今井雅人の「どうする? どうなる? 日本経済、世界経済」

ジョンソン英首相が窮地!? 英ポンド急騰! しかし、英ポンドはいずれまた売られる ブログ

ジョンソン英首相が窮地!? 英ポンド急騰! しかし、英ポンドはいずれまた売られる

■合意なき離脱懸念から、英ポンドは下落 先週(8月26日~)から今週(9月2日~)にかけては、最近にない激しい相場展開となりました。

 政治要因で相場が動いているときは、本当に恐ろしいと改めて思い知らされた1週間でした。

 まず、一番のきっかけは英国のEU(欧州連合)離脱、いわゆるブレグジット(BREXIT)に関して。

 当初、いよいよ政局が混乱してきて、10月末の合意なき離脱が現実化してきたのではないかということで、英ポンドが売られ、英ポンド/米ドルは最近の安値を更新。英ポンド/円も、最近の安値に迫る展開となりました。

【参考記事】

●市場を膠着させている4つの「摩擦」とは? 英ポンドはブレグジット後の最安値更新も!?(8月22日、今井雅人)

●円高になりやすいのは自明の理。ドル/円の106円台半ばあたりは、良い売りレベルか(8月29日、今井雅人)

●合意なき離脱の可能性が徐々に高まる! 英ポンド/米ドルは1.15ドル目指す動きに!?(9月3日、バカラ村)

英ポンド/米ドル 日足(出所:TradingView)

英ポンド/円 日足(出所:TradingView)

■議会の反撃でジョンソン首相が窮地。英ポンドは急騰 このまま続くかと思われていましたが、ここから英議会の反撃が始まります。

 まず、EU離脱に関して、「EUとの合意が期限までに得られない場合、期限を3カ月延長することをEUに要請しなければならない」という法案を野党側が提出してきました。

 この審議についての動議に対して、与党の一部が造反して賛成に回り、法案の審議に入ることが決まりました。これで市場は動揺します。

 審議に入れば、可決される可能性が高く、そうなると10月末の合意なき離脱の可能性がかなり低くなるからです。

 これに対して、ジョンソン英首相は、議会を解散して10月15日(火)に総選挙を実施しようとしましたが、解散に必要な議会の3分の2の賛成を得られず、総選挙を実施することができなくなりました。

 これで、ますますジョンソン英首相は窮地に陥り、EUに離脱期限延長を要請しなければならない可能性が高くなってきました。

 EU離脱に対して強気の姿勢を見せていたジョンソン英首相にとっては、大きな打撃です。

ジョンソン英首相は議会を解散して10月15日(火)に総選挙を実施しようとしたが、議会の3分の2の賛成を得られず、実施できなくなった。EUに離脱期限延長を要請しなければならない可能性が高くなり、ジョンソン英首相にとって大きな打撃 (C)Justin Sullivan/Getty Images

 こうした状況を受けて、英ポンドは急騰。英ポンド/米ドルは1.23ドル台、英ポンド/円は132円台まで一気に跳ね上がりました。

英ポンド/米ドル 日足(出所:TradingView)

英ポンド/円 日足(出所:TradingView)

 次に、香港の行政長官が…
円高になりやすいのは自明の理。ドル/円の 106円台半ばあたりは、良い売りレベルか ブログ

円高になりやすいのは自明の理。ドル/円の 106円台半ばあたりは、良い売りレベルか

■トランプ大統領の暴走止まらず! 米企業が中国から撤退!? トランプ米大統領の暴走が、さらに酷くなってきています。

 中国が報復として関税の引き上げを決定したことを受けて、激しい口調で中国を攻撃し、中国に対しての、さらなる関税措置を発表しました。

中国が報復措置として米国からの輸入品に対する追加関税を決定したことを受け、トランプ米大統領は激しい口調で中国を攻撃し、中国に対するさらなる関税措置を発表。今井氏はトランプ米大統領の暴走が、さらに酷くなってきていると指摘 (C) Chip Somodevilla/Getty Images News

 それを受けて、USTR(米通商代表部)は8月28日(水)、トランプ米大統領が提示した総額3000億ドル相当の中国製品に対する関税率を5%引き上げ、15%にすると官報で正式に発表しました。

 引き上げは2段階で行われ、9月1日(日)に約1250億ドル相当の製品を対象とし、残りは12月15日(日)付で実施することになります。

 9月の引き上げでは、スマートウォッチ・Bluetooth(ブルートゥース)ヘッドフォン・薄型テレビ・靴などが対象となり、12月分は携帯電話・ノート型パソコン・おもちゃ・衣類などが対象となります。

 また、これまで25%の関税をかけていたものに対しても、5%の関税引き上げを10月1日(火)に実施することを明らかにしています。さらには、トランプ米大統領は米国企業に対して、「中国から撤退するように」と発言するありさまです。

【参考記事】

●1月のフラッシュクラッシュとの違いは何? ドル/円は窓を埋めたが中期的には101円へ!(8月26日、西原宏一&大橋ひろこ)

●投機筋の円買いはまだ積み上がる余地あり! 米ドル/円は106円台後半にかけて戻り売りか(8月27日、バカラ村)

....better off without them. The vast amounts of money made and stolen by China from the United States, year after year, for decades, will and must STOP. Our great American companies are hereby ordered to immediately start looking for an alternative to China, including bringing..

— Donald J. Trump (@realDonaldTrump) August 23, 2019■振り回されて、非常にやりにくい相場に… こうしたことを受けて、一時、急激な円高が進み、米ドル/円も104円台まで米ドル安・円高が進む展開となりました。

 しかしその後、「中国が再交渉をしたいと言ってきている」とトランプ米大統領が発言すると、一転して円安の展開となっています。

米ドル/円 4時間足(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:米ドル/円 4時間足)

 こういう政治相場は、要人の発言などで振り回されてしまうので、非常にやりにくいというのが実際です。

 少し、脇で見ているしかないかなと、考えているところです。

■円には上昇圧力。米ドル/円の戻り売り水準は? ただ、世界経済全体が減速傾向に入ってきているのは間違いないと思うので、金融緩和の余地がもっとも少ない円に上昇圧力がかかるのは、自明の理ではないかと考えています。

【参考記事】

●円高はあっても、米ドル安にはならない!? 荒れ相場で勝者になるためのトレードは?(8月16日、今井雅人)

●米ドル/円は107円近辺へ反発すれば売り! 円安に戻っていく可能性は極めて低い!?(8月8日、今井雅人)

 そうであれば、円安になったところで、米ドル/円、クロス円(米ドル以外の通貨と円との通貨ペア)で円買いポジション(=売り)を作るのが、一番、確度の高いトレードではないかと思います。

 米ドル/円の106円台半ばあたり、ユーロ/円では118円台は、良い売りレベルではないでしょうか。

米ドル/円 日足(出所:TradingView)

ユーロ/円 日足(出所:TradingView)

 政治の混乱は、英国でも続いています…
市場を膠着させている4つの「摩擦」とは? 英ポンドはブレグジット後の最安値更新も!? ブログ

市場を膠着させている4つの「摩擦」とは? 英ポンドはブレグジット後の最安値更新も!?

■米中協議決裂なら米ドル/円は105円割れへ!? 金融市場は一時的に、こう着状態に入ってしまいました。これは、各地域での摩擦の行方が、不透明であることが原因でしょう。

 まず、米中貿易交渉です。

 9月1日(日)に、米国政府は中国からの輸入品への追加関税を実施する予定です。米国の消費への影響が大きいものに関しては、年末(12月15日)まで延期するという変更をしたものの、その他に関しては、今のところ予定どおり実施することになります。

 それ以降、9月の上旬に、米中の閣僚級会議が開催される予定となっています。私は、合意に達するのはかなり困難だと思っていますが、まだ、よくわかりません。推移を見守りたいと思います。

【参考記事】

●円高はあっても、米ドル安にはならない!? 荒れ相場で勝者になるためのトレードは?(8月16日、今井雅人)

米中閣僚級会議は9月に再開される予定だが、合意に達するのはかなり困難だろうと今井氏は推測している。写真は2019年6月に開催された大阪G20時のもの (C)Visual China Group/Getty Images

 完全に決裂してしまった場合は、米ドル/円は105円を割り込んでくるだろうと考えています。

米ドル/円 日足(出所:TradingView)

■日米貿易交渉の争点はどこに…? 2つ目は、日米貿易交渉です。

 これに関しては、水面下で協議が続いているほか、今週(8月19日~)に入って、ワシントンで閣僚級会議が行われています。今のところ、その進捗状況は、よくわからないままです。

 ポイントは、農業と自動車ですが、農業の方はTPP(環太平洋パートナーシップ協定)と同水準ということで、何とかまとまるのではないかと考えていますが、問題は自動車の方です。

 日本は、米国からの自動車の輸入には関税をかけているわけではないので、日本側としては、本来は特別な措置は必要ありません。しかし、それでも米国側は満足しないと思うので、どういう妥協点があるのか、難しい判断を迫られると思います。

今井氏は日米通商交渉のポイントが自動車問題になりそうだと指摘。本来なら特別な措置は必要ないはずだが、米国側が満足するとは思えず、日本は難しい判断を迫られることになりそうだとも… 写真は2018年4月の日米首脳会談時のもの (C)Joe Raedle/Getty Images

 輸入割り当てなどは、とても日本としては呑めるものではないので、その他にどういう交渉ができるのか、今のところ不透明です。

■日韓貿易摩擦は韓国へのダメージが大きい!? 3つ目は、日韓貿易摩擦です。

 これに関しては、当事者である日本と韓国は国内世論を考えると、一歩も退けない状況にあるので、第三国の仲介が必須だと思います。

 それは、本来、米国が担うべき役目であると思うのですが、肝心のトランプ米大統領には、まったくそんな気はなく、むしろ両国に対して批判を続けています。

 そういう状況を考えると、事態の打開にはかなりの時間がかかると思います。

 すでに、韓国では不買運動や日本への旅行自粛が広がっていますが、全体的に見て、日本経済に対する直接的な影響は、それほどでもないと思います。ただ、韓国側は、基幹産業である半導体での売り上げに影響するわけですから、かなり打撃になる可能性があります。

韓国総合株価指数(KOSPI) 日足(出所:Bloomberg)

 そうなると、局地的とはいえ、新興市場に多少の影響が出てくる可能性はあるでしょう。しかしながら、私は韓国内での金融市場への影響を除けば、全体的にはあまり気にすることはないかなと考えています。

 こうした問題を抱えているので…
円高はあっても、米ドル安にはならない!? 荒れ相場で勝者になるためのトレードは? ブログ

円高はあっても、米ドル安にはならない!? 荒れ相場で勝者になるためのトレードは?

■米中貿易戦争で相場は乱高下 ここ1週間ほどは、相場が乱高下してきています。すべてはトランプ米大統領が仕掛けた、米中貿易戦争の影響です。

 今週(8月12日~)、その影響が出た、典型的な出来事がありました。

 8月13日(火)にトランプ米大統領が、一部の中国製品の関税延期を表明。USTR(米通商代表部)は声明で、「コンピューター、ビデオゲーム端末、一部の玩具、パソコンのモニター、一部の履物や衣料品などに対する関税措置の発動を12月15日(日)まで延期する」と表明しました。

 また、これとは別の製品群も、「安全性や国家安全保障などの観点から除外される」ことを明らかにしました。

トランプ大統領は8月13日(火)、9月1日(日)に予定していた中国に対する関税第4弾のうち、一部製品に対する措置を延期すると発表 (C) Chip Somodevilla/Getty Images News

 トランプ米大統領は記者団に対し、「一部関税の影響が米消費者に及ばないよう、クリスマスなどの年末商戦に配慮し、決定した」と述べています。

■過剰反応を悟って逆流。今後も続く…!? この発表により、米国の株式市場が急上昇し、リスクオンから円安が進む局面がありました。

 しかし、翌日(14日)、その影響は一気に吹き飛び、NYダウは1日で800ドル以上も下落。為替相場も円高に急展開しました。

NYダウ 日足(出所:Bloomberg)

世界の通貨VS円 1時間足(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:世界の通貨VS円 1時間足)

 今回の措置は、米国内での消費に影響があることを考慮したものであり、交渉が前進した結果ではないというのが実情でした。

 そのため、発表直後は市場も驚いてリスクオンで反応しましたが、冷静になると過剰反応であったことを悟り、逆流を起こすという流れとなっています。

 こうした反応は、特に金利市場で顕著で、長短金利のイールドが逆イールドになったり、すぐ修正をしたりという展開が続いています。

 現在の相場展開は、政治的な理由で市場が荒れてきたときの典型のような動きを見せています。

 こういうときは、噂レベルの話にも敏感に反応して、一瞬にして乱高下するような事態も、よく起きます。今後も、そういう展開が続くと思います。

【参考記事】

●米国債に逆イールド発生で米景気後退か? NYダウは800ドル安! 米ドル/円は…!?(8月15日、西原宏一)

●株価を暴落させた逆イールドとは? 逆イールドは景気後退の予兆って本当?

 さて、ここで相場展開を改めて…
米ドル/円は107円近辺へ反発すれば売り! 円安に戻っていく可能性は極めて低い!? ブログ

米ドル/円は107円近辺へ反発すれば売り! 円安に戻っていく可能性は極めて低い!?

■米中の対立深刻化で、金融市場は大混乱 トランプ米大統領が「9月1日(日)から中国に対して追加関税をかける」と発表してから、約1週間が経ちました。

...during the talks the U.S. will start, on September 1st, putting a small additional Tariff of 10% on the remaining 300 Billion Dollars of goods and products coming from China into our Country. This does not include the 250 Billion Dollars already Tariffed at 25%...

— Donald J. Trump (@realDonaldTrump) August 1, 2019 米国のこうした措置に対して、中国側も米国からの農産物購入を一時停止するという、対抗措置に出ています。

 さらに、米国は中国を「為替操作国」として認定し、今後、IMF(国際通貨基金)に対して、中国へ圧力をかけるよう働きかけていくことを、明らかにしています。

 益々、米中の対立が深刻化する中、金融市場も大混乱に陥っています。

米ドル/円 4時間足(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:米ドル/円 4時間足)

■FOMCは9月にも追加利下げか!? そこで、この間の金融市場の反応について一応、整理をしておきます。

 まず、今回の米中貿易戦争の深刻化を受けて、今後、世界経済が全体的に落ち込むという懸念が広がったというのがベースにあります。そして、それがさまざまな金融市場に連鎖反応を起しています。

 米国はトランプショックの直前に、FOMC(米連邦公開市場委員会)で0.25%の利下げを決定したばかりでしたが、この事態を受けて、市場金利はさらに低下しています。米国の10年物国債利回りは一時、1.5%台まで低下しました。

米長期金利(米10年債利回り) 日足(出所:Bloomberg)

 ここ2~3年で一時、3.2%台まで上昇していたことを考えると、半分になってしまいました。

 短期金利の先物も、9月の利下げを織り込んできています。FOMCも、この米中貿易交渉がこのままの状態であれば、9月に利下げに踏み切らざるを得ないでしょう。

【参考記事】

●米ドル/円波乱の最大の要因は?トランプ氏の対中ツイートは「きっかけ」にすぎない!(8月2日、陳満咲杜)

■典型的な「リスクオフの円買い」が進行 株式市場も世界経済の悪化を懸念して、米国を中心に世界同時安の動きとなりました。

NYダウ 日足(出所:Bloomberg)

日経平均 日足(出所:Bloomberg)

 このような状態になると、「リスクオフ」の流れが本格化するため、為替市場では債権国である日本の円が買われるという、典型的なパターンになっています。

 米ドル/円も、105円台まで一気に米ドル安・円高が進みましたが、その他の通貨に対しても円全面高という流れになっています。

世界の通貨VS円 4時間足(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:米ドル/円 4時間足)

 それと同時に、米ドル金利が低下したということで、米ドル安も全体的に進んでいますが、円高のほうが際立っています。

 さて、米中は9月初旬に再び…
FOMC後の米ドル高は極めて自然な反応。 でも、その流れが続かないと考える理由は? ブログ

FOMC後の米ドル高は極めて自然な反応。 でも、その流れが続かないと考える理由は?

■FOMCでは予想どおり0.25%の利下げが決定! 今日から8月。7月は非常に好調だったのですが、野球選手と同じで、いつもうまく行き続けるとは限りません。気を引き締めてやっていきたいと思うので、引き続き、よろしくお願いします。

 さて、昨日(7月31日)の米国では、注目のFOMC(米連邦公開市場委員会)の結果が発表されました。

 政策金利は予想どおり0.25%の利下げで、一部の人が期待していた0.5%の大幅利下げとはなりませんでした。

※誘導目標レンジの上限を掲載

※FRBのデータをもとにザイFX!が作成

 また、9月末に予定されていたテーパリング(※)の停止を前倒しするかもしれないとの見方がありましたが、こちらは2カ月前倒しして、8月1日(水)をもって停止することを決めました。

(※編集部注:「テーパリング」とは、量的緩和政策により、進められてきた資産買い取りを徐々に減少し、最終的に購入額をゼロにしていこうとすること)

【参考記事】

●107円台前半からの米ドル/円反発予想が的中した理由は? 7月FOMCの焦点はここ!(7月25日、今井雅人)

●いよいよ運命のFOMC! 米利下げが実施されたらドル安? ドル高?(7月26日、陳満咲杜)

●主要国の中銀が通貨安合戦へ!? FOMCの注目点と米ドル/円の今後の行方を予想!(7月30日、バカラ村)

■FOMC慎重な判断をトランプ大統領が非難!? そして、一番注目が集まったのは、声明文の内容です。そこに、次の利下げに関して何らかの示唆があるのかどうかがポイントでした。

 その部分に関しては、将来のさらなる金融緩和を示唆するような内容はなく、将来の金利の調整に関しては、「これから出てくる経済指標などをよく分析した上で判断する」という、とても慎重な言い回しになりました。

2019年7月FOMC声明文の一部※ザイFX!にて編集

(出所:FRB)

 こうした一連の慎重な判断に対して、トランプ米大統領は「失望した」と激しく批判しています。

....As usual, Powell let us down, but at least he is ending quantitative tightening, which shouldn’t have started in the first place - no inflation. We are winning anyway, but I am certainly not getting much help from the Federal Reserve!

— Donald J. Trump (@realDonaldTrump) July 31, 2019■中央銀行の矜持を示したFRB 個人的に言わせてもらえば、米中貿易協議はまだこれからで、しかし、足元の経済指標は好調なわけですから、今後の緩和姿勢を求める方が、本当はおかしいです。

 FOMCは当たり前の判断をしただけだと、私は思っています。そういう意味においては、パウエルFRB(米連邦準備制度理事会)議長を含め、FOMCのメンバーは、中央銀行の矜持を示したということになるではないでしょうか。

約10年半ぶりの利下げを決定したFOMC。大幅な金融緩和を求めていたトランプ大統領からは非難を浴びているが、今井氏はFOMCは当たり前の判断をしただけで、中央銀行の矜持を示したと指摘。写真はパウエルFRB議長 (C)Bloomberg/Getty Images News

 FOMCの結果発表後は…
107円台前半からの米ドル/円反発予想が 的中した理由は? 7月FOMCの焦点はここ! ブログ

107円台前半からの米ドル/円反発予想が 的中した理由は? 7月FOMCの焦点はここ!

■FRB関係者の発言で米ドル安になったが… 先週(7月15日~)から今週(7月22日~)にかけての動きを見ると、FRB(米連邦準備制度理事会)関係者がさらなる利下げの可能性について言及したことで、一時的に米ドル安が進む局面がありましたが、結局また、米ドルが買い戻されています。

米ドル/円 4時間足(出所:TradingView)

 私は、自身が行っている有料メルマガの中で、米ドル/円が107円台前半になったとき、これはすぐに米ドルが買い戻されるという主旨の配信をしましたが、どうしてそう考えたのかを、ここでもう一度、説明したいと思います。

【参考コンテンツ】

●ザイFX! FXプレミアム配信 With今井雅人

■0.5%の利下げは考えられない! 現在、来週(7月29日~)のFOMC(米連邦公開市場委員会)で、利下げが行われるかに市場の関心が集まっているのは、周知のとおりです。

 冒頭のFRB関係者による言及は、その中での利下げ発言だったのですが、このときの金利の先物市場を見ると、来週(7月29日~)のFOMCで0.5%の利下げをする確率を、6割ほど織り込んでいました。

 しかし、ここ数年、FOMCでの金利の上げ下げは、必ず0.25%でした。

※誘導目標レンジの上限を掲載

※FRBのデータをもとにザイFX!が作成

 現下の米国の状況を見ると、確かに米中貿易交渉など、不透明な材料もありますが、さまざまな景気指標を見ると、まだ、米国の景気はしっかりしています。

 リーマン・ショック並みの景気後退が起きていれば別ですが、今のような状況で一気に0.5%も利下げすることは、まず考えられません。こんなことは、少し考えればわかるはずです。

■過剰反応には、その分だけ修正が入る しかし、市場というのは、ときに過剰反応をしてしまうことがあります。そしてそういう場合、ほとんどのケースは、その過剰反応の分だけ修正が入ります。今回のケースも、その典型的な例だと思っています。

【参考記事】

●市場の過剰反応は利益を上げるチャンス! 米ドル/円は当面、逆張り戦略が有効か?(7月11日、今井雅人)

 つまり、下がり過ぎた金利はその分だけ上昇し、売られ過ぎた米ドルも買い戻される可能性が、かなり高いと考えたということです。

ドルインデックス 4時間足(出所:Bloomberg)

 一般的に、市場の方向性を予測するのは…
FOMC前までレンジ相場か。でも、今後は 円高圧力がかかりやすい。そのワケとは? ブログ

FOMC前までレンジ相場か。でも、今後は 円高圧力がかかりやすい。そのワケとは?

■これから10日間ぐらいはレンジ相場が続きそう 今、国内は参議院議員選挙で、金融市場も、ややお休み状態になっています。

 7月の終わりには、FOMC(米連邦公開市場委員会)を控えているということもあり、当面は様子見の相場が続くと思っています。これから10日間ぐらいは、基本的には、まだレンジ相場が続くのではないでしょうか。

 ここ最近の動きから大きく逸脱するようなことは、恐らくないと思うので、そこから考えると、米ドル/円のレンジとしては106.70~108.70円、ユーロ/米ドルも1.1170~1.1330ドル程度かなと考えています。

米ドル/円 日足(出所:TradingView)

ユーロ/米ドル 日足(出所:TradingView)

 この想定レンジの中で、売り買いの戦略を立てるということになります。

■緩和余地が大きい米国と緩和余地が狭い日本 さて、今回は今後の展開を考えてみます。

 まず、FOMCですが、これに関しては今のところ、恐らく0.25%の利下げを実施するのではないかと予想しています。その場合は、市場の想定通りなので、相場への影響はあまりないだろうと考えています。

 むしろ、市場はその次の利下げがいつになるのかに注目をすると思うので、声明文の内容やパウエルFRB(米連邦準備制度理事会)議長の発言に注目が集まるでしょう。

 さらなる利下げを示唆する発言が出てくれば、米ドル安に反応する可能性は非常に高くなってくると思っています。

FOMCでは、すでに予想されている0.25%の利下げよりも、その次の利下げがいつになるのかに注目が集まると思われる。パウエルFRB議長がさらなる利下げを示唆すれば、米ドル安に反応する可能性は非常に高い (C)Bloomberg/Getty Images News

 もし今回、利下げを見送るようなことがあれば、米ドルはかなり上昇すると思いますが、その可能性は極めて低いでしょう。

 ただ、現在の世界全体の景気状況を見ると、各国とも金融を緩める方向に向かうのは間違いありません。

 その場合、もっとも緩和の余地が大きい国は、現在の金利水準が高い米国で、もっとも緩和の余地が狭いのが日本です。

 そうなると、金融政策という面で考えると、やはり円高圧力がかかりやすいということになると思っています。

 次に、参議院議員選挙が終わると、いよいよ日米貿易交渉が…
市場の過剰反応は利益を上げるチャンス! 米ドル/円は当面、逆張り戦略が有効か? ブログ

市場の過剰反応は利益を上げるチャンス! 米ドル/円は当面、逆張り戦略が有効か?

■強かった米雇用統計。米ドル高転換の予想もあるが… 先週、7月5日(金)に発表された、米国の雇用統計6月分は、非農業部門の就業者数が22万4000人の増加と、予想の16万人増加を大きく上回りました。この水準は、5カ月ぶりの伸びとなります。

※米労働省労働統計局のデータをもとにザイFX!が作成

 この結果を受けて、米国の長期金利(10年物国債利回り)が急上昇し、2%を超えてきました。

米長期金利(米10年債利回り) 日足(出所:Bloomberg)

 また、為替市場でも米ドル高の展開となりました。

米ドルVS世界の通貨 4時間足(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:米ドルVS世界の通貨 4時間足)

 この発表のあと、今後、米ドル高に転換していくと予想している人がいるようですが、私はまったく、そう思いません。

【参考記事】

●強い雇用統計。今週はパウエル議長証言に注目! 材料顕在化でユーロ/円戻り売りか(7月8日、西原宏一&大橋ひろこ)

■米ドル高は市場の歪みが原因! まず、頭に入れてほしいことは、そもそも、この雇用統計発表前に、市場はかなり歪んでいたということです。

 米国の短期金利の先物市場を見ると、指標(雇用統計)の発表前は、7月に実施されるFOMC(米連邦公開市場委員会)において、0.5%の利下げが決定される水準まで織り込んでいました。

 ここ数年、FOMCでは、利下げにしろ、利上げにしろ、1回につき0.25%の金利変更を実施してきました。それにも関わらず、今回、0.5%の利下げを織り込んでいたわけです。

※2008年12月以降は誘導目標レンジの上限を掲載

※FRBのデータをもとにザイFX!が作成

 仮に、リーマンショック級の危機が現在、発生しているのであれば、ある程度は理解できます。しかし、現状を見ると、確かに景気は以前に比べて腰折れしてきているものの、危機が発生しているわけではありません。つまり、そもそも市場の反応が、過剰だったということです。

 それが、今回の雇用統計によって、水を差されただけにすぎません。

【参考記事】

●市場の米利下げ織り込みは過剰すぎる! 当面は米ドル安・円高の揺り戻し相場か(6月6日、今井雅人)

■パウエル議長が利下げ示唆。米ドルは再び反落へ すでにFOMCでは、先行きは利下げ方向にあることは、示されていたわけです。今回の雇用統計の結果だけで、その方向が変わるわけではありません。

 すぐ、そのことに市場も気がついて、冷静な反応になってくるだろうと考えていましたが、実際、そうなってきました。

 7月10日(水)の議会証言で、パウエルFRB(米連邦準備制度理事会)議長が「米国の景気拡大が鈍化してきている」ことや、「利下げの必要がある」ことを明らかにすると、再び、米ドルは反落しています。

【参考記事】

●7月FOMCでの0.50%利下げ予測が再燃! ドル/円は目先104円台、中期的に100円へ(7月11日、西原宏一)

7月10日(水)に下院金融サービス委員会での証言で、7月FOMCで利下げを行う可能性があることを示唆したパウエルFRB議長 (C)Bloomberg/Getty Images News

米ドルVS世界の通貨 1時間足(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:米ドルVS世界の通貨 1時間足)

 市場の先行きを考えるときは…
米金利低下でも、なぜ米ドル安は進まない? 米中交渉進展しても円高を警戒するべき!? ブログ

米金利低下でも、なぜ米ドル安は進まない? 米中交渉進展しても円高を警戒するべき!?

■米中が互いに歩み寄り。最悪の事態は回避 注目されていた米中首脳会談が、6月29日(土)に行われました。

 結果は、

● 引き続き、協議を続ける

● その間、米国は3000億ドルあまりに及ぶ中国からの輸入品目に対する追加関税を見送る

● 米国は、中国通信機器大手ファーウェイへの輸出禁止を一部、解除する

というものでした。

 とりあえず、最悪の事態は避けられたということです。

【参考記事】

●米ドル/円は100円割れ? それとも110円へ!? カギ握る米中首脳会談から目が離せない!(6月27日、今井雅人)

●米中休戦と米朝会談はサプライズだったが、リスクオンは長くない。米ドル/円は戻り売り(7月1日、西原宏一&大橋ひろこ)

注目された米中首脳会談(6/29)では、協議継続、関税第4弾の先送り、ファーウェイに対する禁輸措置の一部解除と、最悪の事態は避けられた格好に。写真は2019年6月に開催された大阪G20時のもの (C)Visual China Group/Getty Images

 米国でも、追加関税やファーウェイに対する措置については、産業界から強い反発があったため、トランプ米大統領としても、強硬一辺倒というわけには、いかなかったのだと思います。

 加えて、中国側も一段の歩み寄りを見せているのかもしれません。

■米中交渉進展でも円安は限定的!? ただ、これは、いったん危機が避けられたというだけで、根本的な解決ではありません。これから、本格的に協議が再開されるので、今後の状況をしっかり見守りたいと思います。

 一応、頭の整理をしておくと、決裂すれば、「株安からの円高」という展開になる可能性が高いということです。

世界の通貨VS円 日足(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:世界の通貨VS円 日足)

 逆の場合は、「株高からの円安」という流れになるということだと思いますが、私は、それ以外の要因が、円高になりやすい状況になっていると思うので、円安になった場合でも、その幅は限定的ではないかと考えています。

■金利の低下余地がない日本。円高圧力へ!? そう思う理由は、各国の長期金利(10年物国債利回り)の動向にあります。

 今年(2019年)に入ってから、先進国を中心に、各国の長期金利が低下してきています。ですから、米国の長期金利が低下してきても、一方的に米ドル安が進行していかないわけです。

米ドルVS世界の通貨 週足(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:米ドルVS世界の通貨 週足)

 ただ、金利の低下幅を見ると、国によって異なってきます。米国、英国、ドイツ、オーストラリアなどの長期金利の低下幅に比べて、日本の長期金利の低下幅が、際立って小さいことがわかります。

※BloombergのデータをもとにザイFX!が作成

 それは、元々、日本の長期金利は、他の国の長期金利よりも水準が低く、下方向が限られているということ。加えて、日銀が現在、長期金利をゼロ%から上下0.2%程度の水準の間で推移させる方針をとっていることに要因があります。

 現在の日本の長期金利は、マイナス0.15%程度なので、日銀の運営方針から考えると、もうこれ以上、長期金利は低下しないということになります。

 この方針を日銀が変更しない限り、金利面からはどちらかといえば、円高圧力がかかりやすいということを、頭に入れておいてほしいです。

 また、これから、日米貿易交渉が始まります…