金融庁、暗号資産レンディングの抜け穴是正へ|金商法適用を視野に利用者保護を強化

この記事の要点

  • 金融庁が暗号資産レンディングを金商法の規制対象に
  • 「借入れ」形式を悪用した無登録事業の抜け穴を是正へ
  • 事業者にリスク管理・安全保管・広告規制の義務を課す方針
  • 監査未実施IEOに投資上限導入案、過剰投資を抑制
  • 業界は規制強化に懸念、バランスある制度設計を要望

金融庁、利用者保護軸にレンディングとIEOを重点監視へ

金融庁は2025年11月7日、金融審議会「暗号資産制度に関するワーキング・グループ」第5回会合を開催し、暗号資産レンディング事業を金融商品取引法(金商法)の規制対象とする方針を示しました。

現行制度では、暗号資産(仮想通貨)を他人のために管理してステーキングに供する場合、暗号資産交換業の登録が必要です。一方で、「借り入れる」形を取ることで管理行為に該当せず、無登録で事業を行える抜け穴があり、利用者保護上の問題となっていました。

また同会合では、レンディング事業規制に加え、IEO(イニシャル・エクスチェンジ・オファリング)に関する投資家保護策も議論されています。

高利回りレンディングのリスクに警鐘

金融庁は、高利回りのレンディングサービスで利用者が事業者の信用リスクや暗号資産価格変動リスクを負う一方、事業者には顧客資産の分別管理義務やコールドウォレット保管義務が及ばない点を問題視しています。

年利10%台の利回りをうたうサービスや貸出期間が年単位のケースも確認されており、中には再貸付先の債務不履行リスクやステーキング委託先でのスラッシングリスクへの対応が不十分な事業者も見受けられます。

こうした状況を受け、金融庁はレンディング事業者に対して、再貸付先やステーキング委託先のリスク管理体制の構築、自社で保管する暗号資産の安全管理体制の整備、利用者へのリスク説明や広告規制の遵守といった措置を義務付ける方針を示しました。

なお、機関投資家同士の取引など対公衆性のない暗号資産の借入れは規制対象外とする見込みです。

監査未実施IEOへの投資規制が焦点に

財務監査を受けていないプロジェクトによるIEOについて、発行体が一般投資家から広く資金を調達する場合に過剰投資を防ぐため、株式投資型クラウドファンディングを参考に投資上限を設ける案も提示されています。

株式型クラウドファンディングでは、50万円超の投資について年収・純資産の5%以内(上限200万円)という制限があり、国内の過去IEOでは約9割の投資額が一人当たり50万円以下だった点を踏まえた提案とみられています。

暗号資産レンディング事業規制強化とIEO投資上限案が浮上

レンディング事業の仕組みと現行規制の盲点

暗号資産レンディング(貸暗号資産サービス)は、利用者から暗号資産を借り入れて事業者がステーキングや再貸付け等で運用し、一定期間後に利息(貸借料)を付けて返還するビジネスモデルです。

このようなサービスは資金決済法上の「暗号資産交換業」に該当しない形で提供されるケースがありました。

暗号資産交換業者として登録して他人の暗号資産を管理・運用する場合には各種規制が課されますが、一部事業者は「借入れ」形式を取ることで暗号資産の管理行為に当たらないと解釈し、無登録でレンディング事業を継続していた実態があります。

実際、登録済みの暗号資産交換業者であっても、ユーザーから暗号資産を借り入れる場合、借り入れた暗号資産の分別管理や優先弁済の対象外であることの表示と債務残高の適切な管理体制の整備が求められるのみであり、借入れ自体のリスク管理体制の整備までは義務付けられていません。

こうした規制の網をくぐる手法により、多額の暗号資産を集めて高利回りを約束するサービスが登場したため、金融庁は早期に対応を検討してきました。

利用者保護強化へ求められる3つの措置

金融庁が示した新方針では、このような暗号資産レンディング事業を金融商品取引法の枠組みに取り込み、利用者保護を徹底する狙いがあります。

具体的には、利用者が負うリスクに見合った事業者側の責任と体制整備を求めるものです。例えば、事業者に対して以下のような義務を課す案が示されています。

  • 再貸付先やステーキング委託先のリスク管理
    借り入れた暗号資産の運用において、再度貸し付ける相手先の信用リスクや、ステーキングを委託する場合のスラッシングリスクについて、事前に十分な審査・管理体制を整備すること
  • 暗号資産の安全管理
    ハッキング等により事業者保有のウォレットから暗号資産が流出した場合に利用者への返還原資を失う恐れがあることから、借り入れた暗号資産を安全に保管するための対策(コールドウォレット管理など)を講じること
  • リスク説明と広告規制
    利用者がリスクを正しく理解した上で貸出判断できるよう、事業者に対し顧客へのリスク説明義務を課すとともに、誤解を招く過度な宣伝を防ぐため広告表示規制を適用すること

さらに、金商法の適用により、違反時の罰則や投資家保護のための民事責任(損害賠償)規定なども整備される見込みです。

なお、上記の規制強化はあくまで一般投資家を対象とした公衆性のある取引に向けたものであり、機関投資家間など公衆を対象としない暗号資産の貸借取引については適用除外とする方向で検討されています。

投資上限導入でIEOの過熱リスクを抑制

同日の会合では、新規暗号資産の資金調達手段であるIEOに関する投資家保護強化策も議題に上がりました。

特に、発行体に財務諸表監査がなく信頼性の担保が限定的なプロジェクトによるIEOで一般投資家から大規模に資金を集めるケースに備え、株式投資型クラウドファンディングの制度を参考にした投資額の上限設定が提案されています。

株式型クラウドファンディングでは、投資額が50万円を超える部分について年収または純資産の5%まで(上限200万円)という制限があり、金融庁はこれと類似の枠組みをIEOに導入することで、プロジェクト側の販売攻勢で個人が過大な投資をしてしまうリスクを抑制する方針です。

実際、過去に国内で実施されたIEOでは、一人当たりの購入金額が50万円以下に収まったケースが9割以上を占めており、上限設定の影響は限定的と見られています。

ただし、この投資上限案については有識者から慎重な意見も出ています。

委員の一人は「IEO実施後、トークンは即座にセカンダリー市場(流通市場)で取引可能になるため、プライマリー(販売段階)で上限を設けても、流通市場で追加購入すれば上限を超えることが容易である」と指摘し、一次販売時のみ上限を設ける効果に疑問を呈しました。

実効性とバランスを問う有識者の声

一連の暗号資産規制見直しについて、業界からの要望も出ています。

日本ブロックチェーン協会(JBA)代表理事でbitFlyer共同創業者の加納裕三氏も、規制強化の方向性自体には理解を示しつつ、「肌感覚ではイノベーションが1に対して規制が9くらいの割合だ」と述べ、現在示されている案では業界にとって非常に厳しく、このままでは国内の暗号資産事業者の多くが存続できないとの危機感を示しました。

加納氏は国内交換業者の約9割が赤字経営である現状に触れ、コスト負担が過大で効果が疑問視される規制項目もあるとして、事業者やユーザーの声を踏まえたバランスの取れた制度設計を強く求めています。

金融審議会WGでの議論は最終局面に差し掛かっており、年内にも報告書(提言案)が取りまとめられる見通しです。今後は、金融庁がこれら現場の意見や国際的な動向をどのように最終報告書に反映し、具体的な制度改正につなげていくかが焦点となります。

金融庁、暗号資産市場の整備と支援へ

今回示された規制強化策は、暗号資産市場の健全化と利用者保護を図る狙いがあります。

金融庁は11月7日、三菱UFJ・みずほ・三井住友の3メガバンクによるステーブルコイン発行の実証実験を「FinTech実証実験ハブ」の支援案件に採択したと発表しました。

この実証実験では、3メガバンクと三菱UFJ信託銀行が特定信託を用いてステーブルコインを共同発行し、三菱商事の国内外拠点間決済での活用可能性を検証します。

ブロックチェーン技術を活用した決済やトークン化預金の実用化が進む中、金融庁は民間のイノベーションを支援しつつ、実証実験を通じて規制面や実務面の課題を整理し、利用者保護措置の検討も進めています。

金融庁は、厳格なルール整備による投資家保護と新技術の活用促進の両立を目指しており、暗号資産分野の健全な発展に向けた取り組みは国内外から注目されています。

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Source:金融庁資料① / 金融庁資料②
サムネイル:Shutterstockのライセンス許諾により使用

参照元:ニュース – 仮想通貨ニュースメディア ビットタイムズ

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