
トランプ政権、仮想通貨デバンキング問題に制裁検討か
2025年8月5日、米国のドナルド・トランプ大統領が、仮想通貨企業への銀行サービスの拒否(デバンキング)に関与した銀行に対し、制裁を科す大統領令への署名を検討していることが明らかになりました。
ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)によると、この大統領令の草案には、銀行規制当局に対し、公正貸付法、反トラスト法、消費者金融保護関連法に違反していないかを調査するよう指示する内容が盛り込まれています。違反が確認された場合には、罰金や同意判決などの制裁を科す方針とされています。
トランプ大統領は今年1月、JPモルガン・チェースやバンク・オブ・アメリカのCEOが保守派に対して銀行サービスの提供を拒否していると問題提起しました。
また、仮想通貨企業も、バイデン前政権下で銀行サービスから締め出しを受けたと繰り返し訴えており、銀行側は、これらの対応はマネーロンダリング対策を含む法的リスクや、当局からの圧力に基づいた判断だと説明しています。
バイデン前政権下での規制圧力が浮き彫りに
仮想通貨排除を巡る米政府と銀行の攻防
金融規制機関に対する調査命令と見直し指示
WSJの報道によると、銀行が政治的理由で顧客を締め出す行為について連邦の銀行監督当局に徹底調査を指示しており、必要に応じて差別的取引停止があった銀行を司法長官(米司法省)に報告するよう求める条項も含まれています。
同草案では、違反した銀行に対し罰金や業務改善命令(同意判決)などを科す権限を規制当局に付与するとしています。また、金融当局には、特定顧客との取引停止に至った自らの方針を再検討するよう求めています。
たとえば銀行が顧客の「評判リスク」を理由に取引可否を判断するといった従来の監督手法について、トランプ政権下ではこうした評価基準を排除する方向性が既に示されており、各金融規制機関に対しても同様の方針転換が指示される見通しです。
さらに草案には、中小企業向け融資を担当する中小企業庁(SBA)に対し、融資保証プログラムに参加する銀行の業務内容を精査するよう指示する項目も含まれていると伝えられています。
バンク・オブ・アメリカによる口座閉鎖事例が焦点に
草案に具体的な銀行名は明記されていないものの、米銀大手バンク・オブ・アメリカが宗教的信条を理由に、ウガンダで活動するキリスト教系団体の口座を閉鎖したとされる事例についても言及があると報じられています。
これに対し、同行は「海外で事業を行う小規模団体は当行のサービス対象外である」と説明し、政治的・宗教的な意図による排除ではないと否定しています。
また草案には、2021年1月6日に発生した米連邦議会議事堂襲撃事件(議事堂乱入事件)の捜査に関して、大手銀行の一部が果たした役割を問題視する記述も含まれているとされています。
同事件後、複数の銀行が捜査当局に協力し、参加者の口座記録を提供したと報じられており、トランプ政権はこれを政治的偏向の一例と見なし問題視している状況です。
米司法省が特別チーム設置で監視強化
銀行業界は、政権のこうした動きに対し警戒感を強め、早い段階から対策を講じる姿勢を見せていました。
WSJの報道によると、米大手銀行は数ヶ月にわたり規制強化を回避すべく準備を進め、共和党系の複数州司法長官との会合を重ねる一方、自社のポリシーに「政治的信条に基づく差別は行わない」旨を明記するといった措置を取ってきたとされています。
このような自主的な是正措置は、トランプ政権による制裁のリスクを軽減する狙いがあるとみられています。
バンク・オブ・アメリカの広報担当者は今回の方針について「規制の明確化を歓迎する。我々は規制当局や議会と連携し、規制枠組みの改善に取り組んでいく所存だ」とコメントしており、業界としても政治的中立性の確保に前向きな姿勢を示しています。
米司法省も今年4月に、違法なデバンキング行為の有無を調査する特別チームをバージニア州に設置することを発表しました。
この特別チームは、政治的・宗教的信条など「許されない要因」に基づいて、銀行がクレジットや金融サービスの提供を拒否していないかを精査しています。また、政府は別のルートからも銀行業界の対応を監視する体制を整えつつあります。
バイデン政権下のデバンキング問題が再燃
こうした背景には、米国の金融規制を巡る過去の政策的経緯が存在します。
2010年代のオバマ政権期には、政府当局が銀行に対し特定業種との取引停止を促したとされる「チョークポイント作戦」が実施され、これに対する保守派からの批判が強まりました。
さらに、バイデン前政権下でも銀行が当局からの暗黙の圧力を受け、仮想通貨企業との取引を回避していた可能性が指摘されています。こうした「デバンキング疑惑」は、政権交代直後から政治的争点として浮上することとなりました。
これを受け、米下院の監視・政府改革委員会は2025年1月に、バイデン政権が政治的動機に基づいて合法的な企業や個人の口座を停止していた疑いがあるとして、正式に調査に着手しています。
ブロックチェーン協会などの業界団体は、正当に運営されていた企業の口座が説明もなく閉鎖される事例が複数存在していたと証言しています。
このような背景から、業界全体で政府や銀行による締め出しへの懸念が広がっていました。
エリック・トランプ氏が語った不当な銀行排除の実態
トランプ大統領の次男であるエリック・トランプ氏は、2021年に家族が政治的理由によって多数の銀行口座を突如閉鎖される事態に直面したと語っています。
同氏は今年のインタビューで「現行の銀行システムは機能不全にあり、富裕層でない一般市民やトランプ支持者が不当に扱われている」と述べました。そして、銀行による締め出しに対抗する手段として、仮想通貨、特にビットコイン(BTC)の必要性を強く認識するようになったと述べています。
実際に、トランプ氏一家は2021年に300件を超える銀行口座に対して、突然サービスの打ち切りを通知されたと伝えられています。その多くは明確な説明がないまま、金融サービスから排除されたとされています。
こうした一連の経緯が、トランプ政権が仮想通貨推進と銀行規制見直しに取り組む背景の一因となったと考えられます。政権幹部の間では、仮想通貨が「金融の公平性を高める手段」として有効であるという認識が共有されつつあります。
銀行と政治が絡むデバンキング問題
仮想通貨排除に制裁、金融公平性が焦点に
今回の大統領令草案には、政治的・宗教的信条や業種を理由とする金融機関による差別的取引排除に歯止めをかけ、仮想通貨業界を含む幅広い事業者の金融アクセスを保護する意図があるとみられています。
仮想通貨企業はこれまで、銀行による口座閉鎖やサービス停止といった措置によって経済活動に深刻な影響を受けてきたと訴えてきました。
今回の措置が実行されれば、仮想通貨を取り巻く規制環境において大きな転換点を迎える可能性があるとして期待が寄せられています。
今後の焦点は、実際に大統領令が発令されるかどうか、そしてその執行に伴い金融当局や銀行業界にどのような影響が及ぶかに移りつつあり、仮想通貨業界にとっても注視すべき展開となっています。
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Source:WSJ報道
サムネイル:AIによる生成画像





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