「仮想通貨市場が下落し続ける理由」トム・リー氏が語る流動性リスクと市場機能不全

この記事の要点

  • マーケットメイカーの資本毀損が仮想通貨下落の主因
  • 10月10日の強制清算が流動性不足を招く
  • ADL発動や取引所設計リスクが連鎖清算を誘発
  • マクロ経済とETF解約が相場不安を助長
  • 個人投資家の資金ローテーションで回復余地あり

市場機能不全が招く仮想通貨の下落圧力

イーサリアム関連トレジャリー企業BitMine(ビットマイン)会長のトム・リー氏は2025年11月21日、仮想通貨市場の下落がマーケットメイカーの深刻な流動性不足に起因している可能性を指摘しました。

リー氏は米経済メディアCNBCのインタビューで、10月10日に発生した約200億ドル(約3.1兆円)規模のポジション強制清算が一部マーケットメイカー(※1)のバランスシートに大きな穴を空け、市場の流動性不足を招いたと分析しています。


※1 マーケットメイカー:市場で常に売買注文を提示し、価格の安定や流動性の確保を担う取引主体

マーケットメイカー各社は自己資本の減少により取引規模を縮小せざるを得ず、価格下落局面では保有資産を売却せざるを得なかったため、結果的に仮想通貨(暗号資産)の下押し圧力が持続的に高まったと説明しました。

実際、10月中旬以降、ビットコイン(BTC)イーサリアム(ETH)を含む主要銘柄はじわじわと値下がりを続けており、リー氏はこの下落の背景にマーケットメイカーの機能不全があるとの見方を示しています。

リー氏によれば、この相場低迷は需要そのものが消失したわけではなく、市場に流動性を供給するエンジンが傷ついたことによる一時的な現象だといいます。

トム・リー氏が語る仮想通貨売り圧力の正体

マーケットメイカーの資本毀損が引き金に

リー氏はマーケットメイカーを「仮想通貨市場に流動性を供給する中央銀行のような存在」と位置付けており、主要プレイヤーの健全性が損なわれると市場全体の機能不全に直結すると強調しています。

10月10日の急落によりマーケットメイカーは深刻な損失を被り、流動性プロバイダー各社は自己資本に穴が空いた状態で資金繰りに追われています。

リー氏によると、マーケットメイカー各社はバランスシートの傷口を塞ぐために取引活動を縮小し、資本確保のため保有ポジションの売却を進めている状況であり、これが価格下落のスパイラルを生んでいるといいます。

ADL発動と設計リスクが生んだ連鎖清算

特にリー氏は、10月の急落時に一部取引所で発動した「自動デレバレッジ(ADL)」による連鎖清算にも言及しました。

実際、当日は大手取引所Binance(バイナンス)において米ドル連動型ステーブルコイン「USDe」の価格が他所では1ドル近辺だったにもかかわらず自社取引板で0.65ドルまで暴落し、それを引き金として数千件規模のポジション強制清算が発生しています。

バイナンスが外部マーケットの価格ではなく自社内の価格を元に担保評価を行っていた設計上の問題につけ込まれた格好で、このようなシステム上の脆弱性がマーケットメイカーに過大な損失を負わせ、市場全体の流動性を急速に枯渇させた要因の一つとなりました。

リー氏は「10月10日の清算ショックはマーケットメイカーを本当に麻痺させてしまった」と述べており、現在も続く相場の低迷はこれら流動性プロバイダーの“負傷療養期間”に当たると分析しています。

マクロ経済とETF解約が相場を揺らす

このような市場構造上のリスクに加え、マクロ経済の逆風も相まって相場を揺るがしています。

仮想通貨投資ファンドなど機関投資家は足元でリスク資産投資に慎重姿勢を強めており、当初強気だったビットコイン現物ETFもこのところ資金流出超過に転じています。

実際、オンチェーンデータ上では長期保有者(ホエール)の売却が増加傾向にあり、これに複数のETFからの資金流出が重なることで買い手不在の状況が生まれ、価格下落に拍車をかけているとの指摘もあります。

株式市場にも広がる流動性リスクの影

リー氏も、仮想通貨市場の調整局面が伝統的な金融市場にも波及し始めている点を注視しています。

株式市場では主要指数が10月末に天井を付けた後下落基調に転じており、リー氏は「現在の株式市場は10月10日直後の動きをなぞっているように見える」と述べ、仮想通貨市場で顕在化した流動性リスクが数週間遅れで株式市場にも反映されている可能性を示唆しました。

ビットコインやイーサリアムも株式市場に先行して下落基調を辿っており、リー氏は「特にBTCやETHはレバレッジ巻き戻しの過程で株式市場の先行指標として機能している」と分析しています。

その上で、過去2022年にも同様のレバレッジ解消局面が約8週間かけて進行した例を挙げ、同氏は「現在の調整フェーズは開始から約6週間が経過した段階であり、あと数週間は流動性不足が尾を引く可能性がある」と述べました。

過度なレバレッジに依存した取引のツケを市場全体で支払う「洗い出し」のプロセスが続いているものの、リー氏は市場のファンダメンタルズ自体が損なわれているわけではない点を強調しています。

仮想通貨市場に残る強気のローテーション資金

実需面では依然として堅調さが保たれており、個人投資家も仮想通貨市場から一斉に退場しているわけではなく主要通貨への資金ローテーションが見られるとの分析も示されています。

リー氏はこうした状況を踏まえ「売り手優勢の展開がいつまでも続くわけではなく、いずれマーケットメイカー各社の体力回復に伴って相場も正常化へ向かう」との見解を示しました。

さらに同氏は、ビットコインを約23万BTC保有するストラテジー(旧マイクロストラテジー)社の株価動向にも注目すべきだと指摘しており、同社株は仮想通貨市場と連動することが多く、市場の先行指標として機能する場合があると述べています。

リー氏は、こうした関連市場の動きも総合的に見極めながら、迫り来る市場回復局面に備えるべきとコメントしています。

資金動向と価格帯から見る市場の底打ちライン

ビットコイン価格下落と投資家心理の冷え込み

足元の仮想通貨市場は弱含みが続いており、11月下旬にはビットコイン価格が一時81,000ドル(約1,210万円)を割り込み、7か月ぶりの安値水準となりました。

機関投資家向けのビットコイン投資商品からは資金流出が加速しており、米資産運用大手ブラックロックの現物ビットコイン信託(IBIT)は11月だけで約24.7億ドル(約3,900億円)の解約が発生し、単月ベースで過去最大規模の資金流出となる見通しです。

一方で、市場の底打ちを示唆する材料も現れ始めています。

Bitwiseのアナリストは、ビットコイン価格の「マックスペイン(最大苦痛)ゾーン」が84,000〜73,000ドル(約1,320万〜1,150万円)付近に位置すると指摘しており、現状の価格はちょうどそのレンジに差し掛かっています。

個人的には、最大の“痛み”は、IBITの平均取得価格 84,000ドル、もしくは MSTR の平均取得価格 73,000ドルのいずれかに到達した瞬間に達すると考えています。

最終的な底値はその間のどこかになる可能性が高いですが、これらの水準は投げ売りに近い価格となり、個人的には市場サイクルのリセットに相当すると見ています。

マックスペイン価格帯が反発の鍵に

実際、この価格帯はブラックロックのビットコイン投信の取得平均価格(約84,000ドル)やストラテジー社の保有BTCの平均簿価(約73,000ドル)と重なる水準であり、市場のオーバーレバレッジ解消が最終局面を迎える節目になる可能性があるとされています。

さらに、仮想通貨市場におけるドル建てステーブルコインの取引所保管残高は過去最高の720億ドル(約11.3兆円)超に達しており、これは市場に投入される準備が整った「待機資金」の存在を示唆するものです。

歴史的に見ても、取引所のステーブルコイン残高が増加した局面では、その後に大規模な資金流入と価格上昇が確認されています。

調整最終局面と市場の回復期待感

現在のところ米金融政策や地政学リスクなど不透明要因は残るものの、市場参加者の間では「今回の調整は過去数年にない規模のレバレッジ解消を経た最終局面に差し掛かっている」との見方も出ています。

必要な調整を経てマーケットメイカーの流動性が回復すれば、仮想通貨市場が再び力強さを取り戻す可能性があると期待されています。

各種指標が示す“底打ち”の兆候を踏まえ、市場参加者は今後の動向を注視しています。

※価格は執筆時点でのレート換算(1ドル=157.12 円)

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Source:CNBCインタビュー
サムネイル:AIによる生成画像

参照元:ニュース – 仮想通貨ニュースメディア ビットタイムズ

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