欧州中央銀行「ステーブルコインが預金を奪う」デジタルユーロで通貨主権防衛へ

この記事の要点

  • ECB理事がステーブルコインによる預金流出リスクを警告
  • デジタルユーロ試験運用に36社選定、2027年後半開始へ

「銀行から預金が消える」ステーブルコインに警鐘

欧州中央銀行(ECB)理事のピエロ・チポローネ氏は2026年7月17日、ローマで開かれたイタリアの協同組合銀行団体の年次総会で講演し、ステーブルコインの利用が広がれば欧州の銀行から個人預金が流出しかねないと警告しました。

同氏はその背景として決済のデジタル化を挙げ、アイルランド・オランダ・フィンランドでは、すでにPOS(販売時点情報管理)取引の1割超がモバイル決済となっている現状を紹介しました。

こうした決済では銀行がデビットカードより高い手数料を負担するうえ、取引データも取得できないケースが多く、手数料収入と顧客データの両面で銀行の競争力が低下していると指摘しています。

その状況でステーブルコインの利用まで拡大すれば預金流出が進み、経済への融資を担う銀行の役割にも影響が及びかねないとして、対策となるデジタルユーロの必要性を訴えました。

デジタルユーロ構想と36社パイロット選定

預金流出を防ぐ「利息なし・保有上限」

チポローネ氏は、デジタルユーロはECBとユーロ圏各国の中央銀行で構成するユーロシステムが発行し、利用者への配布は民間銀行が担う仕組みになると説明しました。

利用者は取引銀行でデジタルユーロ口座を開設し、ユーロ圏全域の店舗やECサイト、個人間送金で手数料無料の決済手段として利用できるようになるとしています。

また、デジタルユーロには利息を付けず、保有額にも上限を設けることで、銀行預金からデジタルユーロへの大規模な資金移動を抑える設計とする考えを示しました。

この設計については、ECBが2025年10月に公表した分析でも検証されており、銀行の流動性や金融システムの安定性を損なうリスクは限定的との結論が示されています。

暗号化で匿名性確保、ネット不要のオフライン決済も

デジタルユーロでは利便性だけでなく、現金に近いプライバシーの確保も重視されています。

講演では、ユーロシステム側は支払人や受取人を特定できず、暗号化されたコードのみを確認できる仕組みを採用すると説明しました。

また、インターネットに接続できない環境でも端末同士で少額決済を行え、その場合は現金と同等のプライバシーが確保されるとしています。

専用アプリについても、欧州のアクセシビリティ法の基準を上回る設計を目指し、銀行口座を持たない人や高齢者、視覚障害のある人も利用しやすいサービスとする方針を示しました。

域外決済ネットワーク依存からの脱却が急務に

デジタルユーロ導入の背景には、欧州の決済インフラが域外事業者への依存を強めている現状があります。

チポローネ氏は、ユーロ圏ではカード決済の約3分の2が欧州域外の決済ネットワークで処理されているほか、21カ国のうち13カ国には国内カード決済網がないと説明しました。さらに、ECサイト向けの国内決済手段も半数以上の国で整備されていないと指摘しています。

こうした状況を改善するには決済インフラへの投資が必要となり、その費用はユーロ圏全体で4年間に40億〜58億ユーロ(約7,400億〜約1兆円)と、大手銀行の年間IT予算の約3.4%に相当する規模にとどまるとの試算も示されています。

欧州議会が交渉入り承認、2027年に試験運用へ

こうした構想の実現に向け、制度整備も着実に進んでいます。

欧州議会は2026年7月9日の本会議で、デジタルユーロ法案をめぐるEU理事会との交渉入りを賛成416票・反対169票・棄権22票で承認しました。

これを受け、欧州議会・EU理事会・欧州委員会による三者間協議(トリローグ)が7月13日に始まっています。チポローネ氏は、立法手続きが年内に完了すれば、2029年にデジタルユーロを発行できるとの見通しを示しました。

制度整備に合わせて実務面の準備も進められており、ECBは2026年7月14日、50社超の応募の中からパイロット(試験運用)に参加する決済サービス事業者36社を選定したと発表しました。

選定された36社には銀行と銀行以外の事業者の双方が含まれており、2027年後半から12カ月間の予定で、ECBとユーロ圏19カ国の中央銀行が参加する試験運用が実施されます。

CBDC禁止の米国vsデジタルユーロ推進の欧州

米国では2025年にステーブルコイン規制法「GENIUS(ジーニアス)法」が成立し、民間発行のドル建てステーブルコインを軸とした制度整備が進められています。

一方で、CBDC(中央銀行デジタル通貨)については、2030年まで発行を禁止する法案が2026年3月に米上院で可決されるなど、公的デジタル通貨の導入には慎重な姿勢を維持しています。

対照的に欧州では、デジタルユーロを決済インフラの自立性と通貨主権を支える基盤と位置付けており、チポローネ氏も講演で、デジタルユーロは「欧州の人々が自らの通貨への主権を維持する手段になる」と強調しました。

今後は、年内合意を目指す三者間協議やパイロットを経て、2029年のデジタルユーロ発行に向けた取り組みが本格化する見通しです。

※価格は執筆時点でのレート換算(1ユーロ=185.42 円)

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Source:ECBスピーチ / ECBプレスリリース
サムネイル:AIによる生成画像

参照元:仮想通貨ニュース最新一覧【毎日更新】 - 仮想通貨ニュースメディア ビットタイムズ

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