カナダ、ステーブルコイン規制に本腰も市場影響は限定的か=レポート

国内金融市場への影響は限定的

カナダで進むステーブルコイン法制化の議論について、メガバンクのスコシアバンク(Scotiabank)のエコノミストが、国内金融市場への影響は限定的とする見解を示した。

スコシアバンクのエコノミストであるデレク・ホルト(Derek Holt)氏は、11月27日付のレポート「The Global Week Ahead」で、カナダドル建てステーブルコインに対する過度な期待に警鐘を鳴らしている。ホルト氏は、カナダ政府が進めるステーブルコイン関連法制について、金融市場全体への波及効果を狙うよりも、決済のイノベーションと効率性向上を主目的に据えるべきだと指摘。カナダドル・ステーブルコインの導入が、国債利回りの低下や資本流入の拡大といった金融市場全体の追い風になるという見方には懐疑的な姿勢を示している。

レポートではまず、現在のステーブルコイン市場の状況が整理されている。ステーブルコインは、米ドルなどの法定通貨に1対1でペッグされた暗号資産で、米国を中心に急成長を遂げている。最大手のテザー(USDT)は、時価総額が約1,850億ドル規模に達しているという。発行体は、ユーザーへの負債に対して、米国債や短期国債、レポ取引、マネーマーケットファンドなどの短期金融資産を中心に運用しているほか、一部はビットコインや金にも振り向けられており、ビットコインは現在、準備資産の6%弱を占めるとした。

ホルト氏は、こうしたステーブルコインの急拡大が、短期国債やマネーマーケットといった特定市場に与える影響や、ペッグ崩壊時の波及リスクに注目が集まっていると指摘する。格付け会社S&Pが最近、テザーのペッグ維持能力に対する評価を1〜5段階のうち最も低い水準に引き下げたことや、2022年のテラUSD(TerraUSD)崩壊の例を挙げつつ、ペッグを守れない事態になれば暗号資産市場全体や関連資産に波及する取り付けが起こりうると警告。ステーブルコイン保有分の償還(国債を含む)が一斉に進めば、流動性危機に発展する恐れがあるとも述べている。

また、ステーブルコインは米連邦準備制度(FRB)の割引窓口にアクセスできず、この状況は今後も続く可能性が高いとした上で、新たな支援枠が創設されない限り、公的な流動性支援を活用できる余地は限られるとも指摘している。

一方で、現状のステーブルコイン規模は金融システム全体の一部にとどまっており、「ERM危機やイングランド銀行を揺さぶったポンド売り、タイバーツの暴落といった過去の大規模通貨危機と比べれば、なお限定的」として、現時点でシステミックリスクとまでは言い難いとの見方も示している。

ただし、長期的な予測として、今後10年の終わりまでにステーブルコインが保有する米国債ポートフォリオが13桁に達し、米国債市場におけるシェアが現在のごく一部から相応の規模に拡大しうると警戒感も示した。

カナダでは現在、2025年度連邦予算(Budget 2025)でステーブルコイン法制化への方針が示されており、その実施法案である予算実施法案C-15において、ステーブルコイン法が盛り込まれている。法案では、カナダ銀行(BoC)が監督機関を担い、ステーブルコイン発行体の登録制度や、1対1の準備資産、償還ルール、ガバナンスやリスク管理などに関する要件が規定される見通しだ。

カナダ国内では、カナダ版ステーブルコインが本格化すれば、国債などカナダ資産への新たな需要が生まれ、対米金利スプレッドを一段と広げうるといった強気の見方もあるが、ホルト氏はこれに対し、複数の理由から懐疑的な姿勢を示している。

まず、カナダドルのオフショア利用は限定的であり、米ドルに比べ海外保有比率や国際準備通貨としてのプレゼンスが小さいことから、カナダドル・ステーブルコインの海外需要も限定的になりやすいと指摘する。

次に、経済全体の貯蓄は増えず、「資金の入れ替え」にとどまる可能性を挙げる。ステーブルコインは、家計や企業の資金の置き場所を銀行預金や他の投資から移すだけで、経済全体の貯蓄を増やすものではない可能性が高いとし、とくに当座預金や普通預金からの資金シフトが起きれば、銀行の調達構造には影響しうる一方で、全体の資本流入が劇的に増えるとは考えにくいとしている。

短期金利や金融政策への影響についても、中央銀行のツールで吸収可能だとみる。ステーブルコイン発行体が短期国債などに集中投資しても、中央銀行はレポや短期証券の発行など多様なオペレーション手段を持っており、必要に応じて金利形成をコントロールできるため、米ドル建てステーブルコインがカナダの独立した金融政策に与える潜在的な影響に対する懸念は誇張されている可能性があると指摘した。また、短期資金を運用する投資家にとって、米ドルと米国債の流動性は依然として圧倒的であり、カナダドル・ステーブルコインが、こうした圧倒的流動性の代替として一気に台頭するとみるのは現実的ではないとも述べている。

一方でホルト氏は、ステーブルコインのポテンシャル自体は評価している。レポートでは、クロスボーダー決済や送金のコスト削減、スピード向上、24時間365日稼働といった決済領域での効率化を、ステーブルコイン導入の主なメリットとして挙げる。特に、貿易取引や国際投資、海外送金の文脈では、ステーブルコインが既存の決済インフラより低コストかつ高速な手段を提供しうること、また法定通貨ペッグによって価格変動リスクを抑えられる点を利点としている。

ただし同氏は、「ステーブルコインという新しい金融仲介のかたちが、あらゆる資産クラスに『天からの恵み』をもたらす、といった期待は抑えるべきだ」とも記しており、法制度設計次第で多くの機会とリスクが生じうる一方で、金融市場へのインパクトを過大評価すべきではないと結んでいる。

カナダ自由党政権は、ステーブルコイン規制を含む2025年度予算について、連邦議会での採決を僅差で通過させている。

この予算および関連法案により、カナダにおけるステーブルコインの発行・監督ルールが新設され、監督権限はカナダ銀行に付与される方向で議論が進んでいる。

参考:レポート
画像:iStock/TexBr

関連ニュース

参照元:ニュース – あたらしい経済

コメント

タイトルとURLをコピーしました