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「あなたの作品に一目惚れしました。NFTとして購入させていただけませんか?」
NFTアーティストにとって、これほど嬉しい言葉はありません。自分の作品が認められ、しかも高額で評価される。それは、アーティストとしての夢の一つでしょう。
しかし、2025年10月。その夢を利用した悪質な詐欺が、一人の日本人アーティストを襲いました。
「1枚1.5 ETH(約100万円)で買いたい」という甘い誘い文句から始まり、巧みな心理操作で次々と自分の資産を奪われていく。
本記事では、実際に被害に遭われた山田さん(仮名)から提供いただいた、犯人グループとのやり取りの記録(メール、チャット、DM)を公開します。
突然のオファーと複数の伏線
事の始まりは、ある日突然届いた1通のメールでした。差出人は「Grace Logan」と名乗る人物。ArtStation(クリエイター向けポートフォリオサイト)を見て連絡してきたといいます。

「あなたの作品の独創性に感銘を受けた」と称賛の言葉が並ぶ。
内容は、「あなたの作品を個人的なコレクションに加えたい。NFTとして販売してほしい」というもの。
さらに驚くべきは、その提示額でした。
「1作品につき 1.5 ETH(当時のレートで約100万円前後)で購入したい」
無名の知らないアーティストに対し、いきなり数十万円〜数百万円規模のオファー。冷静に考えれば「うますぎる話」ですが、犯人グループの周到な点は、複数の人物を装って同時多発的に連絡をしてくることです。
山田さんの元には、Grace以外にも「Morrison Otto」「Val Rose」「Johnson Adam」といった複数の人物から、時期を同じくして似たような熱烈なオファーが届いていました。

「自分の作品が今、注目されているのかもしれない」。そう思わせるための、組織的な伏線だったのです。
指定された謎のマーケットプレイスへの誘導
購入の話が進むと、犯人は必ず特定のNFTマーケットプレイスを指定してきます。
山田さんは世界最大手のOpenSeaでの取引を提案しましたが、犯人たちは頑なにこれを拒否しました。

「作品管理の都合上、Nexusでなければならない」と拒否するGrace。
そして、別の人物も同様に「OpenSeaは過去にトラブルがあったから信用していない」などともっともらしい理由をつけて拒否します。

彼らが誘導した先は「NFT Nexus(nftnexsus.com/)」というサイト。
一見すると普通のNFTマーケットプレイスに見えますが、これこそが犯人グループが作り上げた、入金はできても出金はできない詐欺サイトでした。
終わらない「手数料」の請求地獄
ここから、言葉巧みな金銭の搾取が始まります。
手口①:高額なミント手数料と半額を負担するという演出
指定されたサイトで作品をミントしようとすると、0.1 ETH(6.5万円)という法外なガス代(手数料)を要求されます。
山田さんが高すぎると指摘すると、犯人のGraceは以下の提案をしてきました。
「初めてのビジネスで不安でしょうから、公平を期すために私が手数料の半分(0.05 ETH)を負担します」

実際に犯人から0.05 ETHが送金されてきたため、山田さんは「この人は詐欺師ではないかもしれない」と信用してしまい、残りの手数料を支払って作品を出品してしまいました。
(※これは、少額を投資して多額を搾取する「ポンジスキーム」的な心理テクニックです)
手口②:偽の売上画面と「出金手数料」
出品後、すぐに作品は購入されました。サイト上のダッシュボードには、「$22.82k(約340万円)」という莫大な売上残高が表示されます。

高額な残高が表示され、
成功したかのように錯覚させる。
しかし、ここからが地獄の入り口です。この売上金を出金しようとすると、サポートから販売手数料、税金、保険などの名目で、事前の入金を要求されるのです。
売上金から差し引けばいいはずですが、「システム上、先に外部から入金する必要がある」と言いくるめられます。
手口③:アカウント有効化費用
手数料を支払っても出金はできません。次は「アカウントがアクティベート(有効化)されていない」と言われ、さらに0.45 ETHの入金を要求されました。
「これは一時的な預かり金で、認証完了後に即座に返金される」という言葉を信じ、山田さんは入金してしまいましたが、当然、返金も出金もされません。
被害者の悲痛な叫び「私のETHは戻ってこない」
「詐欺かもしれない」と気づいた時には、すでに手遅れでした。
山田さんはWhatsAppでGraceを問い詰めましたが、相手側「私は詐欺師じゃない、信じてくれ」「サポートの言う通りにすれば出金できる」と一点張りです。

「It's not a scam(詐欺じゃない)」「Trust me(信じて)」と繰り返す犯人。
さらに犯人グループは、出金方法としてUXLINKトークンやTrust Walletの利用を指定し、混乱に乗じてさらなる資産を狙ってきました。
最終的に、山田さんは作品の対価を受け取るどころか、手数料や有効化費用として支払ったETHを失うことになったのです。
明日は我が身。クリエイターが身を守るための鉄則
今回の事例は、決して他人事ではありません。
NFTアーティストを狙う詐欺は、日々巧妙化しています。
被害に遭わないために、以下3つの鉄則を心に刻んでおきましょう。
鉄則1:知らないマーケットプレイスは絶対に使わない
OpenSeaやFoundation、Magic Edenなど、世界的に信頼されている大手プラットフォーム以外での取引は、基本的に行わないようにしましょう。
「自社の専用サイトがある」「手数料が安い」などの誘い文句は、詐欺サイトへの誘導がほとんどです。
関連:NFTマーケットプレイスおすすめランキング一覧|選び方や使い方、出品方法を紹介
鉄則2:「手数料を先に払え」は詐欺
正規の取引であれば、販売手数料は売上金から自動的に差し引かれるのが基本です。
「出金するために手出しで入金が必要」「保証金が必要」といった要求があった時点で、それは詐欺です。
鉄則3:DMやメールでの「高額オファー」を疑う
無名のアーティストに対し、相場を無視した高額オファー(数ETHなど)が突然来ることは、残念ながら現実にはほぼあり得ません。
甘い話には必ず裏があります。浮かれずに「なぜOpenSeaで買わないのか?」と冷静に問い返しましょう。
まとめ
クリエイターの「作品を評価されたい」「売りたい」という純粋な夢を踏みにじる行為は、決して許されるものではありません。
しかし、Web3の世界では、最終的に自分の身を守れるのは自分自身の知識だけです。
少しでも怪しさを感じた場合は、SNSで検索する、知人に相談する、そして絶対にお金を渡さないことが重要です。
この実録が、一人でも多くのアーティストを被害から守るきっかけになれば幸いです。
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