VIX指数急騰で低ボラティリティ相場終焉! 株暴落でも底堅いドル/円も下値余地拡大
2018-02-08
昨年(2017年)後半の低ボラティリティ相場において、為替相場は膠着。
【参考記事】
●2018年初頭に注目したいのはユーロ/円! 米中間選挙に向けて米ドル/円は105円へ(2017年12月21日、西原宏一)
特に米ドル/円相場は、常時112円~114円で推移しており、方向性を取りにいくトレーダーにとっては、難しい相場展開となっていました。
米ドル/円 日足(出所:Bloomberg)
一方、このコラムでもご紹介させていただいたように、オプションを使えるマーケット参加者にとっては、低ボラティリティ、つまり「動かない相場」という大相場が到来して活況を呈していました。
【参考記事】
●ドル/円は110.00円の攻防が流れを決める! ドル安の流れと機関投資家の買い需要交錯(1月18日、西原宏一)
相場が動かなければ、膠着相場に賭ける、具体的にはオプションをショートにして収益を上げるという、大相場が到来していたわけです。
流れとしては、低金利、株は、じり高のゴルディロックス(※)状態。
(※編集部注:ゴルディロックスとは、過熱もしすぎず、低迷もしていない状態のこと)
このマーケット環境においては、低ボラティリティに賭ける、つまり、VIX指数(恐怖指数)をショートにするという取引が人気を呼んでいました。
それが、いきなりVIX指数が急騰したため、カバーしきれず、マーケットは大きな痛手を負っています。
VIX指数 週足(出所:Bloomberg)
ベロシティシェアーズ・デイリー・インバースVIX短期ETN 週足(出所:Bloomberg)
プロシェアーズ・ショートトVIX短期先物ETF 週足(出所:Bloomberg)
ヘッジファンドも、低ボラティリティに賭けて、大きな損失を被ったところが多数。
米株市場の時価総額から約1兆2500億ドル(約136兆7000億円)相当を消失させた相場急落で、株価上昇とボラティリティーの落ち着きが続く方向に賭ける投資を行っていたヘッジファンドが、最も手ひどい打撃を受けた。
事情に詳しい関係者の1人によれば、投資運用会社マン・グループが運営する旗艦ファンドは、市場のトレンドが突然反転したことで、5日に運用資産の価値が目減りした。株式オプションを取引するヘッジファンド運用会社オプション・ソリューションズも一夜にして保有資産の売却を余儀なくされ、資産価値の65%を一時失った。
トゥルー・パートナー・アドバイザーのトビアス・ヘックスター共同最高投資責任者(CIO)は米国時間6日の取引開始前の段階で、一般論として「ボラティリティーに対してポジションをショートにしていたトレーダーは、吐き出すしかなかった。それがまだ終わっていないというのが、われわれの観測だ」と語った。
オプション取引所CBOEのボラティリティー指数(VIX)が5日に過去最大の上昇となったことで、ボラティリティーの低い状態が続く方向に賭ける金融商品に積極的に資金を投じてきた投資家が痛手を被った。2日発表された1月の米雇用統計における平均時給の大幅な伸びがインフレ加速を示唆し、債券利回りの上昇と株価の急落を招いた。
ヘックスター氏が運用に携わるレラティブバリュー・ボラティリティーヘッジファンドは6日までの2営業日で、運用資産の価値が14%急増した。割安と考えるボラティリティー株式指数オプションを買い、割高と思われる同種のオプションを売るこのファンドは、米国と韓国、台湾、日本の指数間の変動で利益を得た。
出所:Bloomberg
今回の株安は、米金利が急騰したことがきっかけとなっていますが、前述のように、低ボラティリティに賭ける取引、つまりVIX指数をショートにする戦略も活発に取引されていたことから、「株価の下落とVIX指数の急反発」どちらにも踏まれることになり、多くのマーケット参加者が痛手を負っています。
■VIX指数急反発をチャートでチェックすると… では、今回のVIX指数の急反発が、どの程度のものであったのかをチャートでチェックしてみます。以下は、VIX指数の週足チャートです。
VIX指数 週足(出所:Bloomberg)
2008年10月のリーマンショック時のVIX指数が89.53。
次のVIX指数の高騰は、2015年8月のチャイナショック時の53.29。
そして、今回の「米国債急落ショック?」は50.30まで急騰。
これだけを見ると、チャイナショック時の展開に似ているという結果になりますが、この結論に導けるのは、マーケットが落ち着いた局面になります。
現在のマーケット環境は、
(1)今週の「FX&コモディティ(商品) 今週の作戦会議」でご紹介させていただいたように、米金利の上昇が止まらない可能性が高い
(2)株高と低ボラティリティに賭けた取引がまだ多く残存しており、米国株、日本株ともに上値の重い展開
【参考記事】
●NYダウは665ドル安! 日経平均も大幅安!それでも米ドル/円が下げなかったワケは?(2月5日、西原宏一&大橋ひろこ)
この2点から、まだ日米の株価とも、ボラティリティの高い不安定な状態が続く可能性が高く、VIX指数も下げ止まる公算が高いのではないかと想定しています。
補足ですが、お伝えしてきた通り、昨年(2017年)来の低ボラティリティに賭ける取引を急増させ、今月(2月)のボラティリティ急騰で痛手を負っている参加者が多いのですが、ここへきてVIX指数をショートにする商品自体を疑問視する声が挙がっています。
日経新聞に、豊島逸夫氏がコラムでコメントをされているので、ご紹介しておきます。
「長期では価値がゼロ」 VIX商品のリスク開示
今回の相場大変動の「主犯のひとり」扱いされている、米株相場の予測変動指数であるVIX指数。これに連動するETN(上場投資証券)について、驚くべきリスク開示が目論見書(プロスぺクタス)に書かれていた。
組成・発行したスイス大手銀行が作成したプロスぺクタスの197ページに「このETNの長期期待価値はゼロである。もし、このETNを長期に保有すれば、投資額の全て、あるいはかなりの部分を失う可能性がある」とのくだりがあるのだ。
このリスク開示文言を果たして購入者が読んでいたのか。商品マーケティングのプロセスで、このリスクが説明されていたのか。市場の一部からは疑問視する声もあがっている。
米CNBCも報道したので、銀行側のスポークスマンは「プロスぺクタスで、本商品は短期投資向けに組成されたことが明確に語られ、プロの投資家のみに販売された。本商品はバイ・アンド・ホールド(買い持ち)の長期保有のための債券ではないことが明示されており、日計りに使われることを前提として組成された」と反論している。
こうしたなか、「規制当局は、プロスぺクタスのこのような文言をなぜ認めたのか」との批判もあがっている。
一方、プロの投資家であれば「このようなデリバティブ(金融派生商品)のリスクは当然承知しているはず」との意見も根強い。
そもそも、このETNの価値がなぜ長期的にゼロになるのか。それは、信託報酬に相当する額の分だけ、ETNの基準価値が徐々に減ってゆく仕組みになっているからだ。
「VIXが過去最低水準」などと連日のように報道されたころは、このようなリスクが問題視されることはなかった。VIXをショートする、すなわち、市場の低ボラティリティーに賭ける投資も、人気が急上昇した。
出所:日経新聞
相場が動かなくなると、為替市場では、オプションを売って収益を上げるということは、メルマガ 「FXトレード戦略指令!」 でご紹介させていただきましたが、VIX指数をショートにするのも基本は同じ。
低ボラティリティに賭けているわけなので、ボラティリティが高騰するとあっさり即死してしまうのです。
日米の株が急落する中で、米ドル/円も108円台まで…