三菱電機と東工大がP2P電力取引を最適化する独自ブロックチェーン開発(三菱電機先端技術総合研究所ソリューション技術部の主席技師長の森一之氏と東京工業大学教授の田中圭介氏のコメント加筆)
三菱電機と東工大がP2P電力取引を最適化する独自ブロックチェーン開発
三菱電機株式会社と東京工業大学が、P2P電力取引を最適化する独自のブロックチェーン技術を開発したことを1月18日に発表した。開発された技術基盤は余剰電力の融通量を最大化する取引など、需要家の取引ニーズに柔軟に対応可能な取引環境を提供し、余剰電力の有効活用に貢献するとのことだ。
開発体制として、三菱電機はP2P電力取引システムの設計と約定機能の設計を行い、東京工業大学はブロックチェーン技術の研究開発と最適約定アルゴリズムの設計を行った。
開発の背景には「地球温暖化対策として、太陽光などの再生可能エネルギーで発電した電気を電気事業者が固定価格で買い取る『固定価格買取制度(FIT 制度)』が施行されていたが、2019 年 11 月から順次満了を迎えていて、需要家同士が余剰電力をその時々の最適な価格で直接融通しあうP2P電力取引が、新たな余剰電力の取引手段として注目されていること」がリリースで説明されている。
また開発したブロックチェーン技術を用いたP2P電力取引の特徴について以下のようにリリースに記載されている。
「需要家の計算機が取引の目標やデータを共有して、売買注文の最適な組み合わせを少ない計算量で探索する、分散型の最適化アルゴリズムを考案しました。この方式を新たなマイニングとして導入することにより、小型計算機上で動作可能な取引の最適化を実現しました。
開発したブロックチェーン技術を用いたP2P電力取引では、①所定時間毎に締め切られる需要家の売り注文と買い注文の情報と、取引の目標をすべての計算機で共有します。②それぞれの計算機は①の目標に適した売買注文の組み合わせを探索し、③探索結果を互いに提示します。④他からの探索結果を受け取った各計算機は、受け取った中で最も①の目標に適した取引を選んで新たなブロックを生成し、ブロックチェーンに追加します。
P2P電力取引は需要家の売り手と買い手の双方が直接取引によって効用を得るため、取引価格は売り注文の入札価格よりも高い価格、買い注文の入札価格よりも安い価格で約定します。
また、入札は繰り返し行われるため、取引が成立しなかった需要家は、次回の入札において前回の取引価格を参考に入札価格や入札量を変更することで、取引を成立させる可能性を高めることができます」
2021年4月から、両社は開発したブロックチェーン技術を用いたP2P電力取引システムの性能評価と探索処理の改良を行い、早期実用化を目指していくようだ。
(加筆:1/20日13時)
三菱電機ソリューション技術部主席技師長の森一之氏と東工大情報理工学院教授の田中圭介氏へ取材
あたらしい経済編集部は、三菱電機株式会社先端技術総合研究所ソリューション技術部の主席技師長を務める森一之(もり かずゆき)氏と国立大学法人東京工業大学 情報理工学院 教授の田中圭介(たなか けいすけ)氏に取材を行った。
ー三菱電機としてこの技術開発に携わった最も大きな理由はなんでしょうか。
森一之(以下:森)東工大の異分野の知識を融合することにより、当社だけでは実現できない、新たな価値を創出したいということが最も大きな理由です。当社の電力・エネルギー分野、システム分野の技術者と、東工大のエネルギーシステム分野や技術経営分野の研究者が、共同で研究テーマを探索しました。
また、共同研究には、この技術開発に必要な東工大の暗号セキュリティ分野と分散システム分野の研究者にも参画していただきました。
共同研究に参画した研究者
・エネルギーシステム分野の研究者:小田 拓也 特任教授 (国立大学法人東京工業大学 科学技術創成研究院)
・技術経営分野の研究者:梶川 裕也 教授 (国立大学法人東京工業大学 環境・社会理工学院)
・暗号セキュリティ分野の研究者:田中 圭介 教授 (国立大学法人東京工業大学 情報理工学院)
・分散システム分野の研究者:デファゴ クサヴィエ 教授(Xavier Defago) (国立大学法人東京工業大学 情報理工学院) 田村 康将 助教 (国立大学法人東京工業大学 情報理工学院)
ー(このP2P電力取引において売り手と買い手の)最適な組み合わせとは、売り手と買い手のどのデータを照合して生まれるのでしょうか。
森:売り手の入札情報(売電時間帯、売電希望量、売電希望価格、入札 時刻)と買い手の入札情報(買電時間帯、買電希望量、買電希望価格、入札 時刻)を共有(照合)して、最適な組み合わせを探索します。
売り手と買い手の組み合わせは1対1に限定するのではなく、1対多、多対1、多対多のあらゆる組み合わせがあります。
田中圭介(以下:田中)「最適」な組み合わせについては、売り手と買い手の総利益の最大化、売り手と買い手の利益の底上げ、取引の総量の最大化など、必要に応じて柔軟に最適化の対象を選択することが可能です。
ー今回開発された独自の分散型の最適化アルゴリズムとは、どのような特徴を持っているのでしょうか。また今後、どのような領域で生かしていけるでしょうか。
森:多数の計算機で最適解を探索するため、膨大な組み合わせの中から 、より良い解を短時間で探索できるという特徴をもっています。また、多数の計算機で探索するため、取引が恣意的にならないという特徴をもっています。さらに、一部の計算機やネットワークが故障しても最適解の探索や取引を継続できるという特徴もあります。
田中:今後、参加者が売り買いするなど、電力以外の分野の取引などにも活用できると思います。
編集部のコメント
電力取引システム含めたエネルギー関連のブロックチェーン利用に関しては、2020年8月21日にリコーがブロックチェーン技術を活用したリアルタイム電力取引管理システムの実証実験を開始したことを発表しています。
また2021年1月12日には佐賀市、chaintope社、みやまパワーHDが2050年カーボンニュートラル・脱炭素社会の実現に向けブロックチェーンを利用した実証実験開始を発表しています。
コメント:竹田匡宏(あたらしい経済)
(images:iStocks/Nobi_Prizue・Kateryna-Bereziuk)
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