トム・エマー米下院議員、CBDC導入阻止法案を再提出|金融監視を強く批判
「CBDCは監視ツール」エマー議員が警告
ミネソタ州選出の共和党下院議員トム・エマー氏が2025年3月11日に、中央銀行デジタル通貨(CBDC)の開発を阻止するための法案を再提出したことが明らかになりました。
近年、世界各国でCBDC導入に向けた議論が進む一方、国家が国民を監視するリスクを懸念する声も上がっています。エマー議員はその代表的存在であり、CBDCがもたらすプライバシー侵害の危険性について警鐘を鳴らしています。
同氏は、2022年に「CBDC反監視法案」を下院に提出し、中央銀行によるCBDC導入を牽制しました。その目的について、エマー議員は「ワシントンの選挙で選ばれていない官僚が、アメリカ国民から金融プライバシーの権利を奪おうとする動きを阻止すること」と説明しています。
今回の法案には、連邦準備制度(FRB)が個人に直接CBDCを発行・提供することや、CBDCを金融政策の手段として利用することを禁止する条項が盛り込まれています。
エマー議員は「CBDC技術は本質的に米国の価値観に反する」と批判し、官僚によるCBDC発行が「アメリカ人の生活様式を覆しかねない」と警告しています。
中央銀行デジタル通貨(CBDC)とは?
中央銀行デジタル通貨(CBDC)とは、中央銀行が発行するデジタル形式の法定通貨であり、紙幣や硬貨を電子データに置き換え、中央銀行が直接発行して価値を保証するデジタルマネーです。
ステーブルコインは法定通貨と価値を連動させた民間発行の仮想通貨ですが、CBDCは中央銀行が直接発行し、価値を保証するため、発行体の信用リスクに依存せず国家の信用によって支えられます。またビットコイン(BTC)のような分散型の仮想通貨とも異なり、CBDCは中央集権的に管理されます。
2024年9月のロイター通信の報道によれば、世界の134か国(世界GDPの98%を占める)がCBDCの導入を検討しており、そのうち44か国がパイロットプログラムを実施しています。特に、中国、バハマ、ナイジェリアなどは既にCBDCを正式に導入し、利用が拡大しています。
中国でCBDCが普及
CBDCのリスク・懸念点
CBDCで特に懸念されるのは「国家による金融取引の監視強化」です。現金払いは匿名性がありますが、CBDCでは全ての取引がデジタル記録として残るため、政府や中央銀行が国民の支出履歴を詳細に追跡でき、プライバシー侵害につながる可能性があるとの懸念が示されています。
また、政府が個人の口座残高を凍結したり、特定の支払いを禁止したりする介入も容易になります。エマー議員ら反対派は「CBDC導入は政府に日々の経済活動を覗き見される恐れがある」と警告し、CBDCが強力な監視ツールになり得ると批判しています。
一方、欧州中央銀行はデジタルユーロで高い匿名性を確保する方針を打ち出していますが、具体的なプライバシー保護策は未定で「監視社会化」への懸念は依然として根強く残っています。
欧州議員のCBDC反対の声
ステーブルコインの活用を優先すべき?
3月12日の米下院金融サービス委員会公聴会で、エマー議員はCBDCの危険性を改めて訴え「CBDC反監視法案」の必要性を主張しました。同氏は「CBDCには許容できないリスクがあり、むしろプライバシーを確保したステーブルコインの活用を優先すべき」と述べています。
また、トランプ大統領が「CBDC禁止」を盛り込んだ大統領令に署名したことで、前政権下で進められていたCBDC計画は停止されています。これらの動きにより、米国がCBDCを導入する可能性はなくなったと見られています。
一方、日本ではCBDCの導入に向けた取り組みが進められており、日本銀行は2021年4月から概念実証を開始し、2023年4月からはパイロット実験を実施しています。
2024年度の「骨太の方針」では、CBDCの検討を進めることが示されており、財務省と日本銀行が連携して、民間の有識者や企業の知見を収集しながら、発行の実現可能性に向けた議論が進められています。
米国がプライバシーや民間主導のイノベーションを重視し、CBDC導入を見送る選択をしたため、日本を含めた各国は、利便性とプライバシー保護のバランスをどのように取るか、引き続き難しい舵取りを迫られることになりそうです。
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Souce:トム・エマー下院議員プレスリリース
執筆・翻訳:BITTIMES 編集部
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