デザインとデジタル製造業領域にNFTを活用するFinal AimがBerkeley SkyDeckのPitchイベントにて”Most Likely to Become the Next Unicorn”に選出
Final Aim(ファイナル エイム、米国デラウェア州)は2023年2月9日のUCBerkeleyのアクセラレータープログラムであるBerkeley SkyDeck(Batch15)のピッチイベント「Global Innovation Showcase(グローバルイノベーションショーケース)」にて「Most Likely to Become the Next Unicorn(次のユニコーンとなる可能性が最も高いスタートアップ)」に選ばれた。毎年100名以上のエンジェル投資家、ベンチャーキャピタル、アドバイザー等が集まるこのイベントで圧倒的な存在感を示したFinal Aim、実は経営メンバーは日本人起業家である。一体どのような企業なのだろうか。
Final Aimとはどのような企業なのか?プロダクトは?
Final Aimはデザインとデジタル製造業領域に対してブロックチェーン事業を展開している。2019年12月創業、米国に本社を構え、日本支社を展開するシリコンバレーのスタートアップであり、ブロックチェーンプラットフォーム「Final Chain」が自社プロダクトだ。製造業のデザイン部門を中心に、ブロックチェーン技術を活用した履歴管理、スマートコントラクトによる契約の自動化と後工程の管理、執行からペイメントまで含めた一連のプロセスを展開しようとしている。
これまでにソニーデザインコンサルティング社とデザインに対する共同研究を行い、NFTやブロックチェーンの実証実験も開始している。さらにはパナソニック社、米国CAD大手会社のAutodesk社との協業も実現。日本人にとってはAutodesk社とは聞きなれない企業かもしれないが、1982年設立、米国NASDAQ上場のAutodesk社の製品は製造業、建設業、映画業界では非常に幅広く使用されており、2022年の売上はUS$4.39 billion(133円換算でおよそ5,839億円)、従業員数は約12,600人という大手企業である。
Final Aimの本社はデラウェア州に位置する。最初からグローバルでの戦いを前提とした経営戦略なのであろう。特徴的なのは、インダストリアルデザインと呼ばれる自動車やロボティクスなど、3Dのモデリングから試作、製造に関わる全体の設計が必要な領域からスタートしている点である。この領域はグラフィックデザイン、板金、鋳造、3Dプリンターなど、いずれかの知識を持っているだけでは対応は難しく、デザイン、試作、量産といった製造業の一連の構造を理解していないとアプローチが難しい専門領域である。Final Aimはそういった参入障壁の高い分野に身を置いている。
また、ブロックチェーンやNFTのスタートアップは多岐にわたるが、Final Aimのようにインダストリアルデザインとブロックチェーンの組み合わせは珍しい。ビジネスモデルもトークンエコノミクスやエアドロップを展開する、といったアプローチではなく、当然NFTゲームでもない。デザイン部門の契約管理に対してNFT、ブロックチェーンの技術を活用する、というアプローチだ。そして、それをグローバルに展開している。
実際、2022年にはFInal Aim共同創業者の横井氏が「web3 technologies for industriaru design」というテーマで、米国ニューオリンズにて行われたAutodesk社のイベントに登壇している。製造業領域でNFTやブロックチェーンとの組み合わせでサービスを構築すること自体はいくつか事例があるが、Autodesk社がブロックチェーン領域で講演を依頼する、というのは過去の情報を調べても極めて異例のようだ。
さらに遡ると、2021年の11月にも世界最大の3Dプリンターの展示会でAutodesk社と協同でブース出展を行っている。そこでも彼らのブロックチェーンプラットフォーム「Final Chain」が使用されており、ドイツで3Dプリンターとブロックチェーンを組み合わせた取り組みを実際に行っている。自律走行ロボットの3Dのデザインデータが格納され、それがブロックチェーン上に記録される。既にこの時点から米国での展開に向けた下準備は進んでいたのであろう。
また、Panasonic社のデザイン部門のニューヨーク拠点とは800万人にも及ぶCLUB Panasonicと言われる会員組織を活用したコミュニティ構想について共同で実証実験に取り組んでいる。この領域では3DのデータにNFTを付与し、ブロックチェーン上に記録されたデザインデータのメタバースにおける活用まで踏み込んでいる。これが実現できるという事は、Panasonic社が保有している、現在埋もれている過去のデザインに関してNFTやブロックチェーンを活用してメタバースやその他の機会で活用できるこれまでにない価値を生み出すことも出来るかもしれない。
そして、彼らの壮大な試みはまだ始まったばかりに見える。デザイン部門を切り口にしているが、契約管理の技術はそのまま製造業の調達部門や購買部門へ展開できるだろう。Autodesk社の製品とシステム上連携した場合は、その可能性はさらに広がるだろう。既にドイツやアメリカでAutodesk社と連携実績のあるFinal Aimの場合、実現不可能なハードルではないように見える。デザイン、製造業領域からさらにはサプライチェーンマネジメントの領域へも繋げる事が可能だ。実際、Final Aim は2023年1月に自社プロダクトの「Final Chain」を活用し、ものづくりの専門商社であるオリエントシステム社と脱炭素に向けたスマートコントラクトの活用を開始している。既にインダストリアルデザインとブロックチェーンといった枠組みから、サプライチェーン領域におけるカーボンニュートラルへの取り組み等、活用の幅を広げているのがわかる。
Final Aimの経営者はどのような人物か?
では、気になる2人の共同創業者のプロフィールを見ていこう。
朝倉 雅文(Masafumi Asakura)
Final Aim(本社:米国 / 支社:日本)のCo-Founder&CEO。
みずほ銀行で製造業領域中心に法人融資を担当、株式会社リクルート(旧リクルートキャリア)では情報システム、経営企画部等に従事。RGF HR Agent Japanの立ち上げに携わり、RGFシンガポール、中国、インド、ベトナム、香港の支援を行う。その後、シンガポールで人材紹介会社の代表取締役社長を務め、デザイン・製造業領域を中心に支援。スペイン、アイルランド、インド、マレーシア、フィリピン等多国籍なチームをマネジメント。テクノロジーとファイナンスに明るい。
2016年1月、US$約9.4Mの資金調達を行った3Dプリンター×AIのスタートアップでCOOをはじめプロダクト統括責任者・経営企画部執行役員、海外事業開発部執行役員等を歴任。経済産業省とのIoT推進ラボや製造業のデジタル化、機械学習のプロジェクトに従事し、2017年に東証一部上場企業へM&A。ちなみに共同創業者の横井氏とはこの時に一緒に仕事した事が今回の共同創業へと繋がっている。
PMI(Post Merger Integration)の後、2019年にFInal Aimを創業。共同創業者兼CEOに就任。その傍ら、GoogleやCoinbase、モデルナへのM&Aや米国NASDAQへのIPO実績のあるUTEC(東京大学エッジキャピタルパートナーズ)のベンチャーパートナーとして米国・英国・日本を始めとした国内外の投資先支援に従事。
2022年、UCバークレーのアクラレーターBerkeley SkyDeck(batch15)に採択。デザインとデジタル製造業領域を中心にブロックチェーン事業を日米を中心にグローバルに展開。2023年 Plug and Play JapanのアクセラレータープログラムWinter/Spring 2023 Batchに採択。
横井康秀(Yasuhide Yokoi)
Final AimのCo-Founder & CDO(Chief Design Officer)。
日本生まれオーストラリア育ち。多摩美術⼤学卒業後、株式会社ニコン入社。インハウスのインダストリアルデザイナーとして企画から開発、生産までを担当。
また、社内のマーケティング担当者やエンジニアのマネージメント及び中国本土、香港、台湾、タイ等のベンダーと部門や国を越えたプロジェクトマネージメントを行う。
その後、3Dプリンター×AIのスタートアップに創業初期メンバーとして参画。製品およびサービスの設計、ビジネス開発および運用、製造管理、アカウントおよびプロジェクト管理から、マーケティングおよび販売まで、幅広い役割を果たす。
2017年9月にM&Aの後、2019年に㈱Final Aimを共同創業。
トヨタ、ホンダ、ソニー、コクヨ、マイクロソフト、オートデスクなどの⼤企業や初期スタートアップからメガベンチャーまで、グローバルにデザイン協業し新規事業創出を手がける。MaaS領域におけるプロダクト開発に強みを持つ。日経BPやITmedia主催のイベント等に複数登壇。デザイン受賞歴はiF、Red Dot、GOOD DESIGN AWARDなど多数。
Final Aimのプロダクトは世の中にどのようなインパクトを起こすのか?
製造業におけるインダストリアルデザインの製造工程においてはデザインや知的財産の管理が煩雑になり、サプライヤーの管理が複雑で契約書が無いケースなどが多々ある。その結果、インダストリアルデザイナーにフィーが支払われないことなども実際に起きる。彼らはそうした課題に日々向き合ってきた。
そのためにFinal Aim のブロックチェーンプラットフォーム「Final Chain」はデザインデータ、知的財産の管理からサプライチェーンの履歴管理、契約執行後のライセンスの管理等をスマートコントラクトで自動化することができる。
これにより、デザイン・製造領域において不透明だった契約から契約執行における一連のプロセスが自動化され、インダストリアルデザイナーやデザイン部門がデザインに専念することが出来るようになる。また、二次受け、三次受けの工場も自分たちがどのような製品を製造しているか?ということまで明確になる。
ブロックチェーンの市場規模は2027年には約US111billion(133円換算でおよそ14兆7900億円)に達するといわれている(※1)。Final Aimのブロックチェーンを基軸とした取り組みが実現することにより、「嘘をつくメリットがなくなる」世界が実現していき、実際に実力があり、成果を上げている人たちが評価される世界の実現に近づいていくのではないだろうか?
なぜなら、重要な情報が可視化されており改ざんできないのであれば、嘘をつくよりもきちんと仕事をするほうがメリットが大きくなるからだ。その時には、成果を上げているデザイナーや工場、人々がより正当に評価される世の中になり、既存の業界へのインパクトだけでなく、新しい産業が創造されていく世の中のインフラとしての可能性を感じる。
既に前職で東証一部上場企業へのM&Aを経験しているFinal Aimの経営チームが、小さくまとまるだろうか。いや、そうは思えない。Berkeley SkyDeck出身の彼らはより高みを目指していると考える方が自然だろう。このあたりがBerkeley SkyDeckで”Most Likely to Become the Next Unicorn”に選ばれた理由なのかもしれない。
※1:
https://www.emergenresearch.com/industry-report/blockchain-technology-market
Berkeley SkyDeck(バークレースカイデック)とは?
「Berkeley SkyDeck」とは、米国のUC Berkeley(カリフォルニア大学バークレー校)が実施する、世界有数のスタートアップアクセラレーターである。同大学はApple共同創業者のスティーブ・ウォズニアック氏、Google元CEOのエリック・シュミット氏、ソフトバンクグループ代表取締役社長兼会長の孫正義氏をはじめ、著名な起業家が多数卒業。また、2022年ブロックチェーン技術に関しては米国第一位となっている(※2)。
また、「Berkeley SkyDeck」は、その大学が持つ優秀な人材や優れた環境、リソースやネットワークに直結しており、世界で注目を集める数々のテクノロジースタートアップを輩出している。そして、採択されたスタートアップは、Berkeley SkyDeckのAdviserだけでも400名以上の多種多様なプロフェッショナルからのサポートを受ける事が可能なのだ。
なお、アクセラレーターの最後にはエンジェル投資家やベンチャーキャピタル、アドバイザーをはじめとした100名以上の聴衆へPitchをする”Global Innovation Showcase”というイベントがBatch15にはあり、FInal Aimは今回このPitchにて”Most Likely to Become the Next Unicorn”に選出された。
“Most Likely to Become the Next Unicorn”への選出はどのくらいすごいのか?
“Global Innovation Showcase”はBerkeley SkyDeck(Batich15)に採択された選りすぐりのスタートアップが、UC Berkeleyの環境の中でプログラムを進めていき、最終的に100名以上のエンジェル投資家やベンチャーキャピタルの面々に英語でピッチを行うという言わば本アクセラレータープログラムの集大成とも言えるイベントである。毎年世界中から集まるスタートアップを精査している厳しい目線の中で”Most Likely to Become the Next Unicorn”に唯一選ばれているという点から、Final Aimへの期待の高さが伺える。
まとめ
世界で勝負をかけている日本人起業家は少ない。そんな中でシリコンバレーで現地のアクセラレーターBerkeley SkyDeckに採択され、”Most Likely to Become the Next Unicorn”と評価されるFinal Aimは日本発のグローバルスタートアップと言えるだろう。2022年から始まった各国のテック企業のリストラから、スタートアップ冬の時代と言われ、2023年は向かい風になるだろう。多くのスタートアップが淘汰されるかもしれない。一方、2007年のリーマンショック前後でAirbnb(エアビーアンドビー)やビジョナル(旧ビズリーチ)、といったスタートアップが出てきたように、本物のスタートアップが生まれるタイミングともいえる。そして、リーマンショックを経験し、それでもなお淡々と投資を実行してきている投資家はこうした機会は見逃さないだろう。過去を振り返ると、平成元年の世界の時価総額ランキングにおいて、当時トップ30位までは日本企業がその多くを占めていた。令和5年、状況は一変してしまい、日本にはかつての力は失われたかに見える。だが、本当にそうだろうか?かつての明治維新のように、戦後の高度経済成長期のように、いま再び日本はアメリカをはじめ海外から学ぶ時が来ているのかもしれない。Final Aimのような企業がNFTやブロックチェーンをビジネスに活用する事で、同社が成長すればするほどビジネスを通じてテクノロジーが世の中に浸透していく。日本を飛び立ちシリコンバレーで活躍するFinal Aim に今後も目が離せない。
参照元:NFT Media