今の為替市場の動きは「嵐の前の静けさ」。 大きなサイン点灯も間近、来る変動率の 拡大に備え、臨機応変なスタンスが必要

ウクライナ情勢の緊迫にもかかわらず、為替相場の変動は限定的で米ドル全体はトレンドレス ウクライナ情勢の緊迫が、投資家のリスク回避姿勢を強めている。
 米株の反落、金や原油の上昇、さらにビットコインの急落などの市場の反応は、むしろ当然の成り行きと見受けられるが、為替相場の変動幅が限定的で、米ドル全体もトレンドレスの状況に陥っていることは、ややサプライズに感じる。
ドルインデックス 日足(出所:TradingView)
 CPIから小売売上高まで、米指標の多くがインフレの高騰を示している。
 しかし、注目されたFOMC(米公開市場委員会)議事録の発表では、淡々と従来の立場が述べられた。
 市場参加者の多くは、よりタカ派色の内容を想定していただけに、目先の安堵感につながったと言える。
 さらに、ウクライナ情勢次第で、FRB(米連邦準備制度理事会)が規定路線とはいえ、政策実行(利上げ)のプロセスを再修正する可能性がある、といった「甘い」考え方も、一部市場参加者は持っているかもしれない。
 ゆえに、ウクライナ情勢が一段と厳しさを増してきたが、NYダウを例に見ると、米株は弱気変動を継続しているものの、2022年1月安値を割り込むまでには、なお距離がある。
NYダウ 日足(出所:TradingView)
 言ってみれば、米株のパフォーマンス自体がFRBの政策実行を拒む存在になりかねず、昔はそのような事例があっただけに、戯言とは言い切れない。
FRBは自らの「政策失敗」に直面、株式市場のパフォーマンスをカバーする「余裕」はない 「FRBのプットオプション」という言葉がある。グリーンスパン議長の時代(1987年~2006年)、「20%以上の米株価の下落があれば、FRBがFF金利を下げる」といった措置を取られることが多くあり、米株自体のパフォーマンスが米金利動向を左右する要素となった。
 つまり、FRBが資産価値を守る役割を果たす意味合いにおいて、一種のプットオプションを提供する存在となったわけだ。
 しかし、このような考え方は甘くて危険であろう。
 なにしろ、今回、議事録にはっきり記載されたように、FOMCメンバーの中では、資産価格の高騰が懸念する要素(すなわちバブルである)として挙げられており、コロナショック後の大規模緩和がもたらした「後遺症」をより心配していることは明らかだ。
 無理もない。米1月CPIが7.5%と、1982年以来40年ぶりの高い水準を記録したが、1982年にCPIが7%超を記録した当時の米公定歩合は13%であった。
 対して、現在のFF金利の誘導目標は中央値で0.125%にすぎないから、FRBがいかに「出遅れ」ているか、また「焦って」いるかが、容易に推測できる。
 換言すれば、FRBは自らの「政策失敗」に直面しており、株式市場のパフォーマンスをカバーする「余裕」がないと言える。
米株は割高感、高値から20%以上の調整幅があっても、許容範囲内の出来事として受け止められるかも もちろん、楽観論も少なくはない。「米連続利上げ時期において、米株は上昇し続けた」といった前例を持ち出すのも簡単だが、詳細を見ないと実は鵜呑みにできない部分が多い。
 2015年からの利上げ周期では、実は最初の利上げから次の利上げまで、1年も金利の据え置きがあった。
 今回は、とてもそのような「余裕」はなく、2022年年内連続7回利上げがすでに現実のシナリオとして語られている以上、1回2回の利上げでいったん中止といったプロセスは、とても考えられない。
 途中で株の大幅調整があっても、利上げが継続される公算が大きい。
 さらに、米株の「割高」感も目立つ。これまでの利上げ周期前は、S&P500の平均PERは16倍前後だったのに対して、今年(2022年)高値前後における同指数のPERは約24倍だった。
 このことから考えると、仮に高値から20%以上の調整幅があっても、許容範囲内の出来事として受け止められるかもしれない。
 FRBが意識していたように、資産価格の高騰がそもそもオーバーの状況だったから、大きな調整があっても行きすぎとは言えない側面がある。
 となると、株式市場、特に米株のパフォーマンスはこれから一段と悪化してきてもおかしくない。その上、ウクライナ情勢次第では、さらに悪化していくことを覚悟しておいた方がよいかと思う。
 仮にウクライナ情勢が一段と悪化しても、FRBの利上げが中止されることは基本的にないと思われる。逆に地政学リスクが後退しても、米インフレの著しい低下が見られない限り、FRB政策は規定路線として実行され、米株の下値リスクを高めるだろう。
 したがって、為替市場の動意薄は、嵐の前の静けさとして受け止めるべきであろう。要するに、これからが本番なので、トレンドレスに陥っている為替相場は、次のブレイクにエネルギーを蓄えているところであり、これから変動率を拡大していくのだから、油断できない。
 もっとも、ウクライナ情勢も含め、基本は「有事の米ドル高」と見るべきであろう。
米ドルVS世界の通貨 日足(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:米ドルVS世界の通貨 日足)
 株安・円高が「セット」になった値動きは、コロナショック後の相場においてそのロジック自体が崩れていたから、「リスク回避の米ドル買い」があっても「リスク回避の円買い」が主導性を発揮する形の再来はないと思う。
為替相場の変動率の拡大に備え、臨機応変なスタンスが重要 一方、こういった考え方にも「落とし穴」がある。
 「有事の米ドル高」が鮮明になればなるほど、円以外の主要外貨対米ドルの下落が鮮明となるから、結果的に主要外貨対円の下落につながり、間接的とはいえ、米ドル/円の反落につながる可能性も大きい。米ドル全面高の時期だからこそ、米ドル/円と連動しないリスクに要注意だ。
 反面、仮に米株の調整につれ、米ドルは米金利上昇とともに買われるのではなく、逆に売られる場合があれば、主要クロス円(米ドル以外の通貨と円との通貨ペア)の上昇が想定され、米ドル/円の支持と化す可能性もある。要するに、米ドル/円のパフォーマンスが米ドル全体と掛け離れるから、厄介な存在であり、状況次第ではメインシナリオの修正を迫られる。
 いずれにせよ、「多事の秋」ではなく、「多事の春」が来たから、リスクコントロールをしっかり行いたい。
 為替相場における大きなサインの点灯も間近と思われ、これからの変動率の拡大に備え、臨機応変なスタンスが重要ではないかと思う。市況はいかに。

参照元:ザイFX! 陳満咲杜の「マーケットをズバリ裏読み」

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