
バイデン政権下で進んだ仮想通貨企業の締め出し
米下院金融サービス委員会(共和党主導)は「チョークポイント作戦2.0:バイデン大統領による仮想通貨の銀行離れ」と題する最終報告書を公表しました。
この報告書はバイデン政権が仮想通貨(暗号資産)関連企業や関係者に対し、銀行サービスから締め出す「協調的排除」を行った実態を明らかにしたものです。
具体例として、報告書は連邦規制当局が曖昧な規則や非公式なガイダンス、厳格な執行措置を通じて、銀行が仮想通貨企業へのサービス提供を控えるよう誘導した経緯を示しています。
こうした圧力の結果、少なくとも30の企業や個人が銀行口座の閉鎖やサービス拒否(デバンキング)に直面し、資金へのアクセスが断たれたと報告書は指摘しています。
仮想通貨業界締め出しに警鐘
チョークポイント作戦2.0が仮想通貨業界にもたらした衝撃
チョークポイント1.0の再来とその変化
報告書はまず、バイデン政権下で銀行が仮想通貨企業に圧力をかけた今回の動きが、オバマ政権下で行われた「チョークポイント作戦1.0」の手法を踏襲したものであると指摘しています。
2013年に開始されたチョークポイント作戦1.0では、司法省と金融規制当局が銃器や短期融資業者など特定業種を「高リスク」とレッテル貼りし、銀行に口座閉鎖を圧力誘導していた経緯がありました。
実際、当時FDIC(連邦預金保険公社)やOCC(通貨監督庁)の職員が銀行に「問題顧客」の排除を迫り、法的に問題のない企業が突然口座解約されるケースが多発しました。
トランプ政権は2017年にこの政策を公式に終了させましたが、報告書は「バイデン政権がこの手法を復活・拡大し、仮想通貨業界を標的にした」と指摘しています。
FRBの施策が招いた金融機関の萎縮
報告書によれば、バイデン政権下でFRB(米連邦準備制度理事会)、FDIC、OCC、SEC(米国証券取引委員会)が足並みを揃え、銀行による仮想通貨業界支援を萎縮させる措置を取ったとされています。
具体例として、FRBは2022年8月に監督指針「SR 22-6」を発し、銀行が仮想通貨関連の「新規活動」に入る前に法的許容性の確認と事前通知を義務付けました。
さらに2023年8月には「SR 23-7」で仮想通貨関連活動を広範に「新しい活動」と定義し強化監督の対象とし、「SR 23-8」では米ドル連動ステーブルコイン取扱いに事前の無差別承認プロセスを要求しました。
これと並行してFRBは「新規活動監督プログラム」を創設し、仮想通貨業務を行う銀行に特別な検査体制を敷いたことで、報告書はこれら一連の措置が事実上、銀行が仮想通貨エコシステムと関わることを禁止する効果をもたらしたと批判しています。
FDICの「活動停止要請書」とその圧力構造
一方、FDICは加盟銀行に対し、仮想通貨関連業務の計画を延期・中止するよう促す「ポーズレター(活動一時停止要請書)」を送付していたことが明らかになりました。
2023年前後、FDICは銀行に大量の情報提出を求めると同時に「当局の承認があるまで仮想通貨関連事業を進めないように」と非公開で指示するケースが複数あり、この結果、銀行の仮想通貨ビジネス参入は事実上無期限に遅らされたと報じられています。
こうした圧力は口頭での示唆や将来の検査格下げの示唆という形で行われ、銀行側はリスク回避のため仮想通貨企業との取引自体を諦めざるを得なくなりました。
実際、FDICのヒル長官代行(当時理事)は「仮想通貨企業と取引したいと申し出た銀行は、ほぼ例外なく当局から抵抗に遭った。その結果、大多数の銀行は仮想通貨企業とのビジネスを試みること自体をやめてしまった」と証言しています。
OCCが作り出した過剰な事前手続き
OCCも同様に、バイデン政権下で銀行の仮想通貨業務に追加の許認可ハードルを課しました。
例えば2021年に発出された解釈書簡1179号では、全国銀行が仮想通貨カストディ(保管)やステーブルコイン取扱い、ブロックチェーン検証作業(ノード運用)などを行う際には、事前に当局の個別承認(無異議書)を取得し、十分なリスク管理体制を示すことを義務付けました。
この通達により、2020年頃に一度は容認された銀行による仮想通貨保管・決済業務(前政権期の書簡1170・1172号等)は事実上凍結され、新たなレッドテープ(役所手続き)が仮想通貨関連事業に課せられた形です。
報告書は、OCCが他の業務では求めない過剰な承認手続きを仮想通貨分野にのみ課した点を問題視しています。
SECが進めた規制なき強制措置の実態
SECは仮想通貨に関する明確な規制枠組みを構築せず、「執行による規制」によって市場を制圧しようとしたと指摘されています。
例えばSECは、職員会計公報第121号(SAB 121)を2022年3月に突如公表し、仮想通貨のカストディサービスを提供する企業に対し、顧客資産をその企業のバランスシート上で負債および対応資産として計上するよう要求しました。
この会計上の取り扱いは銀行やカストディアンに追加の資本負担を強いるもので、結果として銀行が仮想通貨の保管業務に参入するインセンティブを削ぐ効果をもたらしました。
この会計上の負担に加えて、SECはバイデン政権期に主要仮想通貨取引所(コインベースやバイナンス)を未登録証券取引業の疑いで相次ぎ提訴し、多数のトークンを有価証券とみなす法的見解を示しました。
報告書では、こうしたSECの強硬策が「法的精緻さを欠き、商業的実行可能性を無視していた」と批判しており、明確なルールなきままの過度な取り締まりが「結果的に合法ビジネスまで萎縮させ、企業に海外移転を余儀なくさせた」と述べています。
予告なき口座閉鎖がもたらす事業リスク
こうした複数当局による仮想通貨企業への圧力は、業界に深刻な影響を及ぼしました。
明確な規制基盤がない中でリスクばかりが強調された結果、銀行は「リスク回避(デリスキング)」の名の下に仮想通貨企業との取引自体を敬遠するようになりました。
報告書によれば、多くの銀行が連絡もほとんどないまま一方的に仮想通貨関連企業の口座を閉鎖し、企業側は資金移動や決済に支障をきたしたと指摘しています。
例えば米大手マイニング企業マラソン・デジタルのフレッド・ティールCEOは、主要取引行だったシグネチャー銀行が当局介入で破綻・買収された際「仮想通貨関連の口座は引き受け銀行に継承されず、数日以内に資金を退避させねばならなくなった」と証言しています。
さらに別の銀行に辛うじて口座を開設して7,000万ドル(約110億円)を預けたが、わずか6日後に「経営方針で仮想通貨業界は今後取引できなくなる」と通告され、24~72時間以内に全額退避を求められたといいます。
こうした突然の口座閉鎖により給与支払いや税金納付が滞り、オフィス家賃・光熱費の支払いにも支障が出るなど、日常の事業継続に深刻なリスクが生じていました。
経営者・開発者個人の口座まで閉鎖の対象に
また影響は企業だけでなく個人にも及び、仮想通貨企業の創業者・従業員の個人口座まで相次いで閉鎖されました。
Uniswap(ユニスワップ)創業者ヘイデン・アダムス氏やRipple(リップル)CEOブラッド・ガーリングハウス氏、Gemini(ジェミナイ)創業者のウィンクルボス兄弟などは、自身の銀行口座が突然閉鎖された実例として報告書に挙げられています。
このような個人口座の閉鎖ケースでは、銀行側から明確な説明はなく、利用者は抗議や異議申立ての場も与えられないまま、一方的に金融サービスから締め出される状況でした。
報告書は、このように法的根拠の曖昧さによる規制リスクを恐れた銀行の過剰防衛が、結果的に健全なイノベーションまで阻害し、米国の仮想通貨産業の発展を停滞させたと結論付けています。
SEC委員長「仮想通貨時代の到来」
米議会と政権、デバンキング是正へ前進
報告書で明らかになったバイデン政権下の協調的排除とデバンキングの実態を受け、議会では恒久的な歯止め策として、共和党主導の金融サービス委が各機関による不当な口座閉鎖を禁じる「公正銀行サービス保障法(仮称)」の制定を検討しています。
また、議会の動きに先立ち、2025年8月にトランプ大統領が署名した大統領令により、仮想通貨企業や合法産業が政治的理由でデバンキングされないことが保証される姿勢が示されていました。
「チョークポイント作戦2.0問題」は依然として完全には解決に至っていないものの、米国の仮想通貨政策はイノベーション推進・公正なアクセス重視へと大きく舵を切っており、業界では規制の明確化と銀行サービス復活による事業環境の改善に期待が高まっています。
※価格は執筆時点でのレート換算(1ドル=155.61 円)
米規制関連の注目記事はこちら
Source:米下院金融サービス委員会資料
サムネイル:AIによる生成画像







コメント