
CARF導入、事業者に報告義務
スイス連邦政府が、国際的な税務自動情報交換(AEOI)制度に関する政令の改正を11月26日に承認した。
これにより、経済協力開発機構(OECD)が策定した国際的な税務透明化の枠組み「暗号資産報告フレームワーク(CARF)」を含む新たな国際基準が、スイス法制度に組み込まれることとなる。改正法および政令は、2026年1月1日に施行される予定だ。
今回の改正は、2025年秋の通常国会において、スイス国民議会および全州議会がOECD基準に基づくAEOI拡張を承認したことを受けたもの。従来の金融口座情報の共通報告基準(Common Reporting Standard:CRS)の更新に加え、暗号資産(仮想通貨)取引を対象とするCARFの導入が盛り込まれている。
改正されたAEOI政令では、暗号資産サービス提供者に対し、税務当局への取引情報の報告義務、顧客のデューデリジェンス義務、ならびに連邦税務局(ESTV)への登録義務を課す。また、これら事業者がどのような条件でスイスとの税務上の結びつきを持つかについても具体的に規定されている。
スイスに税務上の居住地がある場合や、スイスに支店を持つ場合に加え、一定の条件下で「商業的に」暗号資産の交換サービスを提供している場合も対象となる。
具体的には、年間売上高が5万スイスフラン(約966.8万円)を超える場合や、年間20人以上の顧客と継続的な取引関係を持つ場合、顧客から預かる暗号資産残高が500万スイスフラン(約9.6億円)を超える場合、または年間の暗号資産取引総額が200万スイスフラン(約3.8億円)を超える場合などに、商業的な暗号資産サービス事業者とみなされる。
さらにCRSについては、協会や財団、その保有口座にも直接適用されることとなった。ただし、一定の条件を満たす適格な公益法人の場合は、AEOIの適用から除外される仕組みも併せて整備されている。
加えて、改正CRSおよびCARFの導入に伴う実務負担を軽減するため、主要な税務上の結びつきをスイス以外の国に持つ暗号資産事業者など一定の条件を満たす場合には、移行期間に関する経過措置として、最大3年間、スイスでの報告・デューデリジェンス義務が免除される措置も盛り込まれている。
一方で、暗号資産分野に関しては実務上の実施が1年延期される見通しだ。スイス国民議会の経済・租税委員会(EATC)は11月3日、CARFに基づく情報交換の相手国リストに関する審議を一時停止している。
この判断を受け、スイス連邦政府は26日の閣議において、暗号資産関連規定は2026年には適用せず、最短でも2027年以降の実施とする方針を正式に決定した。つまり、CARFは2026年に法制化されるものの、実際の国際情報交換は翌年以降になる。そのため、2026年中は暗号資産事業者の報告義務は発生せず、CARFに基づく国際データ交換も行われない。
今後は、どの国・地域と情報交換を行うのか、また暗号資産事業者に求められる実務対応の詳細が、順次明らかになる見通しだ。
CARFは、国境を越えた暗号資産取引の匿名性を抑制し、各国税務当局が取引情報を共有できる枠組みとしてOECDが主導して整備を進めてきた国際基準だ。今回のスイスの対応は、グローバルな暗号資産課税・規制の枠組みに正式に参加する動きといえる。
また米国でも、CARFの実装を通じて、米国納税者による暗号資産の海外移転を抑止し、国内市場の透明性向上と国際競争力の維持を図る狙いがあるとされる。
米ホワイトハウスは現在、米国内国歳入庁(IRS)が国外で行われる米国納税者の暗号資産取引データにアクセスできるようにする、CARF準拠の新たな規則案を審査している。
参考:発表
画像:PIXTA
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参照元:ニュース – あたらしい経済

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