
UTXOセットの削減に向けた議論が白熱
ビットコイン(BTC)の基盤となるブロックチェーンネットワークにおいて、ノードの運営コストを左右する「UTXO(未使用トランザクションアウトプット)」の急増が深刻な課題となっています。
近年、ビットコインネットワーク上では「Ordinals」や「Stamps」といった画像やテキストデータを直接記録するプロトコルが流行しており、これが非常に小規模なUTXO、いわゆる「ダスト(塵)」を大量に生成する要因となってきました。
この事態を受け、ビットコインの開発者用メーリングリスト「Bitcoin-dev」では、ネットワークの肥大化を防ぎ、将来的なスケーラビリティを確保するための革新的な提案が相次いで発表され、活発な議論が巻き起こっています。
今回の議論の焦点は、単なるデータの整理にとどまらず、ビットコインの根本的な設計思想である「価値の保存」と、新たな用途である「データストレージ」としての側面のバランスをいかに取るかという点にあります。
2つの異なるアプローチ「The Cat」と「Lynx」
今回注目を集めている提案は、主に2つの異なるアプローチに分けられます。一つは「The Cat」と呼ばれるドラフト案、もう一つは「Lynx」と呼ばれる自動クリーンアップ案です。
「The Cat」提案の主な内容
「The Cat」提案の主な内容は、1,000サトシ(0.00001 BTC)未満の「非通貨的UTXO」をソフトフォークを通じて永久に使用不可能(Unspendable)としてマークすることです。
この提案の背景には、Ordinalsなどで利用される極少額のUTXOが、事実上の通貨としての機能を果たしておらず、単に情報を保持するためだけに存在しているという判断があります。
もしこの提案が実装されれば、UTXOセットのサイズを30%から50%程度削減できる可能性があると試算されています。これは、フルノードを運営する個人ユーザーにとって、ハードウェアの負担を大幅に軽減する画期的な数値です。
「Lynx」提案の主な内容
「Lynx」提案は、より中立的かつ自動化されたロジックを採用しています。具体的には以下のような仕組みが提唱されています。
- 4年間の不活性期間:
4年以上動かされていない「ダストUTXO」を、自動的に無効化の対象とする。 - 自動クリーンアップ:
ネットワークのプロトコルレベルで、特定の条件を満たす古いデータを自動的に整理する。 - 公平性の維持:
特定のプロトコルを狙い撃ちするのではなく、長期間利用されていない事実に基づいて処理を行う。
これらの提案は、ノードがメモリ(RAM)上で管理しなければならないデータの量を劇的に減らすことを目的としています。ブロックチェーンの整合性を確認するノードが増えれば増えるほど、ネットワークのセキュリティと分散性は高まるため、この最適化は非常に重要視されています。
ネットワークの分散化維持とOrdinals・Stampsへの影響
これらの提案が現実のものとなれば、ビットコインのエコシステム、特にNFTやInscriptionsの分野に大きな影響を与えることになります。
「The Cat」のような提案が通れば、低価格で発行された既存のOrdinalsの一部が、技術的に「送金不能」な状態となり、その価値が損なわれるリスクがあります。そのため、クリエイターや投資家からは強い懸念の声が上がっています。
しかし、ビットコインのコア開発者たちの多くは、ネットワークの持続可能性を最優先に考えています。もしUTXOが無限に増え続ければ、高性能なサーバーを持つ企業しかノードを運営できなくなり、ビットコインの最大の特徴である「中央集権化への耐性」が失われる恐れがあるからです。
今後の展望としては、以下のポイントが議論の鍵を握ることになると予想されます。
- ソフトフォークの合意形成:
ユーザーやマイナーが、資産の無効化を伴う可能性のある変更を許容するか。 - レイヤー2への移行:
Ordinalsのようなデータ記録をメインネットではなく、ライトニングネットワーク等の上位レイヤーで処理する技術の普及。 - 代替案の模索:
データを削除するのではなく、より圧縮効率の高いストレージ技術の導入。
ビットコインは、誕生から十数年を経て、再びそのアイデンティティを問われる局面を迎えています。「単なる通貨」として純粋性を守るのか、それとも「多機能なプラットフォーム」として進化を受け入れるのか。
今回浮上した「The Cat」と「Lynx」の議論は、その答えを導き出すための重要なステップであり、ビットコインの将来の価格形成や技術的な信頼性にも直結する極めて重要なトピックとして注目されています。
ビットコイン関連の注目記事
source:Bitcoin-dev Mailing List
サムネイル:AIによる生成画像





コメント