卒業アルバムにブロックチェーン。印刷会社としてWeb3事業に積極的な理由は?(マツモト 松本大輝)

卒業アルバムの大手企業がWeb3事業を積極的な理由は?

福岡県未来ITイニシアティブが、福岡県を拠点にWeb3を活用し事業を行う企業へインタビューをお届けする連載企画。第5回は北九州に本社を構える上場企業、株式会社マツモトの代表取締役社長 松本大輝氏に、同社のWeb3の取り組みについて語っていただいた。なお取材は、福岡県Ruby・コンテンツ産業振興センターにて実施した。

マツモト 松本大輝氏 インタビュー

–マツモトの事業内容やWeb3領域の取り組みについて教えてください。

1932年に福岡県北九州市門司区にて創業した、老舗の印刷会社です。現在では卒業アルバムを中心に文集やパンフレット、一般商業印刷等、幅広い印刷物を取り扱っています。卒業アルバムに関しては年間約 7000 校を手掛けています。それに加え、写真や印刷に関連するWebサービスの開発や、Web3/ブロックチェーンを使ったビジネスなども展開しています。

Web3領域には2023年から参入しました。まずNFTマーケットプレイス「ShinoVi」を立ち上げました。その後アバランチと協業して海外でのブロックチェーンゲーム開発を検討や、また2024年3月にはブロックチェーンを使った「デジタル卒アル」というサービスも進めています。

卒業アルバムにブロックチェーンをどう活用する?

–「デジタル卒アル」は、どのようにブロックチェーンを活用するサービスですか?

私たちの主な事業である卒業アルバムの受託制作に、ブロックチェーンを活用した仕組みを加え、学校や生徒さんに提供する取り組みです。リアルな卒業アルバムに加え、そのデータを半永久的にブロックチェーン上に保管するサービスの開発を進めています。

さらにデータを保管するだけではなく、紙のアルバムと連動させながら生徒さん一人ひとりがアルバムをカスタマイズできたり、また写真データだけでなく卒業証書や部活動の成果、ボランティア体験など生徒の思い出になる活動履歴もNFT化して蓄積したりしていけるような構想もあります。

具体的には、学校側や生徒さんからの要望を現在ヒアリングしながら、企画を詰めて行っています。そしてこの取り組みに賛同いただけるいくつかのモデル校と、今年3月の卒業アルバムで試験的に実施を行う予定です。その後の反応をみて、今後本格的に多くの学校に提案していきたいと考えています。

–卒業アルバムのデジタル化に、ブロックチェーンを使う理由はなんでしょうか?

卒業アルバムのデジタル化として、USBメモリやDVDにデータを入れて支給するようなサービスはこれまでにありました。しかしなかなか定着していないのが現状なんです。学校を卒業した後に引っ越す方も多いので、デジタル化が進むと便利だと思うのですが、例えばPDFで提供すると簡単に第三者に転送できてしまう。卒業アルバムは個人情報が含まれますので、そういったセキュリティ面でデジタル化が本格的に進んでいなかったんです。

でも、だからこそブロックチェーン技術が使えるのではないかと思っています。ブロックチェーンで認証することでデジタル化された卒業アルバムに本人にしかアクセスできないような仕組みが構築できる。将来はそれを応用して同じ学校の友達だけに共有できるなど、これまでの卒業アルバムではできなかった新たな仕組みも構築できるかもしれないと考えています。

–このサービスには具体的にどのブロックチェーンやウォレットを利用予定でしょうか?

ブロックチェーンはアバランチを、そしてウォレットにはNTT Digitalが提供する「scramberry WALLET」を使う予定です。今回のこの卒業アルバムの取り組みに関してはNTT Digitalと昨年7月に基本合意書を締結し、共同で進めています。

ちなみにウォレットについてはWeb3の世界で使われている多くのものを検討しました。その上で卒業アルバムというサービスの特性上、多くの未成年が対象なので、さまざまなリスクを考慮の上、安全面を考えて国産の「scramberry WALLET」の採用を決めました。

上場企業としてWeb3事業を推進することの反響

–上場企業であるマツモトさんがWeb3事業を実施していることへの反響はどうでしたか?

やはり珍しがられますね。特に印刷会社がブロックチェーンに取り組むというのは世界的にもほとんど例がないようなので、「なぜ?」と良く聞かれます。

でも、だからこそやるべきではないかと思っているんですよ。やる人が少ないのでまだチャンスがある。もちろん確実に今後Web3が普及するかは分からないと思っています。正直Web3が次のインターネットのような革命になるのか、懐疑的な部分もあります。

でもやってみないと分からないこともありますよね。だから今やるべきだと考えているんです。これまでもいくつかWeb3関連の事業を展開してみて、その過程で出会った色々な人たちの話を聞き、学び、この領域に可能性は感じています。

時代やテクノロジーの変化に沿って私たちも事業を変えていかなければいけない。そういう意味でも一つの可能性として、Web3を捉えています。

–確かに、ここ1、2年でWeb3に参入する企業も国内では増えましたが、なかなか御社のようにNFTだったりブロックチェーンゲームだったり、今回のような既存事業と掛け合わせた取り組みを柔軟にしている企業さんは、まだまだ少ないと感じています。

おそらく大企業になればなるほど、柔軟に取り組みにくいんだと思います。企業内に専門組織を作って下に落としていくと統制が取れなくなってくるんではないかと。弊社はそれまで大きな会社ではないので、社長直轄のプロジェクトとして色々進めることができました。

教育現場とブロックチェーンやAI、メタバースの相性は?

–マツモトさんは様々な学校とお仕事をされていますが、教育現場にWeb3をはじめとした新しいテクノロジーはどう浸透するとお考えですか?

教育現場はテクノロジーの受け入れに消極的という印象があるかも知れませんが、私の感覚だとそうではないです。今回の卒業アルバムのブロックチェーン活用にも賛同してくれる学校さんもある。各地の教育委員会とも話していますが、新しい取り組みに積極的なところも多いです。

そして個人的には今後教育現場には、ブロックチェーンとAI、メタバースは取り入れられていくと考えています。特に学校と話していて、その中でも皆さん興味を持っているのはメタバースですね。

アバターを作ってメタバース上の学校に生徒に通ってもらって、授業を受けてもらうような。オンライン授業の次のステップとして考えられているんではないかと思います。

仮にここ数年でそんなメタバースが進んでいけば、そこにNFTなどブロックチェーン技術が使われると考えています。そもそもメタバースに限らず、オンライン上で認証や学習履歴の管理をどうするかという話は、ブロックチェーンととても相性がいいですよね。

だから私たちもそんな未来を見越して、今の段階からWeb3に領域に参入しているんです。

福岡県の魅力

―福岡県はWeb3をはじめIT領域に積極的な印象があります。福岡県に拠点を会社としてその理由は何だとお感じでしょうか?

福岡はそもそもITベンチャーが多いですし、開放的な地域だと思っているので、Web3も含めスタートアップが新しいことに挑戦しやすい土壌があると思います。新しくやる人のアイデアを、ダメと潰すんじゃなくて「まあ、じゃあやってみたら」と、いい意味で適当に促す、おおらかな地域性があると感じます。

私自身も地元の人間ですので、この地域を盛り上げたい。もっと地方に金を持って来られないか、東京に一極集中している状況をどうにかしたいと考えています。

例えば米国だと、シリコンバレーの少し離れた場所にシアトルがある。シアトルにはマイクロソフトやアマゾンのような巨大IT企業からスタートアップも拠点があって「第二のシリコンバレー」とも言われている。そのシアトルは人口では福岡に少し近いんですよね。

ある意味シリコンバレーに対するシアトルのように、東京に対して福岡が日本のITのもう一つの大きな拠点になって欲しいと思っています。

インタビューイ・プロフィール

松本大輝
株式会社マツモト 代表取締役社長
1981年生まれ。2004年 3 月に大学卒業後、中国上海、米国シアトルに留学をし、その後 2007年に富士ゼロックス株式会社に入社。 2008 年より株式会社マツモトに入社し、東京営業所所長、常務取締役など経て、 2022 年 7月に代表取締役社長就任。

関連リンク

・株式会社マツモト

福岡県未来ITイニシアティブについて

福岡県未来ITイニシアティブは、「新しいITを生み出す人やITを活用する人とともに、より豊かに生活できる未来を創造する」を理念としています。福岡県には、ITを活用した製品・サービスの研究・開発を行う企業・エンジニア・大学等が多数集積しています。これらのITに関わるすべての人とともに、新しいITの創出と活用の促進、起業家やエンジニアが協力して挑戦を続ける環境づくり、未来のIT産業を支える人材の育成を行い、県内のIT産業の持続的な発展を目指します。

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取材/インタビュー:荘日明(あたらしい経済)
編集/執筆:設楽悠介(あたらしい経済)
写真:堅田ひとみ
取材場所:福岡県Ruby・コンテンツ産業振興センター

参照元:NFT – あたらしい経済

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