EU自己管理型ウォレット禁止のニュースは「誤報」Circle政策担当者が説明
ホスト型ウォレットの匿名取引が禁止されるとの報道
仮想通貨業界では「欧州議会が自己管理型ウォレットを用いた匿名の仮想通貨取引を禁止する法案を承認した」というニュースが注目を集めていますが、このニュースについては「拡散されている一連のニュースは間違いであり、誤報である」との説明がなされています。
注目を集めたのは欧州議会議員であるパトリック・ブライヤー氏が投稿した以下のポストで、ブライヤー氏はこの法案に反対票を投じたものの、法案は欧州議会の主要委員会の多数決で承認されたと複数メディアで報じられています。
Von EU-Ausschuss beschlossen:
Verbot von Barzahlungen über 10.000 €
Verbot anonymer Barzahlungen über 3.000 €
₿ Verbot anonymer Kryptozahlungen an hosted wallets selbst bei KleinstbeträgenDas bedeutet Krieg gegen das Bargeld und schleichende finanzielle Entmündigung –… pic.twitter.com/mI7AlDslqY
— Patrick Breyer #JoinMastodon (@echo_pbreyer) March 21, 2024
EU委員会による決定:
10,000ユーロを超える現金決済の禁止
3,000ユーロを超える匿名での現金決済禁止
₿ 自己管理型ウォレットへの匿名での仮想通貨決済は少額でも禁止これは現金戦争と忍び寄る金融の権利剥奪を意味する。
Circleの政策担当者は「一連のニュースは誤報」と指摘
今回のニュースはマネーロンダリング・テロ資金供与対策(AML/CFT)に関するものであり、現在は主要な仮想通貨メディアや著名インフルエンサーなどの投稿で拡散されています。
しかし、ステーブルコイン「USDC」の発行で知られるサークル社の欧州戦略・政策担当ディレクターであるパトリック・ハンセン氏は「これらのニュース記事やX投稿などは誤報である」と指摘しています。
パトリック・ハンセン氏の投稿では、実際の記載文章画像も用いながら今回のニュースについて詳しく説明されていますので、以下ではハンセン氏が説明した内容の概要をご紹介します。
1/ Yesterday was a prime example of why crypto Twitter (and often crypto media) should not be trusted when it comes to crypto policy. Let's debunk claims that the EU is banning anonymous crypto transactions or self-custodial wallets.
Here is what’s actually in the EU Anti Money… pic.twitter.com/dsNZQzl9Mx
— Patrick Hansen (@paddi_hansen) March 24, 2024
昨日は「仮想通貨関連の政策において、クリプト関連のTwitterや仮想通貨メディアは信頼されるべきではない」という理由を示す典型的な例がみられました。
「EUが匿名の仮想通貨取引や自己管理型ウォレットを禁止している」という主張の誤りを暴いてみましょう。
EUのマネーロンダリング防止規制(AMLR)の実際の内容と、EUにおける仮想通貨の意味は以下の通りです
AMLRは仮想通貨規制ではない
マネーロンダリング防止規制(AMLR)は仮想通貨規制ではなく、義務主体(OE)と呼ばれる機関に適用される広範なAML/CFTフレームワークである。
仮想通貨サービスプロバイダー(CASP)を含むすべての金融機関は「OE」に含まれるものの、サッカークラブやギャンブルサービスなどといった資金洗浄・テロ資金供与リスクが高い”金融機関以外”もAMLRの下ではOEとして扱われる。
そのため、AMLRはOE/サービスプロバイダーにのみ適用され、MetaMaskやLedgerなどの暗号資産にアクセス/管理しないハードウェア・ソフトウェアプロバイダーや、自己管理型ウォレットのプロバイダーの義務は明確に除外されている。
仮想通貨取引所などの規制は以前から
AMLRは、EUの暗号資産規制法「MiCA」の元で規制されている仮想通貨サービスプロバイダー(取引所やブローカーなど)に適用されるため、これらの仮想通貨サービスプロバイダーは一般的なKYC/AML規則に従う必要がある。
しかし、EU内の全ての仮想通貨取引所や第三者管理型ウォレットプロバイダーは、すでに現在の規制でこれらの義務の対象となっているため、これに関しては目新しいことではない。
AMLR(第58条)では「仮想通貨サービスプロバイダーが匿名アカウントを提供すること」を禁止しているが、これは「ユーザー資産を預かる方式の仮想通貨企業は匿名ユーザーにサービスを提供できない」ということを意味する。
これも既存のAMLルールで既に禁止されているため、目新しいものではない。仮想通貨サービスプロバイダーは匿名コインアカウントの提供を許可されていないが、これも既に世界中で導入されている(EU以外の国でも匿名通貨は上場廃止になってきている)。
自己管理型ウォレットなどへの影響はほぼゼロ
仮想通貨で商品やサービスを購入するために仮想通貨サービスプロバイダー(CASP)を使用したい場合は、CASPが顧客に対して身元確認などのデューデリジェンスを実施する必要がある。つまり、本人確認を実施して1,000ユーロを超える場合はKYC/AML措置を追加する可能性がある(AMLR 第15条)。
これらは仮想通貨に関するAMLRの最も重要なセクションだが、自己管理型ウォレットや仮想通貨サービスプロバイダーへの影響は非常に限定的で、影響はほぼゼロである。
仮想通貨業界で報じられたニュースは間違い
パトリック・ハンセン氏自身はAMLRのファンではなく、現金決済の基準を引き下げたり、低額・低リスクの決済に対する電子マネーの適用除外をさらに制限したりすることには賛成していない。
しかし、今回大手仮想通貨メディアやSNSアカウントで拡散されたニュースは「大衆の不安を煽る完全に間違った内容」であり、このニュースを適切に伝えていない仮想通貨メディアや人々に憤りを感じている。
まとめると、マネーロンダリング防止規制(AMLR)は「自己管理型ウォレット・自己管理型の決済・PEP取引」を禁止するものではない。
今回のニュースに関連する資料
自分で確認したい場合には「この書類」で内容を確認できる。
この文章は3月にEU議会のECON委員会によって合意されていて、あとはEU議会の本会議(おそらく4月末)とEU理事会で最終的な(純粋に形式的な)承認を得るだけである。適用開始は3年後となる。
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