【後編】食のデータを未来につなぐ SARAH CEOが語るONIGIRI Chainの全貌
「30代の頃にこういう食生活をしていた人が、80歳になったときにどういう病気になったのか。トマトをよく食べていた人が長生きした、こういう病気にならなかったといったデータは価値があるデータになると思うんです」
食のデータを50年、80年後まで保管し活用する。そんな壮大なビジョンを語ってくれたのは、グルメアプリ「SARAH」を運営する、株式会社SARAH代表取締役CEOの酒井裕也氏です。
SARAHは、2015年にリリースされて以来、一品単位での検索を基本としたグルメアプリとして成長し続け、現在は月間200万人が利用するサービスになりました。さらに独自のブロックチェーン「ONIGIRI Chain」を開発し、Web3技術を活用した新たな食のエコシステム構築に挑戦しています。
今回は前回に引き続き、ONIGIRI Chainの詳細やWeb3市場の展望、そして酒井氏の経営哲学について深く語っていただきました。
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【前編】一品グルメで切り拓く新しい食の楽しみ方。SARAHの目指す未来とは
酒井勇也(さかい・ゆうや)株式会社SARAH 代表取締役 CEO
大学時代にCo-FounderとしてSARAHを創業。COOとして大手事業会社からの資金調達やスタートアップのM&A業務に従事。2022年よりCSOに就任し、SARAHのweb3化を推進。Avalanche Chainを運営するAvaLabsと国内初の戦略的パートナーシップを締結。食とヘルスケアに特化した日本発のパブリックブロックチェーンONIGIRI Chainをリリース。2024年より代表取締役 CEOに就任。
小林 憲人(こばやし けんと) 株式会社NFTMedia 代表取締役
2006年より会社経営。エンジェル投資を行いながら新規事業開発を行う株式会社トレジャーコンテンツを創業。2021年にNFT Mediaを新規事業として立ち上げる。
「NFTビジネス活用事例100連発」著者
ジュンク堂池袋本店社会・ビジネス書週間ランキング1位獲得
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食のデータを未来へつなぐL1チェーン「ONIGIRI Chain」
小林:続いて、ONIGIRI Chainについてお聞かせください。名前だけで既に美味しそうなチェーンですが...(笑)
酒井:ONIGIRI Chainは、我々が開発・運営するレイヤー1ブロックチェーンです。技術としては、アバランチL1という仕組みを活用して作った独自チェーンになります。
そもそも、なぜ独自チェーンを作ったのかというと、UMEトークンやNOREN NFTを発行するだけであれば、既存のブロックチェーンでも問題ありません。ガス代は高いですが、イーサリアムを使うとか、アバランチのメインネット、ポリゴン、ソラナを使うといった選択肢もありました。
ですが我々としては、UMEやNORENにブロックチェーンを使うというのは、序盤にすぎないと考えています。最終的には、SARAHに投稿されている口コミデータもブロックチェーンに載せたいんです。
小林:それによって、どういったことが可能になるのでしょうか。
酒井:例えば、消費者の視点で考えると、僕自身も食べログやGoogleマップを使います。Googleマップで美味しそうなお店を見つけたらブックマークするし、食べログでもSARAHでもブックマークします。
ところが、友達と渋谷でご飯を食べようとなって、ブックマークしたお店を探そうとしても、「あれ。ない...。」となることが多いんですよね。これは、僕がブックマークしたデータなのに、それぞれのサービスに囲い込まれている状態なのです。
データ連携がもたらす新しい可能性
小林:確かに、それは不便ですね...。
酒井:もう一つの視点でいくと、一時期、健康管理アプリを作っている企業の方からデータ連携の話がありました。
我々は何を食べたかというデータを持っているので、その人のカロリー状態がわかります。こちらとしても、勝手に連携してくれる方が便利なわけです。SARAHで食べたものを投稿して、ダイエットアプリでも「今日外食で麻婆豆腐を食べました」「ラーメン食べました」と入力するのは面倒くさいんです。
酒井:今までの仕組みだとAPI連携が必要で、コストもかかるし開発も必要です。ですが、NFTという形でブロックチェーン上にデータがあれば、自動でデータを取得できるし、規格も統一されています。
ただし、僕がどこで何を食べたかという情報を、完全パブリックなブロックチェーンに載せると、この人がどこに住んでいて、どういう食生活をしているかが世界中に知られてしまうんです。
プライバシーを守るための二層構造
小林:それは確かに問題ですね。
酒井:プライバシーの観点から、パブリックチェーンに上げるのは厳しいと考えました。そこで作ったのが、このONIGIRI Chainです。
ONIGIRI Chainは、実は二つのブロックチェーンで構成されています。一つが完全パブリックブロックチェーンで、もう一つがプライベートチェーンですね。
酒井:多くの人に見てもらう方が価値が出る情報はパブリックチェーンに、逆に多くの人に見られては困る情報はプライベートチェーンに記録していきます。そして、我々はこの二つのチェーンを独自で繋いだんです。
これにより、例えばSARAHのアプリでは、現在はまだポイントの形ですが、パブリックブロックチェーン上にあるUMEトークンを一定枚数お店に送ると、NOREN NFTが発行される仕組みを実装しています。その際、その人がお店に何回口コミを書いたかというデータはプライベートチェーンの方で確認して、条件を満たしていれば発行されるという形で、二つのチェーンを連携させています。
小林:そのシステムを現在開発中というわけですね。その2つのチェーンを合わせて、ONIGIRI Chainということですか。
酒井:厳密に言うと、両方を合わせて「ONIGIRI System」と呼んでいます。パブリックの方を「ONIGIRI Chain」、プライベートチェーンの方が実は「OMOCHI Chain」と言います。
50年後、80年後を見据えたデータの価値
小林:このシステムによって、事業者側は低コストで連携ができ、ユーザー側は一つの情報でまとめてメリットを受け取れるようになるわけですね。
酒井:ONIGIRIという名前の通り、このチェーンは食のデータとヘルスケアのデータをしっかり集めていきたいと考えています。誰が何を食べたのかというデータは、すでにいろんなサービスに集まっていると思うんです。
うちもそうですし、食べログさんもそうですし、ダイエットアプリもそうでしょう。ですが、いずれのサービスもWeb2なんです。Web2のサービスにデータを保管すると、安全だとは思うのですが、僕が80歳になったときにデータは残っているのかと気になりました。
小林:確かに!「その会社まだあるんだっけ。」みたいなことありますよね。
酒井:そうなんです。例えば30代の頃にこういう食生活をしていた人が、80歳になったときにこういう病気になったとか、トマトをよく食べていた人が長生きしたとか、こういう病気にならなかったというデータは、「価値のあるデータ」になると思っています。
それは保険や医療、製薬など様々な業界に使えると思うんですが、今の世の中の技術やデータを長期保管する仕組みがなかったんです。会社の寿命にどうしても左右されてしまうのが懸念点なわけです。
小林:ONIGIRI Chainは様々な企業や個人が使った方がいいと思うんです。企業の枠を超えて、中長期的に役立つものだと感じましたが、実際に利用することは可能なのでしょうか。現在はどんな状況ですか。
酒井:実は今は、まだ株式会社SARAHもONIGIRI Chainを使っていない状況です。理由としては、ONIGIRI tokenという専用のガストークンをまだ作って発行していないからです。ただし、弊社経由であればONIGIRI Chain上でNFTを作ったり、発行したりすることは既にできる状態です。
小林:今後は企業連携を増やしていく方針なんですね。
酒井:そうですね!将来的には本当のレイヤー1のブロックチェーンとして、ONIGIRI tokenを発行して、誰でもアプリを作れて、NFTを発行できるようにしていきたいと考えています。その入り口として、まずはSARAHのサービスを多くの人に使ってもらいたいですね。今はGoogle、LINE、SNSアカウントでログインできる形になっています。
World ID連携で実現する本人認証の強化
小林:今回注目したのがWorld IDとの連携だったのですが、これにはどういった経緯があったんでしょうか。
酒井:まず、口コミを集めるサービスには、複数のアカウントを1人が持ってしまうとか、ボットで大量に口コミを投稿するといった、なりすまし問題が必ずあります。
SARAHのサービスとしても、そういうのが増えると使いづらくなるし、ONIGIRI Chainの観点でも、その人の健康状態が正確にわからなくなってしまいます。そんな中、World IDは、その人がちゃんと人間である証明ができ、かつ1人1個しか持てないことが特徴です。めちゃくちゃ相性のいいものだと思っていたら、幸運なことに向こうからお声掛けをいただきました。
小林:導入にあたって、費用面での課題はなかったんですか。
酒井:特にありませんでした。うちのエンジニアが本当に1ヶ月もかからないくらいでバババッと実装してくれました。
小林:Web3やNFT、ブロックチェーンという意味では大きな取り組みだと思いますが、反響はいかがでしたか。
酒井:いろんな方から「連携はすごいね」という声をいただきました。ユーザーサイドとしては、ログイン方法が一つ増えるぐらいなので大きな変化はないと思います。
ただし、ビジネスサイドとしては、NOREN NFTの部分や、FoodDataBankにおいても、「なりすましではない」ということがちゃんと言えるようになるので、めちゃくちゃメリットがあります。
小林:本人認証の部分は、World IDとの連携も含めて今後も強化していく方針なんですね。
酒井:そうですね。我々としてはその辺りは強化していきたいと考えています。もうちょっと先の話になりますが、World ID連携をしてくれた人にUMEトークンを配布するような施策も考えています。
小林:私もWorld ID連携したので、その施策も楽しみにしています!
NFT市場の展望とSARAHの戦略
小林:会社のことよりもマーケットについて伺いたいのですが、NFT市場を拡大するために、今後どういったことが必要だとお考えですか。
酒井:NFT市場というものが何なのかという定義にすごく依存すると思っています。アートの観点のNFTという視点もあれば、データビジネスとしてのNFTという視点もあるなど、様々な捉え方があります。
ただし、少なくとも消費者にNFTを持ってもらいたいと考えるのであれば、「NFT」という言葉をあまり使わないことが大事だと思っています。私がブロックチェーンの研究をしていて社内を巻き込もうとした時も、NFTという言葉に対して、あまりよい印象がない、クリーンではないという印象があったと思うんです。
実際、うちのWeb2のユーザーたちは、NORENのことを「スタンプ」や「バッジ」と呼んでいます。「NORENスタンプいっぱい集めました」「NORENバッジたくさん集めてます」という言い方をしてくれていて、その方がイメージしやすいんですよね。
小林:私たちもNFT Mediaと言いながら、NFTという言葉が使われない世界を目指しているんです。だから、そういう意味ではすごく共感できます。今後いかにユーザーが今までの生活の延長で使えるかというところが重要になってくると思います。
その中で、SARAHでいうと、NORENとONIGIRI Chainは食品やヘルスケアの分野において、大きなインパクトがあるのではないかと思うのですが、酒井さんはどのように評価されていますか。
酒井:まだ我々としても業界にインパクトを与えられているわけではないと思っています。ただ、もっと多くのWeb2の事業者さんたちがWeb3側に来てくれると嬉しいですね。
小林:事業者側には確実にインパクトがあったと思いますよ!食という領域でのWeb3活用のユースケースとしては、非常に先進的だと感じています。
VeryLongAnimalsから学んだコミュニティ運営
小林:酒井さんは最近、注目しているNFTプロジェクトはありますか。
酒井:最近はあまりNFTに触れていないですね(笑)。
小林:私たちが久しぶりに再会したのはVeryLongAnimalsでしたよね。当時は、アート系のNFTを結構収集されていたんですか。
酒井:当時もそんなに触っていませんでしたね。でも、VeryLongAnimalsは異質で面白いと思って購入しました。
小林:あのプロジェクトは熱量が異常でしたよね。
酒井:そうなんです。彼らのコミュニティの運営方法やエコシステムの作り方が非常に上手いと思っていました。実は、VeryLongAnimalsとSARAH、NORENとUMEは、すごく近しいところを意識して作っているんです。
起業家としての価値観とメッセージ
小林:起業家として大切にしている価値観や、普段意識していることはありますか。
酒井:好奇心と「とりあえずやってみる」というところを大切にしています。ブロックチェーンに関しても、好奇心がないと触らないと思うんです。2017年に新卒3年目でお金を投じたのも、そういった姿勢の表れだったかもしれません。
小林:これから起業を目指す人へのアドバイスをお願いします。
酒井:ブロックチェーン領域はまだまだできたばかりで、これから圧倒的に成長するマーケットだと思っています。現状はAIに注目が集まりがちですが、ブロックチェーンの大きな流れは絶対に変わらないと確信しています。
しかも、ブロックチェーンの良いところは、今まで以上に低コストで簡単に作れることです。NFTの発行は誰でもできますし、従来のポイントシステムなら数千億円かかるものが、ブロックチェーン上であればすぐに実現できる。どんどん簡単になっていくと思うので、ぜひチャレンジしていただきたいですね!
新規事業へのチャレンジと失敗
小林:Web3以外にも、新規事業に挑戦されたことはありますか。
酒井:コロナ前にモバイルオーダーをやろうとしたことがあります。プロトタイプまで作ったんですが、既存サービスが多すぎて差別化が難しかったことと、様々なシステムとの連携の課題が見えてきて、これはうちがやることではないと判断しました。
ただ、ここでもブロックチェーンが解決策になるかもしれないと思っています。今までのシステムは様々な規格が入り組んでいますが、ブロックチェーンを使えばこの課題も解決できるかもしれません。
小林:最後に、読者へのメッセージをお願いします。
酒井:SARAHはグルメアプリとしてはもちろん、FoodDataBankというデータ分析サービスやONIGIRI Chainという独自チェーンなど、様々なサービスを展開しています。
ぜひSARAHを使って美味しいお店を見つけていただき、気に入ったお店があればNOREN NFTを取得してください。また、ONIGIRI Chainは今後、様々な事業者さんにも活用していただけます。プライベートチェーンでは、DEXが存在しないためトークンを発行しても暗号資産に該当せず、自社のポイントとして使うこともできます。ブロックチェーンを使ってみたい事業者の方は、ぜひお声がけください。
SARAHの詳細はこちら▼
- 株式会社SARAH公式HP:https://corporate.sarah30.com/
- グルメアプリ「SARAH」:https://sarah30.com/
- 食のビッグデータ分析サービス「FoodDataBank」:https://fooddatabank.net/
- 食とヘルスケア特化のパブリックブロックチェーン「ONIGIRI Chain」:https://www.ongr.org/
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