
「英国は仮想通貨導入に慎重すぎる」元財務大臣が警鐘
英国の元財務大臣で、大手仮想通貨取引所Coinbase(コインベース)の顧問を務めるジョージ・オズボーン氏は2025年8月4日、仮想通貨の導入に関して「英国は米国・欧州・アジア諸国に比べて後れを取っており、このままでは国際的な競争から取り残される恐れがある」と警鐘を鳴らしました。
オズボーン氏は英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)への寄稿で「私の目には英国が決して先行者ではなく、自らを出遅れさせてしまっている」と述べ、現状への強い危機感を示しています。
同氏は特に、ステーブルコインへの対応が遅れている点を問題視しており「英国はすでに第1波の仮想通貨導入ブームに乗り遅れたうえ、次に到来するステーブルコイン市場の波も見逃そうとしている」と指摘しています。
また、同氏は、トランプ政権下で米国が仮想通貨を受け入れたことが、第1波を牽引する原動力となったとの見方を示しています。そのうえで、英国が現行の政策を改めなければ「このままでは世界に取り残されかねない」との見解を述べました。
英国改革党が仮想通貨政策を公約
オズボーン氏が危惧する英国の仮想通貨政策への出遅れ
仮想通貨導入ブームの第1波を逃した英国の対応
オズボーン氏は英国が仮想通貨分野で「完全に後れを取っている」現状を指摘し、英国政府の過度な慎重姿勢を厳しく批判しました。
英国が仮想通貨導入の第1波に乗り遅れた背景について同氏は、米国がトランプ政権下で積極的に仮想通貨を受け入れた一方で、英国は懐疑的な態度を崩さなかったことが原因だと分析しています。
第二波「ステーブルコイン導入競争」でも後手に回る
オズボーン氏は、現在到来しつつある第2の波としてステーブルコイン市場の拡大を挙げ、英国がこの新たな動きへの対応にも遅れを見せていることに強い懸念を示しました。
同氏は、価格変動の大きいビットコイン(BTC)などの銘柄とは異なり、法定通貨に価値を連動させたステーブルコインは、次世代の決済インフラとして機能する可能性があると説明しています。
さらに同氏は「もし世界に英国しか金融センターが存在しないのであれば、慎重な対応も許されるだろう。しかし、現実にはそうではない」と述べています。
その上で、シンガポールや香港、アブダビなどの主要金融拠点がすでに仮想通貨プラットフォームに対応した包括的な法制度を整備している点を挙げました。
先行するこれらの国々と、規制整備を後回しにする英国の格差が拡大していることに同氏は強い危機感を示しています。
ステーブルコイン規制で先行する米国
さらにオズボーン氏は、米国で成立したステーブルコイン規制「GENIUS法」にも言及しました。
同法案により、ドルに裏付けられたステーブルコインに対する包括的な規制体制が確立されました。その結果、仮想通貨革命はむしろドルの支配力を一層強める方向に進んでいると同氏は分析しています。
同氏は「当初、仮想通貨革命はドルを世界準備通貨の地位から引き下ろす動きだったかもしれない。しかし現在では、むしろドルの優位性を強化する結果となっている」との見解を示しました。
そのうえで「英国が現状の方針を維持し続ければ、ポンドは国際通貨としての存在感すら失いかねない」と警鐘を鳴らしています。
政策の遅れが英国を仮想通貨後進国に
オズボーン氏は特に、2025年7月にレイチェル・リーブス現財務大臣が「ステーブルコイン推進」を表明したものの、具体的な施策が示されていない点を問題視しています。
さらに、イングランド銀行の消極的な姿勢も重なり、当局全体として対応を決めかねている状況が続いていると批判しました。
英国当局の慎重すぎる姿勢に対し、オズボーン氏は「ためらいはこの国を無関係な存在にしてしまうリスクがある」と警告しました。そのうえで「今こそ追いつく時だ(catch up)」と述べ、迅速な行動の必要性を訴えています。
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日本も仮想通貨競争で後れを取る実態
仮想通貨規制の慎重姿勢が成長の足かせに
日本もまた英国と同様に、世界的な仮想通貨の潮流に乗り遅れているとの指摘が、業界関係者の間で相次いでいます。
日本は2017年に暗号資産(仮想通貨)交換業者の登録制度を導入し、規制面では先行していました。しかし、その後に相次いだ資産流出事件や市場の冷却化を受け、現在では規制強化と慎重な対応が顕著になっています。
近年ではこの慎重すぎるアプローチが日本の国際競争力低下を招いているとの声が強まっており、日本国内のスタートアップ企業や投資マネーが他国へ流出する傾向が指摘されています。
承認プロセスの遅さがWeb3企業の日本離れを加速
Web3関連企業の関係者からは「日本の仮想通貨関連プロジェクトの承認プロセスは慎重すぎて時間がかかりすぎる」との声があがっており、案件によっては自主規制団体(JVCEA)での審査と金融庁での許認可に合計6〜12か月以上を要するとされています。
このような手続きの遅さや硬直性がイノベーションの足かせとなり、国内チームがシンガポールやアラブ首長国連邦(UAE)など規制の俊敏な国・地域へ開発拠点を移すケースも増えているとの指摘もあります。
香港やUAEではサンドボックス制度の導入やライセンス交付の迅速化を進めることで、フィンテック企業の誘致を加速させています。こうした取り組みにより、日本との競争力の差はますます拡大しています。
最大55%課税が投資家離れを加速
加えて、日本では暗号資産による利益が最大55%の総合課税(雑所得)扱いとなっており、この税制度が投資家や事業者の不満を招いてきました。現行の厳しい税制が国際競争力を阻害しているとの指摘もあり、業界団体などは税制緩和を強く求めています。
2025年7月30日には、日本暗号資産ビジネス協会(JCBA)と日本暗号資産取引業協会(JVCEA)が金融庁に対し、暗号資産課税を株式並みの一律20%申告分離課税とし、損失の3年間繰越も認めるよう求める要望書を提出しました。
両団体は「健全な市場成長には、迅速な制度整備が不可欠だ」との見解を示しており、税負担の軽減とルールの明確化によって、国内の投資資金を安定的に定着させ、海外への流出を防ぐ必要があると強調しています。
このように、日本国内でも制度改革を求める声が高まっており、世界の仮想通貨の流れに取り残されないためには、迅速で大胆な対応が求められる局面を迎えています。
金融庁に暗号資産税制改正を要望
仮想通貨の国際競争、各国が生き残り図る
現在、世界各国における仮想通貨導入競争は新たな局面を迎えています。先進国は法整備と市場育成を急ぎ、官民一体となって次世代の金融インフラの構築に取り組んでいます。
こうした中で、オズボーン氏が指摘した英国や、同様に慎重だった日本も巻き返しを図る必要に迫られており、今後数年の対応次第で、各国の仮想通貨分野における国際的な地位が大きく左右されると見られています。
仮想通貨をめぐる国際的な競争は激化の一途をたどっており、迅速なルール整備とイノベーションに前向きな国・地域が主導権を握る構図が鮮明になりつつあります。
金融の未来像を見据え、各国政府には「取り残されない」ための明確な戦略と、迅速かつ具体的な対応が求められています。
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Source:フィナンシャル・タイムズ報道
サムネイル:AIによる生成画像






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