ロシアの「脱米ドル路線」とは? 巨大国家 ファンドに占める米ドルの割合がゼロへ!?

■米ドルが上昇しない原因の1つはロシアの動きか このコラムで、米国の景気回復が他の国に先行しているにもかかわらず、米ドルが上昇しないのは、非常に不可解であるという話を何度もしてきました。
【参考記事】
●正常な市場の反応は長続きしなさそう。米ドル/円の押し目買いが一番安全か(5月20日、今井雅人)
●失業手当の充実が、悪い雇用統計の原因か。より実態を反映しているのは強い米CPI(5月13日、今井雅人)
●米国の強さを改めて痛感。それでも、米ドル高がどんどん進行しない理由は?(5月6日、今井雅人)
●米長期金利が比較的堅調なのに米ドル全体の動きがさえず、円安が進んでいるのはなぜ?(4月30日、今井雅人)
●米ドルの大崩れはないだろう。最近の為替市場で起こった不思議な動きについて解説(4月22日、今井雅人)
 その理由をいろいろと考えてみたのですが、ひょっとするとこれが原因の1つではないかというものを今回は紹介したいと思います。それは最近のロシアの動きです。
 ロシアのプーチン政権は、ここ2年ほど「脱米ドル路線」に走っています。
 それは、ウクライナの問題などで関係が悪化している米欧諸国が、対ロシア経済制裁を強化してくるのではないか、という見方がロシアの中で広がっていることが背景にあります。
 具体的には、国際銀行間通信協会(SWIFT)が運営する、世界最大の国際送金ネットワークからロシアの金融機関が締め出される可能性です。これにはウクライナが積極的な働きかけをしています。
■ロシア政府は外貨準備や国家ファンドで米ドルを売却 こうした懸念を背景に、ロシアは具体的な動きに出ています。
 CBR(ロシア連邦中央銀行[ロシアの中央銀行])の発表によると、2017年9月時点では外貨準備の46.5%を米ドルが占めていましたが、2020年9月には21.9%まで下がりました。その分、金、中国人民元、ユーロ、英ポンドなどを増やしてきています。
 また、貿易決済などでも、米ドルではなくユーロを使う比重を高めてきました。
 さらに最近、新しい動きがありました。
 ロシアのアントン・シルアノフ財務相は6月3日(木)、原油や天然ガス収益の一部を原資とする巨大国家ファンド「国民福祉基金」について、35%を占める米ドルの比率を1か月以内にゼロにする意向を示しました。
ロシア、1190億ドルの政府系ファンドでドル保有をゼロに-制裁を警戒 https://t.co/76QgzqZNlH
— ブルームバーグニュース (@BloombergJapan) June 3, 2021 国民福祉基金の流動資産は、約8兆6600億ルーブル(日本円で約13兆円)あると発表されています。
 ロシア財務省は、米ドルを減らす代わりに金の保有率を20%とし、中国人民元を15%から30%に増やすとしています。
 こうしたロシア政府全体の動きは、端的に言えば米ドルを売るという行為ですので、米ドルには下落圧力がかかります。
 金額もそれなりに大きいことを考えると、これが米ドル安、あるいは米ドルが上昇していない原因となっている可能性があります。
 詳しく調べていないのですが、ひょっとすると同じようなことが、中国でも起きている可能性があります。
 もし、そうだとすれば、これは、米ドルに対してかなりの下落圧力をかけていることになるかもしれません。
■当面は現状レベルでのもみ合い相場が続いてしまいそう そうしたことも頭に入れながら、足元の市場を見てみましょう。
 先週末(6月4日)の米国の5月雇用統計は非農業部門の就業者数の増加が市場予想を下回ったことで、市場に大きな失望感をもたらしました。
【為替ニュース】【速報】米・5月非農業部門雇用者数は予想を下回り55.9万人

日本時間4日午後9時30分に発表された米・5月非農業部門雇用者数は予想を、
下回り55.9万人となった。
【経済指標】
・米・5月非農業部門雇用者数:+55.9万人(予想:+67.5万人、4… #zaifx #fxhttps://t.co/yS3DE1l6Sb
— ザイFX! (@ZAiFX) June 4, 2021 それまで、米ドル円、ユーロ/米ドルなどで米ドル高の流れができかけていたところでしたので、完全に水を差された形になりました。
米ドル/円 4時間足(出所:TradingView)
ユーロ/米ドル 4時間足(出所:TradingView)
 米国の10年物国債の利回りも一時1.5%を下回っています。
米10年物国債利回り 4時間足(出所:TradingView)
 これで、またFX市場は方向感を失ってしまいました。当面は現状レベルでの方向感のないもみ合い相場が続いてしまいそうです。
 そんな中でも、やはり米ドル/円の押し目買いは一番安心感があると思います。109円台の前半はいい買い場ではないでしょうか。
【参考記事】
●底値が切り上がる米ドル/円を109円台前半で押し目買い。米雇用統計がとても重要に!(6月3日、今井雅人)
米ドル/円 日足(出所:TradingView)

参照元:ザイFX! 今井雅人の「どうする? どうなる? 日本経済、世界経済」

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