※本記事はtou法律事務所 西村様による寄稿記事です。
暗号資産やステーブルコインの時価総額の拡大、電子決済手段の法整備、そして日本円に連動した電子決済手段「JPYC」のリリースと、クリプト(暗号資産及び電子決済手段の双方を意味するものとします)決済を採用する機運も高まってきました。
そこで本記事では、事業者やクリエイターが、商品やサービスの販売にクリプト決済を導入する際に検討すべきポイントを、法務の観点を中心に確認していきます。
ところで近年、ウォレットからの支払いが可能となるクレジットカードやデビットカードなど、ユーザー側の決済ソリューションも登場しております。日本の法規制に準拠したサービスのリリースも予定されており、今後の展開が期待されるところではありますが、本記事では検討の対象外とします。
なお、本記事における言及は、いずれも執筆当時の適用法令によるものとします。
クリプト決済のメリット
まずはじめに、クリプト決済のメリットを確認してみましょう。
- 新たな顧客の獲得
- クロスボーダー取引コストの低減
- 決済の迅速性
- プログラマティブ
1. 新たな顧客の獲得
暗号資産及びステーブルコインの時価総額は年々高まりを見せ、アセットとしての存在感を増し、ステーブルコイン決済に関しては既に年間50兆ドル超を記録しております。
クリプト決済の導入は、このようなアセットを有する新たな顧客層にマーケットをつなぐことを意味します。
2. クロスボーダー取引コストの低減
ステーブルコインであれば、通常の国際送金と異なり、海外からの送金であっても低廉なコストでクリプト決済を行うことが可能となります。
商品・サービスの金額が低い場合には、特にそのメリットが発揮されます。
3. 決済の迅速性
休日・祭日に関わらず、ブロックチェーンは24時間365日稼働し、国内間でも海外からの支払いであっても迅速な決済が可能となります。
4. プログラマティブ
自動で支払いの一部を他のアドレス宛に送金し、レベニューシェアを実現するなど支払条件や分配ルールを事前に構築することもできます。
上記4点は一般的に指摘されている事項ですが、AIエージェントも取引を行う時代において、AIと親和性の高いクリプト決済は、今後さらにその規模を拡大していくことが予測されます。
クリプト決済の導入に際しての検討事項
次に、クリプト決済の導入に際しての検討事項を確認していきましょう。
- 決済通貨の選定
- 決済システムの実装方法
- 法的規制の確認、対応
1. 決済通貨の選定
流通量や顧客の便宜、店舗側のオペレーションを踏まえて、 どのような暗号資産、ステーブルコインの支払いを受け付けるのか決定しましょう。
現状では、ビットコイン(BTC)、イーサリアム(ETC)、ソラナ(SOL)、USDC、USDT、JPYCあたりが現実的な選択肢となるでしょう。
暗号資産の場合、現在の日本の税制では決済での利用においても課税ポイントとなること、店舗側で受け取った後の価格変動リスクが存在すること等の問題があります。
日本円に連動するステーブルコインJPYCの場合、これらの問題を回避することができます。
ただし、発行や償還が1日100万円までに制限されておりますので、取引金額の規模が大きい場合にはオンランプ/オフランプの方法について検討を要することになります。
2. 決済システムの実装方法
決済システムをどのような方法で実装するか検討しましょう。
決済代行、暗号資産ゲートウェイサービス等を利用するほか、独自に構築することも考えられます。
加えて、セキュリティも含めた検討が必要です。
ブロックチェーンに通じた開発会社やエンジニアに依頼、または相談することが望ましいでしょう。
なお、JPYCでは、SDK(開発キット)が公開され、ハンズオンプログラムも提供されています。JPYCが検討対象となっている場合はこれらを利用することも考えられます。
3. 法的規制の確認、対応
販売方法や利用しようとする決済スキームが日本国内法において実現可能か否か、また実現可能であるとして対処しておくべき事項について、以下の記載を参考に確認しておきましょう。
自社店舗におけるクリプト決済導入
大手家電量販店その他ECショップ、飲食店、クリニック、美容院、旅行代理店、不動産事業者など、オンライン販売及び対面販売の双方で、暗号資産やステーブルコインの導入が進んでおります。
自社店舗における導入は法的に難しいものではありませんが、以下3つのポイントを記載しておきます。
- ライセンスの要否と資金決済法
- 海外(日本非居住者)からの支払い
- 高額商品の場合
ライセンスの要否と資金決済法
基本的に決済で受け付けるだけであれば、資金決済に関する法律(以下、「資金決済法」)上の暗号資産交換業や電子決済手段取引業の登録やその他ライセンスは不要です。
そもそも、クリプトは「不特定多数に譲渡でき、不特定多数に対する決済に使える」という性質を有するものでした。決済での受付けは、まさにその性質通りに利用するというだけと言えます。
利用規約や特定商取引法に基づく表示の記載として、決済として採用した暗号資産又は電子決済手段も支払手段となる旨を適宜追記しましょう。
海外(日本非居住者)からの支払い
海外からの支払いが想定される場合には、外国為替及び外国貿易法(以下、「外為法」)の規制に配慮する必要があります。
3000万円を超える決済の報告
非居住者からの支払いの場合で、かつ、その支払額が3000万円相当額を超える場合には、財務大臣に対し事後報告を行う必要があります(外為法55条、外国為替令18条の4、報告省令1条1項)。
報告書に関しては、日本銀行所定の報告書書式が存在しております。
これは支払手段を問わず要求されている規制であり、クリプトにおいても例外は認められていません。
経済制裁措置対象からの支払許可
テロリストその他経済制裁措置の対象となっている団体・個人からの送金の受領は許可制となっており、財務大臣の許可を受ける必要があります(外為法16条1項、外国為替令6条1項、平成10年3月大蔵省告示第97号)。
許可対象事項は財務省のwebサイト上に公開されており、許可申請書は日本銀行のwebサイト上に公開されております。
当該規制に対しては、顧客に対する一定の情報確認や技術的措置等によって対応すべきことになりますが、取引のリスク程度に応じて行うことになると思われます。
高額商品の場合
不動産やアートその他の高額商品を取り扱う場合、以下の点に留意しておく必要があります。
一点目は3000万円超の決済の場合に課される、上記外為法上の報告義務(外為法55条)です。
二点目は決済金受領後の取り扱いについてです。
暗号資産で受け取る場合には価格変動リスクを負うとともに、税務上の考慮も必要となります。クリプトの運用を行うのか又は早期に円転するのか、その具体的な手段を含めて事前に方針を立てておきましょう。
決済通貨の選定の際に触れましたが、JPYCを決済通貨とする場合、第二種資金移動業上の規制を受けて発行・償還は日額100万円に制限されています。DEXを利用するにせよ流動性の問題もあるため、取引金額の規模によっては注意が必要です。
マーケットプレイス・プラットフォームにおけるクリプト決済導入
自社販売ではなく、マーケットプレイスその他CtoCプラットフォームにおいて、クリプト決済を導入する場合について検討します。
具体的には、プラットフォーマーが一旦支払いを受領し、手数料を控除した残額を販売主に支払うスキームについてです。
こちらはクリプト以外の場面では一定範囲で収納代行として許容されているスキームですが、これを暗号資産または電子決済手段で実施する法的ハードルは、自社販売における導入よりも高いものとなります。
プラットフォーマーによる通貨交換と暗号資産交換業
購入ユーザーのクリプト決済ニーズに応えてプラットフォーマーが暗号資産で受けとりつつも、販売主はクリプトを扱えないので日本円に交換した上で渡したい、というニーズがあります。
当該行為については、収納代行サービスの受任者の履行を日本円(異なる通貨)で行っているだけとの整理の余地もありますが、暗号資産交換業(資金決済法2条15項)又は電子決済手段等取引業(資金決済法2条10項)に該当するという考え方が一般的です。
したがって、ライセンスなしで上記の仕組みを実装することは難しいと言えるでしょう。
カストディ規制との関係
プラットフォーマーがクリプトを受取りつつ、通貨の交換を行わないで、手数料を受領後に販売主に支払う行為については、プラットフォーマーに管理権限も存在する場合、暗号資産又は電子決済手段の管理に該当する(カストディ規制に抵触する)という見解があります。
この点に関しては、プラットフォーマーによる収納代行は一定範囲で為替取引に該当しないと扱われていることも踏まえ、合理的な期限までに販売主に支払う場合には暗号資産の管理に該当しない、という解釈も可能ではあります。
もっとも、規制との関係においてより安全に対応するためには、プラットフォーマーが自由な管理・処分ができないように、スマートコントラクトによって移転可能な宛先を限定することや、一定割合が自動的に販売主とプラットフォーマーに振り分けられる等の技術的措置を取ることが望ましいでしょう。
「JPYCを使ったサービスの考え方」のスライドでは、規制を踏まえた決済利用事例についてわかりやすく示されているのでご参照下さい。
規制に抵触しない仕組みについて
最後に、プラットフォームにおいて暗号資産交換業/電子決済手段等取引業の規制に抵触しない仕組みについて、いくつかの案を整理しておきます。
- スマートコントラクトによる制御
- 販売当事者
- 後払い(BNPL)スキーム
- 自社ポイントの活用
1. スマートコントラクトによる制御
上記「カストディ規制との関係」に記載のとおりです。
2. 販売当事者
純粋なプラットフォーマーではなく、消化仕入れや委託販売など在庫リスクを回避しつつも、販売主体となるスキームに変更する方法があります。
この場合は、購入ユーザーに対する販売売買代金の決済をクリプトで行う一方で、これとは独立した販売ユーザーとの取引の代金決済を円で行っており、暗号資産/電子決済手段の交換は発生しないという整理も可能となります。
この方法はプラットフォーマーが販売者としての責任を負うことが前提とはなりますので、それが可能な場合に限られます。そして「プラットフォーム」という前提が失われている点は否めません。
3. 後払い(BNPL)スキーム
プラットフォーマーが先にユーザーに代金の支払決済を行い、その後購入ユーザーから回収する方法です。購入ユーザーの支払方法の選択に従い、暗号資産又は電子決済手段を選択した場合は、ユーザーウォレットから暗号資産又は電子決済手段から回収されることになります。
この場合に購入ユーザーが法定通貨での支払いを選択した場合は通常の弁済、暗号資産を選択した場合は代物弁済を行なっていると整理されます。
4. 自社ポイントの活用
プラットフォームでのユーザー間の決済は全てポイントで統一し、プラットフォーマーによるポイント販売の決済手段として暗号資産又は電子決済手段も採用する方法です。
この場合、形式的には自社店舗(ポイント販売)におけるクリプト決済導入になります。
もちろん実質的に暗号資産売買や、暗号資産管理との評価を受けないように配慮が必要となります。また、前払式支払手段規制を受ける内容とするか否か等、ポイント設計も必要となります。
以上4点は、実務状況も踏まえた執筆者の案に過ぎず、いずれも適法性が公式に認められているというものではありません。また、採用し得るリーガルストラクチャーは、当該主体や扱っている商材その他具体的な状況に大きく依存します。
そのため、必ず当該分野に通じた弁護士に相談するとともに、状況に応じて金融庁に適法性を確認しつつ進めるようにしましょう。
まとめ
以上のとおり、クリプト決済導入は必ずしもライセンスが必要なものではありませんが、導入しようとしている取引態様や導入内容によって取り組みの難易度に一定の差異があるところです。
技術的サポートがあれば足りるのか、それともストラクチャーの構築に弁護士によるサポートが必須となるのか。取り組もうとする決済導入の難易度を把握することが、ファーストストップになるでしょう。
西村 啓弁護士 大阪弁護士会所属
同志社大学法学部法律学科卒業、京都大学法科大学院修了。大阪市内の法律事務所に勤務後、tou法律事務所を創設。現在は大阪、京都、東京を主な活動エリアとして、Web3.0/AI等をはじめとするスタートアップ、不動産事業、クリエイティブ事業を中心にリーガルサポートを行うほか、複雑な紛争事案にも積極的に取り組む。スタートアップ支援士業団体であるBAMBOO INCUBATORに所属し、複数士業からなるデジタル遺産プラクティスグループを発足。
tou法律事務所HP:https://toulaw.com/
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