【前編】一品グルメで切り拓く新しい食の楽しみ方。SARAHの目指す未来とは

「美味しいポテトサラダはどこにあるんだ!」というシンプルな疑問から生まれたグルメアプリSARAH。2015年の創業から9年、今やWeb3テクノロジーを駆使して月間200万人が利用するサービスへと成長を遂げました。今回は、そんな人気グルメアプリを手がける、株式会社SARAH代表取締役 CEOの酒井裕也氏(@skyuya03)にお話を伺いました。

酒井勇也(さかい・ゆうや)株式会社SARAH 代表取締役 CEO
大学時代にCo-FounderとしてSARAHを創業。COOとして大手事業会社からの資金調達やスタートアップのM&A業務に従事。2022年よりCSOに就任し、SARAHのweb3化を推進。Avalanche Chainを運営するAvaLabsと国内初の戦略的パートナーシップを締結。
食とヘルスケアに特化した日本発のパブリックブロックチェーンONIGIRI Chainをリリース。2024年より代表取締役 CEOに就任。

小林 憲人(こばやし けんと) 株式会社NFTMedia 代表取締役
2006年より会社経営。エンジェル投資を行いながら新規事業開発を行う株式会社トレジャーコンテンツを創業。2021年にNFT Mediaを新規事業として立ち上げる。
「NFTビジネス活用事例100連発」著者
ジュンク堂池袋本店社会・ビジネス書週間ランキング1位獲得

▶︎YouTubeでの視聴はこちらから

グルメアプリ最後発からの挑戦

小林:早速ですが、簡単に自己紹介をお願いできますでしょうか。

酒井:皆さん、初めまして。株式会社SARAHの代表取締役 CEOの酒井です。当社は2015年の創業で、一品単位のグルメアプリを運営しています。

元々はWeb2の会社として始まったのですが、当時のグルメアプリ関連のビジネスはかなりのレッドオーシャンでした。

小林:後発組の中でも後発ですよね。

SARAH インタビュー1

酒井:そうですね、本当に最後の最後でした(笑)。だからこそ、他のグルメアプリと差別化を図る必要性があると思ったのです。そこで一品単位の特徴を活かして、データを分析しそれを販売する、という事業を展開してきました。

2020〜21年ぐらいからは、会社としてWeb3に近いのではないかと思い始めて、本格的にWeb3化を進めていきました。

小林:では、SARAHのビジネスモデルは、データを集めて企業にSaaSとして提供するということですね。

酒井:そうですね、現在もそれがメインの事業です。

小林:私もSARAHを使っているのですが、既存のグルメアプリだと店舗単位での検索が中心ですよね。でも実際は「今日は麻婆豆腐が食べたい」「美味しい餃子が食べたい」という探し方をしたいんです。

その点、SARAHは一品単位でメニューから探せるので、そこが秀逸で好きだなと思って注目していました。

起業のきっかけは大学のゼミから

小林:そもそもSARAHを起業しようと思ったきっかけは何だったんですか。

酒井:大学時代、僕の所属していたゼミがアントレプレナーシップ(起業家精神)を教えるところで、そこの先生が日本政策金融投資銀行のアメリカ副社長を務めたことのある方でした。

その方はMicrosoftができる時期を見てきた方で、「絶対君はスタートアップやった方がいい」となぜかずっと言われていたんです。

SARAH インタビュー2

小林:起業した方が良いと言われたのは、酒井さんに起業するための資質や性質があったからだと思います。その点について自分ではどう捉えていますか。

酒井:正直、自分でもよくわからないんですよね(笑)。ですが、多くの先生に「起業した方が良い」となぜか言われ続けていました。

小林:では、高校時代などで起業のきっかけがあったのでしょうか。

酒井:僕が通っていた高校が関西の学校で、そこには社長・経営者の息子が多く通っていました。加えて、自分の実家も貿易関係の会社を経営していたので、起業というものがすごく身近な環境にあったのだと思います。

ポテトサラダ探しから始まった食のサービス

小林:SARAHはマーケットでいう衣食住の「食」だと思いますが、なぜ「食」を選んだのでしょうか。

酒井:実はそんなに深い理由はありません(笑)。「身近でわかりやすい 」というのが、起業する最初の選択としては良いんじゃないかと思ったんです。そもそもSARAHが生まれたのも、「美味しいポテトサラダが見つけたい」というただそれだけの理由からです。

SARAH インタビュー9

酒井:ポテトサラダは居酒屋にもあるし、最近ではイタリアンやオシャレなお店でも置いてたりします。お店単位で探すと見つからないものが、メニュー単位であればこんなポテトサラダがあるんだ、みたいな発見がありました。なので、「身近だった」というのが理由としては一番大きいのかもしれません。

ただ、実際にビジネスを始めてみると、この領域の面白さやマーケットの大きさを実感しています。最近は、グローバルの方とコミュニケーションを取る機会も増え、「日本といえば食だよね」と言われることも多く、このフィールドを選んで良かったと思っています。

小林:そういう個人の素直な悩みから始まったサービスが、結果的に大きな産業になっていく。先ほどの麻婆豆腐の件もそうですが、実は多くの人が持っている課題に対するソリューションだったわけですよね。

振り返ってみると、個人の「食べたい」という気持ちに寄り添うところから始まったサービスが、こうして大きく育っていくというのはすごく自然というか、あるべき形に行き着いた感じがしますね。

ビットコインとの出会いから始まったWeb3への挑戦

小林:ブロックチェーンやNFTなどWeb3関連の技術に興味を持ったのはなぜでしょうか。

酒井:僕がブロックチェーンを知ったのは、大学在学中の2014年頃です。当時所属していたゼミで「決済」について研究しており、スマホ決済やポイントエコシステムについての卒業論文を書いていました。

その時にネットサーフィンをしていた中で見つけたのが、ビットコインだったのです。ビットコインの生みの親と言われている、サトシナカモトの論文も読んだのですが、当時は「訳わかんないしこの人...」と思って、深煎りせずに捨ててしまったんです。

SARAH インタビュー3

酒井:その後、2016〜17年頃にビットコインのブームが来た時、ゼミの先生から「お前らはビットコインをどうやって使うんだ」と何度も言われました。ですが、当時の僕は「SARAHはグルメアプリなので、ビットコインは関係ないです...。支払いも日本円で...。」と答えていました(笑)。

小林:なるほど、当時は拒否していたんですね(笑)。

酒井:そうなんです。ですが、個人的に色々と調べているうちに、イーサリアムの存在を知り、これは話が変わってくるなと思ったんです。口コミデータをユーザーから無償で集めて分析して販売する僕たちのビジネスは、ブロックチェーンと相性が良いんじゃないかと。

口コミを投稿してくれたユーザーに対する報酬として、100円、200円を送金するのも手間だし、それならトークンの方が相性がいいんじゃないかと考えたのがきっかけです。

小林:確かにユーザーへのお礼として100円を送るにしても、送金方法や手数料の問題がありますよね。あとは口コミデータの信頼性というか、実在する人物からの投稿なのかという課題もあるはずです。そういった課題に対して、ブロックチェーンが活用できるんじゃないかと。2014年に最初に見てから、実際に導入を決めたのはいつ頃だったのですか?

酒井:本格的に検討し始めたのは2020年くらいですね。]

SARAH インタビュー4

小林:じゃあ6年越しの決断だったわけですね。既存のビジネスを展開している中で、Web3やブロックチェーン、NFTを導入するとなった時、社内ではどういう反応がありましたか?

酒井:2021〜22年頃から、まずは1人で見始めました。面白いと思ったことをSlackのタイムズに投稿したり、ランチの時に社員に話したりしましたね。ただ、初めは投資・投機のイメージが強かったみたいです。

  • 酒井さん、投資始めたの?
  • 資産運用してる?
  • ビットコインの値段上がりましたね〜

周りからはこんな反応ばかりでしたね(笑)。

小林:本人として伝えたいことが、上手く伝わっていなかったのですね。

酒井:はい、そうなんです...。NFTの話をしてみても「やばいやつ」「おかしいやつ」と思われるので、戦略を変えました。次は様々なプロジェクトのホワイトペーパーを読んで、それをSlackに投稿し始めたのです。

そのタイミングでトークノミクスなどを知り、それに対する考えや分析を投稿していると、まずインターン生の何人かが興味を持ち始めました。

その後、エンジニアも必要だと思い、過去のインターン生たちにも声をかけました。すると夜な夜な社内に人が集まり出し、ホワイトボードを使って議論するようになったのです。それを見た社員が、「何やってるんだろう?」と興味を持って寄ってくるようになりました。

SARAH インタビュー5

小林:では、周りを巻き込むまでに大分、時間がかかったのですね。

酒井:結構かかりましたね...。以前もお話ししましたが、なかなか理解されずに苦戦しました。

小林:そういった苦労を経て今に至るわけですが、実際にWeb3ビジネスに取り組んでみてどう感じましたか?

酒井:何かを使ってコミュニティを作ったり、インセンティブモデルを形成したりするものは、今までもあったかと思います。しかし、これにブロックチェーンという技術を使うことで、それが「早く、安く、簡単に誰でもかつ精度高くできる」のです。そこが一番の魅力だと感じましたね。

NFTで紡ぐ店舗とユーザーの新たな関係

小林:続いて、Web3向けサービス「NOREN」について詳しくお聞かせください。

酒井:「NOREN」は、SARAHのアプリ内に新しく実装された機能です。アプリで食べたものを投稿すると「UME」というトークンをもらえて、それを集めることで全国にある飲食店の「NOREN NFT」を手に入れることができます。

NORENのデザインは、ジェネラティブアートで有名なToshiさんに作っていただき、店舗ごとに図柄が異なる「暖簾」になっています。各店舗のNFTには、3つのランクがあって、それぞれ異なる特徴を持ちます。(下記参照)

SARAH NOREN UME
引用:SARAH

酒井:そして、NOREN NFTを購入するには、そのお店に最低でも1回行かなければなりません。エバンジェリストであれば、3600UMEトークンに加えて、12回以上の来店が必要です。

小林:UMEを持っているだけでなく、店舗に何度か通わないといけないのですね。

酒井:そうですね。また、NFTを購入する際のUMEトークンは、SARAHではなくお店用にリザーブされます。将来的にはアプリ内でお店の公式アカウントを立ち上げた際、お店に溜まったトークン数を確認できるようにする予定です。

そして、NOREN NFTには、もう一つ重要な特徴があります。例えば、エバンジェリストのNOREN NFTを持っているということは、そのお店に12回も通っているわけです。ここが重要で、12回も通う人って基本的にポジティブな口コミしか書かないんですよ。

小林:具体的に教えていただけますか。

酒井:例えば、「めちゃくちゃまずかった」「美味しくなかった」と書いた人が、また来店する可能性はかなり低いはずです。なので、ネガティブな口コミは必然的に少なくなるのです。

一方で、美味しいと感じた人は何度も来店してくれます。そうすると自然とポジティブな口コミが集まりやすくなり、結果としてお店に対して良い口コミが多くなります。さらに、NFT購入時のUMEトークンはお店に還元されるので、店舗への貢献にもなっているのです。

小林:なるほど!従来はポジティブなお客さんを可視化する手段がなかったのが、UMEやNORENを活用することで可能になったわけですね。ちなみに、UMEをどのようにして貯めるのですか。

酒井:今のところ、SARAHのアプリで食べたものを投稿するしかありません。現在は1回の投稿で10UME、1日に最大で30UMEしか貰えないように制限しており、エバンジェリストのNFTであれば、入手するのに最短でも120日かかります。

小林:最短でも4ヶ月ですか...。それは結構大変そうですね。

酒井:そうですね。ただ、驚くことにエバンジェリストのNORENはすでに10枚くらい売れています。UMEの機能自体はまだリリースして1年経っていないんですけどね。

SARAH インタビュー6

小林:それはすごいですね!SA​​RAHのアプリ自体のアクティブユーザーが多いんですか?

酒井:サービス全体だと、月間で200万人くらいのユーザーに使っていただいています。もともとWeb2のサービスとして展開していたので、ほとんどのユーザーがWeb3やブロックチェーン、NFTといった言葉を知らないのも特徴です。

小林:でも、その方が自然でいいですよね。「ユーザーはNFTやブロックチェーンという言葉を意識せずにサービスを利用している」というのはすごく理想的だと思います。 ちなみに、NOREN NFTの発行数はどれくらいなんですか?

酒井:500個くらいは発行しましたね。

小林:4月のサービス開始から半年で、その数字はすごいですね。どんなユーザーが多いんですか?

酒井:大きく2パターンのユーザーがいます。一つは、本当に好きなお店があって応援したいコアなユーザーです。NFTという言葉は知らなくても、「このバッジが欲しい」「自慢したい」という気持ちで取得されています。 「10個しかない」という希少性の魅力を感じる方も一定数いるようです。

もう一つは、食べ歩きが好きな人たちです。例えば、青森の端っこまで行った証明を残しておきたいといったように、スタンプラリー感覚で集めている人もいます。

SARAH インタビュー7

小林:ユーザーによって全く異なる魅力を見出しているのですね。 最近リリースされた「NOREN Stand」はどういったものですか。

酒井:現状、ユーザー1人あたりで持てるNORENは最大5つまでです。5つのNORENを持つと、新しく入れ替えることもできません。ですが、NOREN Standを持っていると、新しいNORENを追加で持つことができます。これもUMEで購入する仕組みになっています。

小林:つまり、また口コミを投稿してUMEをもらって...というサイクルが続くと。エコシステムが出来上がっていて良いですね。

データ分析から見えてくる食の未来

小林:SARAHのビジネスモデルについてお聞かせいただけますか。

酒井:今のところSARAHのアプリでは、収益は立っていません。我々の収益源は「FoodDataBank」という外食のビッグデータ分析サービスです。

SARAHで集まった口コミデータ、つまり誰が何を食べてどう思ったか、どこのお店に興味があるかといった情報を、個人が特定できない形で分析できるサービスを提供しています。

例えば、最近の麻婆豆腐の投稿者層を分析すると、30代の女性が中心だとわかります。さらに口コミのキーワードも分析できて、食感について言及が多いのか、「辛い」「しびれる」といった味わいについて書かれているのか、消費者が何に注目しているのかがわかるのです。

SARAH インタビュー8

小林:POSデータ(※)とは違う強みがありますね。

酒井:そうなんです。POSデータでは定量的なデータ(年齢や売れた商品など)を得られますが、SARAHのデータからは定性的な感想・トレンドまで分析できます。「山椒が効いていて良かった」といった具体的な評価も含めて分析できるので、食品メーカーさんの商品開発に活用いただいています。

小林:実際に商品開発で活用された事例もあるんですか。

酒井:はい、いくつかあります。実は我々の株主には、下記のような大手の食品メーカーさんに入っていただいています。

  • 株式会社セブンイレブン
  • 味の素株式会社
  • ハウス食品株式会社

彼らからは、我々の持つデータやプロダクトを使いたい、ということでご出資いただいています。

小林:より正確かつ確実に売れる答えが手に入るわけですもんね。今後の展望的には、このBtoBマーケットを拡大していく予定でしょうか。

酒井:そうですね!ただ、現状のFoodDataBankは、商品開発の部分にしか価値を提供できていません。美味しいものは作れても、消費者が実際に美味しいと思うかはわかりません。

そこで次のステップとしては、商品を消費者に届けるところまでサポートしていきたいですね。我々が商品を作る側に回ることはないと思いますが、ブロックチェーンやNFTを活用したマーケティングの支援や、どういう人がその商品を食べているのかの分析など、新しい形の支援もしていきたいと考えています。

※POSデータ:お客さまと金銭のやりとりをした時点での販売記録データ

【次回予告】SARAHがリリースした「ONIGIRI Chain」とは?

ONIGIRI Chain
引用:PR TIMES

今回は、株式会社SARAHの代表取締役 CEOの酒井氏に、起業に至るまでの経緯や自身が手がけるグルメアプリSARAHについて、お話しをしていただきました。

後編では、同社がリリースしたブロックチェーン「ONGIRI Chain」や酒井氏の個人的な部分について深掘りしていきます。ぜひお楽しみに。

▼後編の掲載をお見逃しなく!
公式サイト:https://nft-media.net/
X:https://x.com/NFT_Media_
YouTube:https://www.youtube.com/@nftmedia-biz

The post 【前編】一品グルメで切り拓く新しい食の楽しみ方。SARAHの目指す未来とは first appeared on NFT Media.

参照元:NFT Media

コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です