
トランプ氏の仮想通貨事業に規制案
2025年6月24日、米民主党のアダム・シフ上院議員(カリフォルニア州選出)は、公職者およびその家族による仮想通貨などのデジタル資産を通じた私的利益の獲得を禁じる「COIN法案(公職者所得非開示抑制法案)」を提出しました。
同法案は、大統領・副大統領・連邦議員・政府高官およびその家族が、就任前180日から退任後2年間を含む期間中に仮想通貨(暗号資産)関連事業へ関与することを禁じる内容となっています。
背景には、トランプ氏が大統領就任後に仮想通貨関連事業で多額の利益を得ているとの指摘があります。
ホワイトハウスの財務開示によると、トランプ氏は2024年に、仮想通貨企業「ワールド・リバティ・ファイナンシャル(WLF)」との事業を通じて約5,730万ドル(約83億円)の収益を上げていたことが明らかになっています。
シフ議員は声明で「トランプ大統領の仮想通貨取引は、公職を利用した私的利益の追求だ」と強調し、公職者によるデジタル資産の不正利用を防ぐための規制強化が必要だと述べています。
トランプ氏の仮想通貨事業に対する規制強化
「COIN法案」公職者の仮想通貨事業を全面規制
COIN法案は、公職者による仮想通貨関連事業への直接的な関与を禁じる倫理規定の強化を目的としたものです。
同法案では、大統領・副大統領・議会議員・政府高官などの公職者(およびその家族)による仮想通貨やミームコイン、NFT、ステーブルコインの発行・スポンサー・宣伝行為を禁止し、違反した場合は違法に得た利益相当額の罰金および最長5年の禁固刑が科されると規定されています。
また、公職者に対して仮想通貨の保有・取引を財務開示報告に含めることを義務付け、デジタル資産を従来の金融資産と同様に利益相反の対象とみなす規定も含まれています。
さらにステーブルコイン発行体に対しては、公職者が私的な利益を得ていないことを証明する四半期ごとの報告提出を義務付ける案も盛り込まれています。
アンディ・キム上院議員は「公職者がミームコインからNFTに至るまで、あらゆるデジタル資産を不正に利用するのを防ぎ、国民と政府の信頼を守るためには、こうした規制が必要だ」と述べ、民主党同僚9名とともに法案提出に踏み切りました。
法案提出は「後手」との批判も
一方で、法案を提案したシフ議員自身に対しては、批判や疑念の声も出ています。
シフ議員は仮想通貨業界から友好的な議員とみなされており、2024年の上院選では仮想通貨支持団体から1,000万ドル(約14.5億円)以上の支援を受け、業界団体から「最高評価(A評価)」を得ていました。
また、シフ議員は先週、米国におけるステーブルコイン規制の枠組みを定める「GENIUS法案」の採決で賛成票を投じています。
しかし同法案には大統領と副大統領を仮想通貨の発行規制対象から除外する条項が含まれており、民主党内から「トランプ氏の仮想通貨事業を放置する内容だ」と批判されました。
シフ議員ら民主党は一時この条項に反発しましたが、最終的に法案を容認し、成立に協力しています。
こうした一連の経緯から、COIN法案の提出については「対応が後手に回っている」との批判が、一部のメディアや専門家の間で広がっています。
米国上院議員、規制当局に圧力をかける
トランプ政権と仮想通貨規制を巡る攻防
トランプ大統領の仮想通貨ビジネスに対しては、他の米議員からも規制強化を求める動きが相次いでいます。
トランプ氏のミームコイン「$TRUMP」に批判
民主党のマキシン・ウォーターズ下院議員(金融サービス委員会筆頭委員)は、トランプ氏が推進するミームコイン事業を問題視し、今年4月に「TRUMP法案」と呼ばれる法案を提出しました。
この法案は「大統領のミームコインによる汚職を阻止する」ことを目的としており、トランプ氏が自身の公式ミームコイン「$TRUMP」上位保有者220名をホワイトハウス晩餐会に招待した同日に提出されました。
同晩餐会は資金集めではないと説明されたものの、トークン保有者に特別な政治的アクセスを与えたことは前例に乏しく、専門家からは倫理上の懸念が示されています。
トランプ氏は公職にあるため多くの利益相反規制の適用外ですが、自身や家族が大量保有する$TRUMPの価格上昇によって直接的な経済的利益を得る構造になっており疑惑を招いています。
複数の民主党議員が規制法案提出
ウォーターズ議員のTRUMP法案に先立ち、民主党のクリス・マーフィー上院議員(コネチカット州)は5月6日に「MEME法案」を提出し、公職者によるデジタル資産の発行・宣伝を包括的に禁止する枠組みを打ち出しました。
さらに民主党のリッチー・トーレス下院議員(ニューヨーク州)も仮想通貨支持派ながらトランプ氏の利益相反には懸念を示し、先月、大統領と議員による仮想通貨ビジネス関与を禁じる法案を提出しています。
このほか、サム・リカルド下院議員(カリフォルニア州)も2月末に同様の「MEME法案」を下院に提出し、エリザベス・ウォーレン上院議員ら複数の議員がトランプ氏のステーブルコイン「USD1」を巡る利益相反リスクについて規制当局に警鐘を鳴らす書簡を公開するなど、議会内でトランプ氏の仮想通貨事業に対する警戒感が広がっています。
共和党多数派で成立は困難か
ただし、現在の米議会では上下両院ともに共和党が多数を占めているため、民主党議員による規制強化法案の成立は困難との見解が、複数の専門家や政治評論家から出ています。
仮に法案が議会を通過したとしても、トランプ大統領が拒否権を行使する可能性が高く、その場合は上下両院それぞれで3分の2以上の賛成を得て拒否権を覆す必要があります。
民主党側は今後、こうした規制条項を他の法案に組み込む可能性も検討しているとされており、トランプ政権下で拡大する仮想通貨ビジネスを巡る倫理問題に、議会がどのように対応するかが注目されています。
※価格は執筆時点でのレート換算(1ドル=145.51 円)
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Source:「COIN法案」提出書類
サムネイル:AIによる生成画像





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