも関わらず、金融庁も含めた3者合同の緊急会合を開催しました。

 かなり円高方向にバイアスがかかっていたために、会合開催に対して敏感に反応し、円安方向への巻き返しが起きていますが、これも一時的なものでしょう。

米ドル/円 1時間足(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:米ドル/円 1時間足)

■円売り介入は無理。議論しても、小田原評定に過ぎない 現実的に考えれば、この水準で通貨当局ができることは極めて限られています。

 もっともわかりやすい対応策は、為替市場での円売り介入ですが、現在の国際社会において、激しい動きに対する対応は正当化されうるものの、水準だけで介入を行うのは非常に困難です。

 最近の円相場の緩やかな動きの中で、円売り介入を実施するのは、まず無理というのが現実です。

 日銀も新しい金融緩和を実施したばかりです。これ以上の対策は、今はできません。となると、結局は議論をするだけの小田原評定(※)でありましょう。

(※編集部注:「小田原評定」とは、豊臣秀吉が北条氏の小田原城を大軍で攻めたとき、籠城していた北条方が評定(会議)を開いたものの、長期間に渡って方針を決められず、ついには滅ぼされてしまったことから、「長い期間、議論をしても、なかなか結論が出ない会議」のことを指す言葉)

 また、FOMC(米連邦公開市場委員会)は…
9月米利上げの可能性は、ほぼなくなった。 米ドル/円は上がりようがなく、戻り売り! ブログ

9月米利上げの可能性は、ほぼなくなった。 米ドル/円は上がりようがなく、戻り売り!

■もっとも注目される日、9月21日(水)を巡る憶測 前回のコラムでは、9月21日(水)が今月、もっとも注目される日となっていることをお伝えしました。

【参考記事】

●日銀追加緩和があっても効果は短期的! 若干ドル高・円安になったら絶好の売り場(9月8日、今井雅人)

 それは、FOMC(米連邦公開市場委員会)と日銀金融政策決定会合が同時に開催されるからですが、今週(9月12日~)は、日米金融政策を巡って、さまざまな憶測が台頭することになりました。

■ハト派がタカ派寄り発言! もう1人のハト派は…? FOMCの利上げを巡る議論ですが、市場では9月9日(金)のNY時間に、ローゼングレン米ボストン連銀総裁が、「穏やかな金融引き締めを正当化する妥当な根拠がある。引き締め見送りの過剰な長期化は、リスク」との見解を示したことに焦点が当てられました。

 持ち回りのFOMC投票メンバーの中でも「ハト派」で知られるローゼングレン米ボストン連銀総裁の「タカ派」寄りの発言を受けて、米長期金利が急騰。

米長期金利 日足(出所:CQG)

 一気に「9月利上げ」への憶測が高まったのですが、週明け9月12日(月)には「ハト派」の代表格であり、しかも、2016年の大統領選挙でクリントン政権が誕生した場合の次期財務長官候補の筆頭が、急遽、講演を開催。

 そのブレイナードFRB(米連邦準備制度理事会)理事は、講演「米国経済と金融政策」のなかで、「緩和解除では慎重さを維持する必要がある。予防的な引き締めのシナリオには説得力がない」などと、これまでの持論を改めて主張することになりました。

■ハト派によるハト派な講演が急遽開催された理由 市場では、ブラックアウト(※)直前でFOMCの意向を織り込ませる目的ではないか? との憶測が台頭していたワケですが、実際の講演内容を見る限り、「急遽」開催した意味はそこではないと考えられます。

(※編集部注:「ブラックアウト」とは、FOMC直前の一定期間において、当局関係者がコメントを差し控える期間のことをいう)

 9月利上げの雰囲気が作られるなかで、FOMCの都合というよりは、自己の主張をきちんとしておかなければならないというブレイナードFRB理事本人の都合による講演だった可能性が高いです。

 FOMC内部がこんな状況である以上、9月利上げのハードルがさらに上げられただけで、利上げの可能性は、ほぼなくなったと思っています。

■日銀の総括検証の内容が、リークされて… 一方で、日銀金融政策決定会合については、9月13日(火)の夕方に日経新聞が「財務省が40年債の増発を正式に決定した」と報じたほか、NY時間に入ってからは、日経電子版に14日(水)朝刊一面トップの記事が掲載されました。

 そこでは、「決定会合の総括検証の内容」がほぼ網羅されていました。

 マイナス金利政策を軸に据え、一段の深掘りも検討されるほか、国債購入では長短の金利差拡大(イールドカーブのスティープニング)を促すことになりました。また、2%の物価目標は堅持するものの、2年という時間軸は事実上撤廃する方針であることも判明しました。

 そして、マイナス金利の深掘りは、翌14日(水)に「1%から2%に拡大」する方針であることがリークされたほか、「外債購入」は対象としないことも報じられています。

 さて、為替相場ですが…