
人道支援の新たな形:ビットコインファンドの設立
国際的な人道支援団体であるセーブ・ザ・チルドレン(Save the Children)は2025年12月11日に、暗号資産(仮想通貨)を用いた支援活動を新たな段階へと引き上げるために、業界初となる「ビットコインファンド(Bitcoin Fund)」を設立することを発表しました。
ビットコインファンドは、デジタル資産管理のリーディングカンパニーである「Fortris」との提携によって実現したもので、人道支援組織における資金管理と提供のあり方を根本から変革することを目指しています。
今回の発表で最も注目すべき点は、寄付されたビットコイン(BTC)を即座に法定通貨へ換金する従来のモデルを打破し、最大4年間にわたってビットコインのまま保有(HODL)することを可能にしたという点です。
これにより、セーブ・ザ・チルドレンは市場の動向を見極めながら資産価値の最大化を図ることができ、緊急支援が必要なタイミングで迅速に資金をロック解除(使用可能に)する柔軟性を獲得することができます。
「換金」から「運用」へ:ファンドの詳細と革新性
現在は多くの非営利団体(NGO)が仮想通貨寄付を受け入れているものの、その大半は価格変動リスクを避けるために、受領後即座に法定通貨へ換金しています。
しかし、セーブ・ザ・チルドレンの新しいビットコインファンドは、この慣習を覆し、ビットコインを単なる「寄付の入り口」としてではなく、長期的な資産運用のための金融ツールとして位置付けています。
同団体のイノベーション・パートナーシップ責任者であるアントニア・ルペル氏は、この取り組みについて次のように述べています。
現在は多くの非営利団体がビットコインを受け入れていますが、実際にそれらを保有したり、その基盤となるピアツーピア(P2P)技術を業務に活用したりしている例はほとんどありません。
我々のビットコイン寄付者からは「寄付のインパクトを最大化するために換金のタイミングを選べるようにしてほしい」という要望がありました。このファンドはまさにその需要に応えるものです。
ビットコインファンドの主な特徴と目的
Save the Childrenが新たに設立するビットコインファンドがもたらす具体的なメリットや機能としては以下のようなものが挙げられます。
- 長期保有(HODL)オプションの提供:
寄付されたビットコインを最大4年間保有し、市場価値の上昇による資産増加の可能性を追求する。 - 緊急時の迅速な流動性確保:
従来の銀行システムが機能不全に陥るような紛争地域や災害地域において、国境を越えた資金移動を即座に行うための準備金として機能する。 - 新しい支援提供(CVA)のテスト:
ビットコインやステーブルコイン、デジタルウォレットなどを活用し、現金やバウチャーによる支援(Cash and Voucher Assistance)を、より速く、透明性が高く、低コストで受益者に直接届ける方法を検証・拡大する。 - ドナーの意思反映:
寄付者は自身の資産が即座に売却されるか、将来のために保持されるかを選択できる余地が生まれ、支援の形に関与できるようになる。
セーブ・ザ・チルドレンは2013年、台風ハイヤンの被災地支援において国際NGOとして初めてビットコイン寄付を受け入れた歴史を持ちます。それ以来、「#HodlHope」キャンペーンなどを通じて数百万ドル相当のデジタル資産を調達してきましたが、今回のファンド設立は、単なる資金調達手段から、ブロックチェーン技術を組織の運営基盤に統合するという大きな戦略的転換を意味しています。
人道支援における「検閲耐性」と今後の展望
今回の動きは、単に投資的なリターンを求めているだけではありません。現在は世界各地で発生する紛争や経済危機において、既存の金融インフラが遮断されたり、高額な送金手数料が発生したりするケースが増加しています。
セーブ・ザ・チルドレンの米国部門CEOであるジャンティ・ソリプト氏は公式発表の中で、こうした状況下での新しいソリューションの必要性について次のように語っています。
子供たちが我々を最も必要としているとき、特に伝統的な対外援助資金が滞るような状況において、我々が支援を継続するためには、常識にとらわれないソリューション(Out-of-the-box solutions)が不可欠です。
このイノベーションは、ブロックチェーンベースのツールのスピード、コスト効率、そして金融包摂性を統合し、緊急対応と長期的な開発プログラムを強化するものです。
ビットコインが持つ「検閲耐性」や「ボーダーレス」な性質は、政府による資金凍結のリスクがある地域や、銀行口座を持たない人々への直接支援において、非常に強力なツールになり得ると期待されています。
セーブ・ザ・チルドレンは今後、Fediなどのビットコインアプリ開発者とも連携し、コミュニティベースのビットコインツールを活用して、金融サービスへのアクセスが限られた家族の金融リテラシー向上や経済的自立を支援していく方針です。
大手国際NGOがビットコインをバランスシート上で保有し、運用するというこのモデルケースは、他の非営利団体にとっても大きな指針になると予想されるため。今回のファンド設立は「投機的な資産」として見られがちな仮想通貨がその技術的特性を活かして「最も脆弱な人々のためのライフライン」へと進化する過程において、歴史的な一歩になると注目されています。
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source:Save the Children
サムネイル:Shutterstockのライセンス許諾により使用





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