
この記事の要点
- 金融庁が暗号資産の金商法移行を正式に審議開始
- 資金決済法から金融商品取引法への移行を検討
- 分離課税20%やETF承認も視野に入れた制度改革
- 暗号資産市場は1,200万口座・預託金5兆円に拡大
- 税制への不満が高まり、業界から改革の声が強まる
- トークンを2類型に分類し新たな規制案を提示
- 2027年の新制度施行を目指し年内に報告書を提出
金融庁、暗号資産の金商法移行を正式検討へ
金融庁は2025年6月25日、金融審議会総会で「暗号資産を巡る制度のあり方に関する検討について」を正式な審議事項として提示し、暗号資産(仮想通貨)の規制について、現行の資金決済法から金融商品取引法(金商法)への移行を視野に入れた本格的な審議に着手することを発表しました。
同総会は加藤勝信金融担当大臣からの要請を受けて開催されており、この席で暗号資産制度の見直しに関するワーキンググループ(WG)設置も決定されています。
金融庁は4月にディスカッション・ペーパーを公表して市場関係者から意見募集を行っており、担当者は「概ね方向性について賛同を得ている状況」と報告しています。
審議会に出席した有識者からは「暗号資産の課題は従来から金商法で対処してきた問題と親和性がある」「金商法の枠組みで対応するのは妥当」といった制度移行を支持する声が上がりました。
一方で「富裕層がより得をする税制上の不公平が生じないか」との懸念も示されており、今後のワーキンググループでは、多角的な観点からの慎重な検討が求められています。
今回の議論開始は、日本の暗号資産規制における重要な転換点と位置付けられており、年内に報告書を取りまとめて2026年の通常国会に法改正案提出を目指す見通しです。
改正資金決済法が成立
金融庁が示す日本の暗号資産市場の成長実態
金融庁が示した資料によると、日本国内の暗号資産市場規模は近年大きく拡大しています。
日本の暗号資産利用者口座数が1,200万超に拡大
2025年1月時点で、国内の暗号資産交換業者における利用者口座数は延べ約1,214万口座、預託金残高は約5兆円に達しています。個人投資家全体のうち、約7.3%が暗号資産を保有しているとされています。
この数値は、外国為替証拠金取引(FX)や社債の保有率を上回る水準であり、暗号資産が一般投資家にとってより身近な投資対象となってきたことを示しています。また、米国ではビットコイン(BTC)現物ETFに投資する機関投資家数が1,200社を超えるなど、国際的にも暗号資産の本格的な投資対象化が進行しています。
暗号資産の税制に不満が集中
一方で、詐欺的な投資勧誘や無登録業者による違法行為が相次いでおり、金融庁に寄せられる暗号資産関連の苦情相談は月平均で300件を超える状況です。こうした利用者被害の深刻化も顕在化しています。
こうした状況を受け、金融庁は暗号資産規制の抜本的な見直しに着手し、現行制度の課題整理と新たな制度設計を進めてきました。
特に税制面では、暗号資産取引で得た利益が最大55%の総合課税(雑所得)として扱われる現行制度に対し「税負担が重すぎる」との投資家の不満が根強く、業界の国際競争力を損なう要因と指摘されてきました。
自民党内でも暗号資産の税制優遇を求める動きが活発化しており、塩崎彰久議員は2月の国会で「暗号資産を金商法に位置づけて20%の分離課税とするのが適切ではないか」と提言しています。
こうした背景から、暗号資産をより適切に位置づけて投資家保護と市場育成の両立を図る制度改正が急務となっていました。
「暗号資産に金商法適用を」
金融庁:新制度に向けた規制フレームワーク
トークン規制を2分類に
金融庁は暗号資産の性質に応じた「2つの類型」による新たな規制フレームワーク案を提示しています。
1つ目の類型「資金調達・事業活動型」は、プロジェクトや事業の資金調達手段として発行され、発行体が多数の投資者から資金を集めるトークンが対象となります。
この類型では、有価証券に準じて発行者に正確な情報開示を義務付けることで投資家保護を図ります。一方で、大規模な勧誘に限定して適用することで、トークンビジネスの発展を妨げないようにする方針です。
2つ目の類型「非資金調達・非事業活動型」は、特定の発行者が存在しないビットコインなどの暗号資産や、資金調達を目的としない一般的なトークンが対象です。
この類型では、発行者への直接的な規制ではなく、交換業者に対して必要な情報提供義務を課すことで、取引の透明性と投資家保護の強化を図る設計となっています。
なお、ステーブルコインは主に決済手段として利用されており、現時点では投機的な取引対象とはされていないことから、今回の規制見直しの対象外とされる見通しです。
金商法移行に対する学識者の見解
金融庁は、暗号資産を証券そのものとみなすのではなく「暗号資産」という独自の資産クラスとして金商法の枠組みに組み込む方針です。従来の証券規制との違いも踏まえた、柔軟なルール設計を目指しています。
審議会に参加した川口恭弘委員(同志社大学教授)は「暗号資産が抱える課題は、従来から金商法で対処してきた問題と親和性がある」と述べ、金商法の枠組みで対応する方針に理解を示したことが報じられています。
今後、新たに設置されるワーキンググループ(WG)で制度の詳細設計が議論される予定であり、同日の審議会では投資家からの具体的な懸念に対する検討も求められました。
野澤康隆委員(浜銀総合研究所会長)は「金商法への移行によって、富裕層ばかりが恩恵を受けるような税制上の不公平が生じるのではないか」と懸念を示しています。
金融庁は、寄せられた意見を踏まえながら、暗号資産の実態に即したバランスの取れた規制枠組みの構築を進めていく方針です。
2027年施行を見据えたスケジュール
金融庁が今回示したスケジュールによると、2025年11月末までにWGでの議論を集約して報告書を取りまとめ、12月にはその内容を税制改正大綱に反映する予定です。
金融庁の担当者も、税制改正を視野に入れる場合には「12月の税制改正大綱に反映させる必要がある」と述べ、年内の具体策策定が不可欠との見解を示しました。
その後、2026年の通常国会で関連法の改正案を提出し、成立後は約1年の準備期間を経て、2027年からの新制度施行が見込まれています。
ただし、制度改正には立法措置が必要となるため、今後の国会審議や業界との意見調整など多くの課題が残されています。金融庁は、利用者保護と技術革新の両立を図る制度設計を目指し、2025年末までに最終案をまとめる方針です。
改正資金決済法が成立
金商法移行で税制はどう変わるか
金商法への移行が実現した場合、投資家や市場にどのような変化がもたらされるかも注目されています。
悲願の分離課税「20%」に
まず税制面では、暗号資産取引による利益への課税方式が、現行の総合課税(最大55%)から株式取引などと同様の申告分離課税(約20%)へ一本化される見込みです。
この変更により、長年求められてきた税制の公平性が実現される見通しです。損失繰越控除(翌年以降3年間の損失繰越)も適用され、投資家は株式と同様の税務戦略を行えるようになります。
日本暗号資産ビジネス協会(JCBA)や日本暗号資産取引業協会(JVCEA)などの業界団体は、以前から「税率20%の分離課税適用と損失繰越の導入」を政府に要望しており、今回の動きはその要望に沿うものとされています。
暗号資産ETFが誕生する可能性
次に、金融商品としての位置づけが明確になることで、ビットコインETF(上場投資信託)などの国内での組成や提供が可能になる見通しです。
現在、日本では現物の暗号資産を対象としたETFは承認されていませんが、金商法の枠組みにより開示義務や監督体制が整えば、機関投資家の参入や市場流動性の向上が期待されます。
海外ではすでに暗号資産を組み込んだ金融商品の整備が進んでいます。たとえば、欧州連合では包括的なMiCA規制が施行され、米国でもビットコイン現物ETFの承認に対する期待が高まっています。日本でも、こうした環境整備により国際競争力の強化が見込まれます。
投資家保護制度とインサイダー規制も導入へ
投資家保護制度についても、強化される見通しです。
無登録業者による違法勧誘への罰則強化や、暗号資産運用・投資助言業の新たな監督制度の導入など、金商法に基づく厳格な業規制が適用され、不公正な取引行為の抑止と市場の信頼性向上が図られます。
また、インサイダー取引規制についても、欧米や韓国の事例を参考に、暗号資産市場に適したルールを検討する方針が示されています。これに伴い、取引監視当局と業界が連携し、市場監視体制の強化が進められる見通しです。
ただし、新たな規制内容によっては、国内で提供可能なサービスや上場できる暗号資産の種類に制限が生じる可能性があると指摘されています。
業界内では「証券と同様の規制を画一的に導入すれば、イノベーションを阻害しかねない」との懸念もあり、規制の柔軟性と投資家保護のバランスが課題となっています。
金融庁は、暗号資産の特性に応じた適切な規制枠組みを検討する必要があると強調しており、今後の制度設計では技術革新の妨げにならないよう配慮する方針です。
「税金・確定申告」に関する基礎知識
対応が遅れる日本、暗号資産政策に転換の兆し?
政府・業界は暗号資産規制の見直しに向けた動きをここ数ヶ月で加速させています。
ステーブルコインや仲介業制度の整備
2025年2月、金融審議会WGの報告書が承認され、暗号資産に関する新たな規制枠組みの一部が正式に採用されました。
これにより、ステーブルコインの運用ルールが緩和され、暗号資産交換業者の破綻に備えた顧客資産保全策(国内保有命令の創設など)や、トラベルルールの適用範囲拡大といった措置が講じられることになりました。
これを受け、日本では2023年に解禁された銀行・信託によるステーブルコインの発行が一層促進され、市場の流動性向上につながると見込まれています。
また、2025年6月6日には暗号資産サービスに新業態を設ける改正資金決済法が国会で可決・成立し、新たに「暗号資産仲介業」ライセンスが創設されました。
この仲介業制度では、暗号資産交換業者の登録がなくても「暗号資産の売買・交換仲介サービス」を提供できる登録制度が導入されました。これにより、ウォレットサービスやブロックチェーンゲーム企業など、非金融企業の暗号資産ビジネス参入が容易になるとされています。
また、改正法では「国内保有命令」の制度も新設され、国内業者に対し顧客資産の海外搬出を禁止できる仕組みが導入されました。
分離課税化「20%」を正式提言
2024年末、与党がまとめた2025年度税制改正大綱には、暗号資産取引の課税上の取扱いを検討する方針が明記されました。
暗号資産を株式などと同様に「国民の資産形成を助ける金融資産」として位置づけるかどうかを含め、本格的な税制見直しの議論が進められています。
2025年3月、自民党のWeb3プロジェクトチーム(現Web3 WG)は「暗号資産を新たなアセットクラスに」と題する提言を公表しました。そこでは、暗号資産を金商法上で証券とは別枠の金融商品として扱い、20%の分離課税導入や将来的な暗号資産ETFの承認が提案されています。
この提言は、政府の成長戦略「投資立国実現」に沿ったもので、日本がWeb3先進国として国際競争力を維持するために不可欠との認識が共有されています。一方、税制改正が進まない現状では、国内企業や人材の海外流出が懸念されています。
現行の重い税負担について、日本暗号資産取引業協会(JVCEA)会長の奥山泰全氏は「暗号資産の税率が他国より高いことが日本の競争力低下につながっている」と繰り返し指摘しており、業界団体は政府・与党に対して改善を働きかけてきました。
2025年8月には、JVCEAとJCBAが連名で「暗号資産税制改正要望書」を金融庁に提出しました。要望書では、20%の申告分離課税の導入や、自社発行トークンに対する期末時価評価課税の見直しなどが求められています。
金商法移行でグローバルでの競争力強化を図る
こうした官民の動きを受け、与党もWeb3分野の環境整備に前向きな姿勢を示しており、2025年の予算委員会で石破総理が「暗号資産の税制見直しについて6月末を目途に結論を出す」と発言しています。
現在進行中の金商法移行に関する検討は、日本の暗号資産市場を税制と制度の両面から活性化し、世界的な規制潮流に遅れを取らないための重要な取り組みと位置づけられています。
実際、欧州連合はMiCA規則を施行し、暗号資産に関する包括的な規制を先行して導入しています。米国でも、明確な法整備やETF承認に向けた議論が活発化しています。
さらに、韓国では2025年後半にビットコイン現物ETFの導入が予定されており、シンガポールでも機関投資家向けサービスの拡充が進められるなど、アジア各国で競争が激化しています。
日本の今回の措置は、こうした国際的な潮流に沿ったものであり、厳格な規制運用で培った信頼性を基盤に、アジアにおけるWeb3ハブの地位確立を目指すうえで重要な契機とされています。
今後、金融庁のWGで具体策がまとまり、法改正が実現すれば、日本の暗号資産市場は税制・制度両面で大きな転換期を迎えることになります。業界からは「ようやく環境整備が整う」と歓迎の声が上がる一方、制度移行期の混乱を抑えるための周知徹底や既存事業者への経過措置の整備が課題となります。
金融当局と業界団体は連携して情報発信を行い、投資家保護と市場発展の両立に取り組んでいます。日本の暗号資産規制は今、大きな転換期にあり、今後の展開次第では国内市場の新たな成長機会創出や、日本の国際的な存在感の向上につながる可能性があります。
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Source:金融庁発表
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