
トヨタ、ブロックチェーン構想「MON」ホワイトペーパー公開
トヨタ自動車のブロックチェーン研究組織「トヨタ・ブロックチェーン・ラボ」は2025年8月20日、車両の所有権や走行データをNFT(非代替性トークン)で証明し、投資家が取引可能な資産とする新たな構想「モビリティ・オーケストレーション・ネットワーク(MON)」を発表しました。
このMON構想は、自動車を単なる移動手段ではなく、金融商品としても扱える新たな枠組みを提示したものです。
MONでは、自動車の登録情報や製造・整備履歴などを車両ごとにブロックチェーン上に集約し、それらを対応するNFTにひも付けることで、車両そのものをRWA(現実資産)として扱える仕組みを目指しています。
トヨタは同日、MONの技術詳細をまとめたホワイトペーパーを公開しました。車両データの信頼性を高めることで車を資産化し、EV(電気自動車)や自動運転タクシーの車隊などにおいて新たな投資機会を創出する方針を示しています。
なお、このホワイトペーパーの実証プロトタイプにはレイヤー1ブロックチェーン「Avalanche(アバランチ)」が採用されており、高速な最終確定(ファイナリティ)や複数サブネット運用といったアバランチの特性がMONの理念に合致すると説明されています。
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トヨタのMON構想が示す車両NFTの可能性
車両所有権NFTによる資産化モデル
MONの概念実証(PoC)では、車両ごとに発行される「Vehicle Ownership NFT(車両所有権NFT)」に、法的情報・技術データ・経済実績の三つの領域にまたがる証明データを集約する設計が示されています。
さらに複数の車両NFTを束ねてポートフォリオ化し、車両群全体を一つの資産として扱えるように設計されています。例えば自動車メーカーが数百台規模のNFTを組成すれば、投資家は当該トークンの取得を通じて、当該車両群の収益に連動する投資へアクセス可能になります。
実際に車を保有せずともブロックチェーン上で車両資産に出資できるため、モビリティ分野の資金調達手段は多様化し、車両オーナーやフリート事業者にとってはローンより低コストでの調達が可能になるとされています。
アバランチ基盤で構築されるMONの特徴
トヨタ・ブロックチェーン・ラボは今回のMONで、国ごとに異なる車両登録制度や税制・保険の違いによる障壁に対応し、ブロックチェーンでそれらの「壁」を橋渡しするネットワークレイヤーを提供すると説明しています。
MONは単一のブロックチェーンプラットフォームではなく、地域やサービスの特性に合わせた複数ネットワークが共通ルールで相互運用する設計方針が採用されています。アバランチ上に「Trust」「Utility」「Securityトークン」「決済」の四つのサブネットを構築し、相互に連携させる構想です。
アバランチ財団も公式Xで「他のEVMチェーンが単一のL1であるのに対し、アバランチは無限のL1を構築できる」と説明しており、トヨタがアバランチを採用した背景にはこうした拡張性の高さがあるとみられています。
車両アカウント化からネットワーク化への展開
トヨタは昨年に車両をアカウント化する「モビリティ指向アカウント(MOA)」構想を発表していましたが、今回のMONはその発展版にあたります。
MOAが車両単位のデータ利用を想定していたのに対し、MONはより包括的でネットワーク指向のアプローチに進化しています。
MONの実証はあくまで概念段階であり、ホワイトペーパーでも一般オーナーや車両価格への直接的影響は示されていません。一方で、基盤の信頼性が高まれば、中古車売買やリース、カーシェアリングなどの領域で業務効率化や新しい金融商品の創出に波及する見通しです。
今話題の「RWAのトークン化」とは
RWAトークン化が描く金融インフラの未来
RWA市場は240億ドル規模に成長
2025年に入り、RWA(現実資産)のブロックチェーン上でのトークン化市場は急速に拡大しています。
市場規模は約240億ドル(約3.5兆円)に達し、過去3年間でおよそ3倍へ拡大しました。将来見通しとしては、2030年代前半に30兆ドル(約4,430兆円)規模へ拡大するとの指摘もあります。
こうした拡大を背景に、伝統的な金融機関も次々とRWAトークン化事業に参入しており、分散型金融との融合が次世代の金融インフラを形作る動きとして注目されています。
ゴールドマン・サックスら米金融大手がRWA参入
2025年7月には、米大手のゴールドマン・サックスとBNYメロンが、米国初となるトークン化マネーマーケットファンド(MMF)サービスの開始方針を明らかにしました。
両社は取引記録を自社開発のブロックチェーン「GS DAP」に記録し、デジタルトークンとして発行する方針を示しています。
このプロジェクトにはブラックロックやフィデリティも初期段階から参画しており、伝統金融の大手が横並びでRWA市場へ踏み出した事例として業界の関心を集めました。
ブラックロックのラリー・フィンクCEOも「DeFiとRWAのトークン化は市場の近代化に不可欠」と言及し、伝統金融の関与拡大に前向きな姿勢を示しています。
モビリティ分野含むRWA活用が世界で拡大
中東ドバイでは政府系機関が不動産持分のトークン化プラットフォームを立ち上げました。こうした動きは波及しており、各国でRWAのデジタル証券化を目指す取り組みが広がっています。
規制整備の進展とともに、RWA市場は今後数年で飛躍的に拡大するとの予測が専門家から示されています。
モビリティ分野でのトヨタの先行的な取り組みも背景に、RWAトークン化は今後さらに勢いを増すと見られており、従来の金融と新興分散型技術をつなぐ新たな基盤として注目が高まっています。
※価格は執筆時点でのレート換算(1ドル=147.74 円)
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Source:トヨタ・ブロックチェーン・ラボ発表
サムネイル:AIによる生成画像







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