金融庁、暗号資産の規制体系を刷新|金商法一本化と情報開示義務で投資家保護へ

金融庁、暗号資産規制の枠組みを再構築

金融庁の金融審議会ワーキング・グループ(WG)は2025年11月26日、暗号資産(仮想通貨)の規制体系見直しに関する報告書案を取りまとめました。

暗号資産の利用が投機・投資へと広がる中、金融庁は利用者保護強化のため、規制の根拠法を資金決済法から金融商品取引法(金商法)へ移行し、ルールを一元化する方針を示しています。

報告書案には、新たに暗号資産に対するインサイダー取引規制の創設や、銀行の子会社による暗号資産交換業への参入解禁などが盛り込まれました。

また、報告書案では暗号資産を「中央集権型」と「非中央集権型」に分類し、中央集権型トークンの発行者に対して事業計画や資金使途などの情報開示を義務付けるとしています。

金融庁は今後、この報告書案を踏まえて法案作成作業を本格化させ、2026年の通常国会に金商法および資金決済法の改正案を提出する見通しです。

金商法への一本化で暗号資産を再定義|金融庁方針まとめ

金商法への移行で暗号資産を明確化

金融庁WG報告書案では、暗号資産に関する規制を資金決済法から全面的に金商法へ移管することが提言されました。

これにより暗号資産交換業者は証券会社等と同様の規制枠組みに組み込まれ、無登録営業に対する罰則が強化(現行の懲役3年以下・罰金300万円以下から懲役5年以下・罰金500万円以下に引き上げ)されるほか、インサイダー取引規制や課徴金制度も導入予定です。

報告書案では「現状、暗号資産は投資目的で取引されているが、金商法で規制しても決済利用を制限するものではない」と明記されており、投資者保護と決済利便性の両立を図るとしています。

暗号資産は特定の発行主体が存在しない非中央集権型と、発行者によって管理される中央集権型に分類されます。例えばビットコイン(BTC)のように発行者が不在のものは非中央集権型、企業など発行者が存在するトークンは中央集権型に該当します。

中央集権型の暗号資産では発行者と利用者の間で情報格差が生じやすいため、この格差を是正する目的で発行者に対し調達資金の使途や事業計画等の開示を義務付ける方針です。

インサイダー取引規制を暗号資産に適用

市場の公正性確保に向けて、インサイダー取引規制も新設される見通しです。

国内の登録済み交換業者が取り扱う暗号資産については、発行者の経営破綻や新規上場・上場廃止、大口保有者による大量売却(発行済数量の20%以上の取引)など、利用者の判断に重要な影響を与える事実が公表される前の売買を原則禁止する内容となっています。

規制の対象は取引所内の売買に限らず、DEX(分散型取引所)や店頭取引など取引所外の取引にも及ぶ見込みです。

報告書案によると、重要事実の公表方法については信頼性確保の観点からSNSでの発信は認めず、暗号資産交換業者や自主規制団体(JVCEA)のウェブサイト上で公表する仕組みを想定しています。

さらに、不公正な取引に対する課徴金制度も創設される計画で、市場の健全性を損なう行為への抑止力を高める方針です。

ICO・IEOの投資額制限と開示義務

投資家保護策として、新規トークン販売(ICO/IEO)に関する規制も強化されます。

報告書案では、発行体が公認会計士の監査を受けていない状態で一般投資家から資金調達を行う場合、1人当たりの投資金額に上限を設ける方針が示されました。

具体的には、各投資家につき「純資産の5%」「年収の5%」「50万円」の中で最も高い金額を上限とし、最大でも200万円までに抑える見込みです。

またトークンのロックアップ(一定期間の売却禁止)や関係者への有利発行の原則禁止といった措置も盛り込まれ、投資家の過度なリスク負担を防止する狙いがあります。

コールドウォレットウォレット保管資産も補償対象に

暗号資産交換業者に対する業務規制も見直されます。

現在はホットウォレットで管理する暗号資産のみが流出時の補償準備金の対象ですが、報告書案ではコールドウォレット保管分についてもユーザー補償のための準備金積立や保険加入を義務付ける方針が示されています。

さらに、交換業者にウォレットソフトを提供する事業者について登録制および行為規制を新設し、個人から暗号資産を借り受けてステーキングや再貸付を行うようなレンディング事業も金商法の規制対象に含める見込みとされています。

これらの措置によって利用者資産の一層の保全と、無登録業者によるサービス提供の抜け穴是正が図られます。

親会社は制限、子会社は参入容認へ

銀行・保険会社による暗号資産事業への参入規制についても変更が提言されました。従来より銀行本体が自ら暗号資産の発行や売買を行うことは禁止されていますが、この方針は引き続き維持されます。

金融庁は、銀行が直接暗号資産を扱うことで、知識の不十分な顧客が安易に取引に参加してしまうリスクを指摘しています。一方で、銀行本体が十分なリスク管理体制を整備した場合には、投資目的での暗号資産保有を認める方向で検討が進められています。

報告書案によると、この方針の背景には米国で暗号資産の現物ETFが承認されるなど機関投資家の参入が進み、暗号資産を一種の投資アセットとして組み入れる動きが世界的に広がっている事情があるとしています。

また、銀行や保険会社の子会社・関連会社については、暗号資産の発行・売買・仲介業務や暗号資産を運用対象とする投資運用業への参入、および投資目的での暗号資産保有を認める方針です。

DEX規制は国際動向を見据え慎重判断

DeFi(分散型金融)や海外無登録業者への対応も議論されました。

報告書案によれば、国内外で規制の手が及びにくいDEX(分散型取引所)については現時点では直接規制を見送り、各国の動向を注視しつつ引き続き検討する方針です。

当面は利用者に対し「DEXや海外の無登録業者で取引を行う場合は損失リスクがある」ことを周知徹底するにとどめるとされています。

その一方で、金商法への移行に伴い無登録で暗号資産交換業を営む事業者に対する刑事罰は強化される見通しです。

JVCEAが業界全体での監視強化を表明

業界団体の自主的な対応も進みつつあります。

日本暗号資産取引業協会(JVCEA)はセキュリティ対策強化に向けて「自助・共助・公助」の三つの観点から取り組む方針を示しました。

具体的には、業界横断のサイバー情報共有機関「JPクリプトISAC」との連携強化や、JVCEA内部に売買審査の専任部署を新設して不公正な取引の監視体制を強化するとしています。

また上場審査の独立性を高めるために第三者による中立的な審査委員会を設置し、恣意的なトークン上場を防ぐ仕組みも導入する計画です。

コスト負担と実効性のバランスに課題

ただし、提示された規制案に対しては業界から懸念の声も上がっています。

日本ブロックチェーン協会(JBA)代表理事の加納裕三氏(bitFlyer共同創業者)は、第5回WG(11月7日開催)の場で現行の規制強化案について「肌感覚ではイノベーションが1に対して規制が9くらいの割合だ」と表現し、これでは国内の暗号資産企業の多くが存続できないだろうと強い危機感を示しました。

実際、国内の交換業者の約9割が赤字経営に陥っている現状を踏まえ、加納氏は「コスト負担が過大で効果に疑問のある規制項目もある」と指摘し、事業者やユーザーの意見を反映したバランスの取れた制度設計を求めています。

一連の規制改革によってイノベーションが阻害され、日本の暗号資産業界が萎縮してしまうことへの懸念が示された形です。

金融庁、規制と成長の両立を目指す

こうした指摘に対し、金融庁側もバランスに留意する姿勢を見せています。

金融庁は「暗号資産の投資対象化が進展する中で、不公正取引の抑止や健全な取引環境の整備は不可欠であり、それを通じて市場の活性化にもつながる」と説明しており、利用者保護とイノベーション促進の両立を図る方針です。

また報告書案には「交換業者にとって過重な負担とならないよう配慮しつつ制度設計を行う」という趣旨の記載も盛り込まれており、規制当局としても業界の実情に配慮した柔軟な対応を目指す姿勢がうかがえます。

暗号資産の「お墨付き」誤解に警鐘

なお、今回の規制刷新が暗号資産投資に対する「お墨付き」と誤解されることがないよう注意喚起も行われました。

WG委員からは、制度の限界や規制の及ばない領域のリスクを明示し、過度な期待を与えない表現を盛り込むべきとの意見が出されました。

森下新二座長も今回の報告書は暗号資産に金融投資の対象としての「お墨付き」を与えるものではなく、可能な範囲で健全な取引環境を整備することを目指すものだと強調しています。

今後は本報告書案の内容を踏まえ、具体的な法令改正案の策定や細則(内閣府令・金融庁令、事務ガイドライン等)の検討が進められていく見通しです。

税制改正と制度整備が示す今後の国内暗号資産市場

分離課税や補償準備金制度に向けた動き

与党の税制調査会では、暗号資産取引益への分離課税(税率20%)導入が本格的に検討され、2025年12月に策定予定の税制改正大綱に向け議論が加速しています。

税制改正の検討と並行して、金融庁も取引所向けの新たな資産保全策を進めています。

日経新聞によると、金融庁はハッキング被害などに備え、暗号資産交換業者にユーザー補償用の「賠償責任準備金」を積み立てることを義務付ける方針として関連規制改正を検討しています。

大規模な流出事件が相次いだことを受け、被害発生時に利用者へ迅速に弁済できる体制を整える方針です。

暗号資産新制度に対する業界の期待と懸念

こうした制度改正の動きを受け、業界からは今後の展開に期待と慎重論が交錯しています。

金融審議会WGの最終会合を終えた同日、加納裕三氏は自身のX(旧Twitter)で「ここからいよいよ税制の議論が本格化していきます」と投稿しました。

税制改正の行方や施行ルールの詳細に注目が集まる中、今後は新しい規制環境の下での国内暗号資産市場の動向が焦点となります。

金融庁は引き続き「利用者保護とイノベーション促進の双方に配意しつつ制度のあり方を検討していきたい」とコメントしており、健全な取引環境の整備を通じて市場の信頼性向上と発展を図る方針を示しています。

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Source:金融庁資料
サムネイル:AIによる生成画像

参照元:ニュース – 仮想通貨ニュースメディア ビットタイムズ

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