
日本銀行がトークン化資産の権利関係について論文公開
日本銀行の決済機構局が、「トークン化された資産の権利関係――スイス・ドイツ・フランス・米国の法整備からの示唆」と題した研究論文を7月18日に公開した。同論文は、世界各国で進展する資産のトークン化について、私法上の権利関係をどのように規律するかを分析したものだ。
この論文では、トークン化された資産が資産としての価値を安定的に有するためには、権利の売買における法的リスクを伴わず、トークンとトークン化された資産を巡る権利の関係性が明確であることが重要だと指摘している。このため各国では、権利移転の法的安定性を確保するための立法措置が進められているという。
日銀は研究で、権利移転に際して求められる私法上の要素として、「権利の内容・数量の明確性」、「内容・数量の不変性」、「利益帰属の排他性」、「意思主義」、「対抗要件」、「動的安全性の保護」の6要素を抽出した。これらの要素がトークン化においてどのように満たされるかを各国の法制度を通じて分析している。
その分析の結果、ビットコインのような暗号資産(仮想通貨)と資産のトークン化には重要な違いがあることが確認された。暗号資産は意思主義による規律よりも秘密鍵の管理者が有するトークンの処分権限の排他性に重きを置いて設計されている。一方で、資産のトークン化は「人に対する権利」(典型的には債権)がトークンによって記録されたものという構成が前提とされているという。
海外の法整備状況については、スイスが2021年に施行したDLT法で「台帳ベース証券」の概念を導入し、従来の紙の証券と同等の法的保護を実現していると分析している。またドイツでは2021年に電子有価証券法が施行され、電子有価証券を「物」とみなして物権法理を援用する構成を採用している。
フランスでは2017年の通貨金融法典改正により、分散型台帳技術を用いた有価証券の発行が可能となった。米国では2022年に統一商事法典第12編が新設され、「コントロール可能な電子記録」の概念を導入している。
日本の現状について日銀は、セキュリティ・トークンの実用化に際して個別法令の極めて技巧的な解釈に頼らざるを得ない状況があると指摘した。また確定日付制度など明治以来の紙を前提とする規律の適用を受けることで、取引をデジタルに完結できない問題があるとしている。
なお論文では、「日本においても法解釈の精緻化を通じた権利関係のいっそうの明確化を進めつつ、欧米の先例を参考とした立法的解決を検討することも一案ではないか」と提言されている。トークン化という国際的な動きを踏まえ、私法体系のあり方を検討していくことが期待されるとのことだ。
参考:日本銀行
画像:Reuters
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参照元:ニュース – あたらしい経済

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