なぜ、2008年安値を境に米ドル安の時代は 終わったのか? リーマンショックの再来は?

■ドルインデックスは早ければ夏場にでも100打診か 筆者はかねてより、米ドル全面高の構造を指摘してきた。昨日(5月24日)のドルインデックスの高値更新は、その一環と見なされる。そして、さらなる上昇余地が生まれ、早ければ夏場にでも、心理的大台である100の打診を覚悟すべきであろう。
ドルインデックス 日足(出所:Bloomberg)
 米ドル高に懐疑的な論調も多いが、主に米利上げサイクルの終焉やトランプ政権の米ドル高牽制といったロジックに基づいている模様だ。
 しかし、歴史に照らして考えると、米利上げサイクルが終了した後でも米ドル高が続き、また、米政府の意向と関係なく、為替市場のトレンドは形成されてきたから、こういったロジックに大した裏付けはないと思う。
■一口に「16年サイクル」と言っても、数え方で変わってしまう さらに、米ドル高に否定的な見方の多くは、テクニカル的な根拠としてサイクル論を持ち出すケースが多い。一番影響力のある仮説はいわゆる為替市場における16年サイクルの存在だ。
 もっとも、筆者自身も16年サイクルを重視し、また、サイクル自体をまったく否定しないが、戦後一貫して継続されてきた米ドル安のトレンドは2008年の最安値を境にすでに転換された公算が大きい。
ドルインデックス 月足(出所:Bloomberg)
 したがって、サイクル自体が16年の周期をもって繰り返されても、サイクルの位相が違ってくる可能性も大きいから、従来の「米ドル安の期間や値幅は、米ドル高の期間や値幅に比べ長く、また大きい」という特徴も「米ドル高の期間や値幅は、米ドル安の期間や値幅に比べ長く、また大きい」にチェンジされたはずだとみる。
 その上、サイクルの数え方も単純ではない。実際のところ、今回の16年サイクルは、ドルインデックスが付けた2008年の「史上最安値」ではなく、2011年安値から数えなければならない。
 その理屈や前述のサイクルの位相などに関する説明は、かなり文字数が必要なのでここではいったん省略するが(本コラムにて今度詳説する予定)、結論から申し上げると、2011年安値を起点とした米ドルの上昇波は、もしかしたら10年も続くかもしれないから、2020年や2021年まで基本的に米ドル高のトレンドが続くとみるべきだ。
 要するに、米ドル高の可能性自体も市場構造に基づいているから、ファンダメンタルズに関する安易な解釈で見誤るべきではない。
■なぜ、2008年安値を境に米ドル安の時代が終わったのか? 筆者の考え方は、多くの反論や批判を招く可能性が大きいことを承知しているが、根幹的な部分についてまず説明しておきたい。重要なのは、「なぜ、2008年安値を境に米ドル安の時代が終わったのか」ということであり、ここにすべてが集約されると思う。
 周知のとおり、2008年はリーマンショックが発生し、世界景気を大きく後退させ、また、経済環境を大きく攪乱した。
 米国発の危機はあっという間に世界的に広がり、米ドル安が最初進行したものの、直ぐ底打ちを果たし、その後、リバウンドしてきた。ここが重要なポイントであることをまず覚えておいていただきたい。
ドルインデックス 月足(出所:Bloomberg)
 危機に対応すべく、FRB(米連邦準備制度理事会)は前例のない大規模QE、すなわち金融緩和を3回も実施してきた。
 統計はいろいろあるが、一般的にはその期間は2008年11月~2014年10月までとされ、QE1は1兆7250億ドル、QE2は6000億ドル、また、QE3も約6000億ドルだった。足した総額は天文学的桁数となり、もちろん、米建国史上最大の「お金のバラマキ」だった。
 実際には、金融緩和自体がそのままお金の印刷ではないが、一般庶民の感覚では、お金を印刷してばらまくということとして理解されやすく、またその理解自体も大した間違いではない。
 ここがまた重要なところだが、米史上前例のない大規模な米ドルバラマキがあっても、米ドルの価格は上下変動したものの、結局、2008年安値を割らなかった。
ドルインデックス 月足(出所:Bloomberg)
 ドルインデックスは2008年3月にて安値を付けており、それは米QE実施前だった。3回の大規模QEの実施があっても、その安値を更新しなかったこと自体、歴史的な安値が形成されたことを証明したわけだ。
 ゆえに、その後、ドルインデックスは大きく反騰、2017年年初にて、いったん高値を付けたわけだが、あくまで途中の高値と見なされ、16年サイクルにおけるトップではなかった可能性は大きい。
ドルインデックス 月足(出所:Bloomberg)
 なにしろ、天文学的な桁数のお金をばらまいても米ドルは底割れしなかったのだから、2008年安値が歴史的な底として認識されるべきだ。
 「リーマンショックの再来」は、2008年以降、盛んに指摘されてきたが、まったくハズレであった。仮に再来があったとして、また、米QEがあったとしても、2008年~2014年のような大規模なQEを実施できるかどうかは、かなり疑問だ。
 そもそも米国経済は極めて柔軟性を持ち、また過去の過ちを学習し、同じ轍を踏まない完全性が備わっているから、リーマンショックのような危機の安易な再来もないだろう。
 いずれにせよ、強調したいのは…

参照元:ザイFX! 陳満咲杜の「マーケットをズバリ裏読み」

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