セイラー氏、ルミス議員らが登壇「米国がビットコイン導入の先頭に」BPI主催サミット
サミットで語られたビットコインの未来
シンクタンク「ビットコイン政策研究所(BPI)」は2025年3月11日、ワシントンD.C.にて「Bitcoin for America(ビットコイン・フォー・アメリカ)」サミットを開催しました。
サミットでは米国におけるビットコイン政策の今後や、ビットコイン(BTC)が米国および世界にもたらす利益について議論がなされました。主な登壇者は以下の通りです。
- シンシア・ルミス上院議員(ワイオミング州選出)
- マイケル・セイラー氏(ストラテジー会長)
- ヴィベック・ラマスワミ氏(オハイオ州知事選候補)
- マシュー・パインズ氏(BPIエグゼクティブディレクター)
- ニック・ベギッチ下院議員(アラスカ州選出)
- ロ・カーナ下院議員(カリフォルニア州選出)
- ジャック・マーラーズ氏(ストライクCEO)
BPIディレクターのデヴィッド・ゼル氏が開会挨拶で「ビットコインがアメリカをはじめ、世界全体にどのような利益をもたらすのか、人々に理解してもらうことが我々の目標です」と述べ、米国が主導してビットコインの利点を広めていく場としたいと語っています。
登壇者のスピーチ内容
シンシア・ルミス上院議員(共和党、ワイオミング州)
ビットコイン支持派として知られるルミス議員は「ビットコインはまさに”自由をもたらす通貨”であり、アメリカが主導すべき」と強調しました。
同氏は米国がビットコイン採用で先頭に立つのは当然のことであり、ビットコインが持つ自由や民主主義的な価値観が米国の理念と合致する点を訴えました。また同議員は、ビットコインは「世界全体のゲームチェンジャー」であり、金融イノベーションを牽引してきた米国がこれまで「傍観者」であったのは異例だとも述べています。
同氏は昨年から戦略的ビットコイン準備の法制化に取り組んでおり、サミット当日の11日、下院議員と協力して新たな「ビットコイン法案(Bitcoin Act of 2025)」を提出する計画を表明しました。
この法案についてルミス議員は「この流れを我々が主導していきます。幸いトランプ大統領も味方で、機会は無限大です」と述べ、政権の後押しがあることを示唆しました
ルミス議員が小委員会の委員長に任命
マイケル・セイラー氏(ストラテジー会長)
マイケル・セイラー氏は、ルミス議員の意見に賛同しつつ、米国がビットコインでデジタル時代の主導権を握るべき理由を述べました。
セイラー氏は「戦略的ビットコイン準備金は、21世紀における米国のデジタル覇権戦略となり得る」と語り、ビットコインを国家が保有できるデジタル資産と位置付けました。その上で、米国は可能な限り多くのビットコインを取得し、その資産を活用(「貸し出しや金融取引」に供する)すべきだと主張しています。
将来的にビットコインネットワーク上では数兆ドル(数百兆円)規模の商取引が行われると予測されており、米国は今のうちにネットワーク上の「持分」を確保すべきだと主張しました。
セイラー氏は将来を見据え、米国が戦略的準備金としてビットコインを保持し続ければ、20年後には1BTCあたり1,300万ドル(約19億円)を超える価値になるとの試算も示しました。
同氏は「愚かな売却を控えるだけでも国家は利益を得られる」と述べ、これまで政府が押収したビットコインを安易に売却してきたことを「愚策」と批判しました。
21世紀最大の経済プログラムに
ヴィベック・ラマスワミ氏(オハイオ州知事選候補)
続いて登壇したヴィベック・ラマスワミ氏は、長期的なビットコインのリターンこそが今後の投資における「高リスク投資の新たなハードルレート」になるとの見解を示しました。
ラマスワミ氏は、今後世界は再び「資本が希少な時代」に戻りつつあり、過去15年のような中央銀行による大量の紙幣発行は終了すると指摘しました。
投資家は資本コストを再評価し、低リスク資産の目標利回りは「米国債利回り」に、高リスク資産の目標利回りは「ビットコインの10〜15年保有時のリターン水準」で定義されるようになると述べています。
ラマスワミ氏は最後に、アメリカの精神(エートス)とビットコインの理念には重なる部分が多く、ビットコインは単なる金融資産以上に「アメリカの偉大さを象徴する希望のシンボル」だと語りました。
「ビットコインが体現するものは、かつての米国の偉大さそのものです。国家の戦略準備金にふさわしい資産だと思います」と述べ、ビットコインを国家備蓄に加える意義を強調しました。
ニック・ベギッチ下院議員|ロ・カーナ下院議員
ニック・ベギッチ下院議員も登壇し「ビットコイン法案(Bitcoin Act of 2025)」を本日下院に提出すると発表しました。
この法案は前述のルミス上院議員が昨年提案していた内容をアップデートしたもので、米国政府が100万BTCを取得し、米国市民のビットコイン自己保有権(セルフカストディ)を明確に保護することを盛り込んでいると説明しました。
ベギッチ議員は「本法案は個人がビットコインを自由に所有・保有・送受信する権利を明確に保護する」と述べ、自己カストディの権利を基本的権利として位置付ける意義を強調しました。
一方、民主党から唯一サミットに参加したロ・カーナ下院議員は「ビットコインは党派を超えて支持されるべきものだ」と述べ、ビットコインがもたらす金融包摂の可能性を訴えました。
カーナ議員は「今や世界中の人々がビットコインを手に入れられるようになりつつあります。これは世界中の多くの人々にとって変革的です。だからこそ民主党もこれを受け入れ、米国だけでなく世界中の人々の経済的エンパワーメントにつなげるべきなのです」と語り、ビットコインを政治的に活用することの重要性を主張しました。
米国のビットコイン政策の最新動向
今回のサミットは、米国政府・議会・業界におけるビットコインを巡る動きが活発化する中で開催されました。
以下では、米国政府や議会、規制当局、そして企業が現在どのようなビットコイン政策を展開しているのかを詳しくまとめています。米国政界の動きはもちろん、大手企業も次々とビットコインへの対応を積極化しており、今後の展開が注目されています。
トランプ政権:ビットコイン重視への政策転換
2025年1月にスタートしたトランプ政権は、ビットコインに対する姿勢を大きく転換しました。トランプ大統領および政権高官は、ビットコインを他のデジタル資産と明確に区別して扱う方針を打ち出しています。
3月7日にはホワイトハウスで初の「仮想通貨サミット」が開催され、トランプ大統領自ら「今日から、アメリカはビットコインを決して売却しない」と宣言しました。
大統領は同日「近年、米政府は愚かにも数十万BTCを売却してきたが、それらを売らずに持っていれば何十億ドルにもなっていただろう」と述べ、過去の政府の売却判断を批判しました。
そして、トランプ大統領は「戦略的ビットコイン準備金(SBR)創設」に関する大統領令に署名し、米政府が現在保有するビットコインを国家備蓄として保持すると表明しました。
さらに「財務省と商務省に対し、納税者に負担をかけずに追加のビットコインを取得する方策を検討するよう指示する」と述べ、税金を投入しない形で政府がビットコイン保有を増やす方針を示しています。この「予算中立的」にビットコインを取得するという戦略は、同日に署名された大統領令の中で具体的に言及されました。
これは、トランプ政権がビットコインを「デジタルゴールド」として重要視していることを示すものと言えます。
議会の動き:戦略的ビットコイン準備金法案の再提起
立法府でも、ビットコインを国家戦略に組み込む動きが進んでいます。前述のルミス上院議員は3月11日、昨年提出して審議未了となっていた「BITCOIN法案」を再提案しました。
この法案は、米国政府が5年間で最大100万BTC(ビットコイン全供給量の約5%)を取得することを盛り込んだもので、具体的には、財務省が保有する金を担保に連邦準備制度理事会(FRB)に新たな金証券を発行し、その差額分を原資としてビットコイン購入資金に充てるという「予算中立」スキームが提案されています。
これにより追加の国債発行や税収を伴わずに巨額のビットコイン購入を可能にする狙いと見られています。さらに、取得したビットコインは少なくとも20年間売却せず保有することを義務付け、国家備蓄資産として長期的安定性と安全性を確保する条項も含まれています。
ルミス議員は「トランプ大統領の大統領令によって米国はようやく世界の政策競争の舞台に足を踏み入れたが、これは第一歩に過ぎない」と指摘し、議会の支持を得て具体策を講じる重要性を強調しています。
ルミス議員「100万BTC購入計画」
規制当局の対応緩和
ビットコインを巡る米国の規制当局の姿勢にも変化が見られます。
証券取引委員会(SEC)は2022年3月に発表した「スタッフ会計速報第121号(SAB 121)」により、銀行などの金融機関が暗号資産をカストディ(保管)する際に負担となる厳格な会計処理を要求していました。この規定は銀行の仮想通貨ビジネス参入を事実上阻むものとして、SECは2025年1月23日に「SAB 121」を撤回しました。
さらに通貨監督庁(OCC)は、銀行がビットコインを含むデジタル資産サービス(カストディ業務など)に従事することが許可されていると明確化し、公的にガイダンスを示しました。
これらの措置は、いずれも前政権下で強まっていた銀行への締め付けを緩和し、金融機関がビットコイン関連サービスを提供しやすくする方向転換となります。
米国で進む規制緩和
企業のビットコイン採用状況
政策環境の追い風を受けて、米国企業によるビットコイン採用も着実に進展しています。
ウォール街の老舗投資銀行キャンター・フィッツジェラルドは3月11日に、トランプ政権の政策転換を受けてビットコイン担保融資事業を拡大することを発表しました。
同社はデジタル資産カストディ(保管)企業のアンカレッジ・デジタルおよび英デジタル資産プラットフォームのCopper社と提携し、機関投資家向けのビットコイン金融サービス強化を図ることが明らかにされています。
また、上場企業が自社資産としてビットコインを大量保有する動きも続いています。
その代表例であるストラテジー(旧マイクロストラテジー)社は、継続的にビットコインを購入しており、2025年3月時点で約49万9,096 BTCという膨大なビットコインを保有していることが明らかになっています。
このように米国の企業財務においてビットコインが戦略的資産として認識されるケースが増えており、ストラテジー社以外にもテスラ社など一部企業がビットコインをバランスシートに組み入れています。
さらに大手資産運用会社ブラックロックをはじめとする企業もビットコインETFや関連金融商品の提供に動き出しており、民間部門でのビットコイン採用は今や単発的な事例から主流金融への波及段階に入りつつあります。
ビットコイン主導権を目指す米国
「ビットコイン・フォー・アメリカ」サミットは、米国がビットコインを国家戦略に据え世界をリードしようとする潮流を象徴するイベントとして話題を呼んでいます。
サミット登壇者の発言から浮かび上がったのは、ビットコインを「自由・希望・アメリカの価値観」と結びつけるポジティブなビジョンと「米国が主導権を握るべき」という戦略観です。
一方で、これらの動きが現実の政策として定着するかは今後の立法プロセスや政治的支持にかかっており、依然不確実性も残ります。
今回のサミットは米国におけるビットコイン政策の転換点を示すものであり、米国が今後どこまでビットコイン主導のアプローチを推進し、国際的なデジタル通貨競争で優位性を保てるかが注目されています。
※価格は執筆時点でのレート換算(1ドル=147.97円)
ビットコイン関連の注目記事はこちら
Souce:Bitcoin Magazine YouTube
執筆・翻訳:BITTIMES 編集部
サムネイル:AIによる生成画像