NFT・トークンの法規制判定のポイント(金融規制編)

※本記事はtou法律事務所 西村様による寄稿記事です。

トークンを発行する場合には様々な法規制が問題となります。

その中でも、トークンと関わりが深い金融に関連する法規制のライセンスが必要となるビジネスになりますと、個人のクリエイターや中小の事業者では事実上実現が不可能となります。

そこで、本記事では以下2つの法律で規定する、ライセンスビジネスに該当しないようにトークンを発行することを目的とします。

  • 金融商品取引法(以下、「金商法」)
  • 資金決済に関する法律(以下、「資金決済法」)

※但し、執筆当時(2025年12月)の適用法令に基づく記載です。

トークンの機能による区別

まず、プロジェクトで発行するトークンの機能から規制のあたりをつけましょう。

Ⅰ. 投資的な意味を持つ【購入者に経済的利益を付与】
Ⅱ. 通貨(決済)的な意味を持つ【物やサービスと交換できる】
Ⅲ. ガバナンス的な権利を持つ【投票できたり意見を反映できたりする】
Ⅳ. リアルな社会/経済圏で権利を持つ【アート保有/会員権・利用権/物の引渡し請求権】

言うまでもないことですが、本記事の対象はⅠとⅡで、Ⅰは金商法、Ⅱは資金決済法の規制が問題となります。

他方で、Ⅲに関しては議決権があることで特段法規制が問題になることはありません。

Ⅳに関しては、対象とするビジネス領域や権利内容によって一定の法規制が存在しますが(中古品を扱う場合の古物営業法、宿泊権である場合の旅館業法など)、本記事では検討の対象外とします。

Ⅰ. 投資的意味を持つトークンと金商法規制

購入者に経済的利益を付与する場合であって、それが「投資」と評価されると、金商法の規制が及ぶことになります。

この記事では深入りはしませんが、投資評価されると金商上「集団投資スキーム持分」となり、トークン化されると「電子記録移転有価証券表示権利等」となります。

金商法上の正式名称は頭痛がしますが、いわゆる「それ証券にならないの?」「それセキュリティ・トークンじゃないの?」問題です。

有価証券に当たる場合、当たらない場合の例をあげると以下のとおりです。

なお、便宜上、単純化しておりますが、具体的な事実関係を総合評価する必要があるため、最終的な判定に際しては必ず弁護士に相談するようにして下さい。

有価証券に該当する
  • ホルダーに毎月X%のエアドロ配布が設計されたトークン
  • 発行事業者にステーキングするとホルダーに毎月収益が配分されるトークン
有価証券に該当しない
  • ホルダー全員が共同で事業を行い、その貢献に応じて事業収益を配分するトークン
  • ホルダーがキャラクターIPの著作権の全部or一部を持ち、ライセンスフィーを配分するトークン
  • トークン保有者が自ら運用を行って利益を得る
  • 事前に計画されていないエアドロをトークンホルダーに実施

何らかの利益を受けるトークンが有価証券に該当するかどうかの一つのポイントは、「収益配分のみを受ける地位がトークンに組み込まれているか」どうかです。

「お金を出すだけ、あとは勝手に収益が入ってくる」のようなポジションである場合、それは証券である可能性が高いといえるでしょう。

他方で、利用権・処分権も持つ不動産の購入者が運用して収益を上げたとしても、それは不動産(所有権)の購入+運用であり、出資と評価されるものではありません。

Ⅱ. 通貨(決済)的意味を持つトークンと資金決済法規制

物やサービスの取引の決済に利用できる通貨的なトークンを発行する場合、以下の2点を検討することになります。

Step1:暗号資産や電子決済手段に該当しないか
Step2:前払式支払手段に該当しないか

それぞれ深掘りします。

Step1. 暗号資産・電子決済手段に当たらないか

暗号資産や電子決済手段(法定通貨担保型のステーブルコイン等)は、後者が通貨建資産であるという点において異なりますが、パーミッションレスな性質について共通します(信託型電子決済手段のみ例外ですがここでは割愛)。

パーミッションレスは、誰の許可がなくても利用できることを意味しますが、法的には不特定に対する売買が可能か(トークンを売買する場面)、不特定に対する決済利用が可能か(トークンを使う場面)の二つの観点で問題になります。

暗号資産等に該当する

一般的なファンジブルトークンの規格(ERC20等)でミームコインを不特定多数に販売

暗号資産等に該当しない

以下の①ないし③の要件を満たしたトークン

①規約上の制限(許可した者以外が決済に利用することを禁止する等) or 技術上の移転制限
②1個未満に分割不可能な技術仕様を施したファンジブルトークンorNFT
③発行数100万個以下orトークン1個あたり1000円以上の価格設定

上記の該当しない例は金融庁ガイドライン及びパブリックコメント回答に依拠したものですが、絶対的な基準というわけではないため、目安として理解してください。

少なくとも利用規約などで形式的に禁止するだけで足りる、という問題ではありませんので技術仕様もあわせた検討が必要です。

なお、日本のライセンスを要するのは、暗号資産や電子決済手段の売買や交換、それらの仲介、または管理等の業務を日本居住者を相手として行う場合です。

そのため、海外法人にてトークン発行を行い、日本居住者向きには販売勧誘を行わない形であれば、少なくとも日本の資金決済法の規制は及びません。

Step2. 前払式支払手段に該当しないか

Step1においてパーミッションレスな性質が否定される場合でも、1コイン=1円のような通貨建て資産の場合や、特定のサービスの決済に利用できるトークンを発行する場合、前払式支払手段に該当しないかが問題になります。

前払式支払手段に該当する
  • コミュニティ内のみで流通し、発行体が提供する商品に対してのみ利用できるトークン(利用可能期間無期限)を1トークン=1円で有償で販売
  • 発行体の特定のサービスを1枚につき1回受けられるチケットNFTを有償で販売
前払式支払手段に該当しない/規制適用外
  • 発行体が提供する商品について、1トークン=1円の基準で利用できるが、発行は無償で行う場合(無償ポイント:非該当)
  • トークン保有者は発行体の特定のサービスを回数の限定なく受けることができる(会員権スキーム:非該当)
  • コミュニティ内のみで流通し、発行体が提供する商品に対してのみ利用できるトークン(利用可能期間:発行から6か月未満)を1トークン=1円で有償で販売(適用除外前払式支払手段)

前払式支払手段の適用が及ばないパターンとしては上記をおさえておくと良いでしょう。

一点目に関して、無償付与を行う場合は前払式支払手段に該当しません。
いわゆる「無償ポイント」と呼ばれているものです。

二点目がサービスと引き換えにトークンを渡したり、残数量が減ったりするものでない場合も前払式支払手段に該当しません。会員権のスキームの場合がこれに当たります。

最後の三点目は有効期限を設定することにより適用除外にする方法であり、実務上多用されている設計です。6か月未満の要件であることから「180日以内」と設定する場合が多い印象です。

なお、「前払式支払手段」の該当性は、証券性や暗号資産該当性と異なり、中小事業者にとっても絶対忌避ではありません。

1,000万円を超える場合に届出や2分の1の額の供託が必要になりますが、当該手続き負担と、ユーザーの利便性を天秤にかけて、トークン設計を決定しましょう。

まとめ

以上、トークンに関する金融規制は複雑ですが、規制に該当しないための設計パターンはある程度限られています。

本記事で紹介したポイントを押さえておくことで、どの規制が問題となり得るのか、また回避のための方向性もおおよそ把握できるはずです。

もちろん、微妙なケースでは最終的に専門家への相談が必要となりますが、本記事が企画段階での初期判断の助けとなれば幸いです。

なお、ご相談にあたっては、以下の項目(トークン概要)を整理しておくと専門家の検討がスムーズになりますので、ぜひご活用ください。

トークン概要
(1)目的・主用途決済/ガバナンス/投資/コミュニティ会員...
(2)具体的権利・利益の内容(利息/配当/引換権/各種利用権...
(3)利用・流通範囲不特定/限定コミュニティ
(4)発行数●個
(5)対価性無償/●円
(6)技術的特性トークン規格/技術制限の有無/チェーン種別

執筆者プロフィール

西村 啓弁護士 大阪弁護士会所属

同志社大学法学部法律学科卒業、京都大学法科大学院修了。大阪市内の法律事務所に勤務後、tou法律事務所を創設。現在は大阪、京都、東京を主な活動エリアとして、Web3.0/AI等をはじめとするスタートアップ、不動産事業、クリエイティブ事業を中心にリーガルサポートを行うほか、複雑な紛争事案にも積極的に取り組む。スタートアップ支援士業団体であるBAMBOO INCUBATORに所属し、複数士業からなるデジタル遺産プラクティスグループを発足。
tou法律事務所HP:https://toulaw.com/

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