【前編】なぜ銀行がweb3×エンタメに挑むのか?ソニー銀行が仕掛ける「 Sony Bank CONNECT 」の全貌と未来へのロードマップ

「web3の怖い・怪しいを払拭する。我々の強みは、銀行としての“安心・安全”です。」

金融機関であるソニー銀行が、web3事業に本格参入しています。その中核を担うのが、エンタテインメント領域に特化したNFTビューワーアプリ「 Sony Bank CONNECT 」です。2025年3月には盆栽アートのイベントで活用され、最近では「スパイダーマン」のNFTを配布するなど、矢継ぎ早に施策を展開しています。

ステーブルコインやセキュリティトークンといった文脈で語られがちな金融機関のブロックチェーン活用。その中で、なぜソニー銀行は「エンタメ」を入り口に選んだのでしょうか。その背景には、web2の第一線で活躍してきたキーパーソンたちのキャリアと、ソニーグループならではの強み、そして銀行だからこそ描ける壮大なロードマップがありました。

今回は、ソニー銀行のweb3戦略を牽引するDX事業企画部 web3プロモーション課 課長の赤石 智哉氏と、同課で事業開発をリードする中村 一貴氏をお招きし、その挑戦の裏側にある思想と戦略の全貌に迫りました。

赤石 智哉(あかいし ともや) DX事業企画部 web3プロモーション課 課長
NTTコミュニケーションズ、Dell EMCにて、コンサルティングや販売業務に従事。その後は大学職員となり、プライベートの時間でweb3について学ぶ。そして、web3企業であるHash Paletteにて勤務し、NFTに関する新規事業に取り組む。現在ではソニー銀行株式会社において、ブロックチェーン・NFT関連のプロジェクトを推進している。

中村 一貴(なかむら かずたか)DX事業企画部 web3プロモーション課 シニアマネージャー
三菱UFJモルガン・スタンレー証券株式会社、楽天グループ株式会社でのキャリアを歩み、その後コインチェック株式会社に参画。NFT関連の新規事業に従事する。その後、株式会社メルカリにてNFTのマーケットプレイス創設に携わる。2025年4月より、ソニー銀行株式会社でブロックチェーン施策を担当している。

小林 憲人(こばやし けんと) 株式会社NFTMedia 代表取締役
2006年より会社経営。エンジェル投資を行いながら新規事業開発を行う株式会社トレジャーコンテンツを創業。2021年にNFT Mediaを新規事業として立ち上げる。「NFTビジネス活用事例100連発」著者。ジュンク堂池袋本店社会・ビジネス書週間ランキング1位獲得。

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web2の第一線からweb3へ。異色の経歴を持つキーパーソン

ソニー銀行 web3 YouTube NFT Media 前編1
赤石 智哉 氏(写真中央)

小林:本日はよろしくお願いします。まず最初に、赤石さんから自己紹介をお願いいたします。

赤石:ソニー銀行の赤石と申します。私は、DX事業企画部のweb3プロモーション課で責任者を務めています。DX事業企画部とは、ソニー銀行におけるweb3戦略や事業企画を統括している部署です。

その中でもweb3プロモーション課は、NFTビューワー「 Sony Bank CONNECT 」のPRや、多くの方にそれを触っていただくための業務、そしてそれを起点とした事業開発などを、中村と共に推進しています。

小林:赤石さんは現在web3の領域で活躍されていますが、これまでのキャリアについてもお聞かせいただけますでしょうか。

赤石:詳しく言うと年齢がバレるので、少しオブラートに包ませていただければと思います(笑)。新卒でNTTコミュニケーションズ、現在のNTTドコモビジネスに入社し、ICTソリューションパートナーとして、主に大企業のお客様のICT支援に約10年携わっていました。

その後、次のステップとしてDell EMCに移り、HCI(ハイパーコンバージドインフラストラクチャ)など、サーバーのITインフラに係るコンサルティング営業を経験しました。

小林:DELLというとパソコンのイメージがあるのですが、それよりもサーバーなどのインフラ面のコンサルティングや販売をされてらっしゃったんですか。

赤石:そうです。まさに当時ですね、一般的なパソコンとかサーバーとかがそれぞれ分かれてしまっていたところを、トータルでサービス提供していくみたいな目線でエンタープライズの営業として入らせていただきました。

小林:そもそもはNTTコミュニケーションズもそうですし、Dellもそうですけれども、そういったハードですとか、インフラをコンサル販売されていて、インフラをコンサル販売されていて、その後にこのweb3側にもう入られたのですか。

赤石:実は、その間に一度、大学職員をしていまして(笑)。

比較的定時で帰れる中で、自由に使える時間が増え、当時流行していたビットコインやイーサリアムに触れ始めたのが直接のきっかけです。 ITリテラシーが元々あったこともあり、web2の次に来るweb3の世界にすぐにのめり込み、定時で仕事が終わった後の時間がすべてweb3になりました(笑)。

当時、イケハヤさんのクリプトニンジャが始まった頃で、そのコミュニティに参加して新しい世界観の可能性を強く感じ、「これは人生をフルベットするしかない!」と考えたのです。

NinjaDAO
引用:NinjaDAO公式サイト

小林:仕事ではなくプライベートでいろいろ見てた延長からweb3業界に飛び込まれたわけですね。

赤石:はい。最初にNFT特化のブロックチェーン「パレットチェーン」を手掛けるHash Paletteにジョインし、NFTをより身近にするための新規事業に携わりました。ただ、パブリックチェーンに近い特性上、国内の様々な規制の中でweb3を成長させるには、より大きな枠組みでの事業開発が必要だと感じていました。 

日本がweb3でさらに成長していくためには、規制の中でいかに事業を拡大させていくかが重要だと考えていたのです。そんな時に、現在の上司であるソニー銀行の金森からなぜか「銀行でweb3をやる」という話を聞きつけまして(笑)。これも運命だと感じ、比較的早い段階からソニー銀行のweb3プロジェクトに参画しております。

ソニー銀行 web3 YouTube NFT Media 前編2
中村 一貴氏(写真右)

小林:ありがとうございます。続いて、中村さんの自己紹介もお願いします。

中村:中村一貴と申します。web3プロモーション課でシニアマネージャーとして、主に事業開発やプロジェクトマネジメントを担当しています。2025年の4月からジョインしたばかりですが、様々な業務に取り組んでいるところです。

小林:4月からとは思えないほどのなんというか、ベテラン感が凄いありますね(笑)。中村さんはどのような経緯でweb3の世界に入られたのですか。

中村:私は新卒で証券会社に4年ほど勤め、その後、楽天グループに転職しました。楽天ではマーケティングリサーチやデータマーケティングの領域で、エンタープライズ向けのセールスを担当していました。

楽天でのキャリアの後半ではデータビジネスの新規事業に携わる中で、「情報銀行」のようなブロックチェーンに関連する領域に触れる機会がありました。 その経験を通じて、自分のキャリアを考えた時、新規事業で大きな成果を上げるには、web3・ブロックチェーンの業界に身を投じた方が良いのではないかと考え、この世界に入りました。

小林:web3業界では、どのようなお仕事をされてきたのでしょう。

中村:2021年にコインチェックに入社し、暗号資産取引所事業ではなく、NFT事業に3年ほど従事していました。その後、メルカリでNFTマーケットプレイスの創設に関わり、今に至ります。

小林:話全然変わっちゃうんすけど、メルカリって中村さんがお二方いらっしゃいますよね(笑)?

中村:そうですね、以前NFT MediaさんのYouTubeにも出演されていたのがもう一人の中村です(笑)。

参考:メルカリがNFTマーケットプレイスを始動!事業責任者の中村 奎太氏にインタビュー

小林:コインチェック、メルカリというweb3の第一線から、なぜ金融機関であるソニー銀行を選ばれたのですか。

中村:web3がマスアダプションするために最終的に何が必要かを考えた時、金融機関がステーブルコインや金融商品取引法に対応した形でトークンを世の中に浸透させていくアプローチが、地道な上り方に見えるかもしれませんが、実は一番の近道ではないかと思ったのです。

自分の時間をそこに投下することが、私が目指すweb3のマスアダプションに最も貢献できる道だと考え、入社を決めました。

ソニー銀行のweb3戦略を担う「DX事業企画部」とは

ソニー銀行 web3 YouTube NFT Media 前編3

小林:未来にフルベットされているお二人が所属する「DX事業企画部 web3プロモーション課」とは、どのような組織なのでしょうか。

赤石:DX事業企画部は、ソニー銀行のweb3戦略を包括的に担う部署で、大きく三つのチームに分かれています。 

一つが、私たちweb3プロモーション課で、エンタメ系の企画や「 Sony Bank CONNECT 」の開発などを担当しています。

二つ目が、銀行が元々持っている開発チームと連携してシステム開発を行うチームです。

そして三つ目が、セキュリティトークンやステーブルコインなどをグローバルな視点で検討するチームになります。我々のweb3プロモーション課が最もNFTやエンタメ領域と密接に連携し、「楽しい系」の企画を担当している部署ですね。

小林:web3だけで3チームもあるのですね!組織の規模はどれくらいなのでしょうか。

赤石:各チーム5〜10名ほどで、全体では契約形態も様々ですが約30名の大所帯になっています。私が参画した2〜3年前はまだ3〜4名のチームでしたから、急速に拡大しています。

小林:すごい拡大スピードですね!これまでの取り組みとしては、どのようなことをされてきたのでしょうか。

赤石:ソニーグループの金融機関ということもあり、グループのIPとのコラボレーションが非常に多かったです。最近では、ソニー・ピクチャーズと連携して「スパイダーマン」のNFTを公開しました。

Sony Bank CONNECT
引用:プレスリリース

赤石:これまでにもソニー・ミュージックや、犬型ロボットのAIBO(アイボ)とコラボさせていただくなど、ソニーグループの繋がりを活かしたコンテンツを多く手掛けています。特にAIBO初代モデル(EERS-ERS-110)とのコラボNFTは、ソニー銀行の口座をお持ちでない方からも「お金を払ってでも欲しい」という声をいただくほど大きな反響がありました。

aiibo
引用:プレスリリース

小林:ソニーグループのIPだけでなく、外部のIPとの連携もあるのでしょうか。

赤石:はい、今後はそこをさらに強化していきたいと考えています!

最近の事例では、ソニーグループのNFTマーケットプレイスであるSNFT株式会社と連携し、「BONSAI NFT CLUB」と共同で、Ginza Sony Parkにて盆栽のパフォーマンスイベント「“爻:MAJIWARI”」を実施しました。ソニーグループのシナジーは最大限活用しつつ、それ以外のIPとも積極的に連携していく方針です。

小林:今後がますます楽しみですね。

中村:まだ公開できないものも多いですが、ソニーグループのIPや技術とコラボした案件が水面下で数多く動いています。そして何より4月に入社して改めて感じたのは、その潜在可能性の大きさです。

赤石:そうした連携をさらに加速させるため、今年の5月にweb3のコンサルティングなどを手掛ける子会社(他業銀行業高度化等会社)も設立しました。

ソニーグループの技術を活用しながら様々な企画をやっていると、「コラボして一緒にやりたい」というお声がけをいただくことがあります。子会社は、銀行業のルールに縛られずより柔軟に外部の企業と連携していくための組織です。ちょうど規制が緩和されたタイミングとも重なり、良い時期に設立できたと考えております。

銀行ならではの3つの強み

ソニー銀行 web3 YouTube NFT Media 前編4

小林:ソニー銀行がweb3事業に取り組む上での「強み」は、どのような点にあるのでしょうか。

赤石:大きく三つあると考えています。

 一つ目は、銀行ならではの勘定系システムを持っている点です。BaaS(Banking as a Service)としてweb2的な金融機能を提供しつつ、そこにプラスアルファとしてweb3の体験を乗せることができる。これは非常に大きな強みだと感じますね。

二つ目は、証券などの金融知識が豊富な人材がいる点です。これまでもセキュリティトークンは第1弾、第2弾とやらせていただきましたが、今後はエンタメと証券性を組み合わせた、ソニーグループのシナジーを活かせる商品を企画していきたいと考えております。

そして三つ目は、少し定性的な話になりますが、「安心・安全」というブランドイメージです。ソニー銀行は2025年 オリコン顧客満足度®調査「ネット銀行」で2年連続総合で何度も1位をいただいており、その信頼感が「web3は怖い」「詐欺があるのでは」といったイメージを払拭できると考えています。

小林:マスアダプションを考えると、「安心感」は非常に重要な要素ですよね。

中村:まさにその通りです。実際にIPホルダーのなかには、2021年のNFTブーム以降、様々な勧誘を受けてうんざりされている方が少なくありません。「ソニーグループのテクノロジーがあり、かつ銀行なので堅いから大丈夫でしょう」というお言葉をいただくことが多く、この強みは日々実感しています。

「 Sony Bank CONNECT 」— エンタメ体験への入り口

Sony Bank CONNECT
引用:ソニー銀行公式HP

小林:では、御社のweb3プロダクトであるNFTビューワー「 Sony Bank CONNECT 」についてお伺いします。こちらはどのようなコンセプトで開発されたのでしょうか。

赤石:コンセプトは「誰でも簡単に、安心して楽しめるweb3エンタテインメント領域向けアプリ」です。web3の「怖い」「難しい」という印象を払拭し、誰もが気軽に使えることを目指してリリースしました。 主な機能としては、SNFT株式会社が発行するNFTなどをアプリ内で一括管理できるほか、「ルーム」や「ウィジェット」といったユーティリティがあります。

小林:ルームやウィジェットとは、どのような機能ですか。

赤石:「ルーム」は、自分専用の3D空間に保有するNFTを飾って楽しむ、メタバースのような機能です。一般的なオープンメタバースとは異なり、あくまで自分が楽しむためのプライベートな空間として提供しています。特定のNFTを持っている人だけが入れる特別なルームもあり、その空間をSNSなどでシェアして自慢し合う、といった世界観を描いています。クリエイティブにはこだわっていて、NFTを置くと花火が上がるといった演出も作り込んでいます!

「ウィジェット」は、スマートフォンのホーム画面に、自分の“推し”のNFTを表示できる機能です。OpenSeaなどで見ているだけでは得られにくいデジタルの「所有感」を、より身近に感じてもらうことを目指しました。いつでも自分の身近にその“推し”を感じることができる、という機能です。

小林:このアプリのビジネスモデルは、どのようにお考えですか。

赤石:大きく三段階のステップで考えています。 短期的な目線では、「 Sony Bank CONNECT 」を通じてファンを醸成し、ソニー銀行のことを好きになっていただき、口座開設や銀行サービスの利用に繋げることです。 

次のステップでは、その実績を元に、外部のIPホルダー様などtoBの協業を拡大し、新会社を通じたコンサルティングなどで収益化を図ります。 

そして最終的には、セキュリティトークンやステーブルコインとNFT・エンタメを組み合わせ、web2とweb3を横断する経済圏の中で金融サービスを流通させ、マネタイズしていくことを目指しています。

NFTは「所有」から「体験」へ — RWAとの融合

ソニー銀行 web3 YouTube NFT Media 前編5

小林:「 Sony Bank CONNECT 」は、これまでどのようなイベントで活用されてきたのでしょうか。

赤石:ソニーグループのIPとの連携事例も多いのですが、少し面白い取り組みとして、2025年1月にグランドオープンしたGinza Sony Parkで実施した盆栽のイベントがあります。 

これは、BONSAI NFT CLUBと共同で開催した「“爻:MAJIWARI”」というアートパフォーマンスで、リアルワールドアセット(RWA)の新しいユースケースへの挑戦でもありました。

MAJIWARI NFT
引用:SNFT公式Xアカウント

小林:RWAというと、不動産などが一般的ですが、盆栽というのはユニークですね。

赤石:はい。今回は単に現物の盆栽をNFTにしただけでなく、盆栽作家の平尾成志さんがその場で即興で作品を創り上げる、という「体験そのもの」をNFTに込めたのが新しい点です。ちなみに、2日間で1点ずつ作ったというところで計2点になるのですが、1点あたりの金額はどのくらいだと思いますか。

小林:10万円から15万円くらいですか?

赤石:そうですね、それぞれ約500万円で販売されました。

小林:500万円!私にはよっぽど見る目がなかったみたいです...(笑)。体験にそれだけの価値が付いたということですね。

赤石:アート作品なので主観も入りますが、Ginza Sony Parkという場所で、ライブパフォーマンスを通じて創られたというストーリーが評価されたのだと思います。結果として、SNFTのマーケットプレイスで即完売し、大きな反響がありました!

これまでのNFT配布中心の施策から、今後は「体験」や「感動価値」といった、NFTだからこそできるプラスアルファの価値提供に注力していきたいと考えています。ソニーグループには「ロケーションベースエンタテインメント」に関する技術も多数ありますので、そういったものとのコラボレーションも積極的に進めていきたいですね。

次回予告

ソニー銀行 web3 YouTube NFT Media 前編6

前編では、ソニー銀行がweb3事業に挑む背景にある二人のキーパーソンの存在や、銀行ならではの強みを活かした組織体制、そしてエンタメを切り口としたアプリ「 Sony Bank CONNECT 」の戦略について伺いました。

後編では、ソニー銀行が描くさらに大きな未来像に焦点を当てます。金融機関として「安心・安全なブロックチェーン」をどう実現するのか、そのための実証実験「MyLayer Prototypingプログラム」の詳細や、設立された新会社の役割、そしてweb3業界全体の課題と可能性まで、さらに深く掘り下げていきます。

ぜひお楽しみに!

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