陳満咲杜の「マーケットをズバリ裏読み」

日銀追加緩和は「最後の一手」として封印、 米ドル/円は115.89円をめざして下落か ブログ

日銀追加緩和は「最後の一手」として封印、 米ドル/円は115.89円をめざして下落か

■為替市場は米雇用統計後もトレンドレスを継続中 為替市場は小康状態を保っている。前回コラムの指摘どおり、米ドル/円の保ち合いは続き、先週末(10月2日)の米雇用統計後もトレンドレスの状況を維持している。

【参考記事】

●日銀追加緩和観測がドル/円下支え。ブラックスワンは忘れたころに中国からやってくる!? 

米ドル/円 日足(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:米ドル/円 日足)

 先週末(10月2日)の米雇用統計は、市場コンセンサスに比べ、かなり弱い数字となったが、米ドル/円は「行って来い」となり、前回のコラムで記した「今晩(10月2日)の米雇用統計に基づく判断および取引は、リスクが高い」という予想が証左された。

 何しろ、同日は一時、118.68円の安値を打診したものの、終値は119.82円まで買われた。安値追いのショート筋を踏み上げる動きだったと思う。 

米ドル/円 1時間足(出所:米国FXCM)

 米雇用統計の悪化は間違いなく米利上げ時期の後ずれ観測につながったが、その観測が米国株のリバウンドを支え、リスクオフの一服ムードが一段と高まった点は大きかった。

 したがって、先週末(10月2日)の米ドル/円の「行って来い」は株式市場動向と連動した側面が大きかったと言える。米国株も日経平均も急速にリバウンドを展開してきたので、その前の急落が大きかった分、反騰もそれなりに大きくみえる。

米国株(US30) 4時間足(出所:米国FXCM)

日本株(JPN225) 4時間足 (出所:米国FXCM)

■やはり、本当のブラックスワンはまだこれから もっとも、前回のコラムで強調したように、VW(フォルクスワーゲン)にしても、グレンコアにしても、ブラックスワン的な危機を引き起す存在ではないから、市場関係者が警戒していたほどマーケットにもたらす混乱は大きくなかった。

【参考記事】

●日銀追加緩和観測がドル/円下支え。ブラックスワンは忘れたころに中国からやってくる!?

 実際、月曜(10月5日)には、香港市場にてグレンコア株が一時72%の大幅高を記録。同社株の反騰をもってリスクオフの一服が示唆され、その後、欧米株を中心に、世界の株式市場の反発が加速した経緯があった。要するに、本当のブラックスワンはまだこれからということだ。

 となると、目先、株式市場は大きく反騰してきたが、従来のブル(上昇)トレンドへ復帰するにはほど遠く、あくまで先の急落に対する修正と位置づけることが大事であろう。

 値動きが材料に先行するなら、ブラックスワンが出現する前に、株式市場が危機を予見した形で値動きを形成していくので、ブルトレンドに復帰するわけにはいかない。

 同じ見方が、米ドル/円にも…
<i style=”font-style:normal;font-size: 97%;”>日銀追加緩和観測がドル/円下支え。ブラック</i> スワンは忘れたころに中国からやってくる!? ブログ

<i style=”font-style:normal;font-size: 97%;”>日銀追加緩和観測がドル/円下支え。ブラック</i> スワンは忘れたころに中国からやってくる!?

■為替市場はトレンドレス、今晩の米雇用統計の影響は? 為替マーケットはトレンドレスの状態に陥っている、今晩(10月2日)の米雇用統計をもって状況が打破されるかどうかはひとつの見どころだが、市場関係者が再度失望させられる可能性は高いとみる。

 何しろ、FRB(米連邦準備制度理事会)内部でさえ、意見が割れている現状だ。米利上げ見通しは一段と不透明になっており、チャイナショックを始め、最近の世界金融市場の高いボラティリティがFRBの判断を遅らせた以上、米雇用統計のみで見通しが明白になるのは容易なことではなかろう。

 実際、年内米利上げ観測自体も後退しており、イエレンFRB議長自身もまだ判断できていないと推測されるなか、今晩(10月2日)の米雇用統計に基づく判断および取引は、リスクが高いとみる。米ドル全体が大きく反落しない限り、米利上げは来年に後ズレする可能性が大きいのではないだろうか。

■これからも悪材料の続出を覚悟すべき 世界金融市場の不安定さと同じく、為政者たちの迷いも、世界共通の現象だ。日銀にしても、ECB(欧州中央銀行)にしても、量的緩和策の限界に差しかかっており、追加緩和策に踏み切るかどうかということは、言われているほど明確ではない。また、辣腕を振るってきた中国当局に至っては、今回の株価暴落をコントロールできなかったことで、自信を喪失したようにさえにみえる。

 いつものように、市場における値動きが先行し、ファンダメンタルズが後追いする形でついてくる。こういった「相場の真実」を悟れば、欧米日の株式市場が大きく反落してきたあと、VW(フォルクスワーゲン)事件、グレンコア危機、第一中央汽船の破綻など、悪いニュースが伝わってきたたことにはまったくサプライズを感じない上、自然な成り行きだと受け止めることさえできただろう。

【参考記事】

●陳 満咲杜さんに聞く(2)~相場はファンダメンタルズによって動くのではない!~

 主要国の株式市場がそろってベア(下落)トレンドに入ってきた以上、これからも悪材料の続出を覚悟すべきだ。 

米国株(US30) 日足(出所:米国FXCM)

日本株(JPN225) 日足(出所:米国FXCM)

ドイツ株(GER30) 日足(出所:米国FXCM)

 ただし、一部論調のように、ブラックスワンの出現で相場が直ちに2008年のような大暴落を演じる確率は低いとみる。VWかグレンコアがブラックスワン的な存在と警戒される向きが多いが、大袈裟な見方だと思う。何しろ、両社のインパクトがブラックスワンにしては小さいからだ。

 VW事件はせいぜい、2010年のトヨタ自動車・大規模リコール事件に相当する騒ぎになる程度だろう。直接死者が出ていない分、トヨタ事件より影響が小さいと思う。グレンコア危機はより深刻だが、リーマン・ブラザーズと違い、実物資産をたくさん持っている分、簡単に破綻するわけでもない。実際、同社の株価は大きく反騰しており、危機の一服を示唆している。 

グレンコア株 1時間足(出所:CQG)

 2007年にサブプライム問題が発生したことが、翌2008年のリーマン・ショックにつながった経緯に照らして考えると、本当のブラックスワンはやはり、今回世界に混乱を引き起こしたチャイナに発生するのではないかと思う。

 こうなると、それが起こるのは2015年年内よりも来年(2016年)の可能性が高く、また、マーケットが警戒しているうちは発生しにくいから、市場が安心したあと、発生する確率が高いだろう。なぜなら、警戒されているうちは、ブラックスワンはなかなか出てこないからだ。

 この意味では、中国株暴落の一服と同じく…
衝撃のマイナス金利予想も出たFOMC。 円高警戒! 米ドル/円は8月安値を打診か ブログ

衝撃のマイナス金利予想も出たFOMC。 円高警戒! 米ドル/円は8月安値を打診か

■コンセンサスどおりなのに、なぜ市場の反応は波乱含み? 筆者の予想どおり、日銀の追加緩和もなければ、FRB(米連邦準備制度理事会)の早期利上げもなかった。これはどちらかという、「王道」な予測だったので、市場コンセンサスにも近かったが、市場の反応は今のところ、やや波乱含みだ。

 米ドル安にリンクした形で、米国株が売られ、日本株もつれ安になっている。これは市場コンセンサス云々よりも、マーケットががっかりしているところに起因しているのではないかと思う。 

米ドルvs世界の通貨 1時間足 

(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:米ドルVS世界の通貨 1時間足) 

米国株(US30) 1時間足(出所:米国FXCM) 

日本株(JPN225) 1時間足(出所:米国FXCM)

 コンセンサスどおりなのに、なぜがっかりするかというと、薄々「もしかしたら」といった期待感もあったと言える。つまり、米早期利上げはないはずだが、もしかしたら利上げに踏み切るかもといった淡い期待感が市場関係者にあったのだ。

 なぜなら、米利上げをもって「金利を正常化するほど米景気回復が順調」という当局のお墨付きがほしい、といったセンチメントが一部市場関係者にあったからだ。

 当然のように、利上げがあれば、それはFRBが「もう大丈夫」のサインを出した、とも受け取れる。

 反面、利上げ見送り自体は本来株式市場にプラスの効果を与えるが、マーケットが逆のパターンを示すなら、それは、やはり「FRBが慎重にならざるを得ないほど、これからの見通しが厳しいのか」と皆が考えてしまったということだ。要するに、FRBから安心感を得られなかったわけで、それが株安・米ドル安を招いた。

■市場関係者の予想以上に今後の見通しが不透明に ところで、市場関係者がFRBからの安心感を渇望していること自体、裏を返せば市場が混乱しており、これからの見通しが極めて不透明になっているということである。

 中国株暴落を始め、最近の世界の金融市場の波乱から考えて、こういった不安心理の連鎖があってもおかしくないし、FRBから安心感をもらいたかったことも理解できる。

 さらに、利上げ見送りとともに、声明文もイエレンFRB議長の話も総じてハト派だった。

 事前予想では、利上げ見送りなら「タカ派基調の声明文やFRB議長の発言」、利上げするなら「ハト派基調の声明文やFRB議長の発言」といった推測が一部市場関係者に共有されていただけに、今回のFRBの姿勢は、ややサプライズとも言える。ここまで見通しが厳しくなったかと、市場関係者の不安が高まっている。

 こういった不安に拍車をかける要素は他にも…
来週にも日銀追加緩和という説まで浮上! 進むも地獄、退くも地獄の黒田日銀総裁 ブログ

来週にも日銀追加緩和という説まで浮上! 進むも地獄、退くも地獄の黒田日銀総裁

■ジェットコースターのような日本株相場、その理由とは? マーケットのボラティリティが、なお高い水準にあるのは、日本株の動向を見れば一目瞭然だろう。

 9月8日(火)に1万7415円の安値をつけ、2015年年初来の上昇幅をほぼすべて吐き出したと思いきや、翌9日(水)には1300円以上の上昇を記録し、そして、昨日(9月10日)は一転470円の下げとなった。まさにジェットコースターに乗った気分だ。 

日本株(JPN225 ) 日足(出所:米国FXCM)

 日本株大波乱の背景としては、以下の2点を見逃せない。

1.チャイナリスクをヘッジしようとする人々が、アクセスしにくい中国株の代わりに日本株を標的にしていること。

2.FOMC(米連邦公開市場委員会)待ちで市場の思惑自体が大きく振り回され、思惑外れが激しかったこと。

 もちろん、日本株が外部要因に弱く、外国人の売買動向に振り回されやすいことも、今に始まったことではない。

■円安加速の背景にある思惑とは? 日経平均と連動した形で、米ドル/円や円がらみの通貨ペアも大きく動いた。総じて円安の方向に大きく振れたものの、どちらかというとユーロ/円、英ポンド/円など主要クロス円(米ドル以外の通貨と円との通貨ペア)の方がリードした相場だった。 

世界の通貨vs円 1時間足(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:世界の通貨vs円 1時間足)

 その上、昨日(9月10日)の円安加速は、明らかに別の思惑が働いた結果であった。それは他ならぬ、「日銀による3度目の緩和」という思惑だ。

 おそらく後世になってから、「アベノミクスとは何だったのか?」と聞かれたら、「あれは量的緩和でしかなかった」と“勘違い”(正論かもしれない)されるほど、アベノミクスの中身における日銀金融政策のウェイトは大きい。が、肝心の日銀緩和策は、株高・円安をもたらしたものの、主要目標の物価上昇と成長促進において、いまだに結果を伴っていないのが残念だ。

 2015年第2四半期GDPがマイナス成長を示し、物価水準も一向に上昇せず、企業物価指数に至っては5年前の水準まで逆戻りした。

 黒田日銀総裁は相変わらず、力強いコメントを繰り返しているが、市場参加者はおおむね懐疑的で、アベノミクスが始まって以来、一貫して楽観的だったエコノミストさんも最近は動揺しているほど、マーケットの不信感は実に根強い。

 となると、日銀の次の一手が重要になってくる。外部環境が大きく変わった(もちろん悪い方向へ)以上、日銀は従来の目標を達成できる可能性がますます低下し、ここから挽回できなければ、黒田さん主導の異次元緩和は、アベノミクスといっしょに、今後失敗例として語られるだろう。

瀬戸際に追い込まれた黒田日銀の「異次元緩和策」。ここから挽回できなければ、今後失敗例として語られることになるのか…。(C)Bloomberg

 一方、さらなる追加緩和は、三度目の正直とはいえ、成功する保証がない。量的にも質的にも選択余地が限られるなか、もはや効率的なやり方がなくなっている現状では、どちらかというと、また失敗に終わる公算が高い。

 日銀にとって、まさに進むも地獄、退くも地獄の窮地だ。こんな時、某議員さんが勝手に10月末が3度目緩和の好機だと言い出したことは、黒田さんの立場をますます悪くしただろう。

 何しろ、まず中銀の独立性が維持されていることを演じなければならないし、サプライズ演出に腐心する黒田さんが仮にそのタイミングを狙っていたとしても、マーケットの予想どおりになってしまうから、効果がますます低下しかねない。

 支持率が低下している安倍政権にしても… 
チャイナショックで狂ったFRBのシナリオ、 雇用統計強くても米ドル高は続かない!? ブログ

チャイナショックで狂ったFRBのシナリオ、 雇用統計強くても米ドル高は続かない!?

■一進一退の為替市場、ドルインデックス上昇の要因は? 為替市場は一進一退の状況を保っている。先週(8月24日)、ブラックマンデーで急落した分、スピード調整のニーズも高く、今週(8月31日~)はこういった値動きが続き、また昨日(9月3日)はECB(欧州中央銀行)のハト派スタンスもあり、ドルインデックスは再度、50日移動平均線(≒96.64)にトライしている。 

ドルインデックス 日足(出所:米国FXCM)

 言うまでもないが、今晩(9月4日)の米雇用統計が一層重要になってくるから、米ドル高基調に回復できるかどうかは今晩の値動きによって、かなり明らかにされよう。

 もっとも、リスクオフ継続の有無については、最近では株式相場の動向がより物差しとして有効であろう。

 9月2日(水)に発表された中国PMI(購買担当者景気指数)が中国経済の一段の減速を示し、世界の株式相場がまた下落したものの、昨日(9月3日)までの値動きから考えると、リスクオフ志向がいったん収まったようにみえる。したがって、ドルインデックスの反騰も株式市場とリンクした値動きだと言える。

 一方、それ以上に、昨日(9月3日)のドルインデックスの上昇は、ユーロ/米ドルの急落がもたらした結果だとも言える。 

ユーロ/米ドル 1時間足(出所:米国FXCM)

 何しろ、昨日(9月3日)のドラギECB総裁の「行動せずに演じられる最大限のハト派姿勢」はかなりのユーロ売りを招いたから、それがドルインデックスを押し下げた効果の方が大きいとみる。

 ドラギ総裁はEU(欧州連合)経済やインフレの見通しに悲観的な見方を示し、公的部門の債券の購入割合を引き上げたと説明、さらなる調整の用意もあり、金融政策強化の可能性について、制限がないことも明言した。

 これにより、ECBのQE(量劇緩和策)拡大観測が急速に高まり、それがユーロ売りにつながったことは自然の成り行きだ。

■「米利上げが米ドル高につながる」発想に大きな落とし穴 しかし、ドルインデックスについて57.6%のシェアを誇るユーロの急落が米ドル全体に対して波及する効果が限定されていることも見逃せない。

 足元の米ドル/円の軟調がもっとも大きく、それを証左する材料となるだあろう。200日移動平均線(≒120.80円)を回復しきれない米ドル/円の値動きが、米ドル全体の弱さを暗示していると思う。 

米ドル/円 日足 (出所:米国FXCM)

 前述のように、今晩(9月4日)、発表される8月米雇用統計は一層重要になってくる。なぜなら、市場関係者は同指標をもって、今月FRB(米連邦準備制度理事会)が利上げするかどうかを計る上、米国が早期利上げをできるかどうかがマーケットの行方を大きく左右するからだ。

 本コラムで繰り返し指摘してきたように、米国株を中心として、世界の株式市場が混乱したのは、いわゆるチャイナショックによるものではなく、世界規模での金余りがもたらした株バブルの破裂に他ならなかった。したがって、米国の早期利上げがあれば、株バブルの崩壊が一段と加速しかねない。

【参考記事】

●中国ショックはまだ序の口で来年が本番!? 米ドル/円の調整は1年近く続く可能性も!(2015年8月28日、陳満咲杜)

 ゆえに、前回コラムの最後に言及したように、「米利上げが米ドル高につながる」といった発想には大きな落とし穴がある。

 米利上げが株式市場の一段の反落につながれば、少なくとも中期スパンでは米ドルは買われるのではなく、売られるハメになるだろう。

 チャイナショックで波乱となったこの前の相場に照らして考えてみると、米ドルではなく、ユーロと円こそがリスク回避先(ユーロの場合、本質的には違うが、結果的に回避先になったと言える)になる公算が大きいから、米利上げが米ドル高につながらないリスクは十分警戒しておきたい。

 次に、2015年年内の米利上げ観測が多い一方、利上げどころか…
中国ショックはまだ序の口で来年が本番!? 米ドル/円の調整は1年近く続く可能性も! ブログ

中国ショックはまだ序の口で来年が本番!? 米ドル/円の調整は1年近く続く可能性も!

■8月24日(月)はリーマンショックや9.11をしのぐ大暴落! 前回のコラムでも経済危機の可能性に言及し、リスク資産から手を引けと警告を出したが、早くもその当日(8月21日)から米国株市場が崩れ、その影響で今週月曜日(8月24日)は、名実ともにブラックマンデーとなった。

【参考記事】

●2015年は中国で「李万姉妹」事件発生!? 経済危機警戒、リスク資産から手を引け!(2015年8月21日、陳満咲杜)

 8月24日(月)は日経平均の急落もあり、NYダウはオープン間もなく1000ドルの大暴落を記録し、米ドル/円ではわずか2分間で3円もの変動があった。 

NYダウ 1時間足(クリックで拡大) (出所:CQG) 

米ドル/円 1時間足(出所:米国FXCM)

 筆者の記憶では、あのリーマンショック時でもNYダウの1日の下落幅は1000ドルを超えず、また、米ドル/円の2分間に3円という値動きは、あの9.11に匹敵する急変だった。

 その時、筆者はラジオ番組に出てリアルタイムで相場解説をしていたが、あっという間の相場急変に言葉を失い、隣の美人アナウンサーさんの話も泣き声に聞こえたほど、ショッキングな市況だった。恐らくみなさんも同じ心境で相場を見守ったことだろう。

■世界経済は7年ごとにクラッシュしていた! 今回の相場急変をもって新たな世界金融危機の幕開けが宣言されたかどうかは目先なお判断が難しいところだが、筆者はその可能性が大きいとみる。根拠は以下のように、世界経済が7年ごとにクラッシュを繰り返してきたという歴史より見出だせると思う。

・1973年…オイルショック

・1980年…米国リセッション

・1987年…ブラックマンデー

・1994年…債券市場クラッシュ

・2001年…9.11、株式市場クラッシュ

・2008年…リーマンショック

・2015年…李万ショック?

 「李万ショック」は筆者の造語(詳細は前回のコラムをご参照)だが、実際の発生は恐らく、今年(2015年)ではなく、来年(2016年)になるかと思う。

【参考記事】

●2015年は中国で「李万姉妹」事件発生!? 経済危機警戒、リスク資産から手を引け!(2015年8月21日、陳満咲杜)

 なぜなら、2007年にサブプライム問題があったために、翌2008年のリーマンショックがもたらされたように、今年(2015年)中国株暴落が誘発した一連の混乱はまだ序の口にすぎない可能性が大きいと考えられるからだ。本格的な嵐はまだこれからだ。

 もっとも、すべて中国のせいだといった論調が多いが…
2015年は中国で「李万姉妹」事件発生!? 経済危機警戒、リスク資産から手を引け! ブログ

2015年は中国で「李万姉妹」事件発生!? 経済危機警戒、リスク資産から手を引け!

■米9月利上げ観測後退でドルインデックスは弱含み ドルインデックスが弱含みになっている。米7月FOMC(米連邦公開市場委員会)議事録の公開で早期利上げ(9月)観測は後退、世界的に株式市場が不穏な状況にあることも、目先の米ドル買いにはつながらず、米ドル高のスピード調整が続いているとみる。

ドルインデックス 日足(出所:米国FXCM)

 米国の早期利上げ観測は後退しているものの、世界景気後退に対する懸念がくすぶり、また、2015年年内米利上げ必至なら、流動性の悪化で株式市場は頭打ちしやすく、利益確定の動きが強まるのも自然の成り行きである。

 ましてやギリシャ問題を抱えるEU(欧州連合)や、中国を中心として混乱が続くアジア経済圏の状況から、2007~2008年危機の再来が危惧される中にあって、米国株の反落は当面続くと思われる。

 先週(8月10日~)の中国人民元ショックの本質は、中国が経済成長の減速で経済大国としての体力を消耗し、割高な中国人民元を維持できなくなったことにある、というしかあるまい。

米ドル/中国人民元 日足(出所:CQG)

 この意味では、中国当局による中国人民元の実質的な切り下げは、身勝手な行動ではなく、むしろ遅すぎた判断だと思う。

 何しろ、中国はメンツを大事にする国だから、今回の切り下げの決定は、かえって実体の悪さを暗示し、マーケットにおける中国人民元の先安観を一気に増大させたと言える。

■アジア通貨危機が「李万姉妹」事件につながる!? もっとも、人民元切り下げの前から、発展途上国通貨の多くは総崩れとなっていた。中国経済減速が商品相場(原油など)の激しい下落につながり、ブラジル、マレーシア、韓国など、国の景気悪化に拍車をかけた。

 中国の存在感が大きすぎたせいか、アジア全域の景気減速感が目立つ。日本を除き、資金流失の危機にさらされ、通貨戦争よりも通貨危機の様相を呈している。

 実際、Bloomberg JP Morgan Asia Dollar Index(ADXY)というアジア通貨指数を確認すると、同指数が2009年安値に接近していることが大きな示唆を与えている。

 結論から言うと、アジア通貨危機はすべて経済危機を伴っていたから、今回も歴史が繰り返される公算が高いとみる。

 1997年アジア金融危機、2001年ITバブル崩壊や2008年リーマンショックといった危機ごとに、アジア通貨指数は安値をつけていた。

 今回の安値打診は、次なる経済危機を示唆している可能性もあり、無視できないだろう。2008年米国のリーマンブラザーズ事件が記憶に新しいが、今年(2015年)は中国の「李万姉妹」事件が発生するかもしれないから、しっかり警戒しておきたい。

 周知のように、中国株暴落が一連の混乱の象徴的な存在だ。執筆中の現時点で、上海総合指数は3550を割り込み、再び7月安値3373に接近。また、暴落の様相を呈していることから、悪い予感しかしない。 

上海総合指数 日足(出所:CQG)

 中国政府がすでに2兆元(実際は総動員策でこの金額より遥かに多いとされる)を投じ、株を支えていたにもかかわらずだ。中国株暴落は2000年米ナスダック市場の崩壊と同じ路線をたどるなら、今月(8月)中にも3200前後の下値ターゲットにトライするかと思われる。

 言い換えれば、中国発クラッシュは、休止するどころか、むしろこれから拡大していく可能性が大きい。したがって、人民元を含め、アジア通貨危機が一段と深刻化していき、世界規模の経済危機につながっていく可能性も増大していくだろう。

 この見方は、実は米国株式市場の構造にも大きな関連性を持っていると思う。

 米国株式市場のサイクルについてはまた別途詳説したいが…  
異変、急変を警戒! 円安トレンド転換も。 チャイナショックの影響はまだこれから!? ブログ

異変、急変を警戒! 円安トレンド転換も。 チャイナショックの影響はまだこれから!?

■スイスショックを彷彿とさせるチャイナショック! 前回のコラムでは、マーケットは激動期に入りつつあり、夏枯れ相場だからこそ、急変・異変に弱いから、十分注意しておきたいと書き、チャイナショックの可能性に言及していたが、さっそくそのとおりになった。

【参考記事】

●豪中銀は秘かにチャイナショックを警戒!? 米利上げ=米ドル/円上昇とは限らない!(2015年8月7日、陳満咲杜)

 火曜日(8月11日)、中国人民銀行[中国の中央銀行]が突然、中国人民元の実質的な切り下げを行った。

 切り下げは昨日(8月13日)まで続き、連続3日間で約4.6%の切り下げが断行された。周知のように、中国人民元相場は、中国人民銀行に管理されてきただけに、今回のショックは、あのスイスショックを彷彿とさせる。 

米ドル/中国人民元 日足(出所:CQG)

 今年(2015年)1月15日(木)のスイスショックが世界を震撼させたのは、スイス当局が「ユーロ/スイスフランの防衛ラインを死守する」と直前まで公言していたにもかかわらず、それを突然放棄したことだ。

【参考記事】

●9.11に匹敵する衝撃の「スイスショック」!円相場がその二の舞となる可能性も!?(2015年1月16日、陳満咲杜)

 今回の中国人民元の切り下げは、事前にある程度は予想されたことであるものの、やはり、「人民元の安定を守る」と繰り返し言ってきた中国当局の言動からは推測しにくかった。

 その上、8月11日(火)に切り下げを行った後、「1回きり」と公言したにもかかわらず、翌日8月12日(水)にも切り下げを行い、市場参加者が「裏切られた」と強く感じたところがスイスショック並みだったと思う。

■中国人民元の切り下げ自体は合理的と考える理由とは? もっとも、中国人民元の切り下げ自体は合理的であり、むしろ、今回の切り下げは小幅すぎて、十分な効果が発揮できないのでは…と疑われる。

 中国人民銀行の動機は、今一つ測れないところも多いが、もっとも大きな背景として、中国経済の失速が鮮明となり、中国株の崩落もあって、もはや中国人民元を割高な水準に維持する体力がなくなったということがあるだろう。

 換言すれば、「中国人民元が割安」というのは、もはや過去の話であり、実態はかなり割高だから、切り下げせざるを得なかったわけだ。

 実際、今年(2015年)、あのIMF(国際通貨基金)でさえ、「中国人民元はもう割安ではない」といった趣旨の論文を発表し、国際通貨の研究者間には、「中国人民元が少なくとも15%は過大評価されているのではないか」といったコンセンサスがあった。

 通貨の価値は、理論的に説明するのが難しいが、身近な例で簡単に言うと、最近の中国人観光客の「爆買い」現象が中国人民元の割高を説明できると思う。 

中国人観光客が日本で「爆買い」する現象が、中国人民元が割高であることを説明できる

写真:AP/アフロ

 確かに中国経済が発展するにつれ… 
豪中銀は秘かにチャイナショックを警戒!? 米利上げ=米ドル/円上昇とは限らない! ブログ

豪中銀は秘かにチャイナショックを警戒!? 米利上げ=米ドル/円上昇とは限らない!

■夏枯れ相場の中、米ドルが堅調 夏枯れ相場というか、マーケットにおける流動性が低下している。それにしても、やはりドルインデックスが堅調に推移、一時、7月高値を更新した。

ドルインデックス 日足(出所:米国FXCM)

 さらに、米ドル/円の上昇ぶりが目立ち、いわゆる「黒田ライン」を突破している。 

米ドル/円 日足(クリックで拡大)(出所:米国FXCM)

 7月24日(金)の本コラムでは、「黒田ライン」のブレイクを予想していた。根拠は同コラムで説明したので、ここでは重複して説明しないが、強調しておきたいのは、マーケットにおいて、明確な「ライン引き」ほど、試される公算は高いということだ。今回の米ドル/円のケースも、然りである。

【参考記事】

●ブラックマンデー再来に注意! 米利上げが世界的金融恐慌を起こしてもおかしくない!(2015年7月31日、陳満咲杜)

 米ドル/円を含め、米ドル全般が堅調なのは、背景に米9月利上げ観測の再燃があることが大きな理由となっているだろう。

 米FRB(米連邦準備制度理事会)理事による早期利上げ示唆のほか、米供給管理協会(ISM)が発表した7月の非製造業総合景況指数が2005年8月以来の高い水準となり、ブルームバーグがまとめたエコノミスト予想の最も高い数字を上回ったことが一番効いたのだろう。

 ただし、予想よりかなり悪かった指標もあったので、今夜(8月7日)の米雇用統計が一段と重要になってくる。

 結局、2015年年内利上げ確実と言われる中、9月利上げの有無が当面のマーケットの焦点となり、また、利上げが実施されるまでは、これがマーケットのメインテーマとして不動であろう。

■米国株の不安定な動きがシナリオを狂わせる? この意味では、米ドル高になっているとはいえ、そのトレンド自体が指標次第といった側面が強い。また、不安定になってきた外部要因によっても左右されると言えるだろう。中国株の暴落に続き、実は米国株も不安定な動きを見せているから、米早期利上げのシナリオを狂わせるリスクさえあると思う。

 前回のコラムでは、米利上げ周期入り自体が世界景気後退局面に重なるリスクがあり、新興国を始め、相場が崩れる恐れがあると指摘したが、ブラックマンデー並みの規模なら、米国も免れないだろう。

 米アップル株の急落を、2011年秋から続いてきた米株高の終焉の前兆と受け止めるべきだろうか。

【参考記事】

●ブラックマンデー再来に注意! 米利上げが世界的金融恐慌を起こしてもおかしくない!(2015年7月31日、陳満咲杜)

 何しろ、米アップルは米国企業の代表格で、もっとも収益率が高いことを誇ってきた企業だ。最近の「トリプル・トップ」のフォーメーションをつけてからの急落は、米マーケット全体に一抹の不安を与えたに違いない。 

米アップル株 日足(クリックで拡大)(出所:米国FXCM)

 実際、NYダウは今年(2015年)の高値からすでに…
ブラックマンデー再来に注意! 米利上げが 世界的金融恐慌を起こしてもおかしくない! ブログ

ブラックマンデー再来に注意! 米利上げが 世界的金融恐慌を起こしてもおかしくない!

■米利上げとともに世界的金融恐慌が起こってもおかしくない 今週、7月29日(水)にFOMCを通過。2015年年内利上げは強調されていたものの、利上げの時期に関する示唆はなかった。しかし、示唆がなかったからこそ、早期利上げ(9月)の可能性を排除できず、マーケットは引き続き米ドル全体の強気を維持しているとみる。

 2015年年内利上げ確実なら、遅くても12月には利上げを開始するわけだから、10年近いタイムラグを経て、米国はやっと利上げ周期に入る。

米国政策金利の推移 

(詳しくはこちら → 経済指標/金利:各国政策金利の推移)

 それに追随するのが英国だけ(確実ではないが)で、世界経済は不安定な時期に入っていくだろう。

 基軸通貨の米ドルは、長らくゼロ金利(実質)の水準にあり、また、たび重なる量的緩和で世界中に過大な流動性を供給してきた。

 米利上げが開始すれば、その逆流が始まることを意味するから、発展途上国を始めとして、世界経済に多大な影響を与えるだろう。場合によっては、世界的金融恐慌を引き起こしてもおかしくないかと思う。

 株式史上もっとも記憶に残るあのブラックマンデー(1987年)は、直前に西ドイツが抜け駆け利上げをしたことによって引き起こされたと言われており、歴史は繰り返すものなら、今回も十分気をつけないといけない。実際、その兆しがあちこちに見られてきた。

 もっとも注目されているのは中国の動向だろう。

 中国経済減速が鮮明になっている中、中国株の暴落や不安定さから市場心理は冷え込み、商品相場の総崩れを引き起こした。商品相場の落ち込みは、資源国や多くの発展途上国を直撃し、一段と景気が悪化する様子がうかがえた。

上海総合指数 日足(出所:CQG)

NY原油 日足(出所:米国FXCM)

■多くの発展途上国は景気後退+利上げでさらなる衰退へ 世界トップ規模の外貨準備高を誇る中国と違って、多くの発展途上国は自力でコントロールできる状況にないのでは…と疑問視され、そういった疑心暗鬼がマーケットのパニックにつながり、混乱に拍車をかける構造が鮮明になっている。

 最近のブラジルの様子はその代表格であろう。ブラジル中央銀行は利上げ休止を暗示、ブラジルレアルは12年ぶりの安値をつけている。 

米ドル/ブラジルレアル 月足(クリックで拡大) 多くの発展途上国はブラジルと同様、激しいインフレを退治せざるを得ないから、景気後退に直面しているにもかかわらず、利上げせざるを得ないという悪循環に陥る。

ブラジル政策金利の推移 米利上げ観測による外資流出と、中国景気後退による商品相場下落の二重圧力を受け、ブラジルはマイナス成長に陥り、つい数年前の7.5%の成長とは雲泥の差になっているから、利上げはさらなる衰退を招くに違いない。

 そのほか、トルコ、メキシコ、インドネシア、チリ、南アフリカ、マレーシアなどの国々は似た構造にあり、これから通貨の大幅下落局面にさらされるだろう。

 こういった不安定な時期には、いわゆる高金利を狙うキャリートレードがかなり危険なゲームだと言わざるを得ない。利上げするからと言って発展途上の資源国通貨に投資するのはアホの極みであり、注意を喚起しておきたい。

■同じ資源国でも、状況をコントロールできる国は? 同じ資源国でも、オーストラリア、ニュージーランド、カナダなどは利下げで対応できるから、状況をコントロールできると思う。

 が、それにしても中国景気の一段の悪化があれば、さらなる打撃は避けられないので、中国経済依存度の大きいオーストラリアの景気後退も想定しておきたい。

 もっとも、日米をはじめ、先進国の多くは量的緩和を受けて「株バブル」を形成してきた。そして、その長い「株バブル」の期間中、まだ1回も本格的な調整を経験していないから、米利上げを機に1回やられてもおかしくないだろう。

 日本の量的緩和策はこれから続くとしても、米国市場の動向や世界景気のスランプの影響を受けるから、これにつられる形で大きく調整する局面を覚悟したほうが無難だ。

 となると、リスク回避先として、円が役割を…