【取材】三菱UFJ信託ら、証券トークンPF「Progmat」に関する報告書公表
三菱UFJ信託ら、証券トークンPF「Progmat」に関する報告書公表
三菱UFJ信託銀行が主催の「ST研究コンソーシアム」が、デジタル証券に関連する報告書を3月23日に発表した。そして「ST研究コンソーシアム」が4月より「デジタルアセット共創コンソーシアム(DCC)」に改名されることも分かった。
さらに今年4月より、ブロックチェーンを含む分散型台帳技術(DLT)のオープン化を目的とした「Progmat5.0プロジェクト」と「Progmat Coin」 を活用したデジタルアセット決済の迅速な社会実装を目的とした「資金決済ワーキング・グループ(資金決済WG)」を開始することも発表した。
「Progmat(プログマ)」はブロックチェーンを活用した独自のデジタル証券発行・管理プラットフォームであり、「Progmat」はエンタープライズ向けブロックチェーン「Corda(コルダ)」が採用されている。
「Progmat Coin(プログマ・コイン)」 はブロックチェーンと受益証券発行信託スキームを組み合わせたステーブルコインで、1Progmat coin=1円に相当するように設計されている。
ちなみにProgmatのプラットフォーム拡張事例として、スマートコントラクト共創、DEX/P2P取引やステーブルコインやデジタル通貨連携なども挙げられている。またクロスチェーン対応としては、暗号資産、NFT、CBDC(中央銀行デジタル通貨)やサードパーティーのセキュリティトークンなども挙げられてる。
なお「Progmat5.0プロジェクト」では「DLT オープン化後のガバナンス・セキュリティ・秘匿化」の方針に則り、「Progmat ST」「Progmat Coin」の両ネットワークに各事業者が直接参加するための、大型アップデートの実装を目標とし、要件定義の実施に向けた予備検討を、会員企業と共同で実施していくという。
また「資金決済WG」では「デジタル証券市場参加者間の連携方法」の方針に則り「Progmat Coin」の活用を前提に「Progmat内完結の資金決済フロー具体化」及び「クロスチェーン決済具体化」に対応する 2 つの分科会を設置したうえで、会員企業との検討を開始していくとのことだ。
「Progmat5.0プロジェクト」と「資金決済WG」の両方とも、3月23日に公開された報告書「ST研究コンソーシアム(SRC)セカンダリ・DLT拡張WG」の方針に則って進められていくとのこと。
「Progmat5.0プロジェクト」と「資金決済WG」には、事務局兼Core Developerとして三菱UFJ信託銀行を筆頭に、大手金融機関やITプロバイダーが名を連ねている。ちなみにデジタル証券基盤を提供しているBOOSTRYやSecuritize japanも「資金決済WG」に参加するとのことだ。
そして、3月23日に発表された報告書の主項目は「Progmatとワーキンググループの概要、デジタル証券市場参加者間の連携方法、DLTオープン化後のガバナンス・セキュリティ・秘匿化、証券バリューチェーン変革の定量効果算定、ネクストアクション」となっている。
デジタル証券市場参加者間の連携方法に関しては「デジタル証券市場に必要な証券決済基盤Progmat ST、及び資金決済基盤Progmat Coinを提供し、ワンストップでポストトレードプロセスが完結する仕組みを構築する」ことや「Progmat Coinは、デジタルアセットの資金決済に最適化したステーブル コインで、DLT上でアトミックな DVP決済が可能となることで、決済リスク・ 業務負担・コストの極小化が可能となる」などが要点として説明されている。
また証券バリューチェーン変革の定量効果算定に関しては「DLTをオープン化し、ポストトレードがワンストップで完結する仕組みになる場合、オープン化前/既存の法定通貨決済の方式に比して、毎年約1,500 百万円(84%)のネット効率化効果(Progmat 利用コスト加味後)が想定される。(効果試算のため、将来的なST 取扱残高を1社あたり500億円、業者数を15社として、諸条件含めて数値仮置きの上、試算) 」ことや「DLT連携やProgmat CoinとのDVPによってフローが簡便化され、業務委託コストや各種手数料、業務執行に伴う人件費が不要となり、Progmatを利用する上で必要なライセンスフィや API 利用料のみで運用が可能となる見込み」などが説明されている。
そして秘密鍵管理に関しては「DLTへの書き込みはDCCに参加しNode保有が許可された企業のみ。Permissionless型と異なり、万が一流出が発生したとしても移転先は限定的で、誰が書き込んだかを具体的にトレースすることが可能」と報告書にて説明されている。
そしてさまざまな検討事項や前提を考慮した上で、Progmat全体の方針として、秘密鍵管理では秘密鍵を安全に保管・演算をするハードウェアの利用を必須としないことで合意したとのことだ。
Progmatの今後のロードマップとしては、Progmat基盤拡張が2022の12月にAPIオープン化し2023年中のDLTオープン化を目標としており、Progmatに関するセカンダリは、大阪デジタル証券取引所によるデジタル証券(ST)取扱開始目標の2023年からPTS方式が可能になる点は不変のため2023年以降にP2P方式に係る検討・開発に着手する予定とのことだ。
加筆:3月23日20時20分
あたらしい経済編集部は、三菱UFJ信託銀行経営企画部デジタル企画室のプロダクトマネージャーである齊藤達哉氏へ取材を行なった。
−−DCCの運営体制をMUTB集中管理体制から分権的に移行させる上で、最もハードルが高そうな要件は何だと考えられていますか?
外部の金融機関の皆さまから見て、「MUFG色ではない、無色のプラットフォーム」と認知いただけるか否かが、ポイントであると考えています。 デジタル証券市場の揺籃期において、三菱UFJ信託銀行自らが主要なユーザーとして「Progmat」を支えてきたことから、 どうしてもMUFG色のプラットフォームである、という先入観を抱いてしまうのも無理がないと認識しています。
ただ、今回発表したとおり、形式的にも実態的にも三菱UFJ信託銀行はあくまで参加者の一角化し、「Progmat」自体は様々なイコールパートナーの 皆さまとの共同運営に移行していきますので、「Progmat 5.0」プロジェクトを成功させ、実績でお示しできるように善処して参ります。
なお、パーミッションレスブロックチェーン上の分散型組織(いわゆるDAO)であっても、意思決定に必要なガバナンストークンを特定の参加者が集中的に保有し、 実際には“分権”ではなく“ほぼ集中”型の意思決定構造になっている事例も散見される認識ですが、DCCにおける意思決定は各会員が同じレベルの投票権を有することを想定 しておりますので、特定の参加者の権限が強いといったリスクは生じづらい、と考えております。
−−Progmatで発生する取引の監査性を担保するために、どのような運用がされているのでしょうか?
各ノード参加者において、監査法人によるシステム監査を含めた、内部統制対応が想定されます。
−−ステーブル法制化動向に関して、どのような予測を立てていますか?
2017年の改正資金決済法(いわゆる“仮想通貨法”)施行時と、同様の“潮目”である、という認識を持っています。
つまり、ほぼ通貨と同じ機能をもった「価値が固定化されているステーブルコイン」について、通貨の取扱事業者とイコールフッティングで規制を整えるという流れは、 日本だけの「ガラパゴス事象」ではなく、グローバルでも議論されている整理であって、ある意味日本が先駆けて規制を明確化したとも評価できます。
英米法の法域の国家と違い、日本は大陸法の法域ですので、明確な規制が無ければあえてグレーゾーンでビジネスを試みる事業者は生じづらい構造のため、 今回の既成明確化により、正面からステーブルコインビジネスを行えるようになったことはポジティブです。
海外のステーブルコインを国内に導入する発想だけではなく、むしろ日本で生み出した新たなステーブルコインを海外へも展開していくような事業者が現れることを期待していますし、 「Progmat Coin」も広範なユースケースで利用されるプラットフォームを目指しています。
−−「Progmat」プラットフォームでの暗号資産やNFTの交換・決済ニーズに関して、どのような見立てを持たれていますか?
パーミッションレスブロックチェーンを含めたデジタルアセットの世界において、「ボラティリティに晒されず、ブロックチェーン上で一旦価値を固定化して寝かせておく場所」のニーズは、相応に高いと考えています。
改正資金決済法上の電子決済手段(=ステーブルコイン)以外のスキームでも、こうしたニーズに応えるための取組みは存在しえると思いますが、 暗号資産型の場合はかならずしも価値が固定かというとボラティリティは生じ得る点や、前払式であれば発行体による払戻し(換金)はできない等の制約がありますので、 法令準拠のステーブルコインを発行できるインフラのニーズはあるのではないか、と考えています。
参考:ST研究コンソーシアム(SRC)セカンダリ・DLT拡張WG
images:iStocks/AndreyPopov・Ninja-Studios
デザイン:一本寿和
参照元:ニュース – あたらしい経済