
この記事の要点
- FRB・OCC・FDICが仮想通貨保管に関する新ガイダンス発表
- 銀行に対し仮想通貨保管時の法令遵守を明確化
- 秘密鍵管理や内部統制、技術体制の整備を要請
- 金融犯罪対策としてBSAやOFAC等の順守を強調
- サブカストディアンとの契約や監査体制の強化も必須
米3機関、仮想通貨保管の新ガイド発表
2025年7月15日、米国の3つの主要金融機関であるFRB(米連邦準備制度理事会)、OCC(米通貨監督)、FDIC(米連邦預金保険公)は、仮想通貨のカストディ(保管)サービスを銀行が提供する際の新たな共同ガイダンスを発表しました。
今回の共同声明では、銀行が顧客資産として仮想通貨を保管する際に適用される既存の銀行規則が明確にされています。また、仮想通貨の「セーフキーピング(safekeeping)」に関するリスク管理上の考慮事項も提示されました。
また、銀行が仮想通貨(暗号資産)の保管サービスを提供する、または導入を検討する際には、安全かつ健全な方法で関連法令を順守する必要がある点が強調されています。
なお、今回のガイダンスは新たな監督義務を追加するものではなく、既存の規制の枠組みを前提とした指針であることが明らかにされています。
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仮想通貨保管業務に新たな指針
今回公表されたガイダンスでは、仮想通貨のカストディ業務に関する具体的なリスク管理策と法令遵守の方針が明記されました。
顧客秘密鍵管理と技術体制の強化
FRB・OCC・FDICの3機関は、仮想通貨の保管サービスが顧客の秘密鍵などの機密情報を排他的に管理する性質を持つものであるという認識を、銀行経営陣に徹底するよう求めています。
また、保管中の資産については、顧客本人であっても銀行の関与なしには移転できない状態を維持する必要があることが明らかにされています。
このため銀行は、鍵生成ツールの選定やウォレットの種類、バックアップ体制などを内部統制の観点から点検し、スタッフに必要な技術スキルを習得させる仕組みを整備する必要があります。
さらに、仮想通貨市場の価格変動の大きさや技術革新の速さを踏まえ、銀行にはサービス提供に必要な資本と人員の計画を策定することが求められます。
加えて、サポート対象となるトークンのソフトウェア更新や台帳設計については、継続的な見直しを実施することが不可欠とされています。
金融犯罪対策とマネーロンダリング防止への対応義務
また、法令遵守やガバナンス体制の構築に関しても、具体的な要件が提示されました。
仮想通貨のカストディ業務を担う銀行には、銀行秘密法(BSA)やAML・CFT、米財務省外国資産管理局(OFAC)の制裁規則など、既存の金融犯罪対策法令の順守が求められます。
特に「トラベルルール」に基づく送金者情報の付与を含めた対策を適切に実施する必要があります。
そのため、銀行はカストディ業務の開始にあたり、BSA責任者や経営陣を早期に関与させ、リスク評価と対策の文書化を進めることが求められます。
また、保管業務をサブカストディアン(外部の保管業者)に委託する場合であっても、銀行本体がそのベンダーのパフォーマンスに対して最終的な責任を負うことが明示されました。
契約締結にあたっては、サブカストディアンの鍵管理方法、顧客資産の分別管理体制、破産時の資産保護スキームなどを十分に調査することが求められます。また、サービス提供中にセキュリティ侵害やシステム障害が発生した際には、迅速な通知を義務付ける契約条件を盛り込むことが推奨されています。
また、自社で保管業務を行う際に外部製のウォレットソフトを利用する場合も、同様のベンダーリスク管理基準を適用することが求められます。
外部監査人活用と評価体制の確立
さらに、監査体制の強化も重視されており、監査人には鍵生成プロセスやウォレットの安全性、ブロックチェーン上での決済管理といった仮想通貨特有の項目に対応する監査項目の拡充が求められます。
銀行内に十分な専門知識を有する人材がいない場合には、独立した外部専門家を起用し、保護策の有効性を検証させたうえで、監査委員会に報告する体制を整える必要があります。
共同声明の結論では、信託業務やカストディ関連規則、情報セキュリティ規範などの既存の規制体系が、仮想通貨のカストディ業務にも適用可能であると指摘されました。
そのうえで、銀行は「自ら暗号鍵を管理し、外部業者を適切に監督し、リアルタイムで金融犯罪対策を遵守できる能力」を有することを証明する必要があると強調されています。
規制明確化で金融機関の動き活発化
業界関係者からは、今回の動きを歓迎する声も上がっています。
この方針について、米ストラテジー(旧マイクロストラテジー)社のマイケル・セイラー会長はX(旧Twitter)で「OCC・FRB・FDICは、既存のリスク管理基準の下で銀行がビットコインなど仮想通貨のカストディ(保管)サービスを提供できることを再確認した」とコメントしました。
銀行による仮想通貨カストディはこれまで明確な指針が不足していましたが、監督当局が連携して具体的な基準を示したことで、金融機関は法的な不確実性を低減しつつ新たなサービス展開に乗り出しやすくなると期待されています。
7月14日の週を「仮想通貨週間」に
世界で進む仮想通貨規制整備
グールド新OCC長官就任と仮想通貨ETF規制整備
米国では7月10日、仮想通貨企業出身のジョナサン・グールド氏が約5年ぶりにOCC長官に就任しました。
グールド新長官は従来の銀行規制を緩和しつつ仮想通貨産業を推進する政策を加速させると見られており、業界からは規制整備に対する期待が一段と高まっています。
また、米証券取引委員会(SEC)は7月上旬、仮想通貨ETF(上場投資信託)の開発に向けた開示ガイダンスを公表し、ソラナ(SOL)やエックスアールピー(XRP)など複数の仮想通貨に連動するETF申請の承認に向けた具体的な検討を開始しました。
SECの新たな指針では、カストディの形態や価格変動(ボラティリティ)など、仮想通貨ETFに特有のリスクを申請段階で明示することが義務付けられています。
この方針は、SECが仮想通貨を組み込んだ金融商品を本格的に規制の枠内に取り込む姿勢を明確にしたものと評価されています。
欧州MiCA規制とコインベースのライセンス取得
一方、欧州連合(EU)では、包括的な仮想通貨規制枠組み「MiCA」の整備が進んでおり、米大手取引所Coinbase(コインベース)は今年6月にルクセンブルク金融当局からMiCAに基づく営業ライセンスを取得しました。
このライセンス取得により、コインベースはEU加盟27か国すべてで仮想通貨サービスの提供が可能となり、約4億5,000万人の欧州市場を対象に、統一されたルールの下で事業拡大を図る方針です。
欧米での規制整備や市場参入の進展を背景に、日本を含む各国でも、自国の産業競争力向上や投資家保護の観点から、仮想通貨規制の動向に注目が集まっています。
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Source:FRB・OCC・FDIC共同声明
サムネイル:AIによる生成画像




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