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2026年8月、青森ねぶた祭の開催期間に合わせて実施された「ねぶた祭DAO」実証実験の第2弾が終了。その直後、NFT Media編集部は本プロジェクトを技術面で支えるぷらっとホーム株式会社の代表取締役社長・鈴木友康氏に話を聞く機会を得た。
ぷらっとホームがこの実証実験に投じているのは、現実世界のあらゆる「モノ」をトークン化する独自技術「ThingsToken
」と、その稼働基盤となる分散型自律組織(DAO)「ThingsDAO」だ。
世の中の人やモノは複数の組織に紐づいており、いくつもの役割を兼任している。鈴木氏曰く、「現実社会の複雑な関係性は、従来のWeb2型サービスでは十分に表現しきれない」と語る。
そこで、このような課題を解決するために「ThingsToken
」や「ThingsDAO」が開発されたそうだ。「ねぶた祭DAO」の実証実験を通じて、なにを実現しようとしているのか。
本記事では、日立ソリューションズ東日本と共同で実施した「ねぶた祭DAO」実証実験の狙いと成果、NFTともFTとも異なる「モノのトークン」の技術的な特徴、そして祭りの担い手減少という社会課題に対してWeb3技術がどのような解決策を提示できるのかについて伺った。
【プロフィール】
鈴木 友康(すずき ともやす)
ぷらっとホーム株式会社 代表取締役社長
1963年生まれ。1989年に日商岩井株式会社(現・双日株式会社)へ入社し、情報通信分野の新規事業に携わる。1996年4月、日本で最初にLinuxを取り扱う会社として誕生したぷらっとホーム株式会社に共同設立者として入社、同年9月に代表取締役副社長、2001年6月より代表取締役社長を務める。
黎明期からインターネット業界を牽引
NFTMedia編集部(以下、編集部):まず、ぷらっとホーム株式会社の事業概要を教えてください。
鈴木友康氏(以下、鈴木):当社は1993年の創業で、Linuxをはじめとするオープンソースのオペレーティングシステムに関連したコンピューター製品とサービスを提供している会社です。
創業当時はまだインターネットが普及していない時代で、Linuxを注文するのにアメリカへファックスを送り船便で届くのを待つ、といったところからスタートしました。
Linuxの中核ソフトを開発したり、まだ学生だった頃のリーナス・トーバルズ(Linux開発者)氏が来日した際に当社のメンバーが案内したりと、インターネット黎明期を支えてきました。日本で10番目にドメインを取得したのが当社であり、JPドメインのルートサーバーを納入させていただいた実績もあります。
編集部:まさに、インターネットそのものを作ってきた会社ということですね。現在の主力事業は、どのようなものでしょうか。
鈴木:現在の中核は、自社で設計・製造しているマイクロサーバーとIoTゲートウェイです。
代表製品の超小型Linuxサーバー「OpenBlocks」は、耐熱・耐塵設計と超低消費電力を両立していて、24時間365日の常時稼働が求められる現場に最適化されています。大手通信事業者をはじめ、物流、金融、官公庁など、日本の社会インフラを支えるさまざまな領域で採用いただいています。
このほか、あらかじめ各種サービスを設定してすぐ運用できるアプライアンス製品「EasyBlocks」シリーズ、コンピューター関連商品の販売、IoTシステムの設計・コンサルティングやSaaSサービスの提供なども手がけています。
編集部:実際にはどのような現場で使われているのですか。
鈴木:領域はかなり幅広くて、スマート農業やエネルギー、都市インフラ、物流といったところですね。この他に海運もあります。外航商船に当社の製品が搭載されていたり、電力会社の電柱に入っていたりしますね。
編集部:ありがとうございます。ぷらっとホームでは、どのような経緯でブロックチェーンやWeb3の領域に踏み込むことになったのでしょうか。
鈴木:まさにそこなんです。当社がターゲットにしているのは、センサーやエアコン、船舶、電柱といった物理世界の「モノ」そのものじゃないですか。これをデジタル上において唯一の「モノ」として扱おうとすると、クラウド中心の既存システムでは完全に再現できないんですね。
なぜなら、現実世界ではモノと所有者が1対1でシンプルに紐づいている場面は少なく、複数の所有者にまたがっていたり、いくつもの属性が付与されているためです。そのため実際にやってみて、「これはダメだろう」となりました。
そこで注目したのがブロックチェーンです。インターネットのプロトコル開発に取り組んできた知見を活かして、2016年頃から研究開発を進めてきたのが現実世界のモノをトークン化する独自技術「ThingsToken
」です。
編集部:10年も前から、RWAの実用化に取り組んでこられたんですね。
NFTでもFTでもない「ThingsToken 」とは
編集部:ThingsToken
について、さらに詳しく教えてください。一般的なNFTとは特徴が異なるのでしょうか。
鈴木:ThingsToken
は、NFT(ノンファンジブルトークン)でもFT(ファンジブルトークン)でもない、セミファンジブルトークン(SFT)と呼ばれるカテゴリーの技術です。
ERC-3525という規格をベースに構築されています。このERC-3525は、もともと有価証券をシリーズごとにグループ化して発行するために作られたのですが、これを活用すれば「モノのトークン化」も実現できると判明したのです。
編集部:なるほど。NFTとFTの中間のような位置づけということですね。
鈴木:イメージとしては合っています。現実世界のモノをトークン化できると、そのモノに紐づく権利や契約、法律をデジタルで記述できるようになります。
現実世界の所有権は、モノ1つに対して所有者1名が紐づく単純なものだけではありません。本当に分散された世界なんですね。しかし、それを表現する技術がこれまでなかった。
そこでThingsToken
により、日本酒やデジタル荷札など、あらゆるモノをトークン化できる仕組みを実現しました。
オープンプロトコルをどう事業につなげるのか
編集部:ThingsToken
は、貴社の閉鎖環境で運用されるのでしょうか。それとも、オープンなプロトコルとして、いろんなプレイヤーが参加できるイメージですか。
鈴木:後者のイメージです。HTTPと同じで、プロトコルはオープンで誰でも自由に使えるべきだからです。
今はブロックチェーンを使いこなせる人が少ないので当社が運用面を担っていますが、本来はオープンな環境こそがみんなが望んでいる姿だと思っています。
編集部:オープンにすると、キャッシュポイントをどこに置くかが課題になると思います。ThingsToken
では、マネタイズのポイントをどのように設計していますか。
鈴木:大きく2つです。1つはプロトコルを使う方々にサービスを提供して対価をいただくモデルで、Web2におけるLinuxが参考になります。
Linux自体はオープンソースで誰でも使えますが、例えばRed Hat(IBM子会社)はその上で売上3,000億円を超える事業を確立しました。オープンなプロトコルの上でサービスビジネスを成立させる、というひとつのロールモデルです。
編集部:プラットフォーム上でビジネスを展開する手法ですね。
鈴木:もう1つがWeb3固有の収益ポイントです。トークンの発行・流通による収益、オンチェーン取引に伴う収益、ガス代のようなユーティリティによる収益など、Web2では実現できなかった収益構造が作れる可能性もあります。
どのモデルが正解かはまだ誰も分かっておらず、我々にとっても大きなチャレンジですが、早く「これがいける」というモデルを見つけて事業として確立したいですね。
実用化に向けた2度の実証実験
NFT Media編集部(以下、編集部):ぷらっとホームが日立ソリューションズ東日本と共同で取り組んでいる「ねぶた祭DAO」とは、どのようなプロジェクトですか。
鈴木友康氏(以下、鈴木):青森ねぶた祭を題材に、祭りを起点とした関係人口の創出と地域活性化ビジネスの実現を目指している実証実験です。
参加者が主体となって運営に関わるDAOの仕組みを、ブロックチェーン技術を使って祭りに導入する取り組みですね。
2025年8月の第1弾では、来場者にデジタル参加証明(NFT)を発行し、撮影した写真をNFT化してInstagramで共有・評価する仕組みを検証しました。

編集部:自身の投稿がSNS上で支持されると、写真NFTがもらえるという仕組みですね。
鈴木:そうです。そして2026年8月2日から6日に実施した第2弾では、スマートフォン向けWebアプリ「ねぶた祭アプリ」を使い、日立連合ねぶたの跳人(はねと)として参加した実績をデジタルに記録して、抽選で青森の地域特産品を提供する仕組みを検証しています。

現実世界での祭りへの参加をデジタル空間で認識し、経済価値の提供までつなげる。この一連の流れをThingsToken
とThingsDAOで実現するのが本プロジェクトです。
編集部:ブロックチェーンとお祭りの相性という点では、本人確認が不要という点も大きいのでしょうか。
鈴木:まさにその通りです。祭りのたびにIDとパスワードで登録させるなんて、もう祭りとは言えないじゃないですか。いろんな地域からいろんな人が来て盛り上がる、それが祭りのはずです。一方でWeb2の仕組みでは、デジタル世界で参加者を識別するには会員登録が欠かせません。
編集部:たしかに、祭りに参加するために会員登録が必要となるのは現実的ではありませんね。
鈴木:世の中の契約関係には、運転免許のように厳格な本人確認が必要なものから、クリーニング店に名字だけでワイシャツを預けるような緩い関係まで、グラデーションがありますよね。Web2ではこのグラデーションが表現できないんです。
しかしブロックチェーンを使えば、本人確認をせずとも「参加した」という事実を認識してインセンティブを払える。ここが決定的に相性の良い部分です。
インセンティブ設計が祭りへの参加を後押しする
編集部:2025年の第1弾実証実験では、運営者や参加者からどのような反応がありましたか。
鈴木:第1弾で対象としたのは「日立連合ねぶた」という、日立グループが出しているねぶたでした。参加者もほとんどが日立グループの社員の方々で、どちらかというと来場者向けというより社内の研究開発が狙いだったんですね。
編集部:日立グループによる実証実験ということですね。
鈴木:日立はOT(オペレーショナルテクノロジー)、つまり物理世界の機械や設備を動かす技術が得意です。このような電力や車両、都市といった領域のデジタル化にThingsToken
を導入するために共同検証を進めてきました。
金融の分野では、有価証券をトークン化する取り組みはすでに主流になりつつあります。ですが、世の中の雑多なモノを片っ端からトークン化していく、いわゆる「サイバーフィジカル連携」を実現するテクノロジーはこれまで存在しなかった。その検証ができて、技術的なフィードバックが大量に得られたのが第1弾の大きな成果でした。
編集部:その知見が2026年の第2弾につながっていったわけですね。
鈴木:そうです。第1弾がクローズドな技術検証だったのに対して、第2弾は日立連合ねぶたの一般参加者に開放したのが一番大きな違いです。
第2弾では、ねぶたの行列とともに進行するようにGPSトラッカーを設置し、運行位置をリアルタイムに把握しました。そこから跳人として参加可能なエリアを算出して、おおよそ半径200メートルの範囲でアプリからチェックインした方を「跳人として参加した」と判定する仕組みです。
編集部:跳人という踊り手として参加すると、その証明書がもらえるわけですね。
鈴木:そうです。もう1つのポイントは、インセンティブの配送スキームです。特産品の配送にはギフトサービス会社のサービスを活用し、当選者が引き換えURLから直接配送先を入力する形にしています。
つまり、アプリ運営者側は配送先住所などの個人情報を保持しません。このようなプライバシーに配慮した安全な運用モデルの有効性も、今回の検証項目の1つだったんです。
編集部:実際に第2弾をやってみて、どのような結果が得られましたか。
鈴木:結果として、現実世界で祭りに参加したことがデジタル空間で認識され、それに基づいてリワードがきちんと届くところまで証明できました。
今回の狙いは、一般の参加者の方をデジタル空間にオンボードし、インセンティブを提供するという、参加から経済価値の移転までの流れを実現することでした。物理世界で自動的に経済価値を回すというのはまさにDAOの本質だと思っていますので、そこに挑戦したのが今年です。
編集部:「祭り×DAO」での一連の流れが実現できたのですね。反対に、反省点はありましたか。
鈴木:はい。ねぶたならではの体験が不足していた点です。
今回のインセンティブは、いわば結婚式の引き出物カタログのような従来品に留まりました。本来なら、ねぶた参加者だけが手に入れられる記念品のような、より参加者に響く設計が必要だと実感しました。このあたりは来年度以降、改善していきたいですね。
祭りの担い手減少に、Web3で何ができるのか
編集部:このプロジェクトが最終的な理想形に達したとき、誰にどのようなメリットがあるのでしょうか。
鈴木:前提として、このテーマに取り組んだ背景には社会課題の解決があります。
日本では祭りをはじめとする伝統文化・伝統行事の担ぎ手や参加者が年々減っています。その理由は、昔は地域の濃密な関係性の中で祭りが回っていましたが、今は経済合理性がないところに人がなかなか集まらないからです。
この構造を打破したいというのが、日立と当社に共通する想いなんです。
編集部:地域の繋がりが希薄になっているのですね。
鈴木:そこで人と人の繋がりを可視化するために、「ThingsDAO」が誕生しました。
花火大会を例にすると分かりやすいのですが、1つのイベントには主催者、チケット購入者、ホテル、旅行業者、交通機関、地元の店舗と、実に多様な関係者がいます。
これらは全部別々の「集合」なんですね。ところが、クラウドのシステムである限り、1人の人間が複数の集合に同時に所属することは極めて難しいです。
編集部:システムで管理すると、所属団体のタグを複数付けるといった形になりますね。
鈴木:そうです。人間とは本来、祭りに参加しながら地元の町内会に属し、勤め先のグループにも所属しています。複数のコミュニティに同時に所属しているという現実を、デジタル空間で自由に表現できるのがThingsDAOの最大の特徴です。
Web2は便利だけど窮屈でした。その窮屈さを解消するのがWeb3のテクノロジーだと考えています。
編集部:具体的には、どのような人に価値が届くようになるのでしょうか。
鈴木:例えば、ねぶたを制作する「ねぶた師」の方々です。
ねぶた師のなり手もだんだん減っていますが、これまではリワードを届ける手段がなかなかありませんでした。この仕組みが広がれば、ねぶたを見た人がねぶた師に「投げ銭」をする、現地に来られない人が日本中から特定のねぶた師を「推し活」のように支援する、といったことが可能になります。
編集部:祭りを影で支える人たちに対して支援できるのですね。
鈴木:そうです。そうなれば「俺もねぶた師になりたい」という人が出てくるかもしれません。また、ボランティアとして交通整理をする人たちのように、貢献が可視化されていなかった人たちにもちゃんと対価が届くようになります。
エンタメ、サプライチェーン、エネルギーの3つの領域に展開
編集部:今回の実証実験を通じて、今後どのように展開していく計画ですか。
鈴木:現在は、主に3つの分野に集中しています。
1つ目はエンターテインメントです。入場管理や権利関係の処理はThingsToken
が非常に向いている領域で、ねぶたや花火の実証もこれに含まれます。
2つ目はサプライチェーンです。日本酒の実証を通じて分かったのですが、蔵元、問屋、酒販店と関係者が多く、温度管理を怠ると価値が著しく下がる。このようなコールドチェーンと呼ばれる温度管理の領域は、Web2では難しくWeb3が活きる分野です。
3つ目はエネルギーです。エネルギーは物理現象そのものですから、モノのトークン化と非常に相性がいいんです。
編集部:これらの分野に展開する上で、ThingsToken
の開発状況としては現時点で何割ぐらい進んでいるのでしょうか。
鈴木:7割は終わっています。2025年までは研究開発に集中していて、ほとんど情報を出してきませんでした。ようやく2026年4月から始動した形です。
また、追い風もあります。ブロックチェーンは半分IT、半分金融のような領域ですから、税制や金融規制の整備が不可欠でした。この分野において、日本でも法整備が前向きに進んできています。
編集部:ビジネスの土台となる法規制が進んできたということですね。
鈴木:環境が整ってきた今、Web3のユースケースの常識は日本からでも生まれてくると本気で思っています。海外はファイナンス中心の洗練された世界になってしまいましたが、日本の会社はモノづくりの国ですから現物の領域で日本からユースケースを発信していきたいですね。
インタビューを終えて
「祭りのたびにIDとパスワードで登録させるなんて、もう祭りとは言えない」
鈴木氏のこの言葉に、本プロジェクトの本質が凝縮されているように感じた。アプリ運営者が配送先住所を保持することなく、祭りへの参加実績をデジタルに記録し、インセンティブの提供につなげる。
Web2でも構築自体は可能だが、本実証ではブロックチェーン上のデジタル参加証を用いて、一連の流れを実現した。この仕組みは、ブロックチェーンと「祭り」という日本的な題材を結びつけたユースケースの一つといえるだろう。
印象的だったのは、インターネット黎明期からプロトコル開発に携わってきた鈴木氏が、「Web3はWeb2よりももっと世の中を変える」と断言していたことだ。ねぶた師に日本中から推し活のような支援が届く未来、貢献が形にならなかった人々に対価が届く未来。30年にわたりインターネットの進化を最前線で見てきた経営者の言葉には、単なる願望ではない重みがあった。
2026年度を「本番の始まり」と位置づけるぷらっとホーム。祭りから始まったモノのトークン化が、日本酒、エネルギー、物流へとどう広がっていくのか。「Web3の常識は日本から生まれる」という言葉の実現を、引き続き注視していきたい。
- ぷらっとホーム株式会社 公式サイト:https://www.plathome.co.jp/
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