
金融庁、ハッキング対策で補償準備金を制度化へ
2025年11月24日、金融庁は暗号資産(仮想通貨)交換業者に対し、不正流出などに備えた責任準備金の積立を義務付ける方針であることが明らかになりました。
この制度は、ハッキングなどで顧客資産が流出した場合に、迅速に損失補償を行える体制を整えることを目的としています。
日本経済新聞によると、金融庁は補償資金の原資確保策として、仮想通貨交換業者による保険加入を認め、業者の負担軽減を図る方針です。
さらに、交換業者が経営破綻した場合でも、管理人(破産管財人等)が代理で顧客資産を返還できる仕組みを導入する計画であることも報じられています。
暗号資産105銘柄を金商法の対象に
暗号資産取引所に対する資産保護制度の強化
金商法改正案に盛り込まれる準備金制度
今回の責任準備金積立義務化は、暗号資産を現行の金融商品取引法(金商法)の規制下に組み入れる動きの一環とされ、金融庁は同法改正案にこの制度を盛り込み、2026年の通常国会に提出する方針です。
改正案提出に先立ち、金融庁は金融審議会のワーキング・グループ(WG)で制度内容の議論を進めており、近く取りまとめる報告書に今回の義務化方針を盛り込む見通しとなっています。
背景に暗号資産業界が直面する補償の壁
背景には現行制度の不備があります。現在、第一種金融商品取引業者(証券会社など)には、証券事故発生時に顧客への賠償金支払いを円滑に行うため責任準備金の積立が義務付けられています。
ただし、業者に違法・不当行為がない場合は、個別に行政庁の承認を得なければ責任準備金を使用できない制約があります。
このルールを暗号資産交換業者にそのまま適用すると、ハッキングで顧客資産が流出しても、業者に故意や過失がなければ迅速に準備金から補償できない恐れがあると指摘されていました。
有識者会議が示す新制度の方向性
こうした課題を踏まえ、金融庁の有識者会議では「不正流出事案が生じた際には個別承認を経ずに責任準備金で補償できるようにすべきではないか」との論点が議論されています。
金融庁も、不測のハッキング被害に対して行政手続きを待たず、迅速に顧客を救済できる制度の必要性を判断したものとみられています。
その結果、責任準備金の積立義務化と柔軟な活用を可能にするルール整備が進められ、今後は具体的な制度設計を経て、法改正を通じて正式に導入される見通しです。
バイナンス「SAFU」に見る補償制度のあり方
なお、世界的に見ても暗号資産取引所が自主的にユーザー資産保護策を講じる例があります。
例えば、大手仮想通貨取引所Binance(バイナンス)は2018年に、独自の非常用基金「SAFU(Secure Asset Fund for Users)」を創設し、取引手数料収入の10%を積み立ててハッキング被害などの備えに充てています。
実際、2019年5月に約7,000 BTCが流出する大規模ハッキング被害が発生した際、当時の同社CEOのチャンポン・ジャオ(CZ)氏は「失った資金を補填する十分なBTCを保有している」と表明し、SAFU基金を活用してユーザーの損失を全額補償しました。
世界的に流出事件が後を絶たない中、日本の金融当局もこの取り組みに倣い、投資家保護の実効性を高める取り組みを強化しています。
Bybitハッキング事件
金商法改正で暗号資産発行体を規制強化
取引所に加え、金融庁は資金調達型暗号資産の発行体に対する規制も強化し、投資家保護の全体的な制度整備を進めています。
2025年11月16日付の日本経済新聞によれば、金融庁は資金調達型の暗号資産発行事業者(ICOやIEOの発行体)に対し、年1回の定期的な情報開示を義務付ける新制度の導入を検討しています。
発行事業者には事業の現況や今後のトークン発行計画、調達資金の使途といった情報の公表を求める方針で、金融審議会WGで制度設計を詰めた上、2026年通常国会に提出予定の金商法改正案に盛り込まれる見通しです。
十分な情報がないまま投資家が損失を被る事態を防ぐ狙いがあり、背景には国内IEO案件でのトラブルがあります。
実際、コインチェックが今年実施した音楽ファン支援プロジェクト「ファンプラ(Fanpla/FPL)」のIEOでは、トークン価格が公募価格の1円から約0.49円まで急落し、約50%の下落率を記録しました。
金融庁はこのような事例を踏まえ、暗号資産分野での投資家保護策を相次いで強化しており、各種ルール整備の進展により暗号資産市場の健全性向上とユーザーの信頼確保につながることが期待されています。
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Source:日本経済新聞
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